Dream of Darkness


 シオンの部屋のドアを叩く。木の乾いた音が、空間に響いた。

「シオン、ちょっといいか?」
「ああ、何だ?」

 声が聞こえ、それとほぼ前後せずにドアが開く。 部屋の中から覗いたシオンは、眼帯もいつもの赤いバンダナも外していた。 もうそろそろ眠ろうとしていたところらしい。

「悪い。寝るトコだった? 明日にしようか?」
「ン、まぁそうだけど、それほど眠いわけでもねえ。 別にかまわねえぜ」

 もともと愛想の良い方じゃないから、笑顔ではない。 でも、迷惑そうでもなかった。
 シオンの言葉に甘えて、ドアの隙間から身を滑り込ませる。
 その直後、思わず視線がシオンの格好に釘付けになってしまった。
 眠ろうとしていたのは間違いないらしく、 シオンは膝まで届く丈の長いシャツ一枚だった。 夜着用だと一目で分かるそれは、ゆったりとシオンの身体を包んでいて、 広く開いた襟元から見える鎖骨は驚くほどなめらかそうだった。 中途半端な長さの裾から見える脚も、妙に色っぽい。
 白いシーツのかかったベッドに腰を下ろす、白い夜着を纏ったシオン。 ナイトテーブルに置かれたスタンドの、淡い光にぼうっと照らされたその姿は幻想的で、 この世のものとは思えないくらい綺麗だった。

「・・・・・・? 何だ?」

 入った途端固まったまま動かない俺に、シオンは不審げに訊いてきた。

「あ・・・・・そうだ、これ」

 気まずくなりかけたその場を取り繕うように、 後ろに隠すように持っていた一振りの剣を差し出す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・盗品を俺の家に持ち込むなよ」
「ちゃんと買ったの! シオンにと思ってさ」

 上目遣いに俺を睨むシオンの隣に腰を下ろしながら、俺は「違う違う」と手を振った。
 まだ疑わしそうな視線を向けるシオンに、半ば押しつけるように剣を手渡す。

「結構したんだぞ? んで、どうよ? 俺の目からはそれなりなモンに見えたんだけど・・・」

 やっぱ、お前ほど目が利かねーからちょっと自信ないんだ。
 そう言ってシオンの顔をのぞき込んだ途端、心臓が跳ね上がった。
 シオンが瞳を輝かせて剣に見入っている。その顔がものすごく無邪気で・・可愛くて・・・。

「すげえ代物だぜ、これ。ここに彫り込んである紋章があるだろ?  200年くらい昔にこの辺の工房で作ってたヤツには、だいたいこれが入ってるんだ」
「んじゃ、これは200年前のモンってこと?」

 気を逸らすためにシオンの話に応える。声がうわずらないようにするのが大変だった。

「ああ、だけどこの刀身、見てみろよ。刃こぼれどころか”くすみ” すらねえ。 相当の腕の職人じゃねえと、ここまできれいには出来ねえ」
「さっすがクリューヌ兵隊長! まさに立て板に水だねぇ」

 茶化すように褒める。けど、シオンは、そんな俺のふざけた態度も耳に入らない様子だった。 まるで久しぶりに恋人にあったみたいな顔で、剣や鞘を鑑定している。


 ダメだ・・・。可愛すぎる・・・・・・。


 まるで引き寄せられるように、俺はシオンに口づけていた。


 カラン・・・・と軽い音がした。シオンがさっきまで持っていた鞘が、二人の足下に落ちている。

「・・・・ちょ・・・っ、・・・・・や・・・め・・・!」

 その音で我に返ったシオンが、押しのけるようにして俺の唇から逃れる。 必死に自分を拘束する俺の腕から逃げようとする。
 その身体を抱きすくめたまま、ベッドに倒れ込んだ。
 シオンの黄金の髪が、シーツにさっと広がる。

「・・・・・・・・・・犯らせて」
「!!」

 状況に付いていっていないシオンが、驚きに目を見張った。

「お前が欲しい」
「な・・・バカなこと言ってんじゃねえ!」
「バカかもしんないけど・・・・マジだよ、俺」

 言いながらナイトテーブルに手を伸ばすと、 そこに置いてあった剣・・・シオンの言葉を借りれば「すげえ代物」を手に取る。

「・・・・! デュ・・・」

 目の前に刃物を向けられたシオンは、思わず硬直した。
 でも俺は、シオンの知っている刃物の使い方とは違う使い方をした。
 自分の身体を割り込ませて開かせた膝の間から夜着の下に剣を入れると、一気に切り裂く。

「ッ!!」

 電撃を流されたような緊張に、びくんと身を震わせたシオンの身体は、 あっという間に露わになった。
 俺は何も言わずにその鎖骨へ舌を滑らせる。

「・・・・ッ・・・」

 シオンの身体にまとわりついている夜着の残骸を手際よく取り除きながら、 日に焼けた肌に舌を這わせる。
 その感触に感じてか嫌悪してか、シオンは身体を戦慄かせた。

「ふざ・・・けるなっ!」

 つかまれていた腕をふりほどいて、自分の上から俺を退かせようとする。
 肩をきつくつかまれた痛みを感じながら、その健康的な首筋に、未だに手の中にあった剣の切っ先を向ける。

「あんまり抵抗しないでよ。手加減できなくなっちまう」

 俺は笑っていた。自分でも何がそんなに楽しいのか分からなかったけど。 ・・・多分、もう半ば狂気に支配されかかっていたんだろう。
 そんな俺の顔を見れば、俺のこの行為が本気か脅しかすぐに分かる。
 恐怖に身を強張らせて、抵抗を止めたシオンの下肢を覆っていたものさえ剥ぎ取ると、 惜しげもなく肌を晒したシオンが、全て自分のものになったような気分になる。
 細い腰や脚を撫で、頬を寄せ、口づける。
 自分の身体を好き勝手にされても、シオンはじっとしていた。 それはもちろん、俺が剣をさげなかったせい。
 からかうように軽い調子で耳元に囁く。

「戦士が剣で脅されるなんて・・・・油断したな」
「てめぇ・・・・ッ!」

 今にも飛びかかりそうなくらい殺気立った眼で俺をにらみつける。

「好い顔だ。泣かせたくなる」
「ほざくな!」
「・・・・少しは色っぽい声出せないかな?」

 そんな俺の揶揄など聞こえない様子で、ギリギリと歯を食いしばって睨んでくる。

「なぁ、色っぽい声で泣いてよ」

 言いながら指を挿れると、シオンの全身の筋肉が一気に強張った。 腕や肩、脚がぶるぶると震え、顔が上気する。
 それが悦びのせいじゃないことは分かっている。 何の準備もせずにいきなりコトに及んだんだから、痛みは相当なモンだろう。
 おまけに俺は刃物を突きつけている。 そのせいでただでさえシオンの全身は緊張状態にあるのに、そこへ無理強いしたわけだ。
 分かっていながら、更に指を増やした。
 途端に、苦痛に耐えるために呑み込んだ息が、肺まで行かずに逆戻りしてくる。

「・・・ッ・・・! イ・・・ッ・・・・ァ・・・ッ!!」

 荒い息とともに唇から漏れた声は、思わず腰が砕けそうになるほど色っぽい泣き声。

「やれば出来るじゃねーか」
「・・・や・・・・ァ・・・・ッ! あ・・・・ウッ・・!」

 無慈悲に指をうごめかせると、左の青い瞳から涙がこぼれ落ちた。 噛み潰したような泣き声はますます艶っぽさを帯びてくる。
 抑制を失ってあげられる声は、どんなに佳い声なんだろう?  悲鳴だろうが、嬌声だろうが、堪らなく色っぽい声に違いない。

「もっと声、聴かせろよ」

 まるでそれを要求する合図のように、再度指を増やす。

「・・・・ふ・・・ッ・・ク・・ぅ・・・ッ!」

 乱れていく呼吸の端から抑えきれずに漏れる吐息の量が増えてきた。 でも、それでもなお、俺の要求に対して頑なに抵抗を続けている。

「可愛くないな」

 そんなふうには全然思ってないけど、素直じゃないっていうのは事実だ。 ホントは大きな声で泣き叫びたいくせに・・・。
 シオンがそんなに強情だから、俺もこんなコトをしてしまうんだ。

「泣けよ」
「・・・・・・・・・・・・ッ!!!」

 前をくつろげていきなり貫くと、まるで死後硬直のように、シオンの四肢が不自然に跳ねた。
 痙攣に近いその硬直を無視して奥へ進むと、上半身が弓なりに仰け反り、 細いあごが仰のいた。
 無防備に晒された首筋や胸元に口づけようと身を倒せば、結果的に一層シオンを穿つことになる。
 分かっていながら唇で胸元を犯すために、ぐっとシオンに覆い被さる。 当然俺の腰は一気に前進した。

「イッ・・・うあッ!! あ・・ああ・・ああああぁぁーッ!!!」

 容赦なく無理矢理に、これ以上進めないところまでくわえ込まされたシオンが、ついにオチた。
 何のためらいもなく声を解放する。涙を流し、シーツを掻きむしる。
 襲い来る蹂躙の激痛に耐えるシオンは、破滅的なほど美しく、そして嗜虐心をそそる。

「・・・・・・・・・・イかせてやる・・・・・」

 破壊してしまいたいくらいの激しい欲動に支配されて、俺は、残酷なくらい乱暴に下肢を動かした。


*  *  *  *  *  *



 唐突に目が覚める。
 覗き込むのは、琥珀色の長い髪、青い宝石のような瞳の持ち主・・・・。
 心配そうな表情を、ほっとした色に変えて、そいつは微笑んだ。

「よかった・・・・。気が付いたんだな。 すごくうなされてたから、今、ぶん殴ってでも起こそうと思ってたところだぜ」

 太陽のような笑顔。不可侵の天使。

 こいつは、ほんの欠片ほどにも俺を疑っていない。無垢で真っ直ぐな瞳で俺を見る。
 それを俺は・・・・こんなにも・・・・。

「顔・・・洗ってくる」

 いたたまれなくなって、ベッドを降りた。逃げ出すようにシオンの横をすり抜けると、 その髪から、肌から、暖かい日差しの香りが漂い、俺の鼻をふんわりとくすぐる。

 掴みかかって、押し倒してしまいたい・・・・・。




 キッドがいなくなり、ダグがいなくなり、 シオンのところで世話になるようになってから、もう1ヶ月・・・・。

 それが楽しかったのは、ほんの数日間だけだった。
 日を重ねるごとに、俺の中で何かが狂っていく。
 眠るたびに見る夢は、坂を転げ落ちるような勢いでエスカレートしていった。

 夢の中で出てくるのは、いつもシオンと俺だけ。

 そして、俺は、必ずシオンを無理矢理に・・・・。




 こいつはまだ、どれほど危険なヤツに己の懐を許しているか全く知らない。



 俺は、いつか本当に・・・・・・・。


+ Pray God...+

 ディープですね・・・(汗)。つーか、夢じゃなきゃ、ヤバい・・・。(いや、夢でも激ヤバだろ)
 う〜ん、この後どうなるのかなぁ? って、いや、これ続かないでしょう。多分これのみの単発で終わり。 これ以上書くと、ホントにシオン君の貞操がマジやばいですから・・・。

1996 (C)SQUARE Rudra's Mines
2002 Presented by FU-ByKA

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