■ 第27話 ■ 海の碧 空の蒼/天羽窓花さん


【3】

 

サンジは部屋に居ない。

行ってしまったのだから。

ゾロはためらうことなく自分の部屋に戻る。

サンジが居たから、足が遠のいていた部屋に。

 

引き裂いてしまいそうで、出来なくて、戻れなかった場所に。

 

ばたんとドアを開ける。

 

「あ?」

 

そこにあるのは、知らないスニーカー。

ゾロと同じか少し小さいくらいの。

今まであったローファーはやっぱりない。

 

もしかして、サンジがどこかにあったスニーカーを出したのだろうか。

だから知らないのかもしれない。

そう思い、少しだけ腹立し気にそれを蹴飛ばそうとしてやめる。

それさえも、まだサンジに囚われている証のようで。

 

気にしないことにして、部屋に入る。

いつものように自分のベッドに寝ようとして気がつく。

布団がなくなっている。

 

「あ?」

 

キョロリと見回せば、ベランダに干されている布団。

たぶんこれもサンジの仕業。

それにやっぱり苛立ちそうになって、やめる。

囚われ過ぎているのだと、わかっているのに。

大きく息を吐いて衝動をやり過ごすと同時に開く扉。

 

「あ、おかえり」

「・・・おま・・・え?」

「なんだよ、なにしてんだ?ぼけてんのか?」

「なにしてる」

「なにって掃除」

 

いつだって、少しだけの怯えと悲しさを底に秘めていた瞳だった。

それがない。

強く、強くゾロを見ている瞳。

 

「まったくてめぇは本当にものぐさだよな。いい加減に暇があったら布団くらい干せよ」

「なに・・・」

「ああ、洗濯も溜まってたからしたぜ?どうせてめぇはやらねーんだし」

 

今までと違う言葉遣い。

違う姿。

ごめんねと、窺うようにゾロを見ていたサンジ。

洗濯だって手を出すなといったら黙ってうなづいていたのに。

掃除だって、手を出すなと言ってあったはずだ。

 

なのに、変わってしまっているサンジ。

 

いつだって可愛い姿をしていたはずなのに。

いつでも女の子という姿をしていたのに。

今のサンジはただのそこら辺に居る高校生の男だ。

適度に重ね着したTシャツ。

細身のジーンズ。

今まで見ていたサンジの姿はどこにもない。

 

「そうそう、飯も作ってあるぜ。得意なんだよな俺」

「何故、居る」

「は?なにが」

「お前が何故ここに居る」

「好きにしろって言ったのはてめぇだろ。だから、ここに居る」

「あいつは」

「・・・あいつって・・・誰だよ?」

 

本当に、怪訝そうにゾロに問いかけてくる。

 

「あの時一緒に居た男だよ、あいつの所に行くんじゃねぇのかっ!」

「ああ、エース」

「あいつに抱いてもらえ。そう言っただろうが」

「んー・・・?無理」

「ああ?!」

「だって、エース好きな人居るし」

「・・・・・・・・・はぁ?」

「だから、無理」

 

その言葉は強くゾロに響く。

 

「無理・・・だと・・・?」

「ああ」

「てめぇはあいつと・・・できなかったって・・・」

「まあ、試してみたけど」

「あいつがてめえを気に入ったからじゃねぇのかっ!」

「少しくらいは気に入ってくれたんじゃねぇの?でもどうしても好きなのは自分の事を見てくれないたった一人なんだってさ」

「あいつと試したって言ってただろうがっ!」

「ああ、やったなー・・・無理させたよな。あとで謝りにいこう」

「てめぇは・・・」

 

何故だかうんうんとごく普通の顔でうなづいているサンジ。

 

「俺は好きにしろと・・・」

「言ったよなー・・・だから居るんだ。文句ねえよな?」

 

にやりと、サンジが笑っている。

 

「好きにするから、いいよな?」

「好きにしろっ」

「ついでに、俺、決めたから」

「なにをだ」

「ゾロが好きだ。どういう意味だとゾロが思っているかなんて知らねぇ。ゾロだけが好きだから、俺は」

 

それだけ言うと、サンジが今までのように笑う。

さっきまでのサンジの笑い方ではなく、ゾロが知っている顔で。

 

「だから、決めたんだ。絶対に、絶対にてめぇを捕まえる」

 

まっすぐに、ゾロを見て。

 

「覚悟しとけ。俺は俺に戻ったから」

 

そう、宣言した。

2005.6.20

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