春酒


陰暦は弥生、もう季春である。
暖かい風に変わったので、今では夜も寒さを感じない。
今日の亥の刻は、沖田総司の率いる1番隊が巡察をしていた。
セイはいつものように、じっとしている事もできず、愛しい総司の帰りを屯所の前で待っていた。
しかし、出掛けていた斎藤とばったり会って、お酒に付き合ってくれと言われたので、
セイは屯所の中で、お酒を飲みながら総司の帰りを待つことにしたのであった。

「お、左之、酒の匂いがするぜ!!」
「おお、匂うぜ、ぱっつぁん、この部屋からだ!!」
そう言って、遠慮もせずに左之はその部屋の戸を開けた。
「うわ、神谷と斎藤さんだったのか!?」
にこにことしながら、左之と新八は中に入ってくる。
「ふ...いっく...。はららさんたちも飲みまふか〜??」
飲みすぎたせいか、セイの舌は上手くまわってはくれない。
ふにゃ〜んとしたその姿もまたかわいらしいと思ってしまう3人であった。
「おう、神谷、注いでくれるか??」
新八は嬉しそうに、どかっとセイの横に腰を下ろす。
「はい〜、ながひゅらせんせい、どうぞおひとつ〜...」
寄り添うようにして座る2人を、気に食わなそうにみている人が約2名。
もちろん、斎藤と左之のことである。
左之は、ただ単にあの2人の真ん中に座りたいなあと思っているだけだが.....
斎藤は違う。
(く...永倉さん....せっかく私が神谷をあそこまで酔わせたのに.....
 これじゃあ、計画の意味がないではないか..................)
どんな計画を立てていたのかはもちろんセイは知るはずがない。
知っているのはこの男、斎藤一、ただ一人だけなのだから......
「清三郎!!少しは飲むのを控えろ!!」
こんないい方をしたら、少しは飲むのを控えるだろう、と斎藤は思ったいた。
「は〜い、兄上〜♪」
にこにことかわいらしい顔でセイは斎藤の方を見て頷いた。
が、しかし、お酒を注ぐ手を止めようとはしなかった。
(....ダメか.....)
こうなったら、左之と新八に襲われる前に連れ出すしかないと斎藤は本気で思った。
その時。
「大変だ!!1番隊でケガ人が出たらしいぞ!!」
1人の隊士の声に、今まで動いていたセイの手がぴたっととまる。
酔いも冷めてきてしまったのか、セイの頬は赤から青に変わりつつある。
「おい、ケガしたのは沖田先生らしいぞ!!」
その声を聞くが早いか、セイは部屋を飛び出していった。
「なんだ〜、神谷、どこかいくのか〜??」
「早く帰ってこいよ〜!!」
セイが飛び出すまでワアワアいっていた2人には総司の事など全く聞こえていなかった。
(やっぱり...沖田さんには反応するのか.....)
総司の事を心配する気持ちと同時に、斎藤の心には、何かモヤモヤしたものが広がっていくのであった.....

「おい、総司は大丈夫なのか??」
報告よりも早く、うわさを聞きつけたのか、土方のどしどしという足音が総司の部屋の方に向かってくる。
「おい、そう....」
「あ〜、土方さん、心配してくれたんですか〜??」
戸を開けたとたん、土方の目に入ってきたのはあきれた顔をして総司の横に座っているセイと....
ぴんぴんとしている総司の笑顔であった。
「お前....ケガしたんじゃないのか??」
「...沖田先生は帰ってくる途中で、石に躓いてこけたそうです。ケガといったら.....
 この擦り傷だけでしょうね!!」
パシッとセイは総司の擦り傷の上を叩く。
「いっ、痛いですよ〜、もう。」
本当に元服を済ました大人なのであろうか.....総司は目に涙を浮かべながら言った。
「〜〜〜〜〜ったく、世話やかせるんじゃねえ!!」
そうはき捨てるように言った後、土方は部屋を出ていってしまった。
「あらら〜、怒られちゃいました。」
「ケガって聞いたら誰だって心配するのは当たり前です!!」
「でしょうねえ〜。」
総司はニヤニヤとセイの方を見る。
「?なんですか??」
総司の顔に、セイは思わず1歩後ろにさがる。
「いえねえ、心配してくれたんですねえ、神谷さん。」
「し、心配なんかしてませんよ、私はたまたま通りかかっただけで....」
「そうなんですかあ??それじゃあ、その手に握り締めてるお酒は〜??」
「!!!!」
ずいぶんと慌てていた為、セイは自分がお酒を持ったまま走ってきたことに気づいていなかった。
「誰かと飲んでいたんじゃないんですかぁ??」
にこにことした総司の顔がセイの顔に近づく。
「う....こっこれは、沖田先生の前で自慢して飲もうと持ってきたんです!!」
そういうなり、セイは持っていたお酒を一気に飲み干してしまった。
「か、神谷さん!?」
「うい〜....なんだか目が回ります〜。」
「あたりまえです、そんな量をいっき飲みしたんだから!」
「そうかあ.....」
そういうなり、セイは総司の胸の中に倒れこんでしまった。
「もう....しかたがない人ですねぇ。」
そう言いながらも、誰かと飲んでいたのを中断してまで自分のところに来てくれたセイに、
言葉では言い表せないような喜びを感じているのであった......


「神谷さん、もうそろそろ起きないと風邪ひいちゃいますよ。」
そんなに時間はたってないんだが、総司はなんだかセイの体の暖かさに
胸が縮むような苦しさに耐え切れず、セイを起こす。
「う〜ん、あは、おきたせんせいら〜」
「神谷さん...まだ酔いが冷めてないんですね......」
あはは〜と笑うセイを尻目に、総司はため息をつく。
「おきたせんせ〜??」
「はいはい、なんですか、神谷さん。」
「ん〜。」
「.......えっ!!」
セイは総司の首に腕を絡ませて、顔を近づけてきた。
「か、神谷さん??」
総司は顔を真っ赤にして慌てふためく。
いけないと思いつつも、セイの唇ばかりが目に入ってしまう.....
(....やわらかそうだなあ.....)
そう考えながら、自分の体が動くままに顔を近づけた瞬間、
ガラッ、総司の部屋の戸が開いた。
びっくりして、総司が戸のほうを見やると、同じ部屋の住人斎藤一がつっ立っていた。
「さ、斎藤さ、あの、これは!!」
「....失礼したな!」
「う〜ん...あ、あにうえ〜。」
総司からさっと離れ、今にも去ろうとしている斎藤にセイは抱きついた。
「か、神谷??」
斎藤はかなり慌てていたのだが、そんな感情はもちろん彼の顔には浮かんでいない。
「あにうえ〜、だいしゅき〜、んふ。」
その言葉を聞いて、総司はムカッとした気持ちを覚える。
総司は2人に近づき、無理やりセイを斎藤から引っぺがした。
「し、失礼するぞ、沖田さん。」
離したとたん、斎藤はサッサとどこかに消えていってしまった。
総司はそんな斎藤の行動に疑問を覚えつつも、セイ方に体を向きなおす。
「神谷さん、私と斎藤さんのどちらの方が好きなんですか??」
総司は自分でも知らないうちにそんな事を口走っていた。
思わず、セイから視線をはずす。
「ふえ?そんなの決まってるじゃないですか〜、お....」
「...お...なんですか.....神谷さん......」
セイの方に向きなおした瞬間、ぽすっとセイが総司の中に倒れこむ。
「んっ...すーすー」
セイは言葉を告げることもなく、そのまま寝に入ってしまった。
「....本当に、無防備すぎますよ、神谷さん。
 でも...お...ですからねえ、やっぱり...私ですかねえ。」
心地よさそうに寝息をたてているセイを抱きしめながら、総司はそんな事を呟いたのであった.....



「神谷さん、神谷さん。」
「...なんですか、沖田先生??」
飲みすぎたせいで、セイの頭がガンガンしているため、少し無愛想な返事になる。
「昨日の続きを聞かせて下さいよ〜!」
「....昨日の続き.....?」
もちろん、あんなに酔っ払っていたので、セイの頭の中には昨日の記憶がない。
「もう、忘れちゃったんですか??斎藤さんと私のどちらの方が好きなのかを聞いてるんですよ〜!」
「....え〜!!」
セイは、顔をぼっと真っ赤に染める。
「早く答えてくださいよ〜!!」
「...そ、そんなの答えられません!!」
「え〜、楽しみにしていたのに〜!!!!」

それから一時、セイは総司にしつこく追い回され、答えを聞かれるのであった......


------完-------


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あやのさまのサイトのキリ番記念で頂きました〜♪
も〜っ、あやちゃん!!貴女は何てツボな作品を下さるのですかvvv
特に中盤からが、もう萌え萌えですよ〜vv(悶絶)
斎藤さんに悋気を起こす総司が可愛いすぎ・・・v
ラブラブ煩悩なお話、どうもありがとうございました〜!!(*>_<*)vv

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