第8話「天性のスパイ」

電車に乗り、映画館に行き、山を登ってあてもなく、ふらふら歩くシンジ。かわいい女の子を見かけても見向きもせず、下を向きたんたんと歩いている。

山の中で偶然ケンスケに会った。彼は軍事マニアで一人で戦争ごっこして遊んでいたのだ。軍服姿とモデルガンを持ち、コスチュームも万全だった。

どうやら、一人でこの山の中を一泊するつもりだったらしく、テントまで張っている。ケンスケからカレーライスをおごってもらい、パクパクと食べるシンジ。お腹はやはり空腹だったようだ。

ケンスケの話しによると彼も母親をなくしているそうだ。あのセカンドインパクトで人口は半分以下に激減した。片親が生き残っているだけでもマシな方だ。

「あなたね。そんな気持ちでEVAに乗っても迷惑なのよ!」

翌日シンジは、突然現れたNERVの諜報部に連行された。帰ってからミサトにはこうして、しっかり叱られた。シンジに反省の色はまったくなく一時はサードチルドレンから抹消。

濃の説得でなんとかパイロットを続けてくれる事になったが、今後頭が痛いところだ。

「セカンドチルドレンの件どうしますか?」

「もう一回信長君、キミに頼むよ。」

突然の使徒襲来で中止になってしまったドイツ支部へのセカンドチルドレンの引き渡し。前回の二の舞を避けるため、信長はさっさとその日のうちに旅立つことにした。

ドイツ・・・セカンドインパクトの地軸のゆれの影響で、日本は常夏の島となったが、この国はあまり気候は変わらず、被害も、もっとも少なかった地域の一つである。

到着したその朝、信長はさっそくドイツ支部の司令官に顔を会わせ会談を行なう。その席で意外な人物に会った。ゲンドウなどの調査を依頼した加持リョウジである。

「信長さん。おはようございます。電話以外で会うのは始めてですね。」

信長はこの時まで加持の顔も知らなかった。どうも俺のこともしっかり調べていやがったらしい。さすがにあれだけの情報を仕入れてくれただけあって、抜け目のない男だ。

だが、こういう男は信長の好きなタイプだ。だらしない外見とは違って熱い魂を持って行動する男、なんだかサル(秀吉)の姿に重なっておかしかった。

「どうです、エヴァ四号機建設以降のドイツの国連に支払う金はすべてNERVが負担しますよ。」

「そうだな・・・。それほどの好条件ならば了解しよう。」

交渉は案外簡単に済んだ。どうも他にもゲンドウが莫大な裏金とEVAの秘密を話す交換条件でうまく回収した様だ。どうぜあの男の事だ。バレてもまったく支障がないが情報を、うまく重要な情報に見せているのだろう。

その後、信長は加持に頼みこむ、セカンドチルドレンのアスカに顔を合わす事になった。金髪の毛の美少女でクォーターで日本人の血も混じっているらしく日本語も普通に話せた。

それにしても活発な子で、周りにはいろいろ文句を言っているが、加持リョウジだけには好感を持っているようだ。あと、五年もすれば、俺も惚れてしまっていただろう。

「へえー、じゃ私、加持さんと一緒に日本に行くんですね。・・・信長さんもよろしくお願いします。」

普段、大人でも加持以外”さん”づけなどほとんどしないアスカだが、信長のあまりの恐ろしい表情におもわずビビってしまう。信長の恐さはやはりすごいものがある。

アスカの日本来日は、エヴァ弐号機も船で輸送しなければいけない為、あと二週間ほど時間が必要だった。とりあえず、信長は日本に帰る事になった。

「もう、お帰りですかお早いですね。」

「ふん。そんなことより、おまえがスパイだって話し酒井から聞いたぞ。それでいてあんな席に出席できるほどの地位とは、相当な腕だな。どうだ、金は3倍払ってやるから俺の直属のスパイにならんか。」

「あくまで、対等関係なら喜んで応じますよ。俺としてもNERV本部にまで”つて”ができますからね。」

「ははは、いつでも裏切れるってわけか。おもしろい、その条件でいいだろう。」

加持が信長の誘いに乗った理由・・・それは彼が面白かったからだ。加持は信長が戦略自衛隊に所属している頃から興味があった。

・・・二等兵から、わずか四年で元帥(総司令)の片腕になるなど信じがたいぜ。

必死で信長の過去を調べたが、いくら調べても戦略自衛隊に入る前の情報がなにもない。その事がさらに加持の信長への興味を引きたてた。あのセカンドインパクトの混乱の時代だから、そう言う事も別に珍しくはないのではあるが。

日本に帰るなり、俺の所に第四使徒戦でエントリープラグに乗った、シンジのクラスメイトがあやまってきやがった。相田ケンスケと鈴原トウジと言うらしい。

・・・俺が濃の夫だと言ったら、がっかりしてやがった。この時代のガキは色気づくのが早いもんだ。しかし見た目が十歳近く年上の女性にあこがれるとは・・・、俺の時代ではめったになかったことだ。

もっとも男色は活発だったんだけどな。この時代じゃ、ほとんどタブーの状態だからな。ちぇっ、残念だ。(*戦国時代、男色は一般的でした。有名な人もやっております。信長が異常なわけではありません。)

そう言えば、(武田)信玄の奴が小姓に書いた、ラブレターが第3新東京市博物館に残ってたな。まさか400年以上あとにまで大切に保存されてるとはな・・・。呆れて物が言えん。

そうそう、この時代の戦国時代の伝記の本なんかもたくさん読んだが笑えたぞ・・・。墨俣城(一夜城)、サル(秀吉)が作った事になってるもんな。あの時秀吉はちょっと外壁に手を出しただけで、作ったのは(前田)利家だぜ。・・・手柄取られてるな利家の奴。

あと、今川義元の後継ぎの氏真がバカなやつになってるんだよな。・・・あいつは本当に大物だったぞ。もはや、家康に対抗できないと見るやいなや、全部家康に領地をあげちまったんだぜ。

あんな身の振り方、凡人にはできやしない。しかも、その後、朝廷に近づいてうまく権力を握った。普通なら大名が領地を失えば殺されているはずだ。まさにあいつならではの離れ業だった。

本当、歴史なんていい加減なもんだぜ。さてと、第四使徒戦の戦後処理やらなくちゃいけないな。この書類の山・・・うんざりだぜ。指揮も取れなかったって言うのによ。って、この量はミサトの奴サボってるじゃねえか。あの女、許さねえぞ。

「おい、葛城。この書類の山はどういう事だ。罰としてビール1ヶ月禁止だぞ。」

「ひぇぇー、佐藤作戦部長、申し訳ありません・・・。部長の分もやりますから、どうかそれだけはお許しを・・・。」

信長にビール禁止令を言い渡されたミサトは、プライドをすべて捨て土下座してあやまっていた。エビチュの為なら手段を選ばないミサトであった。

碇シンジは少しずつだが成長を見せていた。シンクロ率も50%にもっていき、反射神経も徐々に増してきていた。信長自ら柔道・ボクシングなどありとあらゆる格闘技の師範役となり鍛えていく。

「どうしたシンジ。パンチのキレが悪いぞ。」

毎日、学校から帰ってNERVで2時間この訓練を続けている。これにくわえ、30分ほどのシンクロテストが加わる事も多いので、シンジはもうくたくたである。・・・家事もやっているのに。

訓練の後、佐藤一家はシンジが倒した、第四使徒の死体を見学に行く。信長は使徒の体の構造には異常とも言える興味を示している。赤木リツコから聞いた使徒の分析結果は驚くべきものだった。

「なに〜、人間と遺伝子が99.89%同じ。」

「ええ、他の事はまったくわからないけどね。これほど原型をどとめている理想的なサンプルだと言うのに情けないわ。」

「体の成分とかもわからなかったのか?」

「ええ、現代科学では発見されていない物質ばかりなのよ。」

話しが終わった後、シンジが偶然会った父の火傷を見つけ、その理由をあいまいに尋ねると、レイを救ってできた傷跡だとリツコが答えた。

「父さんがそんな事を・・・。」

シンジの顔は非常に複雑なものであった。佐藤夫婦とリツコはそ表情を見逃しはしなかった。その日の夜、リツコが信長の家を訪ねてきた。家でのシンジの様子を見にきたのだ。

リツコの前に食事が出された。・・・非常に見事なフランス料理だ。なんと、シンジが一人で作ったらしい。味にも見た目にもリツコは驚かされるばかり。

「シンジ君、私が引き取ればよかったわ。」

リツコは本気でそう言うのであった。そのころ、NERVでは零号機の修復が進んでいた。


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