給食のおばちゃんサンジと幼稚園のロロノア先生
□ 出会い □
サンジは給食のおばちゃんだ。
顎に無精ひげはちょびちょび生えてるし、すね毛も生えていて、どっからどう見ても野郎以外の何者でもなかったが、サンジは、みんなから「給食のおばちゃん」と呼ばれていた。
だってサンジは給食のおばちゃんだったから。
サンジは朝、幼稚園児たちと一緒に幼稚園バスにのって登園してくる。
ほんとは先生でもない職員が幼稚園バスに乗るモンじゃないんだろうとは思うのだが、しかも登園に使うのってどうなのよ、という感じではあったが、園長先生が許しちゃってるんだから仕方がない。
幼稚園バスは、町をぐるうりと回って、一番最後にサンジのアパートのすぐ近くの児童公園の前に停まる。
そこでサンジが乗ってくる。
幼稚園バスは幼稚園児の為のバスだから、座席はみんな園児のサイズに合わせてあって小さくて、黄色いお花の模様がついている。
一つだけ大人用の座席が乗降ドアの近くにつけられてたけど、それは引率の先生の座る席だから、サンジはいつも園児たちと同じ席に座る。
そうすると園児たちが次々にサンジの膝に乗っかってくる。
サンジからはいつでもなんだかおいしい匂いがしていて、子供たちは給食のおばちゃんが大好きだった。
幼稚園につくと、子供たちはお教室へ、サンジは給食室へ行く。
サンジの仕事はいっぱいある。
サンジは給食のおばちゃんで栄養士だから、幼稚園で出される食事の全部はサンジが任されている。
一ヶ月の給食のメニューを決めるのも、食材のチェックも、全部サンジの仕事だ。
最近の子供はアレルギーが多くなってきた。
好き嫌いのある子も多い。
みんなと同じメニューが食べられない子がいる。
それを個別にチェックするのもサンジの仕事だ。
エネルくんは卵を食べるとぶつぶつが出る。
スモーカーくんはピーマンが嫌い。
クロコダイルくんは牛乳を飲むとお腹がぴーになる。
シャンクスくんはお友達のご飯まで食べてしまう。
アーロンくんはおっきなお野菜が食べられない。
ヒナちゃんはお魚が怖い。
アルビダちゃんはお肉だけ寄って食べてしまう。
マキノちゃんはご飯を半分しか食べられない。
いろんな個性の子供たちに、それでもみんな同じようにおいしいご飯を食べてもらいたいと、サンジは一生懸命工夫をする。
「サンジ君、ちょっといーい?」
給食室のドアがからりと開いて、ナミ先生が顔を覗かせた。
「ナミっすわんっ♪ なぁにぃ?」
オレンジの髪のナミ先生を見るたび、サンジは「あー可愛いなああああ」と思う。
可愛いなあと思うのと同時にせつなくなる。
こんなにこんなにこんなにこんなに可愛いのに、ナミ先生は人妻だからだ。
しかもよりに寄って園長先生の奥さんだからだ。
日がな一日、子供たちと一緒にお遊戯に興じてしまう園長先生に代わって、実質園長先生の仕事をしているのはナミ先生だ。
どうもナミ先生の方が園長先生より偉いらしい、というのはもちろん子供たちも知っていて、いつだったか、「おばちゃん、俺知ってる。ナミ先生は影番なんだ。」と、ワポルくんがかなり間違った知識を披露してくれたことがあった。
「サンジ君、来週から、先生用給食ひとつ追加してくれる?」
サンジは幼稚園の先生たちの分も給食を作る。
お弁当を持ってくる先生もいるが、大概の先生はみんな、あったかくておいしい給食の方が大好きだ。
ああ、そういやあ来週から新しい先生が来るんだっけ、とサンジは思い出していた。
きれいな女の先生だといいな。
サンジはわくわくして、そのことをナミ先生に聞こうとしたら、ちょうど給食のパートのおばちゃんたちがやってきたので、話はそこで終りになってしまった。
新しい先生かあ。
キレイかな。
カワイイかな。
ビビ先生みたいにカワイイ子がもっと増えるといいな。
ロビン先生みたいに色っぽい先生が増えても嬉しいな。
そんなピンクな妄想で頭をいっぱいにしていたサンジの頭の中は、それから一週間、ずっとピンクだった。
それなのに。
「ロロノア・ゾロです。」
新しい先生は野郎だった。
しかも筋肉。
しかもマッチョ。
しかもムキムキ。
幼稚園の先生というより、道路工事のおっさん、という感じの野郎だった。
おまけに頭が緑だった。
ピンク妄想でむんむんしていたサンジの頭は、一気に緑色に埋め尽くされ、サンジはげんなりした。
露骨に思いっきり顔に出してがっかりした。
ゾロ先生があからさまにむっとするのが分かったけど、サンジにはどうでもよかった。
2004/05/13