○ 月華 ○
くちゅ… ちゅぷ…
深夜のラウンジに、濡れた音が満ちている。
「な、ナミ…さんっ…! も、やめ…っ…。」
ちゅく…
「やめてほしかったらあたしを蹴ればいいんじゃない? 足まで縛ってないもの。」
テーブルの上に置かれたランプの灯りが、サンジの白い体を闇に浮かび上がらせている。
サンジは全裸で跪かせられていた。
その両腕は拘束されて頭上に引き上げられ、目隠しをされている。
けれどナミの言うとおり、足は拘束されてはいない。
サンジは立とうと思えば自力で立てるし、ナミを蹴り飛ばして逃げることも出来る。
拘束された腕ですら、それを決して傷つけたりなどしないように、柔らかなタオルで緩く縛られているだけだ。
その上から洗濯紐で結わえて、天井のランプをぶら下げるためのフックに引っ掛けているだけ。
サンジが少しでも暴れれば、紐はあっさりフックから外れるだろう。
けれどサンジは抵抗らしい抵抗もせず、ただ弱々しい声で、ナミへの哀願を繰り返す。
「そん、な…、ナミさんを、けっ…蹴ったり…なんかっ…、とん、とんで、も、なっ…、ああっ…!」
くちゅる…
先刻からの水音は、ナミの手元でしている。
ナミが持つ、冷たい無機質の物体が、サンジの熱く濡れた粘膜をかき混ぜる、淫蕩な音。
「サンジ君のその性格は、こんなとき損ね。」
くすっとナミが笑う。
サンジが本気で力を出せば、こんな子供だましの拘束等、すぐに逃れられる。
けれどサンジはそうしない。
相手がナミだから。
ナミさん、やめて、を繰り返しながら、この男はおとなしくナミに拘束されたのだ。
なんてバカな男。
なんてバカで可愛い男。
「じゃあ、サンジ君の好きな人を教えてくれたらやめてあげる。」
ちゅぷ…
「ああ…、ナミ、ナミさんっがっ…好き…アアアッ!!」
ぐり、といきなりそれが奥まで入り込んできて、サンジは上体をのけぞらせた。
「うそつきは嫌いよ。」
「や、や、やめ…、ナミさ…っ、ほんと、ほんとに、ナミ、さ、がっ…!」
ぐりぐりと捻じ込むようにそれが入ってくる。
そのたびに、ぐじゅ、という淫らな音がする。
「じゃあどうしてサンジ君は今こんな事になってるの?」
「ご、ごめ、なさ…。」
ふるふると頭を振るたび、金色の髪がさらさらと音を立てる。
目隠しの下の碧眼は、きっと潤んですらいるだろう。
その顔を見返して、ナミは口元に笑みを浮かべた。
「謝らなくてもいいのよ、サンジ君。あたしはね、サンジ君の本当の気持ちが知りたいだけなの。」
「だ、だか、ら、ナミ、ナミ、さんっ…が、─────ヒッ!」
ごりっと、ナミの手の中のそれに、内壁を思い切りこすられる。
「どうしてそんなに素直じゃないのかしら。」
ナミが、さも悲しくてたまらない、と言った声を出す。
「じゃあどうしてサンジ君はこんなことされてるの?」
「あ…ごめ、ん、なさい、ナミさん…、もう、…許、してっ…。」
「謝って欲しいわけじゃないのよ。どうしてこんな事になってるのか、言ってみて? サンジ君。」
ぐちゅ……… ぐちゅ……… ぐちゅ………
優しげな声とは裏腹に、ナミは、サンジの中を容赦なく穿つ。
「昨日の夜、あたしがここに来た時、サンジ君なにをしてたんだっけ…?」
「ナミさん…勘弁、して…。」
「言って。」
口調は優しいが、声には逆らう事を許さない響きが篭もっている。
「…じ…ぶんで…、して…ました…。」
「何を?」
さあっと、白い頬が桜色に染まる。
「…………お…………オ……ナニー…して…ました………。」
その声は消え入るように小さい。
「誰をおかずに?」
「…………………っ…………………。」
サンジが唇を噛む。
「ねえ、言って。サンジ君。あの時、誰の名を呼んでたっけ…?」
サンジは唇を噛んだまま、ふるふると頭を振る。
ナミが掴んでいたそれを、一気に引き抜く。
「ひあああっ!!」
ずるりと内臓ごと持っていかれるような感触に、サンジの全身が痙攣した。
屹立したペニスの先から、白濁した蜜が散る。
すぐさまナミの手がその根元を掴んだ。
「ぅあ…っ!」
射精をせき止められ、思わずサンジが空腰を使う。
「イかせてほしかったら言いなさい。誰の名を呼んでた?」
厳しい声で命ぜられ、反射的にサンジは白状していた。
「………………………あ、……あ…………………ゾ、ロ…の…っ…、…………ゾロ…の名を…っ………………!」
昨日の夜中の事だった。
サンジは、水を飲みにラウンジに来たナミに、自慰を見られていた。
その時せつなげに呟いていた名前も聞かれてしまっていた。
よりにもよって、サンジを仇敵のように嫌っている、あの剣士の名を呼んでいるところを。
「いい子ね…、サンジくん…。じゃあ約束どおりイかせてあげる。」
優しく歌うようにサンジの耳に囁いて、だけど、とナミは続けた。
「あの時みたいに、ゾロの名を呼んでみせて。」
そう言って、ローションでぬるぬるにされた性具が、再びサンジの中に入ってきた。
「ああっ! あ、や、やだっ………、ナミ、さんっ…………そんなっ………だめだ、俺っ…!」
「ナミさん、じゃないでしょう?」
「うあ、や、だめ、だめだよ、無理…っ。んんっ…!」
「無理? このおもちゃじゃイけないって事かしら。」
「ひ…っ。」
「そうよねえ…サンジくんはエッチな子なんだものねえ…。もっと熱くて太いのでここを擦られたいのよねぇ。」
「ち、違…っ…。」
「こんなおもちゃなんか簡単に飲み込んじゃうんだもんねぇ…。」
ナミの言うとおり、サンジの後孔は柔らかく蠢いて、その性具を飲み込んで、そのくせきゅうきゅうと締め付けていた。
まるで嬉しくてたまらないように。
「ここに本物挿れたらどうなるのかしら…。」
「んうぅ…っ。」
「例えば、ゾロの、とか。」
ナミに囁かれたとたん、ひくん、とサンジのペニスが反応した。
かあっと頬が赤くなる。
「な、ナミさんっ…!」
「ナミさん、じゃないでしょう? もっと呼びたい別の名前があるでしょう?」
ぐちゅ、ぐちゅ、とサンジの後孔で性具が激しく出し入れされる。
「あっ…あっ…、やだ、………ナミさ、動かさな…で……………!」
後孔には絶えず刺激が与えられるのに、ナミの細いしなやかな指は、サンジのペニスの根元をきつく押さえたままだ。
「………ナミ、ナミ…さ、イ、イかせ…、イかせてっ……………!」
「ゾロのはどんなのかしらねえ…。大きそうよねぇ…。きっとサンジ君の中、いっぱいになっちゃうね…。」
途端に、サンジの脳裏に、あの剣士の姿が蘇る。
「…あ、あ………。」
「ゾロに犯されたい? サンジ君。」
「ひあ、……あ…」
「こんな冷たいおもちゃじゃなくて。熱い太いので、ここをごりごりされたくない?」
「…………さ、……され……、たい…………っ。」
「何を?」
「………ごりごりって…………、ぐちゅぐちゅに…………された……い……………。」
「誰ので?」
「………ゾ…………………。」
言いかけて、サンジはまた唇を噛む。
あまりに痛々しいその仕草に、ナミの胸が痛くなる。
どうしてこんなにも自分を抑えてしまうんだろう。
痛々しくて、けなげで、…愛しくてたまらない。
「ねえ、誰の熱いので、ぐちゅぐちゅにされたいの…?」
優しく、その耳に囁いた。
サンジの体が、ふるっと震える。
「あたしには教えてくれるでしょう…? サンジくん…。」
慈愛に満ちた、聖母のごとき囁き。
「ああ……。」
サンジが泣きそうな声で喘ぐ。
「ここに…」と、ナミが性具を動かしながら言った。
「誰のを挿れたいの…?」
サンジの目を封じた目隠しの隙間から、パタパタと涙が零れ落ちる。
「………………ゾロ、………の…。…………ゾロのを、いれ、挿れて………………。」
「どうしてゾロのを挿れて欲しいの?」
「……………………………………………ゾロが、好き、だから…………っ…………………。」
その途端。
いきなり何者かの“熱気”が、ぐわりとサンジに掴みかかった。
唐突に突然現れた第三者の気配に、サンジが飛び上がる。
どこから現れた、この“気”は。
うろたえながら、目隠しされた顔を気配に向ける。
もちろんそうしたところで視界は遮られているのだけれど。
「だ、誰っ…!?」
いつもなら、誰だてめェ!と威勢良く啖呵を切るところだが、あまりの動転と、まだ身の内に残る疼きのせいで、声が出ない。
しかもサンジにはすぐわかってしまった。
この気配が誰か。
だって気がつかないはずはない。
焦がれて焦がれて、狂うかと思うほどに焦がれた気配。
気づかないはずはない。
わからないはずはない。
だけどどうしてこの気配は現れた?
いったいいつからこの場にいた。
ずっと?
ずっと見ていたのか?
気配を消して?
どうして?
ナミさんは?
ナミさんはどこだ?
おまけに。
いきなり現れたその“熱気”は、サンジの体をぎゅうぎゅうと抱きしめている。
それがサンジには信じられない。
─────な、なんで…?
ゾロ、だよな、これ…?
何でゾロに抱きしめられてる…?
いや、もしかして、絞め落とそうとされてる、とか…。
でも、どこも苦しくないし…。
心臓は苦しいけど…。
でもそれは…。
盛大に動揺していると、ぶつん、といきなり両手が自由になった。
乱暴に床に突き倒される。
「やめ…! 何を…!」
ずるりと後孔の性具が引き抜かれ、サンジの身がのけぞる。
「ひっ…!」
締め付けるものが唐突に去って、ひくひくと名残惜しむように蠢く後孔に、すぐに、熱い質量が押し付けられた。
何をされようとしているのか悟った瞬間、さーっとサンジの全身から血の気が引く。
「や、やめ…、やめろ、─────ゾロ!!!!!」
思わず叫んだ。
「うるせえ、黙れ。」
やっと聞けたゾロの声は、ぞっとするような押し殺した響きだった。
サンジの全身が凍る。
軽蔑、してるのか…?
けれどすぐに、サンジの唇が、熱いものでふさがれた。
熱くぬめるものに、強く、激しく、舌を吸われる。
─────キ、ス…?
間違いない。
キスされてる。
ゾロに。
そう思った途端に、サンジの脳が発火した。
わけがわからなかった。
わけがわからなかったけれど、サンジは、与えられた優しい感触に縋りついた。
夢中で、ゾロの唇を貪る。
ゾロの唇だ。
ゾロの…。
泣きそうになった。
サンジがキスに答えると、ゾロが喉の奥でうなり声をあげた。
乱暴に足を抱えあげられた。
ぐぷ…、と、性具なんかとは比べ物にならない熱と質量が、サンジを犯し始める。
「う、あ…、あああ、や、あ、ああ、あああ…っ!」
無意識に逃げを打つサンジの体を、抱き込むようにして、尚もゾロが腰を進める。
「ひぃ…ッッッ!!!」
「逃げんな…!」
また噛み付くようにキスされた。
「んう…!」
荒々しく口腔を蹂躙される。
「ゾ、ロ…、ゾロ、んっ…、ゾロ…、ぁ…。」
「くそっ…。」
悔しそうに、ゾロが舌打ちした。
サンジ、と声に出さず名を呼ばれたような気がして、サンジの体はどんどん熱を持つ。
ペニスがどうしようもなく猛っているのが自分でもわかった。
ゾロが自分を抱いているのが信じられなくて、その姿を見たくて、でもまだ少し怖くて、それでもサンジははやるような気持ちで、自らの目を塞いだ目隠しを剥ぎ取った。
目を開けると、驚くほど近くにゾロの顔があった。
サンジの顔を見たとたん、ゾロの顔に何故か動揺のようなものが走った。
同時に、ずくん、とサンジの体の中の質量が、大きさを増す。
「……ッ!」
思わずサンジが、きゅ、と後孔を締めてしまうと、ゾロがまた低くうなった。
「くそっ…!」
また舌打ちされる。
いきなりガツンと奥まで突かれて、サンジが声もなくのたうつ。
「ナミなんかにあんあん言わされやがってっ…!」
その言葉に、サンジは目を見開いた。
だってそんな。
それじゃまるで。
あからさまに嫉妬しているようではないか。
「ぞ、ろ…?」
驚いてゾロを見ようとしたのに、ゾロが激しい律動をやめないので、サンジはそれに翻弄されてしまう。
「あっ! ああっ、やあああっ、ふあ、あ、んっ…、や、ゾロ、ぞ…!」
「言えよ、俺に…!」
叩きつけるように、サンジの奥まで、ゾロが入り込んでくる。
「言え…!」
その声にどこか必死な響きをはっきりと見つけて、サンジは笑った。
笑いながら涙を流した。
両手でゾロの頭を抱き寄せて、今度は自分からキスをした。
綺麗な歯列を舌でなぞりながら、好きだ、と、唇の動きだけで囁いた。
END.
2005.06.26
突発にどうしても書きたくなったナミサン。
女にあんあん言わされるサンジ君っての、実は意外と好物です。
真紅のダイヤモンドの浬さんがイラスト描いてくれました♪(背後注意)