そこは機械的な物が多い現在の環境にしては珍しく、どちらかと言うと緑がたくさん残った所であった。

郊外という事もあってか、人の手が付けられていなかったようで、小さな山を清らかな小川が流れている。

人工ではなく、天然の太陽の光を身に一杯に浴びて、風を受けてその葉を揺らす木々を見ていると、

誰でも落ち着き、心の中に爽やかな風が吹き抜ける錯覚に陥るだろう。

その一角に、大き過ぎず、小さ過ぎずと言う感じの一軒家がぽつんと立っていた。

セカンドインパクト前よりもかなり古めの一軒家だ。

屋根は瓦で、雨戸があって、おそらく昭和中期の物なのだろう。

何度か改築された様子はあるが、それでもこの自然と見事に調和している。

この時代、絵に書ける位の環境という物はそうそう存在しないが、この一角は別だろう。

「へぇ・・・・・・」

思わずそれを見て声を上げたのはシンジだった。

「凄いですね。この時代にこんな所がまだ残っていたなんて・・・・・・」

「うむ・・・・・・これは凄い掘り出し物を拾ったのう・・・・・・」

太公望もまた、溜息と共に同意した。

交通の便が悪くNERV本部までかなりの時間が掛かるが、

それでも二時間に一本、バスが第三新東京市中枢まで直通で通るらしいから、

彼等にとってはまったく持って問題は無かった。

もっとも・・・・・・そのバス停まで行くには30分ほど歩かなければならないらしいが。

「チャリを買って、畑作って、三菜とって、仙桃の木をここにも作って・・・・・・

 ああっ、めくるめくバラ色の人生!」

シンジの頭の中では、既にここでの生活プランが構築されているようだ。

・・・・・・そのプランの内容がチャリの購入を除いて全てがジジ臭いのはどうかとは思うが・・・・・・

「これが鍵よ。一応水道は通ってるわ。

 ガスもちゃんと使えるようになっているから、何ら問題は無い筈よ。

 ただ、家具は必要最低限の物しか揃ってないから、

 後から買い足すかあなた達の住んでいた所から持って来なくはならないわね。

 仙桃の取り扱いとかその他もろもろあるから、明日、必然的に一旦戻ってもらう事になるわ。

 その時に人を幾らか寄越すから、引越しの準備には彼等を使って頂戴。

 それまで、今日一日は我慢してもらうわ。」

リツコがタバコに日を入れながら太公望に鍵を渡す。

セキュリティの問題でもあったのか、一般に使うような物ではなく、電子ロック型の鍵だった。

隠れた所でハイテクが使われているようだ。

「うむ、十分だ。案内どうもありがとう。」

「仕事だもの、恐縮しなくて結構よ。どうしてもと言うなら報酬は仙桃月餅で良いわ。」

そう言って、リツコは笑顔を作って見せた。

「あれ、そんなに美味しかったですか?

 それじゃあ今度たくさん作っておきますから、綾波さんやミサトさんも誘って皆でパーティーやりましょう。

 夕食も作って待ってますよ。」

「そう? それはいいわね。レイが退院したらぜひ誘っておくわ。」

「案外、それが目当てだったりしてのう?」

太公望の悪戯っぽい目つきに、シンジはすぐさま沸騰してしまった。

「や、やめてくださいよ!! そそ、そんなんじゃないですよぉ!!」

「ど〜だか・・・・・・確かに可愛かったしのう・・・・・・」

「なるほど、そういう事だったの。」

「違うって言ってるでしょう!! そんな事言うんだったらやりませんよ、パーティー。」

プイッ、と言う擬音が聞こえて来そうなオーバーアクションでそっぽを向くシンジ。

当然、太公望とリツコは慌て始める。

「じょ、冗談だよシンジ。そうじゃない事は解ってるって。うん、いやほんと。」

「そうそう、チョットからかってみただけなのよ。」

そんな二人に、シンジは苦笑するのを隠せなかった。

 

 


仙界伝封神演義異聞奇譚
来視命縛幻想記

第八回 新仙界の使い


 

 

「やれやれ、異空間にあるからとは言え、新仙界の下界干渉許可はすべて通すのに苦労するね。

 彼直々の許可証を持っていたとしても国際線の飛行機に乗るくらいの時間は掛かる。」

近未来的で、そしてどこか古風な機械のある空間だった。

そこで、常に微笑を貼り付けた一人の男性がぼやいている。

少し長めの髪に線の細い輪郭。女装すれば見破れる人間は居ないだろう。

雰囲気的にも、碇シンジに似ていた。

・・・・・・さらに声も似ていた。

「仕方ないよ。あの大戦を境に、新仙界は人間界で何が起ころうともほとんど干渉しなくなったんだ。

 個人が暴走して面白半分で干渉しようとするのを止める為の物だよ、この体勢は。

 そう言う点では新仙界が人間界と別の世界にあって良かった。

 ここと向こうを繋ぐゲートが一つしかないからね。

 もしかしたら、太公望はこう言う所まで計算してこれを作ったのかな?」

そのぼやきに答えたのは、しきりに手元にあるコンソールを叩いている男性。

こちらも特徴を上げるなら長い黒髪と、なぜかしきりに一方に視線を合わせているその行動が目に入る。

本人曰く、「カメラ目線」という奴なのだそうだが、

あいにくと小説の場合はあまり意味が・・・・・・あわわわ。

「多分そうだと思うよ。何てったって、望ちゃんが考えたんだから。」

「ま、そうかもね。あのこすズルイ知恵に穴は無い、か。」

本人が居たらさぞかしお怒りを受けそうな台詞である。

「・・・・・・よし、これでゲートは繋いだよ。人間界へ行く準備はいいかい? 普賢(ふげん)。」

コンソールのボタンをポンッと叩き終わると、挑発の男はぼやいていた男・・・・・・普賢にそう問いかけた。

「ああ、もうとっくに出来てるよ太乙(たいいつ)。

 宝貝・太極符印(たいきょくふいん)もちゃんと持ったし、忘れ物は無いと思うよ。」

まるで遠足へ行く小学生の親と子の会話である。

「そっか、ならいいんだ。向こうに行ったらしばらく帰って来れないから気をつけてくれよ。

 そうそう、これは私からの餞別だ。」

太乙と呼ばれた男は、懐から一つの鏡を取り出す。

銀色の、何の変哲も無さそうな鏡だったが、その真ん中には太極図がプリントされており、

取っ手には何かの呪文が刻印されていた。

どうやら、何らかの宝貝のようだ。キラキラと光る銀色の輝きが、不思議と神秘さを滲み出させていた。

「・・・・・・これは?」

「うん、私が開発した宝貝だよ。

 『照妖鑑(しょうようかん)』って言って、遠く離れた所を見通したり、変化の術とか見破ったり出来るんだ。

 いわゆる、千里眼を宝貝にしたような物かな。もう一つあれば、映像付きの連絡用にも使えるだろ?

 もう一つは私が持ってるから、何かあったら連絡しておくれ。コールボタンが柄についてるから。」

そう言って鏡を受け取る普賢。

しばらくそれを長めていた後、おもむろにそれを懐にしまって、服の上からそれをポンポンと叩いた。

「うん。ありがたく貰っておくよ。望ちゃんと逢えたら連絡する。」

「よろしく頼むよ。」

手を振る太乙に笑顔で答え、普賢は先ほどから開いているゲートへと入っていった。

3千年ぶりに会う友へと向かう為に・・・・・・

 

 

* * * * * *

 

 

夕方6時と言った所だろうか。空は綺麗な茜色に染まり、太陽が遠くに見える山の向こうへ沈もうとしている。

それでも眠らない町と言う表現そのままに、町には人気が随分あった。

車の走る音、人の話し声、それらはまさに多種多様であり、個性がある。

そんなネオンが薄く光り始める夜になり掛けの町の中、三人の集団がテクテクとスーパーに向かっていた。

一人は女顔の優男。一人はやけに言葉がジジ臭い男性。そしてもう1人は化粧がちょっちケバイ金髪女。

言わずもなが、太公望、シンジ、リツコトリオである。

この町の地図を持ちスキップしながら歩くシンジを先頭に、太公望とリツコが後ろを構えていた。

「買い物しようと町まで〜、で〜か〜けた〜ら〜〜♪」

結構気分がいいらしい。歌なぞを歌っていた。

「シンジ君・・・・・・つかぬ事を聞くけれど、財布はちゃんと持ってるでしょうね?」

選曲が不味かったのだろう。リツコが思わず不安になるのも無理は無いのかもしれない。

そんなリツコの様子に苦笑しながら、シンジはニッコリと笑顔を浮かべた。

「ふふっ、大丈夫ですよリツコさん。僕は財布を家に忘れるようなヘマはしません。」

「そう。それなら安心ね。」

そっと安堵の溜息を呟くリツコ。

「だってそんな物、最初っから持ってないですもんっ♪」

 

ずしゃあっ!!

 

・・・・・・これでもかと言うほど豪快にこけた。

赤くなったはなに手を当てながら、思わず涙目になるリツコ。これは痛い。

明日から鼻が1センチばかり膨れ上がる事請け合いだ。

「・・・・・・シンジ君? だったらお金はどうする訳?」

こめかみがピクピクしているのは、見なかった事にするのが概ね吉だ。

「ああ、安心してください。別にたかりはしません。・・・・・・なあに、金なんてどうにでもなりますよ。

 例えば定界珠で作成したり、道行く人にさりげなくナイフ突きつけてみたり、

 いっそスーパーを強襲してトンズラするのも・・・・・・」

思いっきり犯罪じゃないのよ!!

「ふっ・・・・・・世の中の厳しさを読者に伝えるのもまた主人公の務め!!」

最近、なんだかヘンな使命感に燃えているらしい。

「・・・・・・太公望さん? 貴方はこう言う教育の仕方をしているのかしら?」

「・・・・・・どうだろう。」

リツコは知らない。

このシンジの台詞は3千年前、太公望が桃源郷で桃泥棒をした時に吐いた台詞と言う事は。

やはり、子は育ての親に似るらしい。

もちろん、太公望はこんな台詞を教えた覚えは無い。

(・・・・・・コヤツ・・・・・・大物になるかも・・・・・・)

密かに本気で考えていた事は、秘密中の秘密である。

「大体、考えても見てくださいよ。僕達は今まで山奥で自給自足の生活をしていたんですよ?

 お金なんか持ってる筈無いじゃないですか。

 ここに来れたのだって、手紙に切符が同封してあったからですよ。

 でなければ、自費でこんな所に来る筈が無いでしょう?」

続けて語るシンジの台詞に、リツコはクエスチョンマークを頭に浮かべながら首を傾げる。

「・・・・・・それじゃあ、どうやって帰るつもりだったの?」

「そりゃあ・・・・・・師父の空間転移でピュ〜ンと。」

「空間・・・・・・転移?」

虚ろにシンジの言葉を繰り返すリツコ。

その言葉に、後ろにいた太公望がうむうむと頷いた。

太公望は、こんなんでも一応始祖の1人である。

始祖とは、人間が生まれる何千年も前に地球にやって来たとてつもない力をもった異星人の事だ。

始祖はそれぞれこの星の太古の動物や大地と融合し、

この星の全ての生命を見守って来た、言わば守護神である。

太公望、つまり伏羲は、その際に融合を否定した女禍の監視役として唯一のこった始祖なのだ。

そんな太公望の能力は『空間』である。

彼は空間使いで、離れた所でも一瞬に移動できる空間転移すらも行う事が出来るのだ。

では何故NERV内部で迷った時に使わなかったと言う突っ込みはご遠慮願いたい。

ただたんに、NERV内脱出と言う手段に空間転移と言う選択肢が出てこなかったのだ。

ぶっちゃげ言えば、あまり使ってない能力なので使える事すら忘れていたのである。

「じゃ、そういう事で早速スーパーを強襲・・・・・・」

「だからそれを辞めなさい!」

懐からおもむろに、そしてホクホク顔で定界珠を出すシンジを何とか止めるリツコ。

一応、それなりに常識人のようだ。共犯にされるのを恐れている為もあるだろうが。

太公望は太公望で、何か意味ありげな表情をしながら虚空をボーっと見つめていた。

「・・・・・・あれ?」

やがて、シンジも何か奇妙な感覚に気付いたようだ。

太公望がの視線の方向に顔を向ける。

しばらくその方向を見つめながら、シンジは頭にハテナマークを浮かべながら首を傾げた。

「・・・・・・あれれぇ?」

再び口から漏れる声。

シンジはきょろきょろと回りを見回すが、その後再び首を傾げた。

「どうかしたの?」

「いえ・・・・・・なんか、視線を感じるんですよ。気のせい・・・・・・かなぁ?」

リツコの言葉に、自信なさげに答えるシンジ。定界珠は既に懐にしまっていた。

「ふむ・・・・・・」

何か満足げに頷く太公望。

そして、軽く咳払いをしながら、片手で顔を隠し、逆の手で虚空を指差して声高らかに言い放った。

 

・・・・・・普賢! 貴様見ているな!!?

 

ドギャァーーーンン!!!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・師父?」

当然、そこに残ったのは言い様の無い沈黙と、なぜが夏場なのに吹く肌寒い北風のみである。

なんか木の葉が一枚、かさかさと道路を張って行った所が物凄くシュールだ。

この辺を通るマダム達も、その場で立ち止まり、シンジたちを見つめてヒソヒソとナイショ話をしていた。

シンジたちを見つめる視線が悲しいくらいに痛い。

「太公望さん・・・・・・あなた、ついに壊れ・・・・・・」

「ちゃうわいっ!! 新仙界が動き出したのだよ。先ほど感じた視線は宝貝による遠隔視の為だ。」

リツコの台詞に思いっきり突っ込みながら、太公望は再び真面目な表情に戻る。

神秘! 怪人百面相ここにあり・・・・・・って、ちょっと違うか。

「ああ、それで第3部の物真似を・・・・・・って、ちょい待ちっ!!」

『新仙界』

シンジはその単語に反応した。

つまり・・・・・・3千年の沈黙を守っていた仙人・道士が、その活動を再開したと太公望は言ったのである。

「・・・・・・マジですか?」

「マジっぽいのう。どうやら、とんでもない事が起ころうとしておるらしい。

 心当たりは・・・・・・さしずめ、使徒襲来、かのう?」

結構シリアスになりつつある話の最中、リツコは一人頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

当然、リツコは新仙界の事は何も知らない。

故に、何が起こっているのかも解らない。

「・・・・・・一体、どう言うこと?」

二人の滅多に見たい真剣な表情に、不覚にもリツコはうろたえた。

「3千年間、沈黙を保っていた新仙界が、ついに干渉して来たんです。

 人間界で・・・・・・何かとてつもない事が起ころうとしている・・・・・・」

「そして、その心当たりは使徒の襲来。

 しかし、人類側に対抗手段がある以上、それだけで新仙界が動くとは思えぬ。

 おぬし等NERVは・・・・・・一体どんな秘密を隠しておるのかのう?」

リツコを睨むその視線は、明らかに疑惑から見える物だった。

第一、買い物にまでくっ付いてくるリツコの行動だっておかしい物がある。

EVAの解析、使徒の解析、データ集めに技術の見直し・・・・・・やる事は山ほどある筈だ。

にもかかわらず、リツコは病棟で太公望達とあってから、ほぼずっと一緒にいたのである。

そう・・・・・・E計画担当技術部長と言う地位にも関わらず、だ。

「・・・・・・何が言いたいのかしら?」

リツコは、何かを探るような二人の視線に戸惑いながら、何とか虚勢を張って口を開く事に成功した。

その様子に苦笑しながら、太公望は話を続ける。

「・・・・・・NERVと言う組織は、どうやらそう簡単に人を信用しない所らしいのう。

 まあ、それが普通なのだろうと言っては身も蓋も無いが・・・・・・

 利用するだけ利用して、必要なくなったら切り捨てる。おぬしの行動からは、そう言う事が伺える。

 NERVは新たに介入した道士と言う物に関してあまりにも無知だ。

 だからこそ契約の際、碇ゲンドウはわし達との交渉に、情報の提供を要求した。

 わしはその要求に関して、その情報に見合ったNERV側の情報を交換条件として提出した。

 しかし、それはNERV側にしては非常に不味い。

 下手にわしらに情報を提供すると、今度はわしらが行動を起こした際、

 不利益に繋がる恐れがあるからのう。NERVはわしらを信用してはおらぬのだ。

 でっち上げの情報を出すのも良いが、それがばれた時点でわしらが離れる事を恐れた。

 わしらの情報は欲しい。戦力も欲しい。しかし情報の流出は不味い。

 ならば、わしらの情報を出来るだけ搾り取ってやろうと、碇ゲンドウはおぬしを寄越した。

 いっしょに行動すれば、情報もそれなりに漏らすだろうと言うことからだ。要はスパイと言うやつだのう。

 例えわしらがNERVにとって不利益な行動を起こしても、

 情報さえ取れれば切り捨てるつもりなのだろうな。」

・・・・・・図星だった。

それだけに、リツコに走った動揺は尋常ではなかった。

額から冷や汗が流れ落ち、その表情が戦慄に凍りつく。

「・・・・・・しかし、NERVはリツコさんをスパイに送った事によって、重大なミスを犯しました。」

太公望の後に続いて、シンジが意味ありげに口を開く。

その瞳は、リツコの心を見透かすように、しっかりと射抜いていた。

思わずシンジの視線から目を逸らすリツコ。

それを見て、シンジは軽く苦笑する。

「重大なミス・・・・・・それは、リツコさんはある程度NERV側の重大な秘密を知っていると言う事です。

 おそらくNERVと言う組織の性格上、機密は厳重なんだと思います。

 つまり、NERV側の裏情報は上層部のほんの一握りしか知らされていないのでしょう。

 今回のスパイ行動は契約違反の上に、極秘裏に行わなければならない。

 そう言った点で、碇ゲンドウはNERVの情報部を僕たちに差し向けるのを避けました。

 何よりNERVの信憑性を説いて丸め込まれ、逆スパイをかけられるのを恐れた為です。

 まあ、それだけ自分達が怪しい事をしていると言う自覚があっての事なんでしょうね。

 第一、僕たちとの面識の無い人物を送り込んだとしても、引き出せる情報はたかが知れています。

 故に、スパイにする人選はある程度NERVの真実を知っていて信頼できうる人物であり、

 さらに僕たちとも面識がある人物に限られるって事です。

 そう言う意味ではリツコさんほど適正した人物はいなかった。

 ミサトさんも候補に上げられた筈なのにリツコさんだと言う事は、

 おそらくミサトさんは上層部にも関わらず、あまり情報を与えられていないであろう事が推測できます。

 まあ、ただ単に性格上の問題もあったとは思われますが・・・・・・」

「・・・・・・それで・・・・・・なんでそれが重大なミスになるのかしら?

 行っておくけど、私はNERVの情報を話はしないわよ?」

ついに開き直ったリツコに、太公望とシンジは口元を吊り上げた。

「・・・・・・認めましたね?」

「うむ。認めたのう。」

くすくすと笑い始める二人に、リツコは目が点となる。

「・・・・・・まさか・・・・・・」

その表情は真っ青になり、唇がプルプルと震えていた。

「ハイッ♪ 半分ブラフでしたっ♥

「葛城ミサトの例からして、

 おぬしも欲望の為に仕事をほっぽり出す性格だと言う可能性も捨てきれなかったからのう。

 それにあくまで確証は無かったし、ちょっとハッタリを掛けて見たのだ。

 こうもうまく引っかかるとは・・・・・・おぬし、スパイと言う仕事には向いておらんな。」

性悪コンビ、ここにアリである。

カカカと二人して笑うシンジと太公望が、リツコには性質の悪い悪魔に見えた。

「・・・・・・何てこと・・・・・・」

この二人にかかっては、流石の技術部長も形無しである。

「ねえ、リツコさん。ここで一つグットな考えがあるのですが。」

リツコの肩に手を置いて、耳元で子悪魔のように呟くシンジ。

思わずリツコのからだがビクッと跳ねる。

「別に、僕達はこの事を理由にNERVを離れても良いんですよ。

 そうしたらリツコさんもクビになるかもしれませんけど。

 いや・・・・・・殺される可能性のほうが高いですねェ。

 でも、それはリツコさんにとっても、僕たちにとっても、後味の悪い物になりますよねぇ?

 そこで・・・・・・双方にとっても平和に解決する方法があるんですよ・・・・・・

 

 

 ―――秘密にしといてあげますから、

 買い物の代金全額、払って頂けないでしょうかねぇ?

 

 

・・・・・・人はこれをカツアゲと言うが、シンジのそれは最強にタチが悪かった。

ちなみに、リツコは服代、家具代、食費含め、

ざっと6桁くらいにわたる買い物を強いられてしまったのである。

 

「・・・・・・とんでもない人物に弱みを握られてしまった・・・・・・」

 

リツコはほとんど半減してしまったカードの残金を見ながら、涙ながらに呟いたと言う。

・・・・・・合掌。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

  「今日のご飯は麻婆豆腐ですね!」

  大きな買い物袋を抱えながら、ルンルン気分で呟くシンジ。

  その中にはいろんな食材が所狭しとつめ込められていた。

  中にはお米や調味料もあったり。

  明らかに一週間分の食料と言う感じである。

  さらにその衣類も買い物した当時の物ではなく、

  簡単なポロシャツにジーンズと言った物であった。

  太公望もシャツに薄手のベストにジーンズ、

  そして赤のバンダナをしている。

  その手に持つユ○クロの紙袋には、

  その他の衣服も結構入っていた。

 

家具もすでに注文してあり、明日、宅配便で送られる手筈になっている。

「ひき肉は使うなよ?」

「大丈夫ですよ。

 豆をひき肉の代わりにする方法ってのがあるらしいですから、今回はそれを試してみるんです。

 何でも、牛の病気が流行った時の工夫だとか何とか。」

そう言って見せる一つの本。知る人ぞ知る、「中華○番」のコミックであったりする。

「惣菜もいっぱい買いましたから、今夜はパーっと行きましょう!」

今日のご機嫌はすこぶる良好のようだ。

リツコは既に真っ白に燃え尽きていたりする。

「783,206円・・・・・・ふふっ・・・・・・命と比べて安いのか高いのか・・・・・・」

明らかに安いと思われるが・・・・・・どうだろう?

「まあまあ、リツコさんにもご馳走しますから。

 約80万払った価値はあると思うくらいのものを用意させて頂きますよ。

 ・・・・・・もっとも、なまぐさは出せませんけれど、ね。」

「・・・・・・期待させて頂くわ。」

人間、三大欲には逆らえないらしい。リツコはしっかり食事に釣られていた。

「何かリクエストあります?」

「本当はレアステーキが食べたいんだけど、流石に無理っぽいから。お任せするわ。」

「りょ〜かいっ!」

リツコは知らない。この後に控えるのが酒のつまみのフルコースだと言う事に。

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

そんな中、太公望がとある人影に気がついた。

新しい我が家の玄関手前、そこそこに大きな並木に寄りかかり、ボーっと空を眺めている人影である。

「おろ? 誰かいますねェ。泥棒さんかな? 定界珠でふっ飛ばしますか?」

「あなた、思考が危ないわよ。」

引きつりながらリツコが突っ込む。

そんなリツコの反応に、シンジはただ口笛を吹いて目を逸らせるのみだった。

 

「・・・・・・もしかして・・・・・・普賢か?」

 

太公望が呟くその言葉に反応して、その人物がこちらに視線を向けた。

青い髪が風にたなびき、優しい微笑が目に映る。

その人物の背景を飾る、波木の枝からはらりと落ちる木の葉と、茜色に染まった夕日の光。

まるで何かの絵画のワンシーンを、そっくり切り取ったような光景。

そして・・・・・・手に珠のようなものを抱きながら、その人物はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・・・やあ・・・・・・久しぶりだね、望ちゃん・・・・・・」

 

3千年ぶりの再会。

数メートルの距離を置き、3千年の時を経た二人の親友が、今、茜色の空の下で再開を果たした―――

ゆっくりと、青い髪を風にたなびかせながら一歩一歩確実に、太公望へ徒歩を進めるその人物。

「・・・・・・普賢・・・・・・」

驚きと懐かしさを混ぜたような表情で、太公望は目を見開く。

その人物―――普賢は、その言葉に微笑みで返しながら・・・・・・

 

 

 

・・・・・・NERVのSSにとっ捕まった。

 

 

 

「君、一体何処の人間だね?」

「ここは既にとあるVIPの土地内だ。さらに、君は身元不明で密入国の疑いが掛かっている。」

「挙動不審で近所の方からも通報が来ているよ。

 町並みを物珍しそうにキョロキョロ見回して、一体何を探っていたんだね?」

「密入国、挙動不審、身元不明、不法侵入にスパイ容疑・・・・・・君を調べるには事欠かない理由だよ?」

「・・・・・・え? いや、僕は別にそんな・・・・・・」

「身分証は持っているかね? 何しにここに来たのだね?

 ちょっと我々と一緒に来てもらおうか。場合によってはそのまま警察に引き渡す事になる。」

「ちょっ、まっ、待って、僕はそんなんじゃ・・・・・・望ちゃん! お〜い、望ちゃぁ〜〜ん!!」

「君には黙秘権と弁護士を雇う権利がある。それ以上不利な発言はしなくて良い。」

「何、ちょっと身元を確認するだけだ。すぐに終わる。」

「み、身元確認って言っても、僕はこの時代の戸籍は・・・・・・」

「どうでも言いからさっさと行くぞ!」

 

ズルズルズル・・・・・・(←引きずられていく音)

 

「望ちゃん、何がどうなってるんだ!? 望ちゃぁ〜〜んっ!!」

 

ズルズル・・・・・・ガチャッ、バタム。(←車に詰込まれた音)

・・・・・・キキキキッ、ブロロロ・・・・・・(←車のエンジンが掛かり、走り出す音)

望ちゃぁ〜〜〜〜ん・・・・・・」(←ドップラー効果)

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・知り合いですか?」

「いや、人違いだ。」

 

崑崙12仙が1人、普賢真人。

 

 

 

・・・・・・ギャグキャラ決定。

 

 

「・・・・・・ま、良いか。」

シンジもシンジで何か納得してたりする。

「・・・・・・さあ、今からチャッチャとご飯作っちゃいますから、

 師父は仙桃の樹まで行って仙桃大量に取って来て貰えます?

 この際だから仙桃月餅の仕込みもしちゃいますよ。」

「うむ! ついでだから必要な物も運んできてしまおう。空間を直結するからおぬしも手伝ってくれ。」

そう言ってリツコに視線を向ける太公望。

「・・・・・・女性に力仕事させるの?」

「そんなに重いものは無いよ。それに、仙桃月餅が食えなくなるぞ?」

「喜んでお供しますわ。」

読んで字の如く、即答である。

「・・・・・・その代わりそれなりの量を頂きたいのですが。」

「・・・・・・おぬしも悪よのう。」

「いえいえ、太公望様ほどでは御座いませぬ。」

「ククククク・・・・・・」

「ホホホホホ・・・・・・」

カ〜ッカッカッカッカッカ!!!

オ〜ッホッホッホッホッホ!!!

 

二人して『庄屋越後屋ごっこ』をおっぱじめる太公望とリツコの姿に、シンジは凄まじく戦慄した。

いつもならここで「いつもの師父じゃな〜い」とか言っているのだろうが、流石に今回はそんな勇気が無い。

 

「・・・・・・しばらく目を合わさないようにしておこう。」

 

シンジはここで一つ、仏陀のような悟りを開いたのである。

・・・・・・そう、危険な人物とは目を合わせないと言う防衛的かつ画期的な悟りを。

仙桃月餅。それはまさしく美味と言う名の麻薬であった。

二人の変貌は実は自分のせいであると言う事をシンジは知らない・・・・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・で、そんな恐怖と錯乱の準備も終わり、楽しい楽しい宴の時間がやって来た。

シンジが運ぶ数々の料理と、仙桃を溶かした極上の酒がテーブルに並ぶ。

特に酒は保存しておく事が出来ない為(1日経つと水に戻る為)、

テーブルに4、5コ、『豊満』と書かれた仙桃がお皿に乗っけてあった。

こいつをちぎり、コップの水に溶かして美酒を楽しむのである。

凄まじいのはシンジ作の料理の数々。

予告した通りの麻婆豆腐にはじまり、得意料理の山菜の天ぷら、

キンピラゴボウにふろふき大根、竹の子の刺身にニンニクのたまり付け、

さらにはほうれん草のお浸しにキノコのバター炒め、ラストトドメは野菜たっぷりヘルシー炒飯である。

おっと、デザートに太公望大歓喜の激甘杏仁豆腐を忘れていた。

当然、その他の肉無し系点心も揃っている。

「・・・・・・シンジ君・・・・・・あなた・・・・・・」

そうそうたる料理の顔ぶれに、リツコの表情も期待と呆れに満ちていた。

そんなリツコの表情に、シンジは身を翻すとにこりと綺麗に微笑んで見せる。

付けていた薄い水色のエプロンの裾が、ふわっと舞った。

「・・・・・・ね? 783,206円の価値はあるでしょう?」

「・・・・・・確かに、あるかもしれないわ。」

冷静なその言葉遣いとは裏腹に、リツコの口からは既に大量の涎が滴っていたりする。

「シンジの料理は絶品だぞ? そこ等の三ツ星レストランなんかより8万倍ウマイであろうな。

 特に山菜料理に関しては右に出る者はおらんだろうな。」

さらに言うと仙桃に関しても右に出る者はいないだろう。

仙桃を自分なりにアレンジし、新たな麻薬・・・・・・もとい、

究極の絶品料理を作り出す仙道が一体何処にいるだろうか?

碇シンジ。

趣味は飲酒と昼寝と料理研究である。

・・・・・・音楽鑑賞? ここ5年ほどそう言ったものは聞いてない。

ま、それはともかく。

「好きこそ物の上手なれ」とは、昔の方も偉大な事を申された物だ。

 

「それじゃ、パア〜〜ッとおっぱじめましょ〜〜!!」

「「うぉっしゃああああ!!!」」

 

人数はたったの3人と言う宴であったが、そこ等のパーティよりも数倍は賑やかであった。

用意された料理の数々は瞬く間に減っていき、仙桃はどんどん水に溶け、

どんちゃん騒ぎが月に届かんとばかりに湧き上がる。

そのうち、この騒ぎを聞きつけたご近所の方々が文句を言いに来たがまんまと混ぜ込まれ、

笑い声と料理の数は倍々にと増していった。

 

 

「「「「あ、シンちゃんの♪ ちょっと良いとこ見てみたいっ♪」」」」

「うおおおおおおおお!!」

「そ〜れっイッキッ♪ イッキッ♪ イッキッ♪ イッキッ♪」

「行け〜!! 見事一升を飲み干して見せるのだぁ〜〜!!」

「つまみが足りないわよぉ〜〜!! ・・・・・・ヒック。」

「んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ・・・・・・ぶはぁ〜〜〜〜!! うめ〜ぞちきしょう!!」

「「「「おおおおおおお!!!」」」」

「うしっ!! 次は師父っスよ!!」

「か〜っかっかっか!! 受けて立とうっ!!」

「シンジく〜ん、つ〜ま〜み〜!!! ・・・・・・後おちゃけも。」

「りょ〜かいっ!! リクエストあっる人、この指とっまれっ♪」

「はいはいはいっ!! 天ぷらがヨロシイかとっ!!」

 

 

・・・・・・狂乱の夜はふけて行く・・・・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・一方、某所では。

 

「ゆーめの国を探す君の名をー、誰もが心に刻むまーでー・・・・・・」

「うるさいぞ新入り!! 静かにしねえとぶっ殺すぞ!!」

 

・・・・・・普賢が留置所で一人悲しく床にのの字を書きながらKILLWILLを歌っていたりする。

罪状は密入国及びスパイ容疑だったりする事は言うまでも無い。



 

あとがき

どうも申し訳ありません。またかなりの期間が開いてしまいました。

そのかわりと言ってはなんですが、今回は挿絵付きです。

・・・・・・っと言っても、かなりへたっぴなんですけどね。

シンジは書き慣れてるんですけど、

太公望とリツコを書くのは初めてなんで、やっぱりうまく行きませんでした。

やっぱり数をこなさなければダメですね。

あと普賢真人。自分的には好きなキャラなんですが、まさかと言うかやはりと言うか、

この小説に関わった時点でギャグキャラの方向に話が進んでしまいました。

流石の自爆君も留置所に送られてしまっては手が出せません。

下手に宝貝使って騒ぎにする訳にも行きません。

・・・・・・どうしましょう? この後の展開。

ま、なるようになるでしょう(をい)

こんな拙い小説ですが、感想を送って頂けると嬉しいです。

それでは、またお会いしましょう。

以上、アンギルでした。

 



クールさを失ったにしろ、リツコがあんな青ざめた顔をしている小説ってなかなかないような…。

…すべてギャグキャラだ…この小説の登場人物はすべてギャグ。

それにしても、挿絵が描けると言うのはスゴイ…。私は絵はまったくダメでして。

(このセリフ、前もどこかで言ったような…)

では、アンギルさん作品に感想メールを!

アンギルさんの作品はご自身のホームページであるWing of Seraphimで読めます。 


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