■ オアソビノジカン ■
─────なんて甘い男なんだろう。
もんどりうって倒れた金髪の男を眺めながら、カリファは思った。
六式を体得しているわけではないにもかかわらず、この男の蹴りは、CP9の“
なのに。
なのにこの男は、その重く鋭い蹴りを、カリファの体に当ててはこない。
顔面のギリギリで寸止めし、「一発入った」と言い、「だから鍵をよこせ」、と言った。
カリファは迷わず無防備な股間を思い切り蹴り返したけれど。
どれほど挑発してみようとも、この金髪の男はカリファに対して直接的な攻撃をしてこない。
決して弱い男ではないのに。
それどころか、充分な戦闘能力を持っているというのに。
─────そう…。
時々いるのだ。こういう男が。
フェミニストを気取って、女を大切にするという顔をしながら、敵が女だというだけで真剣に対峙もせず、結果的に女を見下しているのと等しい男が。
「海賊のくせに…なんて意気地なし。」
─────それなら私も面白い事をしてあげる。
サンジが揺らめくように立ち上がり、身を翻して間合いを取った。
本当に速い。
こんなに速いのに、私に指一本触れようとしないなんて。
─────女の体に触れられないなんて、もしかしたら童貞かしら。
そんなくだらないことすら思いながら、カリファは、こちらに向かって踏み込んでくる痩身に向かって手を伸ばした。
どうせこの男はカリファに攻撃を当てる事ができないのだ。
避ける必要も防御する必要もない。
「おとなしく鍵を……!」
掴みかかるような素振りを見せるサンジをかわして、すばやく後ろを取る。
「な…!?」
サンジがぎくりとする。
「まずはその厄介な足を封じてあげる。」
するるるるるるる、とカリファの手がサンジの内股から太腿を撫であげた。
「“ゴールデン
「ふァ…ッ!!」
─────え?
サンジが漏らしたその声の、思いもよらない艶やかさに、カリファは、一瞬目を見開いた。
反射的にサンジが身を翻してカリファの手を蹴り上げようとする。
だがその足は、見る見るうちに起伏をなくし、ガラスのようなつるつるとした光沢になる。
「ッ!!」
そのまま、つるりと足を滑らせ、サンジは勢いよくすっ転んだ。
すぐさま、サンジは、「クソッ…」と悪態をつきながらも、カリファの次の攻撃に備えて立ち上がろうともがく。
けれどサンジの足は、まったく力を失い、立ち上がれない。
つるつるの足をもてあまして床の上でもがいているサンジを、カリファは、目を見開いたまま、次の攻撃に移る事も忘れて見下ろしていた。
─────今の声…何………。
『ふァ…ッ!!』と、さっきまでのドスの利いたチンピラ声が嘘のような、ハスキーな甘ったれた声。
カリファに触れられたときの余韻なのか、その顔は薄いピンク色に染まっている。
その妙に初々しい恥らったような表情といい、足を撫でただけで震えた体といい、思わず漏れた声といい、
─────えっと…、なに、この男……………………
……………………………………かわいい。
サンジはまだ、床の上で苦闘している。
それを見ているうちに、カリファの中に獰猛な嗜虐心が芽生える。
それが、常に冷静に事にあたらねばならないCP9にあるまじき感情だということに、カリファは気づいていなかった。
しばらくもがいていたサンジは、やがて足が使い物にならないと判断したのか、両手を地面につけて逆立ちをした。
ひゅん、とその足が風を切る。
だが当てる気がなければその体制は隙だらけだ。
「…“
ヒュッ!とカリファが動いた。
間合いを詰められた事に気付いて、サンジがぎくりと足を止める。
それすら恐らく、カリファに間違えて攻撃を当てないための配慮だ。
─────甘い男。
なら、フェミニストを気取ったまま、その庇った女にイかされてしまいなさい。
「“シャボン玉ホリデー”!」
かざしたカリファの手のひらから、もこもことした白い泡が沸き出る。
「なんだ…?」
それはまるで生き物のようにうねってサンジの体を這い登っていく。
「ッ…!」
弾みで床についた手が滑り、サンジはまた床に転倒する。
その体を、泡が埋め尽くしていく。
「ち、こんな泡くらい…、」
なんでもねェ、と続けようとしたサンジの声が、ぎくりと止まった。
サンジの体を包んだ泡が、まるで自分の意志があるかのように勝手に、服の中に入り込んでくる。
「…っンッ!?」
息を呑んだサンジを、カリファが嫣然と見下ろす。
「ホイップした生クリームのような極上の泡でしょう?」
ふふふ、とカリファが笑う。
「豊かな泡立ちと抜群の浸透力で、泡はあなたの体を絡めとる…。」
ぬるり、とサンジの服の下で、泡がうねった。
「ひあッ!?」
サンジの体が泡だらけの床の上でのたうつ。
手で触れられるのよりもずっと優しく柔らかく、泡はサンジの肌をぬるぬると這いずる。
「ぅあっ…、や…めろっ…!」
きめの細かい泡は、サンジのシャツの中、ズボンの中にまで入り込む。
ぬるぬる、ゆるゆる、と、サンジの肌を優しくと言ってすらいいほど微妙に撫で上げる。
「……んうッ…!」
その泡が、腰から背中にかけての敏感な部分をぬるりと滑り、途端にサンジの体がびくん、とのけぞる。
強い刺激ではない。
優しくもどかしく、じれったいほど優しい泡の動き。
けれどそれはサンジの敏感な体を翻弄するに充分な刺激だった。
「ァ、あ…ッ…、くそ…、んァッ…!」
─────この男…もしかしたら…
過敏な反応を見せる痩身を見下ろしながら、カリファはふと違和感を覚えた。
男にしてはこの体はあまりに感じやすい。
「踊る阿呆に見る阿呆…」
カリファが小さく呟く。
「きらめく泡の饗宴…」
「“泡踊り”!!」
その瞬間、サンジの体を包んだ泡が、いっせいに強くのたくった。
「ヒ、ああァッッッ!!」
突然の強い刺激に、サンジが目を見開いて痙攣する。
「ち…くしょうッ…、やめろッ…!!」
睨んでくる目は、眦がぽうっと赤く色づいている。
快楽に責められながら、何とか抵抗しようともがいている。
カリファの目が狡猾に光った。
「─────“男踊り”!」
ぬるん、と泡が後孔に滑り込む。
「アア! …あ、あ、…やめ…、アッ…!」
サンジのズボンの前が盛り上がっていて、中の性器が猛っているのがわかる。
─────やっぱりこの男…愛撫されることに慣れている…
もしかしたら男の恋人がいるのかもしれない。と、カリファはほくそ笑んだ。
あの少人数のクルーの中の誰が相手だろう。
麦わらか、海賊狩りか、鼻の長いのか。
─────それを晒させるのも一興…
「ここから先はオトナのお時間…、」
す、とカリファが身構えた。
「“
サンジの体を包んだ泡が、急激にもこもこと盛り上がってサンジの顔を覆う。
完全に泡に視界を塞がれて、サンジが猛然と抵抗する。
「焦らなくてもいいわ。息は出来るから。」
緻密な泡は顔の周りに空気の層を作ったまま、視覚も聴覚も完全に外界と遮断する。
サンジの視界は、今まさに
しばらくもがいていたサンジの体から、息がつけるということに気がついたのか、力が抜ける。
「そう…いい子ね…。」
ふふ、とカリファの瞳が淫猥に笑んだ。
「─────“空耳
びく、とサンジの体が震えた。
サンジに呼応したように泡がうぞうぞと体を這い始めた。
「始まったわね。」
楽しそうにカリファが言ったとたん、サンジの体がかたかたと震えだした。
「あ…、なん…なんで…?」
先刻までの、陵辱されながらも抵抗し続けた強さと打って変わった、サンジのうろたえた声。
「まあ。あなたには私の声が誰の声に聞こえているのかしらね。」
カリファが泡だらけのサンジに囁くと、泡はまたうぞうぞとサンジの体を刺激する。
「や、やめっ…! てめぇ、なんでっ…!?」
混乱しきったような声。
「“空耳
カリファが囁く。
「あっ…、あっ…!」
そのたびにサンジの体がびくんびくんと震える。
「今、私の声は、あなたには別の人間の別の言葉になって聞こえている。─────あなたの心の中にいる愛しい人間の。」
「アアアッ!」
「泡の動きもあなたの空耳に反応しているのよ。」
泡は、さっきまでのゆるゆるとした動きをやめて、やけに力強くサンジの体を擦っている。
「やぁっ…やめろ、てめぇっ…!」
「ふふふ…。誰の声のどんな言葉になって聞こえてるのかしら。」
「ん、ううっ…! やめろ…やめ…ッ…!」
泡がサンジの抵抗を封じ、執拗にその肌をまさぐっている。
「まあ。ずいぶん情熱的な相手なのねェ…。」
この力強さは女相手ではありえない…。
この男がフェミニストなのは、この性癖を隠す為だからなのかしら…。
「あなたの耳に聞こえている声と言葉を聞くことが出来ないのが残念だわ。」
「ぁあっ、あっ…、あああっ…!」
サンジの体が、泡によって次第にその両足を開かされていく。
受け入れる姿勢に。
「やっぱりあなた、ソドムの男なのね。しかもボトム…。」
もうカリファは楽しくて楽しくて仕方ない。
「やあああッ!!」
サンジの喘ぎに甘えたような響きが混ざっている。
愛する男にだけ聞かせる声なのだろう。
泡はサンジの下半身でじゅぷじゅぷと音を立てている。
「なんてはしたないのかしら。こんなところで泡に犯されてしまうなんて。」
「ッ…て、め、やめ…やがれっ…、アアッ!」
やめろといいながら、サンジの体はどんどん開かされている。
着衣のまま犯されようとしているその姿は、女のカリファの目から見ても淫靡この上なかった。
「あなたを見てると私までおかしな気分になってくるわね…。」
「ひ…ッ!!」
じゅぶ、と泡がひときわ大きな音を立てた瞬間、サンジの体が開かれたまま硬直した。
「泡に犯されるのはどんな気分?」
もっとも、あなたにとっては愛しい男に犯されてるのでしょうけど、とカリファが笑う。
「アアッ…アアッ…! や、あ、ああっ! うあ…」
がくがくとその体が揺すぶられる。
サンジの手が上に上がって、いもしない誰かを掻き抱く。
「あなたをこんな風に抱いてるのは誰なのかしら…。」
「や…ああっ…! やめ…、やめろっ…! ─────ゾロッッ!!」
切ない響きを帯びたその名前がサンジの唇から漏れ、カリファは目を丸くした。
「ゾロ? 海賊狩りのゾロがあなたの相手なの?」
まあびっくりした。
あの見るからに硬派で色事になど何の関心もなさそうな、あの剣士が、この強くしなやかな男を犯していると言うのか。
しかもこの泡の動きから見る限り、相当に濃厚で激しい抱き方だ。
「へえ…、あの海賊狩りが、ねぇ…。」
感心したようにカリファが呟いた。
「あッ、ア、や…、ぁ、ゾロ…ッ…、ゾ、やめ…、や…、あ、あッ、…ああっ! ああッ!」
淫らな声を聞いているだけで、こちらまでおかしくなりそうだ。
犯される、といっても所詮は泡だ。
本物のような硬さも太さもない。
今、サンジを犯しているであろう、熱く逞しいものは、サンジの脳が作り出した幻覚だ。
なのにカリファの目には、サンジを犯す剛直が見えるような気がした。
それほどに激しい乱れようだった。
「あ…、あ…、あ…、ゾロ…、あ…、」
サンジの声が次第に切羽詰ってくる。
「ふふ…ステキよ…、幻覚に犯されてイくあなたを見せてちょうだい…。」
カリファの囁きは全て、ゾロの声、ゾロの言葉となってサンジに聞こえている。
「海賊狩りはどんな風にあなたに囁くの? 愛を囁くのかしら。それとも言葉責め?」
「やめ…、ゾロ…やめ…、あ…、ああ…」
サンジの体は、幾度も幾度も突き上げられるような動きを見せる。
カリファの目の前で、サンジは幻覚のゾロに高められていく。
「綺麗……。」
うっとりとカリファが呟く。
絶頂を迎えようとする男がこんなに綺麗だなんて。
「さあ…、イッて見せて…。」
カリファがとっておきの声で囁いた瞬間、
「─────ゾ、ロぉっ…!! あああっ…!」
サンジの体が、ぴいんとつま先まで反り返って、びくびくと大きく痙攣した。
END.
2006/08/24
このSSは、「棘」様にお捧げしました。