ガストラ帝国軍最強の、魔導アーマー使いの姿は、
その無骨で凶悪な乗物には相応しくない、雪のような肌と、
月の色を映した緑の髪を持った、本の中に居る、妖精のような美しい娘だ。
 娘を知る帝国兵達も、そして帝国の迫害に逃げ惑う人々も、
少女を「紅い魔物」と呼んだ…。
先頭を行く姿が目立つように、常に紅い服を着ているせいだ。
 「……おい、こいつ、死んじまうんじゃないか?」
 一人の兵士の声が聞こえる。ティナは自室とは呼べない、檻の中で、
先ほどの戦闘で負った、わき腹に受けた傷をかばいながら、
ただ丸くなっているだけだった。

 頭に嵌められた『あやつりの輪』は、少女から意思を奪っているが、
その体や心に感じる痛みや悲しみまでは、奪ってはくれない。
戦闘終了後に、アーマーごと回収されたティナは、何時もの通り、
横たわれる程度の狭い、鉄格子の嵌った部屋に放り込まれているのだ。
 「死んだりしないだろ?なにせ『紅い魔物』だ。
…なんだよ、お前、治療しに入る気か?」
 別の兵士がそう話しかけると、初めの声の主は、
 「カンベンしてくれよ、いくら美人でも、こいつはキラーマシーンだ。
オレなんかが入ったって、ヘタすりゃ一瞬で殺されちまう」
 傷の痛みからくる熱のせいだろう、ティナの白い顔は、
何時もより紅潮してさえ見える。唇は、野苺の艶やかな色さえ浮かべ、
見張りの当番兵たちを、まるで誘っているかのようだ。
 だが、彼らは少女がどんなに美しい姿をしていても、
今日の戦闘時の、そして今までの、恐るべき力を、
目の当たりにしている。魔導アーマーの持つエネルギーを、
最大限に引き出して使えるのは、
こうやって檻の中に閉じ込めてある、か細い少女だけなのだ。

 『…おねがい、……わたし、……たすけ……、て…』
 痛みを堪えて、必至に願った。
今までも、何度も願ったように、この部屋を抜けて、帝国から…外の世界に。
ティナは、小さな顔を上げて、檻の外に居る兵士達を見つめた。
 「…おいおい、なんて面してやがんだよ。
お前を手当てなんか勝手にして、もしも暴走させちまったり、逃がしたりしたら、
ケフカ将軍になんてお詫びしたらいいと思ってんだ?」
 兵士の一人が、柵ごしに何かを投げつけた。
パリンと割れる音がして、ティナの体に、冷たい液体がかかるのが同時だった。
 「ほらよ、ポーションだ。自分で塗っとけ…なんだ、何時もの事だろう?」
 ティナは自分の腕や肩にかかったものと、
そして床に零れた分までも、舐めるようにして、薬を使った。
わき腹の傷口の痛みはなくなったが、心にまた一つ、傷を負っていた。
 そのまま冷たい床に転がり、鉄格子の嵌った窓を見上げたが、
紺碧の夜空には、月さえ見えなかった。
 『……わたしを、……つれて、て…』
 ティナは見えない月に願った。
私をそこへ、連れて行って…と。



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