前のお話。
「アストリュール山」で、未確認体を発見することが出来なかった天使たち。
そして、彼女らが王国に戻った後……彼女らの周りで異変が起こり始めた…。
エイサー国 軍会議室。
そこでは、四人の女性たちが何かを話し合っていた。
メリース『…ということで結局、15日あまりアストリュールに滞在していたにもかかわらず、何もそれらしきものは
見つけられなかった……ということか。』
吐き捨てるように言うメリース。 それを察し、テトラ。
テトラ『……ごめんなさい………』
メリース『…いや。 この件は、何らその‘生命体’についての明確な情報が手に入っていなかったのだ。いかに“天使”だとしても…
見つけられなくて仕方がない。 気にするな。』
そう言ったあと、サラが口を開く。
サラ『…ですがメリース様。 未確認体がどのような動きをするのかは、予測不能です』
メリース『ああ。だが、王国も警備を強化している。何かあっても対応できるさ。』
そう言った直後、見慣れた少女が血相を変えて飛びこんできた。
メイヤー『…お、おねーさま!?…た、た、大変です!?……け、け、けい……』
少女は明らかに狼狽していた。 それをなだめると共に訊くメリース。
メリース『落ち着け、メイヤー。 “けい”が、どうかしたのか?』
その質問に焦りを取り繕うことのできないままに、少女は言う。
メイヤー『…あ、アストリュール山周辺を守備にあたっていた・・・け、警備兵およそ1000名、および「未確認体」の詮索にあたっていた傭兵
民間希望者…2000名あまり……つまり人数にして約3000人近くの人間が、何らかの要因によって“消され”ました!!』
メリース『なに・・!?』
サラ『…・・・メイヤー嬢。 その要因は?』
メイヤー『残念ながら、まだ不明です…。 でも、共通項目もあります…。』
重苦しい口調ながらも、しっかりと言う。
メリース『…どちらも“未確認体”に関わりがある…ということか。……くそっ!』
悔しさのあまり、吐き捨てるように言う。そして、その後に彼女の中にひとつの考えが浮かびあがった。
メリース『…待て……………、メイヤー』
メイヤー『はい……何ですか? おねー…いえ、メリース様』
メリース『…ひょっとしたら……、消滅した警備兵たちの存在が、親・兄弟など親しいものたちの記憶から“消され”ていないか
確認してくれ…できるだけ早く』
メイヤー『・・・はい!情報部に問いただしてきます!』
ぱたぱたと駆け出して行く、エルフの少女。 その背を見つめながら、メリースという女司令は不安を感じていた。
サラ『………“ミストレビュート”…………』
ふと、サラが言う。
メリース『・・・!!』
テトラ・シンセ『??』
サラ『……“カラーリュート”ミストブルー・・・エイサー北東部にすむ“精霊族”の一種。
特殊能力は…』
それをさえぎるように。
メリース『…人間の記憶から、“ある人物が存在したという記憶”を消滅させてしまう……知っていたのか、サラ』
サラ『…Yes。 私の記憶が―――――!? あ…!?』
突如、何かを思い起こそうとして……倒れこむサラ。
テトラ『!!サラさん!?』
駆け寄るテトラ。 そしてシンセと二人で医務室に運び込む。
一人になったエイサー国会議室で。
メリースという女性は、テトラたちと入れ替わりになって入ってきたメイヤーから受け取った資料を見、考えをめぐらせていた。
――そうして、約一時間後。
彼女は、考えをまとめあげた。 そして誰に言うもなしにぽつり、と。
『厄介な…問題かも、な………』
彼女のぼやきが的中したのかどうかは否か。
その数日後、アストリュール山付近の少数民族が“消え”た。
その数は、およそ500人。
そして、先の現象と類似するかのように。
その民族の“存在”は人々の記憶から‘消され’てしまった…。
警備兵たちが存在したという“歴史”そのものが‘消され’たのとおなじように…。
エイサー国会議室。
メリース『・・・・・・くそっ! またか・・・・また‘消され’たのか・・・』
苛立ちを表に出すメリース。
メイヤー『・・・アストリュール周辺に少数存在していたはずの村が・・・・消滅・・・しました』
資料内容を確認するメイヤー。だがメリース当人、その資料は何度も読み返して彼女の記憶に焼きついているのだ。
そのとき、メイヤーの報告を聞いたテトラが口を挟んだ。
テトラ『・・・消滅・・・したんですよね?この一連の事件は全部・・・』
メイヤー『・・・はぁ・・・?』
よく理解できなかったらしく、首を傾げるメイヤー。
テトラ『・・・つまり、こういうことです・・・・警備兵や傭兵の皆さんが存在した歴史そのものも、この少数民族の村が存在した歴史も・・・民間人や
城内の一部の人々の記憶から・・・消えてしまったんですよね?』
メイヤー『・・・はい・・・』
テトラ『・・・だとするならおかしいですよ。なぜ全員の記憶から“消滅”せず、情報部・及び私たち天使たちの記憶からは“消滅”しないんですか?』
その発言に、その場にいた全員が核心を突かれた、という表情を見せた。
メイヤー『・・・確かに。本来なら全ての人々の記憶から・・・そして私の記憶からも“消滅”しなければおかしいはずなのに・・・』
そのとき、ふいにサラが口を開く。
サラ『・・・・推測される可能性として。・・・情報部・及びメイヤー嬢の記憶から“消滅”しない要因は、おそらく連日に渡り二つの事象の情報と
接しているため。天使・・・つまり私たちの記憶が“消滅”しない要因は・・・・』
メリース『・・・・・エンジェル・・・シード・・・・・・天使の力・・・・だろうな、おそらく』
何気もなしにメリースが言う。
メリース『・・・そうか・・なるほど・・・確かにサラの言う通り、それ以外に考えられないな。一部のものを残して“消滅した”記憶か・・・』
メリースは言いながら、テトラを見る。
メリース『・・・ふふ・・・テトラ、お前の疑問が全てを解くきっかけとなりそうだ・・・礼を言う』
赤面するテトラ。 続けてメリースは言う。
メリース『・・・では、テトラ・シンセ・サラは出撃の間で待機しておいてくれ。・・・メイヤーは、情報部に戻り、その現状での最新情報をリークし
常に私に伝えてくれ』
シンセ『・・・OKですわ。・・・・・・しかし、司令はどうする・・・・』
メリース『・・・なぁに。気にすることはない・・・・“やつ”の進路を割り出し、ちょっとばかり罠を仕掛けてやるのさ』
そして、そのあと彼女は自信たっぷりに言い放った。
メリース『・・・“やつ”にとっての、最高の・・・・・罠をな』
数時間後、出撃の間に待機していた天使たちの元へメリースがやってきた。
彼女の右手には、冊子が握られていた。
この事件を解決する冊子が。
そして、その3時間後。
天使たちは行動を開始した。
記憶解放のための行動を―――。
次回。
記憶解放のための行動を天使たちが実行していく。
・・・・その結末でみえる真実とは? 次回ですー(汗)