『で・・・・・・こうなわけよ、つまり・・・』
張り詰める青空。
すがすがしい新緑の中に。
不満そうな顔をした将士と額に汗を浮かべたアスティーがいた。
先刻。
彼とフィーリアは突如として現れたアスティーという女性によって、この青と緑の星『ラクティア』に連れてこられていた。
その理由はアスティーが数年間探し求めていた、【光と奇跡の聖剣】と呼ばれる力、【ヴァリキュアス=スペンディー】であった。
その力がラクティアでなく地球にあった。
だからその「 力 」をラクティアに連れてこようとした・・・のだという。
・・・・・・が、結果のほどは・・・・・・
将士『・・・ぅ〜〜〜(汗) なんで、いきなりこんなことになるかなぁ・・・』
じとっとした視線をアスティーに送りつける。
ここは『ラクティア』の“サティスの森”と呼ばれるところである。
アスティー『・・・(汗) だから、「VS反応」の発生源の力“だけ”を摘出するつもりだったんだけど、何かの大きな力の反応に遮られた。
で、失敗して力の媒体もろともこっちに引っ張り込んじゃった・・・って言って謝ってるじゃないの・・・』
本当にすまなそうな顔をしながら弁解するアスティー。
将士『・・・でも・・・なぁ・・・』
釈然としない彼を遮るように。
『お兄ちゃん!アスティーさんを責めちゃ駄目よ・・・』
彼らの背後に広がる草原から声。
そこには一人の、満面の笑みを浮かべた、一人の少女が立っていた。
フィーリア『・・・ここはいいところじゃない♪ 風も気持ちいいし、空もきれい・・・・・・って、私はここに住んでたんだけどね』
照れ隠しのように、はにかみながら言う少女。
その少女を見て、彼は疑問をひとつ尋ねてみた。
将士『・・・そういえば。「VS反応」の力だけをラクティアに連れてくるつもりで、失敗して僕がここにいるのはわかるんですけど・・・
・・・何で、フィーリアまでここにいるんですか?』
アスティー『ん? ああ・・・それはね・・・』
そういいながら、彼女は宝石を袋から3つ取り出した。
アスティー『いい? この宝石が、ラクティアに住んでいる人。で、こっちの宝石が、それ以外の星に住んでいる人だとするわね・・・』
赤い宝石を二個、緑の宝石を一個。 彼女の手のひらに置く。
アスティー『それで、さっき説明した「時空転紗」・・・つまりテレポートよ。 それはね、物体を転移させる際に
「時空珠(じくうせき)」っていう玉がある一区切りにつき、ひとつ必要なの。・・・・・・そして、その区切りは・・・』
言うと同時に、手の赤い宝石だけを握りしめた。
アスティー『同じ世界に住む者――で一区切りよ。』
将士・フィーリア『・・・・・・・・・・は?』
彼らの頭の上に“?”マークでも浮かび上がったかのような声を上げる二人。
アスティー『・・・例えば、私とフィーリアは“ラクティア”出身じゃない?・・・これでまず「一区切り」ね。 そして将士は“地球”出身
じゃない?これで「二区切り」よ・・・』
少しの間を置いてフィーリアが言う。
フィーリア『・・・でも、だとしても・・・どうして私まで連れてこられたんですか?同じ世界の出身者なら何人でもいいんですか?』
アスティー『あ、それはね・・・私が“時空転紗”を使った位置から、半径1km以内にいる人間を“強制的に”五人まで転紗できるの。
で、あの時私の近くにいたのは将士と、フィーリア・・・貴方よ。だから私はあの時“時空珠”を二つ使ったのよ。“ラクティア”の人間
と“地球”の人間がいたから・・・』
言いながら宝石を懐にしまいこむアスティー。
将士『う〜ん・・・わかったような・・・わからないような・・・』
首をかしげる将士。
アスティー『・・・とにかく、貴方はこの星に来たのよ。“ヴァリキュアス=スペンディー”の使い手として・・・ね』
彼女の一言に将士はさらに悩み、言う。
将士『あの・・・その“ヴァリキュアス=スペンディー”って何ですか・・・?』
アスティー『・・・あ、そうそう。・・・忘れていたわ、大切な事を・・・』
彼女は将士に近づき、彼の右腕をとり、その手に向かい詠唱をはじめた。
アスティー『・・・天を指する風の源生よ。今、汝の力を礎に・・・・・・』
詠唱とともに彼の右腕を包み込むかのように風が集まりはじめた。
将士『・・・えっ!?何・・・!?この風・・・・・・・・・・・・・・・!?』
アスティー『・・・じっとしてなさい!!』
ものすごい剣幕で怒鳴りつけるアスティー。
アスティー『・・・・・・今、この力を基に奇跡の力を呼び起こす鍵となれ!!』
一筋の閃光を放った後、彼の右腕に風がまとわれ、次第に消えうせた。
将士『・・・・・・・・・・・・・・・・・・?』
右腕を上げ、まじまじと見つめる。・・・無論、外部に異常は見られない。
将士『・・・あの・・・・・・一体なにを・・・・・・・?』
少し息を荒くしているアスティーに尋ねる。
アスティー『・・・ふぅ・・・ああ、“誓いの風”のこと?』
傍らにいた少女が口を開く。
フィーリア『・・・誓いの・・・・・・風・・・?』
アスティー『そう。誓いの風、それは・・・・・・』
将士『・・・それは?』
アスティー『“奇跡の剣”を呼び覚ます風。VSの力を少しずつ内部で抽出していき、やがて内部で増幅された力が耐え切れずに
外部に剣となって現れる・・・のよ』
将士・フィーリア『????』
アスティー『(汗)・・つまり・・・平たく言うと、自分の中から剣が出てくるのよ。・・・この世界を救える剣
“ヴァリキュアス=スペンディー”(VS)がね』
その説明で二人は納得したらしい。
アスティー『・・・まぁそれはともかく、早く出ましょこの森』
将士『・・・で、どこに行くんですか?』
アスティー『とりあえず、ここから東に進んだところにフィーリアの実家がある街があるから・・・とにかく、そこに行くわ』
フィーリア『・・・私の住んでいた街・・・』
何かを探るような面持ちで、空を見上げるフィーリア。
将士『・・・じゃあ、行きますか?・・・・・アスティーさん、その街の名前は?』
言いながらも一向は東に向かい歩き始めた。
アスティー『ん?・・・それならフィーリアに聞きなさい。ね?』
ちらり−視線を送る。 その視線をうけ・・・
フィーリア『アース・・・・・・アースティアだよっ、お兄ちゃん♪』
満面の笑みを浮かべながら、彼女は言った。
一行は、森を東に抜けて、徒歩にして約30分前後の距離にある街、アースティアに到達していた。
この街は、ラクティア5大公爵の一人“アルバート=アスペクト”が治める街である。彼の政治が
よいものであることは、この街の活気を見れば一目瞭然であろう。
将士『・・・うへぇ・・・賑やかな街ですね・・・・・・』
あっけにとられた表情で隣のアスティーに言う。
アスティー『当然よ。“緑と善政の街”の呼び名は伊達じゃないわ』
喧騒を見ながら言う。
フィーリア『・・・私が・・・住んでいた街・・・帰って・・・きたの・・・・・・』
感動を表に出し、思わず泣いてしまいそうになった時・・・
????『・・・アスティー!?』
彼女らの背後から声がした。 アスティーはすぐに振り向き。
アスティー『・・・久しぶりね。クライア』
言い、クライアと呼んだ女性と握手を交わす。 すると・・・
『・・・おねえ・・・・・ちゃん・・・・・・?』 か細い声。 涙をこらえているような声。
その声に、握手をしていたクライアという女性の手がピタリ、と。
クライア『・・・・・・・ま、さ・・・・か・・・・・』 驚愕の色。
声の張本人に近づき、顔を覗き込む。
−麻のような茶色の髪−
−上半身を覆う、ピンクのストール(類似品)−
−そして、その純真無垢な瞳−
それらを確認してすぐに彼女は、確信して言った。そして、フィーリアもまた。
クライア『フィーリア!』
フィーリア『おねーちゃん!!』
互いに名を叫びながら抱きしめあう。 二人の瞳からは大粒の涙がこぼれていた。
その光景を見ながら、ぽつりと。
アスティー『・・・・・・やっぱり、ね』
将士『・・・やっぱり?』
アスティー『フィーリアのことよ。最初から知っていたわよ、クライアの妹だってことも・・・』
将士『・・・どうして・・・・わかったんですか・・・・・?』
アスティー『・・・・・・それは・・・・・・・・・・』
将士『・・・・・・・・・・・・・・・』
アスティー『アスペクトっていう名前、そうそうあるものでもないし』
将士『・・・そうなんですか?・・・・確か、五大公爵家なんでしょ?』
アスティー『そうよ。・・・・・・もう、その財力たるやすごいのなんのって・・・』
感動をひとしきりに終え、姉妹がこちらにくる。
クライア『アスティー、将士さん・・・お二人を家へ招待したいのですけど・・・』
アスティー『ええ、ありがとうね』
将士『・・・いや・・・・そんなあつかましいこと・・・・・』
間髪いれず、そんな彼に抱きつくフィーリア。
フィーリア『来て・・・・・・くれるよねっ♪』
満面の笑み、その笑顔の迫力に負けて首を縦に振る将士。
アルバート『ようこそいらっしゃいました。私はこの館の主、アルバート=アスペクトと申します。以後、お見知りおきを・・・』
きらびやかな館の一室に将士たちは通されていた。 フィーリア姉妹の父に対面するためである。
アスティー『こちらこそ。私はアスティー=インクリスと申します』 一礼。
将士『あ・・・えっと・・橘 将士です。はじめまして・・・』 戸惑い。
“ピクリ”一瞬、アルバートの体が将士の名を聞いた瞬間、反応した。
アルバート『・・・・・・・・たち・・・・・・・・・ばな・・・・・・・』
何かを深く考え込む彼だったが、アスティーの目配りによって思慮を止めた。
将士『???』
アルバート『・・・なるほど、異世界の方のようですね。そのいでたち、その名前・・・』
納得するように話し出す。
アスティー『ええ。しかし、もっと驚くことがあります。』
アルバート『と・・・・いわれると?』
アスティー『・・・“ヴァリキュアス=スペンディー”を、彼が持っているということです』
アルバート『!?・・・・まさか!? 異世界の少年が!?』
アスティー『無論、通常ならありえないことです・・・が、もし“アスペクト”家の血の筋のものが彼のそばにいたならば・・・?』
アルバート『・・・フィーリア、ですね・・・確かに、それならば納得できます』
ちらり、横目で将士を見やる。
・・・と、彼の服の下から覗くネックレスに気付いた。
アルバート『な・・・!? これは・・・・!!・・・・これをどうしたんですか!?』
血相を変えて将士に問う。
将士『え?あ、これはフィーリアに貰ったんですよ。十歳の頃に』
チャラ・・・ネックレスを取り出し懐かしげに見つめる。
アルバート『・・・その時、娘は何か言っていましたか?』
将士『え・・・っと・・“このネックレスは、あなたを守ってくれます。・・・・・・いつまでも・・・”って』
その言葉に深く思慮しながら、ついついアルバートは口にしてしまった。
アルバート『・・・・・・天使の・・・・詫譲(たくじょう)・・・・』
そのつぶやきを半分聞いたとき、ふとドアが大きく開かれた。
クライア『お父様!! ・・・門の前に不審な人が!!』
アルバート『なんだと!?』
急いで、衛兵を呼ぼうとしたがアスティーがそれを制した。
アスティー『いえ、私“たち”が行きます!!』
冒険者なのでさすがになれているのか、とっさに身を乗り出しドアから外に出る。
将士『え・・・・・・?・・・私“たち”・・・・・・・・?』
即座に戻ってきて、将士の手を引きながら言う。
アスティー『・・・あなたも、よ・・・・・』
?『・・・・・っっしゃぁぁあっ!!!』
−バキィッ!!− そんな音があたりに響いている。
アスティーたちが外に出た時には、すでに駆けつけていた衛兵たちは、あらかた殴り倒されていた。
将士『・・・・うひゃー・・・強ぇ〜〜・・・』
その光景を目の当たりにして、思わず感嘆の声をあげる。
アスティー『・・・ふぅん・・・・・結構いい筋いってるじゃない・・・』
何か考えている感じで言う。
その間に、駆けつけてきた最後の衛兵はその男によって倒された。
?『・・・ふぅ。・・・・・さぁ、次はないのかぁ!?』
熱気冷めやらず、といった感じで肩を振る。 と、傍らから女の子が出てきた。
??『もう・・・直ったら・・・乱暴はいけない、って言ってるでしょ・・・・』
将士は今、気付いたのだ。 彼女らの服装が自分のものと大差ないことを。
そして無論、彼女らもそれに気付いたのだ。
直『・・・んなこといってもよ、佳奈・・・こいつらが聞いても答えてくれないからだぜ・・・それに・・・』
言いながら、将士たちを指差して言う。
直『・・・面白そうな奴らもいるしな・・・・』
将士『え?』
アスティー『・・・・ほぅ』
その言葉の直後に、誰も予想していなかったであろう事態が起こった。
屋敷にいたはずのフィーリアが、外に出てきていたのだ。 しかも、直と呼ばれる少年の近くに。
アスティー『な!? 何してるのあの子は!!』
佳奈『直・・・あの子なら答えてくれるかも・・・・・』
少しせきこんだ様子で言う。 うなずき、フィーリアの方に走る直。
将士『!! フィーリア、逃げろ!!』
その叫び声に促されるように後ろを向く、と先ほど衛兵たちを殴り倒した少年が自分に向かって走ってくる。
それを見、その場にしゃがみこみフィーリアは叫んだ。
フィーリア『きゃぁぁああっ!!』
そして、その叫び声は一転するとこうとも聞き取れた。
“お兄ちゃん、助けて”・・・・・・とも。
そこから先は、彼には記憶がなかったらしいが。
今さっきアスティーの隣にいたはずの将士が、800Mは離れていようフィーリアと直の間に割って入っていた。
アスティー『!?・・・・転紗・・・・?』
佳奈『え!?・・・・うそ・・・?』
驚愕の色が見て取れる二人。当然の反応だろうが。
直『お・・・・・・へっ、おもしれぇ・・・』
少々たじろぐ気配はあったが、すぐに切り替わる人。
フィーリア『・・・おにぃちゃん・・・・』
安堵の表情で彼の背を見やる人。
そんな少女の目に。 背中ごしに見る、彼の右腕に・・・