§ 告白 §


 

「好きだ。」

 

手首を掴まれ、真正面から見つめられて告げられた。

 

「俺はお前が好きだ。」

 

 

 

 

その瞬間、サンジの心を襲ったのは、──────“恐怖”。

 

 

 

 

「…………で?」

 

たっぷり一分以上もその真剣な目を見返して、サンジの口から出てきたのは、自分でも驚くほど乾いた声だった。

「だから何?」

目の前の、自分に好きだと告げた男が、サンジの言葉に、一瞬、目を見開く。

「…好きだと…伝えたかっただけだ。」

静かな、静かな声。

柔らかな深緑色の、真摯な瞳。

その瞳に偽りの光はない。

 

当たり前だ。

この男はいつだって本当の事しか言わない。

この男の言葉は、全て、心の中の真実だ。

 

─────…ゾロは、本気で俺に惚れてる。

 

目をそらしたのは、サンジの方だった。

「そりゃどうも。確かに承りました。手ェ放せ。んでさっさと寝ろ。」

掴まれた手をふりほどき、キッチンに向かおうとして、再び手首を、更に強く、掴まれた。

「…てめェは?」

「あァ?」

「てめェは、どう思ってる。俺を。」

 

伝えたかっただけだと言いながら、こっちの気持ちを聞こうとするのか。この男は。

 

「どう…って、マリモだなあと思ってる。」

挑発するように笑ってやろうとして、…失敗した。

ゾロの目は、どこまでも静かに、真剣な光を湛えている。

その目を見返すことが、できなかった。

「茶化すな。答えろ。」

 

一瞬、サンジの心を錐で突くような痛みが走る。

だがその痛みのおかげで、サンジの唇に、笑みが浮かぶ。

辛い時、苦しい時に、笑顔を作る事には、慣れてる。

 

「どう、答えればいいんだ?」

人を食ったような、小馬鹿にしたような、笑み。

「何…?」

「どう答えればてめェは満足するんだ、って聞いてんだよ。“嬉しいわ、ゾロ♪ 俺もてめェが好きだったの”、とか答えてほしいのか?」

「てめェは…何言って…」

「野郎同士で告りあってどうすんだ? 交換日記でもするか? 1つのコーラにストロー2本さして飲むか? ペアルックでも着るか?」

ああだけど腹巻はごめんだぞ、俺は。等とあくまでもふざけたような調子を崩さないサンジに、ゾロの眉根が寄る。

その瞳が怒気を孕んだのを見て、サンジはやっとゾロを真正面から見据えた。

「好きだ、なんつって、要はアレだろ? 犯りてぇっつうこったろ?」

ネクタイを、しゅるりと解いた。

「俺に突っ込んで射精してぇってことだろ?」

ゾロから視線を外さず、上着を脱ぎ捨てた。

「いいぜ? てめェの便所になってやっても。」

シャツのボタンを外した。

 

はっきりと、ゾロの顔が怒りに歪んだ。

 

本気で、激怒している。

殺気に近いほど、ゾロを包む空気が剣呑なものになる。

もしかしたら殴られるかもしれねぇな、と思ったとたん、腹の底から笑えた。

 

怒れよ、ゾロ。

そんで殴れ、俺を。

……軽蔑して、二度と見るな、俺なんか。

 

好きだ、なんて、言うな。

 

ゾロは動かない。

黙ってサンジを見据えている。

その全身から怒りが噴き出しているのに、ゾロはそれをあらわにしようとは、しない。

 

殴らねぇなら…、犯せよ、俺を。

 

シャツのボタンを全部外し、肩から中途半端にすべり落とした状態で、サンジは、ゾロの首に、するりと腕を絡めた。

驚くゾロに、これでもかというほど艶然と、微笑んでみせる。

誘うように。

 

そして、蠱惑的に囁いてやった。

 

「愛してるぜ、ゾロ。」

 

 

ゾロの顔が、傷ついたように、歪んだ。

 

 

 

棒立ちになっているゾロの唇を、舐めた。

こんな形で、この唇に触れる事になるなんて、思わなかった。

いや、思っていたのか?

ゾロの気持ちに気がついてなかったといったら嘘になる。

気がついていながら、無視していた。

気がついていた以上、この展開を心のどこかで予測していたかもしれない。

 

だけど。

 

だけどまさか、ゾロがこんなにもまっすぐに、自分の気持ちを伝えてくるなんて、思いもしなかった。

…いや、それも嘘だ。

ゾロが誰かに何かを伝えようと思ったら、この男はいつでも必ずまっすぐに伝えてくる。

目を、そらしたりはしない。

 

ゾロは、いつでもまっすぐだ。

その生き方そのままに、器用とは言いがたいけれど、歪みなく、淀みなく、熾烈で、真摯で、その両手が夥しい鮮血に濡れても、魔獣と呼ばれながら人間の命を屠り続けても尚、山頂からあふれ出る雪解け水のように、清冽で、潔い。

 

俺とは、違う。

泥にまみれ、濁って邪な、俺とは違う。

 

無表情で引き結んだ唇を、何度も舐めた。

ゾロは口を開けない。

それでも構わず、その閉じたままの唇に口付けながら、ゾロのシャツをたくし上げて、その肌に触れた。

鍛え上げられた、鋼のような、肌。

そこに生々しく刻まれた、傷。

 

腹巻もずらして、股間に触れる。

 

─────んだ…。勃ってんじゃん。

 

ズボンに指を差し入れて、勃起したものに指を絡ませながら、耳たぶに齧りつくように聞いてやった。

「なあ、舐めて欲しい…? それとも挿れる…?」

 

次の瞬間、力任せに床に突き倒された。

 

したたかに頭を床に打ち付け、くらくらしながら、サンジは、やっとノッてきたか、と安堵していた。

このままゾロがサンジに見向きもせずに去っていくにせよ、殴られるにせよ、犯されるにせよ、ようやっと、“終わる”。

ようやっと。

 

そう思うだけで、自然と笑みが浮かんだ。

 

早く。

早く終わりにしてくれ。

 

お前の誤った告白も。

俺のこの馬鹿げた想いも。

 

いっそこの身を引き裂いてくれないだろうかと思い、それだけはありえねぇだろうなぁ、とまたおかしくなる。

 

床に倒されたまま、サンジは笑った。

 

その体に、覆い被さる気配がした。

ああ、犯すことにしたのか、とぼんやりと思う。

 

刹那、ゾロの視線を全身に感じた。

刺すような、絡みつくような、強い強い視線。

 

肌が、ぴりぴりと焼けるようだ。

 

ラウンジの灯りの逆光で、ゾロの表情が読み取れない。

ゾロがどんな顔で、どんな目で、サンジを見ているのか、わからない。

わからないながらもゾロの顔を見ることができなくて、でも目をつぶる事もできなくて、サンジはワインラックのあたりに視線を泳がせた。

 

ゾロは、ただ黙って、じっとサンジを見ている。

 

服を脱いだのは、失敗だった、と思う。

素肌に、じかにゾロの視線が、纏いつく。

まるで愛撫されているような、まるで切り裂かれているような、ゾロの視線。

小娘のように怯えて身じろぎをしそうになり、サンジは渾身の力をこめて奥歯を噛み締めて、耐える。

まだ触れられてもいないのに、視線だけでびくつくわけにはいかない。

「何? 剣士様は視姦がお好みか? センズリショーでもしてみせようか?」

声は、震えなかっただろうか。

それでもゾロは何も言わない。

ただ黙ってサンジを見ている。

その視線に、サンジはとうとう耐えられなくなり、体を起こそうとよじった。

「…犯んねぇんなら、どけよ。」

耐えられない。

こんな視線は。

心の中の何もかもを見透かされているようで。

そのまっすぐな視線に、己れの膿も淀みも、全て暴かれているようで。

 

ゾロの体を押しのけようとするサンジの手が、不意に掴まれた。

そのまま再び、押し倒される。

何すんだ、と言おうとしたサンジの耳元に、ゾロが囁く。

「動くなよ。俺に抱かれたいんだろう…?」

 

心臓を、一掴みにされたような。

 

「…は。」

はは…、とサンジはわざとらしい笑い声を立てた。

「犯りてぇのは、そっちだろう…?」

床に投げ出した体の力を、抜いた。

「…そうだな。触れてぇな。てめェに。」

ゾロが静かに言った。

その声から、ゾロの感情が読み取れない事に、サンジは焦れた。

 

“犯りたい”んじゃないのかよ…。

 

“抱かれたい”とか“触れたい”とか、ゾロが紡ぎ出す言葉には男同士の性行為に付きまとう、下卑た淫猥な響きが、ない。

恋人たちが交わす睦言のような甘い響きを持っていて、サンジにはそれがたまらなく、厭わしい。

 

“抱かれたい”んじゃない。

“触れられたい”んじゃない。

 

“犯されたい”のだ。

 

サンジが欲しいのは、ゾロの欲望だ。

ゾロの屹立した性器を、サンジの濡れもしない排泄器官にねじ込んで、精液を吐き出してほしいのだ。

ゾロの一番汚らしい部分を、この全身に叩きつけて欲しいのだ。

 

なのに、ゾロはただ、見ている。

心の底から揺さぶられるような、あの目で。

ゾロの体ははっきりと欲望を表して勃起しているのに、ゾロはサンジの体には触れもせず、ただ見ている。

 

その目に、この身はどう映っている。

 

俺のこの、汚れて腐臭を放つ、躰は。

 

 

「…綺麗だな。」

 

不意にゾロが、口を開いた。

 

「すげぇ綺麗だ。お前は。」

 

その言葉の意味が脳に浸透したとたん、かあっとサンジの顔が熱くなった。

「なん、だ、それ。口説いてでもいるつもりか? もっとましな文句…。」

「綺麗だ。」

再び囁かれ、サンジは言葉を失う。

 

けれど次の瞬間、ゾロの言った言葉に、

 

 

 

 

「何を怖がってる? てめェは。」

 

 

 

 

サンジの脳は沸騰した。

 

 

 

 

「あァ?」

カッと怒りが込み上げる。

「誰が、何を怖がってる、だと?」

勢い込んで身を起こそうとするが、サンジの体はゾロに床に縫いとめられている。

「怖がってる。だろ。」

ゾロはサンジの怒りには乗ってこない。

静かなままだ。

 

「ふざけんなっ! てめェ!」

ゾロの体の下で、サンジはめちゃくちゃにもがく。

怒りのあまり、こめかみで血液がどくどくと脈打った。

「知ってるか? 犬が人を噛むのは、攻撃の為じゃない。恐怖心からだ。無駄に吼えるのも、必要以上に噛み付いてくるのも、怯えているからだ。」

「…俺がその犬だってのか。」

「俺には同じに見える。」

「…てめェ…、ぶっ殺してやる…!」

本気で、殺意が沸いた。

そのサンジの視線を真っ向から受け止めて、ゾロは静かに言葉を継いだ。

 

「なら聞くが。わざと俺を怒らせてまで、自分の体を娼婦のように俺の前に投げ出すのは何故だ?」

 

途端に、サンジの胆がすうっと冷えた。

怒りの名残が、大量の冷や汗となってサンジの全身に伝う。

「なに、言って…。」

喉がひくついて、うまく言葉が出せなかった。

 

「便所になる等と自分を貶めてまで、何でだ?」

 

口調は静かなのに、ゾロの手には力が篭もっていて、サンジは体を動かせない。

耳を塞ぐ事も、できない。

 

「俺はお前がどれだけプライドの高い奴かよく知ってる。」

 

ゾロの言葉が、サンジの心臓を抉る。

 

「どれだけ俺に負けたくないと思ってるかも。」

 

見透かされていたといういたたまれなさに、サンジは唇を噛む。

 

「そのお前が、そのプライドを投げ出してまで、何を隠そうとする?」

 

聞いていたくない。

 

「何がお前をこうまでさせる?」

 

耐えられない。

 

「うるせぇ!!!!」

耐え切れず、サンジは怒鳴った。

遮らなければ、この男は何を言い出すかわからない。

この男に言葉を紡がせては、ならない。

本当の心から出る真実の言葉は、必死で取り繕ったサンジの心を、たやすく暴く。

 

「なにも、なにも、隠してなんか、いねぇ!」

叫ぶ、というよりは、わめきちらす、に近かった。

「やりてぇんだろ、うだうだ言ってねぇで早く突っ込めよ!」

みっともなく、声が裏返った。

「てめェの、そんなわけわからねぇ御託なんざ聞きたかねぇんだよ!」

尚も喚き散らそうとするのを、

「…サンジ。」

ゾロの声が黙らせた。

 

初めて、名を呼ばれた。

 

この男の口から出る己の名前には、なんと力があることか。

 

そして言われた言葉は。

 

 

 

「心の入ってないてめェの躰なんか、俺はいらねェ。」

 

 

ああ。

サンジは思わず、瞑目した。

「俺が惚れたのは、てめェの心だ。」

…やめろ。

「みんなに飯を作って、女にへらへらして、敵を蹴り倒して、傷だらけになりながらみんなを守ろうとする、そんなてめェ自身に惚れたんだ。」

やめろ!

「好きだ、サンジ。」

やめてくれ!

 

「やめろ!!!!」

 

こころが、砕けてしまう…

 

 

「サンジ?」

 

顔を、右に、背けた。

長い前髪が、左の顔を隠すから。

サンジはさっきからずっと、歯を食いしばっている。

必死で。

 

「俺に、好きだとか…言うな。 ほ、惚れるなら、もっと、ナミさんとか、ルフィとか…お前にふさわしい、お前の隣に立てる、人間を選べ…! 間違えるな…!」

 

「…俺の隣に立ってるのは、お前だろ。」

いつだって、お前だったろ。と。

優しい声で言われ、サンジはもう、奥歯を噛み締める事が、できなくなった。

力の抜けた口元は、小刻みに震え出す。

 

「俺は間違えてなんかいない。俺の隣に立てるのも、俺が惚れてるのも、お前だ。サンジ。」

 

サンジは必死で首を横に振る。

「違う。違うんだ。俺は違う。俺ではダメだ。」

「何が違う…? 何がダメだ…?」

 

もう、これ以上、心を隠し通せない。

 

 

 

俺は違う。

俺ではダメだ。

俺は、てめェに、ふさわしくない。

いつか、絶対、てめェの枷になる。

てめェの、生き方の汚点になる。

それだけは、どうしても、いやだ。

耐えられないんだ。

てめェを汚すのだけは、俺が耐えられねぇ。

お前にはまっすぐ野望だけを見て欲しいんだ。

よそ見なんかするな。

しかも、よりにもよって、俺、だと?

冗談じゃねぇ。

冗談じゃねぇぞ。

俺は認めない。

俺はいやだ。

俺が、俺自身が、てめェを汚すなんて、そんな事。

孤高で気高いロロノア・ゾロを地に堕とすなんて、そんな事。

いやなんだ、ゾロ。

クソみてぇな、しかも男に引っかかって、道を惑うようなてめェを、見たくないんだ。

 

「てめェが大切なんだ………!」

 

誰よりも。

何よりも。

自分の命よりも。

 

オールブルーよりも。

 

「てめェ、が、大切なんだ…。」

 

ゾロだけが。

 

 

最後はもう、涙声になっていた。

堪えきれず、サンジの口から嗚咽が漏れる。

思いも寄らないサンジの告白に、呆然としていたゾロが、思い出したように、は、と息をついた。

「…それ、が、てめェの、隠してたもん、か。」

その声は、動揺したように、ひどく掠れていた。

 

心の中を全て吐露してしまって、サンジが、まだ涙を流し続ける虚ろな目で、もういいだろ、離せよ、と言いかけた時、いきなり、上体が浮いた。

強く、抱きしめられる。

 

「──────愛してる。」

 

ぼそっと囁かれた言葉に、サンジが弾かれたように顔を上げた。

「てめェはっ…! 俺の言ったこと、何、聞いてっ…!」

「うるせぇ!!」

 

更に強く、抱きしめられる。

もう、息が止まりそうだ。

 

「本気で惚れた相手に、汚したくないとか、自分の命より大切だとか、泣きながら言われて、平然としてられるわけねぇだろうが!」

耳元で怒鳴られ、すぐに、「心臓が、止まるかと思った。」と、吐息とともに、小さく呟かれた。

 

「てめ、自分が、どんなに、すげぇ告白したか、わかってんのかよ…」

 

ゾロがサンジに優しくキスをする。

いとおしくてたまらない、というようなそのキスに、サンジは、まるで自分がか弱いレディにでもなったかのような気持ちになって、羞恥に目を伏せた。

 

「サンジ。」

 

目の前に、真剣な瞳がある。

深い森の色の穏やかな、静かな瞳が。

 

「俺はお前を愛する事で道を違えたりしない。」

「俺は、大剣豪になる。」

「誰にも負けない。」

「大剣豪になるのを、お前に見せる。」

「お前の中のロロノア・ゾロを、汚すような真似は、絶対にしない。」

「誓う。」

 

呆然と見開いていたサンジの蒼い瞳から、また、新たな涙が零れ落ちる。

自分の目から零れ落ちる雫が、途轍もなく、熱い。

その熱が、凍てついた心を溶かしていく。

 

ゾロが、サンジに「誓う」と。

鷹の目に破れた時にルフィに見せたのと同じ誓いを。

ゾロが。

 

ならば自分は言ってもいいのだろうか。

秘め続けた、この想いを。

 

「ゾロ…っ…。」

 

両腕を、ゾロの首に回す。

自分から、口付けた。

 

先刻のように、からかうためでなく、挑発するためでなく。

想いの全てを、伝えるために。

 

「好きだ…。」

耳元で、ゾロの息を呑むのが聞こえた。

 

「ずっと。鷹の目とのあの戦いから。ずっと。誰よりも。てめェが好きだった…。」

 

はあ…、と、ゾロが息をつく。

「たまんねぇな…。」

強く強く抱きすくめられる。

また、キスされる。

「ん、…ッう…!」

舌を絡められる、濃厚で、深いキス。

サンジが逃げると、ゾロの唇は尚追いかけてきて、口付けられる。

熱の篭もった甘いキスに、サンジは眩暈を感じた。

「ッ…ふ…」

吐息が絡まりあう。

 

「てめェの事が好きで…気が、変になりそうだ…。」

 

ゾロの唇が、サンジの髪に触れ、瞼に触れ、頬に触れる。

耳たぶを舐められ、首筋に吸いつかれると、サンジの体は反射的にびくりと震えた。

「ゾロ、離し…」

慌てて抗うが、ゾロの愛撫は止まらない。

頬に触れながら唇にキスをされ、髪を撫でながら耳を舐められた。

 

その指がかたかたと小刻みに震えているのに気がついて、サンジは目を見張った。

 

震えている。

ゾロが。

 

ゾロは震える指で、胸元に触れ、乳首に触れた。

「んっ…!」

ぴくん、とサンジが反応する。

サンジを抱くゾロの手に、力が篭もった。

 

なのに、ゾロの震えは治まらなかった。

 

「は…。震え、とまんねぇ…。」

自嘲したように、ゾロが呟いた。

 

人に触れるのにこんなに緊張したのは初めてだ、と。

俺がこんな風になるのはお前にだけだ、と。

ゾロがそんな風に言葉を紡ぐから。

サンジはもう失神してしまいそうだった。

 

ゾロの指は、震えながら、まるで至高の宝珠にでも触れるかのように、サンジの乳首に触れる。

 

「…ッぁ、…てめ、んな、まどろっこしく触ってないで、ちゃんと、やれ、よっ…!」

 

喘ぎながらサンジが言うと、ゾロが一瞬、困ったような顔をした。

「やんねぇ。」

「なん、で…。」

「今日は、やんねぇ。」

ちゅ、と、乳首を軽く吸いながら、そんな事を言う。

「なし崩しに犯って、やっぱりそれだけが目当てなんだと思われたくねぇ。」

「な、ら、…っ! それ、も、やめろ…!」

「触れてぇんだから仕方ねぇ。」

困ったような顔のまま、笑う。

「ずっと触れたかったんだ。」

ゾロの舌がぺろりとサンジの鎖骨を舐め、サンジは体をのけぞらせた。

「んぅッ!」

「お前、敏感だな。」

ゾロがやたら嬉しそうに言うので、

「そ、いうことっ…言うな!」

サンジはもう、脳の血管が焼き切れるかと思った。

羞恥で。

ゾロを睨みつけると、慈しむような優しい視線とぶつかったので、サンジは益々顔を赤くした。

 

不意に、

「サンジ。」

真剣な声がサンジの名を呼んだ。

 

「汚点になんか、ならねぇ。」

 

はっきりと。

 

「むしろ、てめェみてぇな奴に大切だと言われた事を、誇りに思う。」

あの真摯な目で、まっすぐにサンジの目を見て。

「てめェみてぇな男が、自分のプライドかなぐり捨ててまで、俺を守ろうとしてくれた事を。」

まっすぐな心で、まっすぐに、サンジの心を貫く。

「ゾロ…」

この目にどうして、抗えるだろう。

「ゾロ、俺は・・・」

出会ったあの日から、焦がれてやまないというのに。

 

「何でてめェがふさわしくない、とか自分を卑下してるのかは知らねぇが。」

「俺の目にはてめェが途轍もなく綺麗に見える。」

「俺の方がてめェを汚すんじゃないかと、ずっと思ってた。」

 

優しいキスが、降り注ぐ。

 

「綺麗…なんかじゃ…」

言い淀むと、それもキスで遮られた。

「綺麗だ。」

耳たぶを甘噛された。

「んッ…!」

ぴくん、とサンジの体が跳ねる。

「てめェは綺麗だ。」

乳首を摘ままれた。

「あ、…や…ッ…!」

「見た目もすげェ綺麗だけどな。」

「ゾロ、やめ…っ…」

ゾロは話しながら、サンジを愛撫し続ける。

「てめェは俺が到底及びもつかないようなところで、俺には全然わからねぇ理由で、必死にあがいてる。」

乳首の周りを、つるんと舐められた。

「んんっ…」

「泥まみれになって、あがいて、のた打ち回って、それでも生きようと歯を食い縛ってる。」

舌で、乳首をくすぐられた。

「くぅッ」

「それが、綺麗だと、思う。」

「…泥、まみれの、俺…が、か…?」

「綺麗だ。」

言い切られて、サンジの心がまた、絡めとられる。

「てめェがなりふり構わず仲間を守ろうとする奴なのは知ってたが。」

ぺろりとゾロが乳首を舐め上げた。

「俺までその中に入ってたとは思いも寄らなかった。」

乳首を甘噛みされる。

「少し、驚いた。」

ゾロの指が、サンジの乳首を軽く引っ張る。

「…すげぇ、感動してる。」

さっきからもう、サンジの体は与えられる快感に耐え切れず、びくびくと痙攣を繰り返している。

「てめェのそういうところが、好きだ。」

耳元に囁かれながら、乳首を弄られる。

「好きだ。」

何度も。何度も。

「サンジ、好きだ。」

ゾロがこんなに甘い声で囁くなんて。

 

そうか…。

泥まみれの俺は、てめェの目に映っていたか…。

それでも俺に惚れてると、そういうのか、お前は…。

 

「てめェは綺麗だ。」

間断なく乳首を攻められ続けて、サンジは喘いだ。

「愛してる。」

 

そう囁かれた瞬間、サンジは全身を震わせながら、絶頂に達していた。

 

 

「ゾロ」

 

 

「愛してる」

 

 

無我夢中で、そう答えながら。

 

END.

2004/08/14

 


めいかちゃんからのキリリク。
お題「言葉責めで乳首弄られながらイクサンジ」。

どこがだ。

ごめん・・・。まじごめん・・・。
もう言い訳しない・・・。ほんとごめん・・・。

でも結構自分では気に入ってる…


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