現代版 風光る


 元男子校の私立新選学園高等部。
 ここは数年前に共学化した生徒数1500人を超えるマンモス校で、
 世間的に数多くの運動選手を輩出した事で名が通っていた。
 特に有名なのが全国大会でも優勝経験のある「剣道部」であった。
 初等部から大学院までが学園にはあるが、部活には学年を越えた繋がりがあり、年齢層も様々な中日々活動していた。
 剣道部は数ある部活動のなかでも一、二を争う在籍数を誇っていた。
 その統制をとるために部の中で1班から10班まで班を作り、各班長が技術指導していた。


 気持ちいいくらい晴天の夏のある日の事。
 どこまでも青い空が続いている。雲ひとつない、というわけではないが、屋外での体力作りにはもってこいの日であった。
 しかし…とこの天気を恨めしく見つめている者がいた。
 唯一の女子部員である神谷清三郎、通称セイである。
 もとは多くの女子部員もいたのだが、あまりの部活のきつさに脱落していって残ったのがセイだけだったのだ。
 「暑い…どうにかならないかなぁ」
 セイは水場で手にはタオルを持って汗の流れる顔を拭っていた。
 夏なので暑いのも仕方ないとセイは思っていたが、こう雨も降らず暑い日が続くとついつい愚痴っぽくなるものだ。
 「そうだ!飲み物作っておかないと皆疲れもとれないよね」
 思い立ったが吉日と言わんばかりに水場を離れ校舎に入っていった。
 行き先は家庭科室。
 冷たい飲み物を部員たちに作っておくためだ。
 その姿を見つめるものがいたのだが、セイは気づいていなかった。


 セイが家庭科室に消えて10分後、グラウンドには剣道部の生徒60人が整列していた。
 「整列!おい、そこもたもたすんな!!」
 大学部の2回生である主将・土方歳三は全部員の前で声をあらげた。
 「今日の土方先輩荒れてるな。どうかしたのか?」
 「さぁ」
 いつも怖いが更なる迫力を面にする主将を部員たちは何事かとこそこそと聞きあっていた。
 「また文芸部の伊東先輩が来てたんじゃないの?」
 伊東甲子太郎という土方の同級生がいるのだが、何かと近寄って来る伊東の事を土方は大層嫌っていた。
 第8班の班長・藤堂平助はこっそりと隣りにいた第10班の班長・原田左之助にそう耳打ちした。
 「ぷぷ、そうかもしんねぇな」
 それに同調すると同時にいつの間にか近くに来た土方に二人は拳骨を喰らった。
 「何か言ったか!?…ほう、校庭を30周したいって?じゃあ行ってこい」
 顔に不快感を顕にし、土方は二人に校庭30周を申し付けた。
 「げ!!そんな横暴なぁ………あ、はい走ってきます!!もう喜んで!」
 これ以上何か口にすれば土方は何を申し付けるかわかったものではない、と二人大急ぎで走って行った。
 「他の奴は校庭5周してから素振り200回だ。わかったら取り掛かれ!」
 「「「はい!!!!!」」」
 土方の出すメニューに部員たちは大きな声で返事をした。
 「…神谷〜!!どこだ〜!!」
 部員たちが行ったのを見届けてから土方はセイを呼んだ。
 セイは家庭科室にいるわけで聞こえるわけもなかったのだが。
 「土方さん、神谷さんなら家庭科室ですよ〜」
 第1班の班長・沖田総司は今度の大会に出場する部員を選ぶ為に土方の横にいた。
 地区大会も近いし、伊東が近寄って来る事もあって土方は気が立っていたのだと総司は分かっていた。
 とりあえず目線は部員たちから離すことなく総司はセイの居場所を土方に伝えた。
 セイは総司の班にいるのだが、よく気が利くのでいろんな所で活躍していた。
 マネージャー代わりも、部の会計係もセイはしていた。
 とにかくじっとしていない、だからその行動には目を見張らせていた。
 総司としてはいつ倒れるか分からないほど働くセイを心配するのは当然であった。
 「け。稽古サボってんのか」
 土方はそれだけを言うと部員をチェックし始めた。


 一方家庭科室に向かったセイだが、彼女は目の前に迫った危機に困っていた。
 「清三郎、今日も美しいな。剣道部など辞めて、私の部に入らぬか?」
 そう、土方を「美しい」と追いかけまわす文芸部部長の伊東甲子太郎に追い掛け回されていたのだ。
 彼は美しいものを好んでおり、その矛先がセイと土方であったのは周知の悲しい事実だ。
 実は家庭科室で部員分の差し入れであるドリンクを作り終え、さて持ち帰ろうとしていた矢先に出くわしたのだ。
 「私は剣道一本ですから結構です!!」
 きっぱり言ってもめげずに伊東はセイの後をついて来る。
 「つれないな。照れなくてもいい」
 どう解釈したらこのような物言いができるのかはわからないが彼はまだセイの後をついて来る。
 こうなったら奥の手だ、とセイはドリンクの入った大きな入れ物を抱えなおした。
 「あ、土方主将!!!!」
 「え!?土方君?」
 古典的な嘘だったが伊東はまんまとひっかかりセイはやっとの思いで逃れる事ができた。
 あとには「清三郎?」とセイを探す伊東の姿があった。
 「ああああああ!!もう鳥肌がぁ…!!」
 逃れたセイは未だおさまる事のない鳥肌をさすっていた。
 思い出しただけでも寒気がする。
 校庭に出ると総司がセイを待っていた。
 「神谷さんお疲れ様でした。毎回60人分の差し入れを作るのは大変でしょう」
 「いいえ、楽しいですよ」
 総司が自分を待っていてくれた事が嬉しくてセイの顔が自然と緩んでくる。
 また総司の方もそんなセイの表情を見て顔には笑みがあった。
 しかしこの温かな雰囲気をぶち壊す輩がいた。
 「神谷、テーピングしてくれんか?」
 そうして向こうから歩いてきたのは斎藤一、第3班の班長であった。
 斎藤は手首をプラプラさせながら様子を痛めたらしい個所を見せた。
 「斎藤先輩!?大丈夫なんですか?」
 斎藤は部の中でも強いほうで滅多に怪我などしたことがなかった。
 セイは心配そうにそんな斎藤を見つめた。
 内心斎藤は見つめられて焦っていたが、平常心を懸命に装った。
 「…湿布とかした方がいいかもしれませんね」
 「すまん」
 いつも練習するところには持っていってある救急箱を開け、セイはてきぱきと手当てをした。
 斎藤はセイにされるがままになっていた。
 セイの手の温かみに斎藤は動揺していたが、セイはのんびりした声で斎藤に笑いかけた。
 「気を付けて下さいね、大会も近いんですから」
 「ああ」
 この二人の光景を見ていられなくて総司は目を背けた。
 しかし耳からは二人の楽しそうな会話が聞こえる。
 「神谷さん!!そろそろ練習に行かないと」
 「そうでした、では斎藤先輩…また後で」
 半ば総司に引きずられる形でセイはその場を後にした。


 セイは総司に引きずられてまま今日は使用しない剣道場に着いた。
 「沖田先輩!?痛いですっ」
 セイが声を上げたのは総司の手に力がこもったからだった。
 今まで引きずられてきたが、それとは違った力が加わったのだ。
 腕を掴んでいたのはほぼ無意識。
 「神谷さ〜ん、あなた無防備すぎますよ?」
 痛いと言われても総司はその腕を離す気はなかった。
 「自覚してるんですか!?」
 「もうっ何ですか!?いつでも神経尖らせておけってことですか?そんなの無茶です」
 セイもいきなり訳もわからず怒鳴られさすがにカチンときたようだった。
 「ここは元男子校で、まだまだ女子の生徒数は少ないんです。あなたは明るくて可愛いから特に有名なんです。」
 「…………ええ!?そ、そうだったんですか!?そんな事知りませんでした」
 総司の言う意味を理解するのに時間がかかったようでセイの反応は遅かった。
 しかし総司の言葉を頭でもう一度思い直して顔が一気に赤くなった。
 「遅いです」
 深い溜息をつき、総司はなおもセイに言った。
 「神谷さん、私の傍にいなさい。あなたは私が守ります」
 いつも自分の気持ちなど知りもしないような行動をしているのでこんな総司は見た事も無かった。
 総司は掴んでいた腕を離すと真っ直ぐな瞳をセイに向けていた。
 「あ、ありがとうございます」
 照れくさそうにセイは返事をした。
 そんなセイを見て総司はふと思いついた。
 「あ、そうだ。いいこと思いつきましたよ」
 「何ですか?何か楽しそうな顔ですけど」
 総司は先ほどの苛立った感情を捨てさったかの表情を浮かべていた。
 「お、沖田先輩!?」
 セイが慌てたのはにっこりと微笑む総司に剣道場の壁際まで追い詰められたからだ。
 いつもとどこか違う総司にセイは脅えていた。
 「神谷さんが私の物だとわかるように何か目印をつけようかと…」
 「え、あ、あのっ、そんなのいりません!!」
 「他の人が手を出さないような何かをね」
 セイは手をばたつかせ抵抗したが、総司は笑ってそれを無視してセイにさらに近づいた。
 総司はそっとセイの首筋に唇をおとした。
 そしてしばらくして浮き上がった赤い小さな痣を見て総司は満足そうに頷いた。
 「はい、目印出来上がり」
 一方されたセイは顔が真っ赤になっている。
 遠くで総司を呼ぶ声がした。
 「あ、土方さんだ。では神谷さんまた後で♪」
 総司は放心状態のセイに向かってそう言い、土方のもとへ向かった。


 何時間たったことかセイはまだ固まっており、迎えにきた総司はそれをみて苦笑していた。
 「また襲われちゃいますよ」
 「………」
 セイの放心状態は抜けず、そのまま総司に抱えられ家まで送られた。
 どうやって帰宅できたのかはセイには思い出せなかった。
 でも総司からつけられた「目印」は本物。
 「〜〜〜〜〜〜〜っ!沖田先輩!!」
 セイはこの日眠れず、次の日倒れ総司にまた怒られていたそうだ。


 <おまけ>
 どたばたと学園内の廊下を走る二つの足音が響きわたる。
 あの日総司に「目印」をつけられて以降、一般生徒に追われることはなくなったのだが伊東がしつこくなった。
 「清三郎!!それは誰につけられたんだ!?私にもさせてくれなかったのに!!」
 相変わらずセイは伊東から逃げていた。
 「関係ありません」
 恐怖に顔を引きつらせながら走る。
 この学園は平和は今日も平和に時が流れていた。



 <終>



万葉さんから頂きました!現代版の風光るです〜v
がふうっ!もう・・蝶萌え萌えです〜vv(*>_<*)
確信犯総司・・・vv目印ってアナタ!!もー、鼻血!!
伊東先生が文芸部っていうのが、彼らしくってツボでした。。
似合ってますよね(笑)
セイちゃんは可愛いしで、もうウハウハですvv
どうもありがとうございましたvv
































Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!