セーラーサンジ記念企画
∬ 捏造ナバロン ∬
「あの船が麦わらのルフィの船だってのは本当か?」
「この海軍が誇るナバロンに忍び込むとはいい度胸だ!」
海兵達が何人も何人も、ばたばたと廊下を駆けていく。
その慌しい様子を、サンジは天井裏に潜みながら見ていた。
「ナバロン…?」
なァるほど。
そういう事か。
俺達はよりによって海軍の大要塞の中へ飛び込んじまったってわけだ。
思案しながら様子を窺っていると、また別の足音が近づいてくる。
「ロロノア・ゾロ?」
いきなり出たその名に、サンジは思わずぎくりとした。
「麦わらの一味です。かつて海賊狩りと恐れられた剣豪で、三刀流の使い手と聞いています。」
廊下の向こうから歩いてくるのは、将官クラスと思しき軍人と、その部下らしい海兵だった。
「とにかく、捕えて、この要塞ナバロンに入り込んだことを後悔させてやりましょう。」
話しながら、将官達が廊下の角を曲がっていく。
「誰を後悔させてやるって?」
その姿が消えたとたん、サンジの目の前に、ひょっこりと、見慣れた緑頭が現れた。
「いっ!?」
緑頭は、頭上に潜むサンジには気づかず、きょろきょろと辺りを見回し、「ここはさっき通ったなー」等と首をひねっている。
「てめェは何で堂々と歩いてんだ!!!」
迷わずその後頭部に渾身のコンカッセを食らわせるサンジ。
それは見事なまでに直撃し、ゾロの頭は、一瞬、完全にひしゃげて陥没した。
普通なら頭蓋骨骨折か脳挫傷というところだが、そこはゾロなので、当然無傷だ。
「ってーな! この野郎! …って、てめェか、クソコック!」
「てめェか、じゃねぇよ! バカマリモ! 堂々と刀三本さしてたら一発でバレバレだろうが!」
その時、また、話し声と足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
「まずい…! とりあえず隠れるぞ!」
ゾロの首根っこを掴んで、咄嗟に適当なドアを開けて、サンジは中に飛び込んだ。
そのドアの前を、海兵が二人、歩いていく。
「そろそろメシの時間だぜ」
「腹減ったなァ」
その姿を見送って、「…行ったか…。」と、ほっと息をつく。
「別にコソコソ隠れなくたってよォ、いざとなったらやりあえばいいじゃねェか。」
呑気にそんな事を言うゾロに、サンジはぶち切れた。
「ド阿呆!! みんなどこにいるのか分かんねェのに、そんな事したら────!!」
「…全員集まるんじゃねェか?」
「それも手だな。 …じゃなくて!!」
一瞬思わず頷きかけてしまい、サンジは慌てて向き直った。
「ナミさんもロビンちゃんもどこにいるかわかんねぇんだぞ! ちったァ足りねえ頭で考えろ!」
「あー、うっせぇうっせぇ。耳元で怒鳴んな。」
掴みかかるサンジを避けたゾロの背後が、がさっと音を立てる。
ん?と、見上げた先に、ずらりと並んだ海軍の制服。
海兵達のそれとは違う、襟の大きく開いたセーラー服と、帽子。
帽子の形で、それがコックの制服だとわかる。
倉庫というか、備品室というか、そんなとこに、飛び込んだらしい。
それを見ていたサンジの目が、しばしの間のあと、にやりと笑った。
* * *
「よーし。いい按配だ。この格好の方が疑われねぇだろ。」
そう言いながら部屋を出たサンジは、ちゃっかりとそのセーラーに着替えていた。
「てめェ、着替えねぇんなら、せめて刀だけでも隠せ。一本くらいなら持っててもいいが三本はまずい。俺はこんなとこでてめェのとばっちりで捕まりたかねぇからな。」
居丈高にそう言うサンジを、ゾロは、自分は着替える事も忘れて呆然と眺める。
セーラーに着替えた、サンジを。
─────エロすぎんだろ、そりゃ…。
セーラー。である。
ぶっちゃけ、男のロマン、セーラーである。
セーラーと言うのは、うなじ全開、なのである。
鎖骨丸だし、なのである。
ハイウェストの裾から背中やらお腹やらがチラリズムなのである。
簡単に手が入れられて無防備このうえない。
おまけにぴっちりしたズボンが、腰から尻のラインをくっきりと際立たせている。
どこからどう見ても、襲ってくださいと誘ってるようにしか見えない。
─────待て。こんな姿のこいつを、こんな海軍の巣の中、うろうろさせるのか?
それはダメだ。
それはまずい。
そんな事が許されるはずがないだろう!
だってこんなにエロい。
だってこんなに可愛い。
だってこんなにそそられる。
見ろ、サンジ! 俺のこのテンパッた股間を!
どーすんだ、これ。
そんなゾロの内心の葛藤など、サンジは知る由もない。
こっちが厨房か? 等と言いつつ、食堂のドアを覗き込もうとしたサンジは、突然、耳元で荒い鼻息を感じて、ぎょっとして振り向いた。
「ゾロ…っ!?」
ゾロの手が、サンジの口を塞ぐ。
そのままずるずると、さっき着替えた小部屋へと再び引きずり込まれる。
サンジに状況を把握する暇を与えず、ゾロの指が、するりとセーラーの裾から中へと滑り込んだ。
「─────ッ!?」
なんだ?
なんでいきなりサカってんだ? この阿呆は???
口を塞いだ手をむしりとり、
「何しやがんだ! クソマリモ!」
と、サンジは怒鳴った。
「うるせぇ、黙れ。こんなもん見せられて、我慢できっか阿呆。」
サンジを後ろからはがい締めにしたまま、ゾロがその耳に齧りついた。
びくっと震えるサンジの体。
「…ッ! ア、ホ、はどっちだ…ッ…!」
抗おうとするサンジを許さず、ゾロの手が、胸元の敏感な突起を見つける。
「んっ…!! ぞ、ろっ…! やめ、ろ…っ」
ゾロの指は執拗に、サンジの乳首を嬲る。
「な、んで…ッ…?」
「………てめェ、エロすぎ。」
サンジの耳たぶを甘噛みしなから、ゾロが言った。
「こんな格好で、海軍の奴らの前に出て行く気かよ。」
「な…に、言って…」
ゾロのもう片方の手が、ズボンにかかる。
それは楽々と侵入し、サンジの丸い尻を鷲掴みにする。
「あっ…!」
「ったく、どこからでも簡単に手が入るじゃねぇか。」
当たり前だ。セーラー服というのはそういうつくりになっている。
服のまま海に落ちたりした場合に、服が体の自由を奪うことのないよう、水が入りやすく、脱ぎやすく、できている。
はなから脱ぐこと前提で作られているデザインなのだ。
考えようによっちゃ、これほど不埒な服もない。
まったくもってけしからん、と、ゾロはサンジのズボンを引き摺り下ろした。
「ゾロ!」
慌てて身をよじるサンジに構わず、ゾロはサンジのペニスを鷲掴みにした。
「あぅっ…!」
サンジがびくりと硬直する。
ゾロの手が、乱暴にサンジのペニスをこする。
「痛… 痛、ェっ…! ゾロ、痛ェ!」
少しの刺激でも敏感に反応してしまうサンジの体は、だから、強すぎる刺激には、むしろ痛みを訴える。
ゾロも分かっているから、いつもならサンジのそこは緩く優しく、扱うのに。
性急な、乱暴な、動き。
「な…んだよ… なんか、怒ってん、のか…?」
ゾロが舌打ちする。
「見せねぇぞ…。てめェのこんな…格好…誰にも…。」
露骨に独占欲を囁かれて、サンジの心臓が跳ねる。
その独占欲を嬉しいと感じる自分がいる。
性急に追い上げられ、それでもサンジのそれは、ゾロの指に刺激されて、勃ちあがる。
先端を親指の腹でぐりぐりと擦られ、サンジは悲鳴を上げた。
「ああッ…! 強すぎ、るって、ゾロ、やめ…!」
「うるせぇ。早く濡れちまえ。」
敏感な先端の割れ目を、無骨な指で容赦なく責められ、サンジは喘いだ。
「ひぁッ! あ、…や、やめ、やッ…! も、すこし、優しく…っ!」
勃ち上がった先端から、透明な雫がぽろぽろと涙のように滴り落ちた。
そのおかげで、強すぎる刺激は、ぬるぬると心地良いものに変わり、却ってそれはサンジを翻弄する。
「ん… ふ…ぅ…ッ はぁ…」
くくっ、と、耳元でゾロが笑うのが聞こえた。
「てめェ、ほんとによく濡れるよな…。女みてぇに。」
かあっとサンジの頬が染まる。
ゾロに言われるまでもなく、サンジは、自分の先走りの液の多いことを気にしていた。
ゾロに抱かれるようになってから、その量はなんだか余計に多くなったような気がする。
射精したわけでもないのに、溢れる液はサンジ自身の幹をたっぷりと濡らし、それを弄るゾロの手首の辺りまで滴っている。
それを幸いに、ゾロの指がサンジの双丘を割る。
「…ふ…ッ…!」
ぬめりに任せてゾロの指が侵入ってくる。
ズボンも下着も、もう既に足首までずり落ちている。
「あ、あ… ゾロ… んあっ…!」
自分の後孔から、くちゅくちゅとはしたない水音が上がり始めたのが、わかる。
背中からゾロにはがい締めにされ、ゾロの片方の手に乳首を嬲られ、もう片方の手に後孔を犯されている。
こんな、海軍の巣の中で。
「あ、…は あ んんっ… 」
乳首をつままれただけで、電気のような快感が走る。
思わず体が震える。後孔に差し入れられたゾロの指を、きゅっと締め付けてしまう。
そうするとゾロは面白がって尚も強く乳首を嬲る。
「ひ…ッ…」
強すぎる快感に、立ち上がった先端から、透明な雫が止めどもなく溢れる。
ゾロが、耳たぶの後ろを舐め上げる。
「…っ…!」
膝が震え出す。
もう、立っているのが辛い。
後孔がわななくように痙攣を始める。
指だけじゃ、物足りなくて。
浅く弄られるだけじゃ、我慢できなくて。
もっと太いものを、もっと奥まで、挿れて欲しくて。
せめて…、せめて、前を触ってほしい。
痛いほどに勃ちあがって濡れてるものをイかせてほしい。
いつまのに。
いつのまに、こんな、淫らな体になった。
自分の、この体は。
くくく、とまた、耳元で笑う声。
「何、物欲しそうにケツ突き出してんだよ。もう、欲しいのか?」
気づかぬうちに、ゾロに向ってねだるように腰を揺らしていた事に気づき、かあっとサンジの頬が熱くなる。
「くそッ…! も、う…挿れろ…!」
快感と羞恥に潤んだ目で、それでも精一杯睨みつけると、口元に笑みを浮かべていたゾロの目が、一瞬、ぐっと細まった。
「たまんねぇな…。」
掠れた声でそう、呟く。
「てめェ、自分のそのツラで、どんだけ俺を煽ってるか、わかってっか?」
きり、と乳首に爪を立てられ、サンジの背がのけぞる。
咄嗟に押しのけようとしたサンジの腕を、ゾロが掴む。
そのまま、その手はゾロの股間に導かれる。
そこは既に熱く猛っている。
「挿れてほしけりゃ…舐めろ。」
囁かれた。
サンジが僅かに目を見開く。
ずるり、と後孔から指が引き抜かれた。
すっかり力を失っていたサンジの膝は、支え手を失って、がくりと床に崩れる。
目の前に、臍まで反り返るほどに固く屹立したゾロのモノが突きつけられる。
躊躇わず、舌を絡めた。
本当はひくつく後孔に挿れてもらいたいのに、それが叶わないから、太くて長い剛直を喉の奥まで咥えてみる。
苦しいはずなのに、口の中全部がゾロの質量で満たされると、まるで自分の口が男を迎え入れる性器になったようで、それがサンジを乱れさせる。
「…うまいかよ。俺のちんぽがよ。」
ゾロの声が意地悪そうに頭上から降ってきても、サンジはゾロのそれに舌を絡めるのをやめなかった。
このまま
そんな事を思う。
思ったら、また、とくん、とサンジの先端から透明の蜜があふれ出た。
たまらなくなって、自分で慰めようと、それに手を伸ばしたらゾロの足がそれを払った。
「誰が自分のちんぽ触っていいっつった。」
けれどそう言うゾロの声も、もう甘く掠れはじめている。
咥えたまま、とろんとした上目遣いでゾロを見上げると、ゾロと目が合った。
何故か一瞬、ゾロが焦ったような目をする。
ちっ、と舌打ちされ、いきなり口から剛直が引き抜かれた。
「くそ…っ」
いきなり引き寄せられ、噛み付くようにキスされた。
「だからっ…! てめェのツラはエロすぎんだよッ…!」
ゾロの舌が荒々しくサンジの口腔を舐め回す。
息も出来なくなるほど、強く。
「ん、ふ…ッ… んんっ… ゾ、ロ…」
喘ぎが、鼻から抜ける。
ゾロが唇を放し、解放されたと思ったら、しとどに濡れるペニスを咥えられた。
「んあッ!」
突然の事に、サンジの上体が、びくん、と跳ねる。
じゅっと音を立てて、滴る蜜を吸われた。
「ヒ、アッ! ああっ!」
その瞬間、サンジの背が震えながらのけぞり、ゾロに咥えられたペニスから、白濁した液が迸る。
「くっ… あ、あ… て、め、…いきな、りっ…!」
心がついて来ないまま、強引に射精させられて、サンジは涙目で唇を噛む。
イキ足りないこの気持ちを、なんと表現していいのかわからない。
せつない、が一番近い。
「んな顔すんな。ちゃんとイカせてやる。…ここでな。」
ゾロの指が、サンジの後孔に触れた。
ぴくん、とサンジの体が震える。
もう、我慢が出来なくて。
いま挿れてもらえなかったら、はしたない言葉でねだってしまうかもしれない。
娼婦のように。
床に座ったゾロに、背中から抱きしめられた。
そのまま、後孔を探られ、ゾロの先端が押し付けられる。
待ちきれなくて、サンジは自分から腰を落とした。
「ん、あ、あっ… あ、あ、あ…っ!」
サンジがその白い背をのけ反らせる。
綺麗だ、と、ゾロは思った。
男に組み敷かれて、貫かれて、犯されてるのに、サンジは綺麗だ。
うっとりと彷徨う碧眼が、さらさらと流れる金髪が、のけぞった顎が、あらわになった白い首筋が、反り返った胸元が、薄く色づく乳首が、濡れて震えながら勃ちあがるペニスが、ゾロの手を握り締める指先が、細かく痙攣を繰り返す足先が、─────全てが。
綺麗だ。
快楽を追って腰をくねらせている淫らな姿なのに、サンジにはどこか、犯しても犯しきれない、妙に透明な美しさがある。
どんなに汚しても、汚れない、サンジの根底に流れる、何か。
それを見たくて、それを汚したくて、それを自分の色に染めたくて、けれど汚したくなくて、ゾロはいつも、サンジを追い詰めるように抱いてしまう。
「あ、はぅ… んっ あ、…ゾロ、ああっ… ゾ、ロ…!」
「サンジ…」
もっと、溺れろ、俺に。
俺だけを見ろ。
俺がお前に溺れているように。
お前も。
狭く熱い孔の中に、固く太く長い楔を打ち込む。
根元まで突き込むたび、痩身が跳ねる。
「や、あ、…ふか、深い…っ! む、り…っ!」
「無理じゃねぇよ。全部ちゃんと飲み込んでるぜ?」
細かくずんずんと、奥の方を突いてやる。
一突きごとに、より奥に抉りこむように。
「だ、め、だ…ッ… 腹、つき破って出てくる…ッ!」
「出ねぇよ。」
サンジの両膝を、裏から抱え上げる。
子供に排尿させる時のような格好で、サンジの体を完全に持ち上げて、ずるりと引き抜いて、落とす。
「あああッ!!!」
カリ首まで引き抜いて、一気に奥まで貫く。
きゅぅぅっと、ゾロが痛みを感じるほどに、サンジのそこが締まる。
「…っ…!」
締まりながら、ひくひくと細かく痙攣する。
「…あんまり、でけぇ声出すと、外に聞こえるぜ…?」
「あ、あ、ゾ… やめ…」
引き抜いて、落とす。
「うァ…ッ ──────!」
今度はサンジは何とか声を堪えた。
その喉からひゅーひゅーと息が漏れる。
「苦しいか…?」
「…てめ…ッ… 苦、しいに、決まって…!」
「…苦しいだけか…?」
ぐり、と明らかな意図を持って、ゾロのペニスがサンジの中の一部分を擦り上げた。
「ひッ!」
ざあっとサンジの全身に鳥肌が立ったのがわかった。
ゾロを包む粘膜が、突然、複雑な蠕動を始める。
そのあまりの気持ちよさに、ゾロの背筋にもぞくぞくと快感が這い登る。
「なあ、苦しいだけかよ。」
抱え上げて落とすだけの動きから、内壁を擦り上げながら奥まで捻じ込むような動きに変えながら、囁く。
「あ、…ひ、あ… ゾロ…っ!」
サンジの中が、ひっきりなしにひくひくと収縮を繰り返す。
「ん、あ… は… あ、ぅん…っ!」
喘ぎが、甘ったるくなってくる。
「サンジ。」
「あ、あ… っと…。ぞ、ろ、もっと…!」
甘い声でねだられて、ゾロのなけなしの理性が吹き飛ぶ。
サンジの前立腺を刺激しながら、夢中で腰を動かした。
「ああっ あ、ぅあ… あ、 んあ、あァッ…!」
サンジの全身がわなないて、勃ち上がったペニスが弾けた瞬間、ゾロも、サンジの一番奥に精液を叩きつけていた。
* * *
─────で、なんでこんな展開になってやがんだ…
ゾロはため息をついて、いきいきと料理をするサンジの後姿を眺めていた。
ゾロにさんざん犯りたい放題犯られたあと、サンジは、それでもけなげに立ち上がり、さっきまでの乱れっぷりもどこへやら、ゾロにおしおきの蹴りを一発くれてから、セーラーを着直して小部屋を出た。
結構な声で喘いだような気がするが、気づいた者はいなかったらしい。
サンジはほっと息をついて、再び厨房を窺う。
クルー達がどうしているのかわからない事には身動きも出来ない。
そんな様子のサンジを見て、ゾロが慌てた。
「てめェっ…! またそのセーラー着ていくのか?」
「あァ?」
「冗談じゃねぇ、脱げ!」
「なにすんだ、ボケ!」
等と小競り合いをしているうちに、二人の体が厨房のドアを開けてしまったのだ。
何とかいう料理人の兄弟とやらと間違われてんな、と悟った時には、あれよあれよという間に、料理勝負を引き受ける事になっていた。
100人分の食事を作り、勝敗は食べた海兵たちが決める。
食材の一番旨い部分だけを使って料理を作った海軍コックたちに対して、サンジは、
「もったいねぇことしやがる…。」
コック達が使わなかった部分だけを使って料理を作り始めた。
やれやれ、とゾロはため息をついてサンジを見ていた。
こんな勝敗の分かりきった勝負、受けるまでもない。
100人分だろうが、1000人分だろうが、サンジは作り上げるだろう。
完璧な栄養配分で、夢見るようにおいしい、無駄のない料理を。
そんな分かりきった勝負よりも、ゾロは目の前のサンジの方が気になっていた。
さっきから腕組みしてこちらを睨んでいる乳のでかい女より、サンジの方がよほど色気がある。
事後の気だるさを纏いつかせて、今のサンジは、妙に艶かしい。
だからゾロは、気が気じゃない。
海軍たちの中に、サンジをそんな目で見てる奴がいるんじゃないかと。
サンジを見て欲情してる奴がいやしないかと。
一番に欲情しているのは誰でもないゾロ自身だという事は棚に上げまくって。
やきもきするゾロに、サンジが振り返った。
その口元がにやりと笑う。
「あれ、細切れにしてくれ。“兄貴”。」
いくつも並んだマグロの頭の一つを指差された。
やれやれ、とゾロは刀を抜く。
だから俺の刀はこういう事に使うもんじゃねぇってなんべん言ったらわかるんだ、このクソコックは。
「か、刀…!?」
ざわっとするギャラリーに、
「包丁だ。」
言い張ってみた。
食堂になだれ込む寸前、サンジが「バカ!刀!」と耳元で言ったので、ゾロは咄嗟に、鬼徹と雪走を廊下の小窓から外に放り投げてしまった。
海に落ちてやしないだろうな…と危惧しながら、ゾロは和道一文字の一閃で、目の前のマグロの頭をミンチにしてみせた。
ギャラリーが再びざわめく。
それをサンジは横目で見てにやりとし、身のたくさん残っているマグロの骨の前に立った。
「マグロの骨と頭は叩き潰し…」
ととととととととん、と包丁がリズミカルな音を立てる。
くるん、と身を翻す。
「ワタは擦り砕く。」
目の前であっという間に、魚が形を失っていく。
金の髪が揺れる。
「野菜クズと共に練り上げて…」
サンジの手の中で、小さなすり身団子が次々と出来上がる。
見ようによってはやたらといやらしい手つきだ。
「油で揚げる。」
じゅわーっとフライヤーの中の油が音を立てた。
サンジは口元に柔らかな笑みを浮かべている。
「肉の脂身は、とろ〜り溶けるまで煮込み…」
繊細な手付きが鍋をかき混ぜる。
愛しそうに鍋を見る目が色っぽい。
「貝ガラでたっぷりダシを取った特製ソースと絡める。」
揚がったすり身団子に、とろりとソースが絡まる。
また、くるん、と身を翻す。
ちらりとセーラーの裾から白い肌が覗いた。
「ワタの苦味が食欲をそそり、濃厚な味が疲れた体に生気を吹きこむ。」
料理をするサンジは本当に楽しそうだ。
浮かんだ笑みは幼ささえ感じさせる。
「となれば、さっぱりとした和え物も必要だ。」
まるで、水の中をすいすいと泳ぎ回る魚のようだ。
その動きに、目を奪われる。
「ゴボウの皮、ジャガイモの皮には中味以上の栄養素が詰っている。」
しなやかな白い指が、あっという間に料理を仕上げていく。
静かに強く青い炎のように凛とした、料理人としての、矜持。
目が、眩みそうだ。
「兵士には理想的な栄養源だ。」
非の打ち所のない味と、完璧な栄養配分、細やかな思いやり、温かな愛情。
サンジの料理は、いつも優しく、温かい。
「ブロッコリーの芯は柔らかく香りのいいドレッシングに。」
てめェの頭色だ、と、サンジはゾロの傍をすり抜けざま、耳元に、そう囁いた。
その口元がくすくすと笑っている。
その笑みに、惹きつけられる。
こんなにも。
あっという間に、100人分の料理がテーブルの上に並んでいた。
「ラ・キュイジーヌ・ア・ラ・カルト!」
誇らしげにのけぞらせた首筋に、赤い痕が薄くついていた。
END.
2004/08/09
高架下1.5kmのモトアキラさんに捧げたもの