MasohKishin
〜the Lord of Elemental〜
+NOVEL+
小丑的抒情詩











 マサキの行方が、突然分からなくなった。


 昼夜を問わず愛機を駆り、手を尽くしても見つからなかった。









 と、いっても、捜しに行ったのはテュッティやミオ達だけで、僕はただ待っていただけだが・・・。


 今、僕の目は、見えない。



 未だ、魔装機神とその操者を、ラ・ギアスを脅かす者と誤解している輩がいる。
 最強の魔装機神に愛されるマサキは、他の僕ら3人よりも危険視されていた。



 目の前で起きた爆発からマサキを庇うことで精一杯だった。



 激しい閃光と、痛みを覚えるほどの熱。

 どちらも炎の精霊の管轄だというのに、情けない。







 世界が暗闇に閉ざされても、不安はなかった。
 傍らに、常にマサキの小さくて暖かい掌があった。
 僕に悟られまいと、必死で押し殺した嗚咽と共に、マサキは僕から離れることなく、 伏している僕の手をずっと握り続けていた。


 見えないことに不安はない。
 だが、一つだけ。

 マサキ・・・。
 お前は怪我をしてはいないか?
 あの爆発から、僕はちゃんとお前を護ってやれたのか?

 それが知りたい。





 僕に寄り添い続けて3日目。

 僕が浅い眠りから覚めた時、マサキの掌は、僕の手からいなくなっていた。
 まだ残っていた温もりを握りしめ、声が嗄れるまで名前を呼んだ。

 だが、何も返って来はしなかった。





 歯がゆく、不安に肺を押しつぶされそうな日が、3日続いた。


 そして、4日目。

 変わったばかりの日付が連れてきたかのように、マサキは帰ってきた。

 いつも通りの明るさに、虚構の気配があった。
 「夜中だから」と言い訳じみたことを言い、らしくない小声で喋る。 まるで、その声が掠れているのを隠すように。
 「連れて行きたいところがある」と言って、僕の手を握った掌は、前と変わりなく暖かい。 いや・・・、少し熱いくらいだった。

「マサキ・・・、お前、熱があるのか?」
「・・・んな事ねぇよ。それより、早く行こうぜ」



「お前が無事帰ってきたというのに、この胸騒ぎは何なんだろう・・・」



 後は黙りこくって僕の腕を引いていく。

 様子が変だとは思った。
 だが、マサキが行きたいと望むところならば、僕に否やはなかった。
 引かれるままに、その後をついて行く。



 不意に変わった気圧に、鼓膜が圧迫される。
 空気の壁を通り抜けたような感覚で、転移を知った。

「ちょっとまて、マサキ・・・、いったいどこへ行く気だ?」
「・・・・・・お前の目を治してくれる人のところ」
「目・・・?」
「腕は確かだから、何も心配しなくて良いんだぜ」
「まさかお前、その為に3日も・・・?」
「・・・うん。ヤンロンの目、どうしても治したかったから・・・さ」



 愛おしいと思った。

 だが、その一途さよりも、どんな危険があるかも分からない場所で、 ただ一人無謀な徘徊を3日も続けていた危機感の無さを危ぶむ気持ちが先に立った。

「お前は、ついこの間、 命を狙われたばかりだという自覚はあるのか!?」
「何かあったら、そん時はなるようにしかならねぇって」

 あまりにも事も無げに返された言葉に、我を忘れた。

「マサキ! お前という奴は・・・ッ!」

 僕を引く手を振りほどいて、掴みかかる。


 否、掴みかかろうとした。
 だが、マサキへ伸ばした腕は、途中で何者かにつかまれ、動きを止められてしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!?」
「私の研究室で暴力沙汰はやめていただけますか?」
「シュウ=シラカワ・・・!?」
「さぁ、目を見せて頂きますので、こちらへ・・・」
「なに・・・?」
「貴方の目を治すことの出来る唯一の人間、それが私ですよ。 マサキからは何もきいていないんですか? 彼がこの3日間何をしてい・・・・・・」
「シュウッ!!!」


 僕は、噛みつくようなマサキの叫びの理由を、 シュウが僕に何かしようとしたのを制止したのだと思った。
 だが、それが全くの勘違いだったと、後でいやと言うほど思い知らされる。
 無論この時の僕には、そんな事を知る術もなかったが・・・。





 目が治るのならば、どんな過酷な試練でも乗り越えるつもりでいた。
 見えなければ、グランヴェールに乗ることはおろか、 今マサキが笑っているのか、泣いているのか、そんなことさえ知ることが出来ないのだ。
 マサキが笑っていれば、何がそんなに楽しいのかを知りたい。
 マサキが泣いているのならば、何がマサキをそんなに哀しませているのかを知りたい。


 失明して初めて、見ることが出来なければ、文字通り、見守ることも出来ないと言うことを知った。
 だから、光を取り戻す為ならば、どんな事も受け入れるつもりでいた。




 シュウ=シラカワを信用したわけではない。 だが、他に手段が無いのならば、この男の治療を受け入れるしかないだろう。

 僕は覚悟を決め、言われるままに、身の自由をこの男に預けた。








 どれくらい眠っていたのか、分からない。
 麻酔の余韻で半覚醒のまま仰臥していると、シュウの声が少し離れたところから聞こえた。

「目が醒めましたか?」
「・・・・・・あぁ。まだ頭に靄が掛かったような感じだが・・・」
「じきに取れます。特に問題はありませんよ。 包帯は自分で取れますね?」
「あぁ」

 寝台から身体を起こすと、重い腕を上げて、両眼を覆う包帯を解いた。
 閉じた瞼の上からも、光を感じる。
 治った。
 だが・・・。

「交戦中に突然見えなくなるようなことはないだろうな?」
「なるほど、そういう手段がありましたか。 私としたことが・・・思いつきませんでした」

 揶揄とも本気ともとれる言葉に、声のする方を睨み付けた。
 開いたばかりの網膜に、光が押し寄せる。
 思わず眩しさに目を細めた。
 光のもたらす若干の痛みに耐え、ようやくいつも通りに広がった視界に、 シュウの傲岸不遜な顔がある。




 だが、それだけではなかった。




 僕は、文字通り、目を疑った。
 これはシュウが、僕の目に何らかの細工をして見せている、たちの悪い幻覚なのではないかと。

 そうとしか思えないのだ。

 シュウの白いコートの中。
 包まれるようにして抱かれているのは・・・・・・、


 細い裸身。




「これはきっと悪い夢だ・・・」






 仰向けに寝かされ、開いた脚の間への侵入を許し、そしておそらくは・・・、 覆い被さる者の雄を受け入れている。











 触れたことがないわけではない。


 だが・・・。



 僕は決して侵害しなかった。




 それほどに、大切だった。




「他人の情事を凝視するなど、あまり品の良い行為とは思えませんが?」
「シュウ!!! キサマっ!!!」
「誤解しないで頂けますか? これは、本人の希望なのですよ?」
「な・・・に・・・っ?!」
「正確に表現しなければ分かりませんか?  つまり、『マサキ=アンドー』は『ホワン=ヤンロン』ではなく、 『シュウ=シラカワ』を選んだということです」
「・・・・・・・・・・・・・・・な・・・!!!」
「ククク・・・残念でしたね。 もう、マサキは貴方の知っているマサキではありませんよ。 この3日間で、私無しではいられない身体になってしまいましたから」
「何・・・だと!!  では、マサキは今までずっとキサマに・・・ッ!!」
「ずっと私の下で喘いでいましたよ。・・・こんな風に」
「や・・・・・・・ッ! ぁうッ!」



 シュウの身体が突き上げるように動き、仰け反ったマサキから、甲高い悲鳴が上がった。




 怒りで脳裏が真っ白になった。




「そんな虚言に僕が乗るとでも思ったのかっ?!! キサマが無理矢理マサキを暴行したんだろう!!」

 怒鳴りながら掴みかかる。

 見せつけるように、シュウの身体が動いた。

 マサキの身体がしなる。堪える寄る辺を求めて、シュウの首に縋り付く。

「マサキの意志ですよ。そうですね、マサキ?」

 宥めるように、しがみつくマサキの髪を撫でる仕草が、手慣れているのが癪に障る。
 だが、怒りよりも、マサキの答えの方が気になった。

 マサキの意志などであるはずがない。
 違うと言うんだ、マサキ。
 お前が一言そう言ってくれれば、僕はお前がこの男から受けた苦しみを、何倍にもして返してやる。

「・・・ヤン・・・ロン・・・ッ」

 シュウの首筋に顔を埋めたまま、マサキが呼びかけてきた。
 その声は、痛々しいほどふるえている。

「マサキ、シュウに脅されているんだろう? そうなんだろう?」
「目・・・治って、良かったな・・・」
「マサキ、怒らないから正直に言うんだ。 シュウがお前を無理矢・・・」
「・・・これ・・・で、借り・・・返したから、な・・・ッ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」



 ちょっと待て。
 待ってくれ、マサキ。

 それは・・・どういう意味だ?!

 僕の目を治したかったのは、単に・・・貸しがあるのが嫌だっただけなのか?



「これで分かったでしょう? ここにはもう用はないはずですから、 帰って頂けませんか? 見られていると、マサキが恥ずかしがって緊張するものですから、 きつくて仕方がないんですよ」
「キサ・・・・・・っ!!!」
「貴方は、マサキがどれほど佳い器か、確認しようとはしなかったようですね。 何でしたら、一度くらい試してからお帰りになりますか?」
「い・・・イヤだっ! シュウ、嫌だッ!」



 はっきりと拒絶する言葉。
 頭に昇った血が、しんと冷えた。


 ・・・マサキ・・・、お前にとっての僕は・・・。


「ヤン・・・ロンっ! もう・・・帰れよっ! 早く!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「シュウ! てめぇも・・・ッ! 手・・・ぬいてんじゃねぇ!」
「おやおや、見られている方が感じるんですか、マサキ?  たった3日で、随分と淫らな身体になってしまったんですね?」
「・・・うっせ・・・、も・・・と、ちゃんと・・・犯れ・・・ッ!」
「お望み通りに・・・」
「あ・・・・・・、んっ! やぁ・・・ッ、んッ! ぁんッ!  あ・・・、シュ・・・ウ・・・、シュウッ!」



 シュウに責められて苦しむどころか、マサキは反対に痴態を晒した。
 たどたどしくも淫らに腰をくねらせ、恥ずかしげもなく濡れた嬌声をあげる。






 ただ、かけがえのない程に大切なだけだった。


 抱きたいと思った事がないと言えば、嘘になる。


 だが、それ以上に、お前が大切だった。

 僕の欲で汚すなど、思い付きもしないほどに。


 シュウよりも先に、お前を抱いていれば、僕はお前を失わずに済んだのか?


 シュウではなく、僕を選んでくれたのか?





 それとも、お前にとって僕は、最初から選択肢にも上らないような存在だったのか?


 僕が掴んで放さなかった腕を放せば、お前はもう泣いたりせずに幸せになれるのか?


 もしもそうならば、僕は・・・。



 僕は道化役に甘んじよう。





 だから、僕のいないところでも、お前はいつも笑っていてくれ。



 お前のために。


 僕のために。



::: 了 :::





 大切すぎて、想いの伝え方が分からなかった。

 でもそれで君が幸せなら、それでいい。




 ヤンロンはとても優しくて、そしてとても不器用だっただけです。




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