Angel Sweeter〜天使の吐息〜
SCREEN Final 【忘却の翼】
前のお話。
光の遺跡で、ミルフィーユの記憶を取り戻したセリスたち一行。 しかし、遺跡を出た瞬間、
“ディア”の天使たちの「光の槍」で、フィーと憐夏とミスティアは帰らぬ人となった…。
光の遺跡前。
セリス…と呼ばれる少年の体の奥底から、湧き上がってくるもの。
それは、とめどなく、しかも強く輝く。
光が、まるで塔のように。
その光はどんどん強くなってゆく。
止まることなど知らぬように。
………“ディア”と呼ばれる天使たちは、何が起こったのかを理解できていなく、先ほどから同じ
場所にいる。
――10分ほど、であろうか――
彼の中からとめどなくあふれていた光が、何らかの形にまとまり始めた。
光が、彼の右手…そして、背に集まり始める。
その光が、先ほどよりも強い光を放ったと思った瞬間に。
光は……止んだ。
彼の右手に剣を、彼の背に“翼”をあらわにして…。
そして、彼はつぶやくように言った……いや、何度も繰り返していたのかも知れないが…。
『………れん、かを………みす、てぃあを………フィーを!?__か_え_せ…』
言い終わるのと同時ぐらいに。
彼は、半ばはじかれるかのように“ディア”たちの方に向かい、はばたいた。
それを見て、リィフィースが。
リィフィース『…天使……だったか…。 まぁいい!! サティール! クディア!
…「槍」を!!』
その言葉に呼応し、二人は手に光を集積してゆく。
そして、セリスがわずか100Mあまりに近づいたとき、彼女らは「槍」を放った。
ミルフィーユ『!?……セリス…おにいちゃん……!?』
その距離からか、彼の「妹」は叫び声をあげた。 −もう、ダメ− …そんな感じだった。
しかし。
彼女らの放った槍は、彼の一寸先で虚空の塵へと消えていった。
リィフィース『!!?? ……な!?』
驚愕・動揺……その隙が、いけなかった。
ぐしゃり。
リィフィースの脇にいた、「クディア」と言う天使の喉元に、セリスは剣を突き立てていた。
――ぶしゅうぅぅ!!――
噴き出すように飛び出る、赤いもの。
それが尽きると同時に…………………………。
「クディア」は、死に絶えた。
サティール『!? ……うぉぉおっ!?』
そして、その隣にいた“赤の”ディア・「サティール」が咆哮をあげる。
サティール『燃え尽きろ!! …赤の御名のもと、我は神に面し其の是を求め…』
詠唱を始めた彼女を、返り血を浴びたセリスが……狂気に満ちた表情でいなす。
セリス『……死ね………』
彼は左手を振り上げた。
次の瞬間。
ぐちゃあぁっ!!
それはまるで、形あるものが吹き飛んだかのような音。
…そう、「サティール」と呼ばれた天使は、この世のものではなくなった…。
左手を振り上げたセリスによって、まるで爆発でもしたかのように、その体を粉々にされ…。
リィフィース『……あ…ま、まさか………』
震え、おののきながら言う。 彼女の下にいる「ミルフィーユ」に。
リィフィース『あの力……まさか……“大天使”アレスト……!? だとしたら、おまえたちは…アレストの……子供たち!?』
明らかに狼狽していた。
ミルフィーユは、気を失いそうな体をおして、返事とばかりに首を縦に振った。
すでに彼女の衣服も、その背にある“白き”翼も、赤い血で染め上げられていた。
…セリスが惨殺した、「ディア」の返り血をもって……………。
リィフィース『…!!なら…私たちでは………かなゎ………ぐぅっ!?』
彼女の右肩に走る激痛。 それは、セリスが放った“ウインド・ウィル(風の魔法)”に
よるものだった。
リィフィース『…はぁはぁ…た、頼む…許………はぅっ!?』
彼女の右足は、無かった。 セリスが、切り落としたのだ。しかも、一秒もたたぬうちに……。
リィフィース『…ぐぅうっ!? お、ねが……たすけ………___!?』
声にならない叫び。…彼女の翼は燃えていた。 セリスの“フィール・フレイル(炎の魔法)”によって。
−ぐらり− 空中で大きく体制を崩しながら……
ドシャリ。
彼女は、地面に頭をたたきつけられ……体中からおびただしいほどの血を噴き出し………
苦しみと恐怖と絶望に痛めつけられながら……その目から、涙を流しながら……
――絶命…した――
――それは、凄惨な図だった。
――それは、まるで地獄のように。
――その地獄のような場所に立つ少年。
――彼の背には、一対の翼があった。
――しかし、その翼は…
――まるで、初めからそうであったかのように、真紅に染め上げられていた……。
ミルフィーユ『……ぁ……せり、す……おにぃ、ちゃ…ん………?』
かすれがすれに声を紡ぐミルフィーユ。 しかし、その声は届いたのだろうか。
彼は、赤で染め上げられた体で、その目はどこか別の場所を見ているようにも見えた。無論、どこも見ていないようにも見えたのだが。
ミルフィーユ『…ぉ、にい、ちゃ…ん…………もう…やめよ……』
泣きながら、蒼白い顔で懇願するように、彼に問い掛ける。 しかし、言い終わるのを遮り。
セリス『……………みる…………』
ミルフィーユ『………………!!』
彼女はさらに泣き出した。 「ミル」は、小さいころセリスが彼女を呼んでいた名だったから。
うれしさと悲しさと……様々な思惑が彼女の中で交差していた。
セリス『………も、う……帰って…こない……みんなは……フィー、は………ぅ、う……!?』
嗚咽を隠しきれず、彼の瞳から流れた一条の筋。 まるで、それを隠すかのように…。
セリス『…も、う………こんな、………世界…………なんか…………!?』
目を見開き、左手を掲げた。 前には、遺跡。
その次の刻には………遺跡は、形を成していなかった…。
遺跡が崩れ落ちてゆく中から。
およそ、十にもなる「光の槍」がセリスめがけ飛び交ってきた。
が、彼の視線で「光の槍」は、消滅した。
セリス『…………………』
槍が飛んできた方向から、10人の天使たちが飛んできた。
天使(リーダー)『そこまでだ!! “大天使”の息子、セリス=ウォーレスト!!』
凛と言い放つ、リーダー格の女天使。 彼女の剣飾りを見、ミルフィーユ。
『……天界の………“お父さん”の、天使……彼女らは、お兄ちゃんを…いえ、私たちを…』
そして一呼吸あけ、彼女がぽつり、と。
『…………殺しに………きた、のね……………』
そのときの彼女の表情は……なぜか、笑っていた………。
彼女が言い終わったころ。
十人いた天使は、すでに四人にまで減っていた。
しかし、セリスも無傷ではなかった。
もう、彼の右手と左足は動かなくなっていた。
天使『…死ねっ!!』
一人の天使が、セリスに斬りかかってきた。
彼はそれを右足で蹴りつけ、左手に持ち替えた剣で天使の心臓を貫いた。
天使『ぐはっ!?』
血を噴き出し、白目をむき落下していく。 そして、彼は間髪おかず詠唱を始める。
セリス『……雷を彼の者へ!!………“グランディ・ストローグ”!!』
――カッ――
空が光る。
次には、一人の天使が天からの雷鳴によってその存在を消された。
天使『ひぃぃっ!? いやだ……しにたく、ない!?』
二人いた天使の片方が、恐れおののき逃げ出した。
天使(リーダー)『…くっ!? …………ついに、私一人、か………』
弱気な台詞を吐く天使。 だが、どこか自信に満ちている表情だった。
そして、逃げ出した天使は、一人佇むミルフィーユを見つけた。
天使『…あれは……あちらを殺せば………』
そういいながら、ミルフィーユの前に降り立つ。
天使『…お前は、“大天使”の娘、ミルフィーユだな……死ね!!』
返事を待たず、斬りかかる天使。
その剣閃を目で追いながら、ミルフィーユは笑いをこめた表情で、その剣を受け止めた。
天使『な!?』
その台詞を聞き、さらに笑みを深めながら、彼女は…。
ミルフィーユ『……遅い………のよ』
その言葉の後。
−それはまるで風のように。
ミルフィーユは、天使の首を斬り飛ばしていた……。
その直後。
セリスは、死の直前にいた…。
天使の持っていた「堕天使の刻印」(天使の力を使えなくする札)により、力を封印されて
いたからである。
天使『…どうだ!? 天使の力が使えん貴様など………』
天使は右手に持った剣を振り上げながら………
『…クズ………だ』 言い、剣を彼の左胸に突き立てた。
そこからは、本当に一瞬の出来事だった。
落ちてゆくセリスに入れ替わるように、どこからとなくミルフィーユが現れた。
天使からは、ミルフィーユは死角だったのだ。
天使『な!?』
そう言った天使の表情を見ずに、彼女は左手を彼女の胸にあてがう。
ぐじゃぁん!!
その手から、百とも千ともとれる風の刃が飛び出した。
その刃によって、天使は微塵にされた。
その体に流れる血液を四散させることもなく………。
――そして――
彼女は、大地に寝転がっている兄のもとへと滑空した。
兄は、まだ死んではいなかった。
彼の心臓は、右にあったからである。
彼女は、どうかしてしまったのか。
それとも、これが彼女の判断した最良の選択肢だったのか。
どちらか、などは誰にもわからないが。
――事実が、目の前に広がった――
彼女は、「兄」と呼んでいた少年の右胸を貫いた。
“びくん! びくん! 二度ほど痙攣をしながら……。
彼は、絶命した。
「妹」と呼んだ少女の一撃によって。
だが彼の表情は、彼の人生の中でもっとも安らかだった…と、語る人もいた。
そして、兄を殺した少女は…
まるで、初めから「こんな人は兄ではない」といったかのように。
まるで、天翼法陣の媒体になどならなかったかのように。
まるで、すでに命を落とした3人と兄など知らなかったように。
――疲れた…早く、天界に帰ろう――
そう言い残し、“天使”の少女は天へと帰っていった。
結局、彼らの存在した意味は何だったのか。
結局、彼らの犠牲は何の意味があったのか。
結局、彼らは何を得ることが出来たのだろうか。
――それに答えられるものは、誰もいなかった――
あとがき。
いや〜〜〜『汗』
なんか、生々しいシーンとかありましたね…『汗』
しかも、意味不明……。 もっと修行せねば…。
さて、これで一応終了となりました、Angel Sweeterですが。
この作品は、数々の人たちの協力があって、終了することが出来ました。
この場をもって、「ありがとう」を言いたいです。 ありがとうございました♪
あと、こんな作品を読んでくださった方々にも…
「ありがとうございました」 を贈りたいと思います。 では……。