熱帯夜に響く、衣擦れの、音。
「……ん……」
帳の中の篝火に、蛾が身を投じて燃える。
のけぞるのは、女の白い肌。
じっとりと、滲んだ汗に、漏れる、あえぐ……。
「ぁ……っ、あぁ……ん」
のしかかる男の、亜麻色の髪がおちかかり、二重の帳が女をさえぎるが、声の響きをかき消すには及ばない。
触れた先から、白い肌には紅の痣が咲き、すいつくごとに、女は歓喜の声をあげる。
男は、さして感慨も無く、機械的に、痣を散らしていった。
唇を離し、白い肌を蝕む紅をじらすように指でなぞると、ひときわ嬌声をはなち、そのまま女の、意識が絶えた。
しどけなく無防備に横たわる女を一瞥し、男がその身を翻す。
火蛾の焦げる音が、無音の夜に響いた。
禍禍しく赤い月が、熱を帯びた闇に浮かぶ夏の夜。乱れたままの髪をかきあげて、衣の乱れを正す。
満たされることの無い身の置き所に迷い、男は、その館を離れた。
情事の後の火照った肌を、生温い風がなぶる。
泥の沼を歩くように、その足取りは重かった。
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