第十六話「敗戦」

信長が逃げ延びれたと思った瞬間、一発の銃声が聞こえた。馬が突如として倒れ、南蛮鎧を着た派手な男が、そのりりしい姿が突然無様になる。

・・・信長は弾で撃たれたのだ。すぐさま落馬してしまう。幸い厚い南蛮鎧に覆われていたため、軽傷で済んだ。

部下にこれ以上みっともない真似は見せられない。家臣が輿に乗るように進めるが、信長はそれを無視。あえて、腕の痛みを必死にこらえ、信長は命からがら、清洲に逃げ帰るのであった。

幸い宿敵、武田信玄が昨年、この世を去っていたため、織田家はなんとか建て直しができた。・・・しかし、信玄が生きていたなら、信長の命はそこで終わっていただろう。

・・・あの後、一向一揆を完全に倒すのは6年の歳月が必要だった。両軍の犠牲者の数は計測不可能である。あの時以来、信長の宗教観は大きく変わった。

そんな経験から・・・信長はゼーレの世界を終わらせると言う話しは本当だろう・・・との不安を感じていた。宗教と言うのは 諸刃の剣だと言うのが、信長の考え方である。

宗教の良い面は確かにある。神が自分を見ていると思うと、例え一人でも悪い事はできないと思うし、人々の心を和ませ、礼儀も覚え、集団の結束力は飛躍的に高まる。

だが、この結束力が、悪い方向に向かうと話しが逆になってしまう。間違いが間違いであると気付かず、目的のためには多大な犠牲に構わず、突っ込み、周囲を大戦争に巻きこみ、関係のない多数の人々が犠牲なる。

信長はこの情報を直ちに戦略自衛隊の長井元帥に流した。加持と長井とも協議の末、この事は3人だけの秘密にする事にした。

信長と特別な親交があった、長井以外の人間がこんなことを信じてくれるとは思えなかったからだ。

「で、加持。お前、ミサトの方とは、どうなんだ?濃の推理によると、また、くっつく可能性が濃厚だそうだが?」

「ははぁ、そんなこと言ってましたか濃さん。・・・俺のほうからミサトに振られちまったんですよ。他の女の子に浮気してた現場をばれちまってねぇ。」

「ははは、そいつは面白い。さすがプレイボーイ・・・<非常事態発生。総員戦闘第一種を発令します。繰り返します・・・」

信長の口が途中で閉じられた。・・・第6使徒来襲に間違いない。本来、諜報部のため、使徒戦には直接関わらない加持も司令室に着いて来るように指示する。

発令所はいつも通りざわついている。副作戦部長のミサトには、今回は基本的に自分(信長)がすべて指示を取ると告げ、実質ミサトは仕事のない状態になった。

第3使徒戦の時は、ミサトの能力が見たかったため、ほとんど任せきりにしていたが、第4使徒戦を見て、客観的に自分の方が能力が上と判断したためだった。

父の敵・・・使徒を倒すためにNERVに入ったミサトにとっては何とも怒りがつのる命令だったが、上司の命令に逆らうわけにはいかない。

ミサトはこれ以後、直接指揮を取る事はほとんど無く、実質作戦会議に加わるだけの人材になってしまった。それでも、一応、戦闘中に発令所に入れたのは、彼女の力量がそれなりにあったからだ。

発令所は使徒襲来と言う事で、大騒ぎで、職員は忙しそうに働いている。・・・なかでも赤木リツコの右腕、伊吹マヤはオペレーターにエヴァの整備にと大忙しである。

リツコはこの場合、上から指示を出しとけばいいのだが、マヤは仕事を実行せねばならない。この忙しさでは、男から人気のある彼氏ができないのにも納得がいく。

「佐藤作戦部長、どうしますか?先の戦闘で第3新東京市の迎撃システムは26%、実質ほとんど動きませんよ。」

「初号機も先の戦闘のダメージによる修復が、まだ11.5%残されています。事実上、出撃は不可能です。」

「レイが前方、アスカが後方でバックアップに回れ。海までアンブリガブルケーブルは届かん。一気に決めろ!」

「ええ、私がバックアップ。あんな奴、私一人に任せてくれれば・・・・・・ひぇー、すみません信長さん。」

アスカが文句を言ったとたん、信長がアスカをにらみつけた。・・・先ほどの訓練ですっかり信長恐怖症になっているアスカ。・・・信長の目が、無言で、それ以上言うともっと訓練をきつくしたやると脅していた。リツコが感想を一つ。

「・・・さすがのアスカも、信長さんは恐いのね。」

第3新東京市の海岸まで移動するアスカとレイ。内心、文句ばかりあるが、信長が恐くて、なにも言えないアスカ。・・・レイはいつも通り淡々である。

アンビリカブルケーブルが届く限界時点にエヴァ2機が到着する。

 ・・・ほう、あれが今回の使徒か。特に、これと言った兵器を持っている様子は無い。・・・ATフィールドが強力な危険はあるが、内部電源の5分だからな。よし、ここは、様子見もナシで行くぞ!

「レイ・アスカ。偵察してる暇は無い。攻撃だけ考えろ。いいな。・・・・・・よし、アンビリカブルケーブル切断しろ!」

アンビリカブルケーブルが切れるや否や、レイは命令どおり、全力ダッシュで使徒に向かう。そして、そのままプログナイフを使徒に突き刺した。

プログナイフは見事に使徒のコアを貫いた。コアは、一瞬ぴかっと光ると、どんどん黒く変色していった。・・・もはや原型の半分をとどめていなくなった。勝利を確信するレイ達。

・・・発令所の連中はもう勝ったと言う顔をしているが、おかしいぞ。使徒はA.Tフィールドを発生させなかった。これでおしまい・・・。あまりにあっさり過ぎる。

「レイ、アスカ、油断するな。使徒に引き続き攻撃しろ!」

アスカは、「ハァ〜ッ何で?」と言う顔をして動かないが、レイはとにかく命令なので、従いもはや、コアが砕けている使徒にさらなる攻撃を加えていく。

レイが、プログナイフで、再びコアを突き刺し、今度は体全体を真っ二つにした、まさにその瞬間だった。体が半分に砕けて使徒が、まるでアメーバの如く2つに分裂したのだ。

すぐに、襲い掛かってくる分裂使徒。左側の使徒には激しく殴られ、右側の使徒には力任せで、陸地へと放り投げられる。

「もはや、ここまでだな。アスカ・レイ撤退しろ。」

信長はN2爆弾を落とすように戦略自衛隊に要請。幸いこのN2爆弾が効力を発揮し、使徒を数日間の足止めにすることを成功した。

・・・やれやれ。なんとか、NERV本部への攻撃は食いとめられたか。・・・しかし、もう零号機はしばらく使えねぇ。初号機の修復が使徒が活動を再開する前に間に合うかどうかは微妙といったところだな。

加持が発令所を出ていこうとする信長を待ち伏せしていた。

「信長さん、残念でしたね。・・・あの攻撃の判断は良かったと思いますが。これ、どうぞ。」

「紙?・・・なるほど、こりゃいい。さっそく使わせてもらうぞ。」

ミサトの部屋に向かう信長。なぜか満点の笑みを浮かべている。・・・信長が悪事をたくらんでいる証拠だ。・・・扉を開けると、その部屋の汚さに何か納得してしまう信長。

「おう、ミサト。これの後始末、全部頼んだわ。」

「・・・これは、敗戦処理の資料の山じゃ無いですか。なんで、指揮もとってない私がそんなことを。信長さんの仕事じゃないですか。」

「あれぇ、いいのかな?ミサトは作戦指揮では仕事が無く、技術の知識も無いから、日常の仕事でも役に立てない・・・。このままじゃ、降格どころか、失業だろうな。」

「ひぇー、冗談です、冗談。喜んでやらせて頂きます。」

哀れミサト・・・書類の仕事を一人で押し付けられ、使徒戦の指揮は取れなかった上に、これから約5日間、無休無眠の生活を送るはめになるのであった。

信長はその後、アスカに信長の自宅に来るように指示した。ユニゾン訓練のためである。佐藤夫婦とチルドレン3人組が一度にそろう。

「よし、いいな。今回の使徒を倒すためには、同時にコアを叩くしかない。そのためにお前達にはダンスの訓練をしてもらう。これでぴったしタイミングを合わせれば、勝てるはずだ。」

「いい、それと、アスカちゃんには今日からしばらく、シンジ君と一緒に寝てもらいます。これは、2人のユニゾンをより完璧にするためです。・・・もちろん命令拒否は認めません。」

レイに続いてアスカも、シンジと一緒に寝させるつもりの濃。・・・もはや呆れて信長も言葉が無い。

「ちょっと、濃さん、いくらなんでもそれは・・・」

そう言いかけるとアスカはギロッと濃ににらまれる。・・・もしかしたら、信長さんより恐い人では?と思うアスカ。・・・どうやら、アスカは佐藤夫婦恐怖症と言う病気にかかってしまったようだ。


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