LOVE is the sin..
chapter of DUNE


 シオンは、一言も交わすことなく、方舟に乗るとそのまま客室へ閉じこもった。
 ・・・・・当然だ。あんなことした俺と、二人きりになりたいわけがない。
 分かってるけど、心を切り裂かれるような哀しみを、消すことが出来なかった。

「ラミレス、月へ行ってくれ」
「なんじゃ、突然じゃのう?」
「行きたいってんだ・・・・・シオンが」
「シオン殿の用事じゃな。ほいほい、任せておけ。あっという間に連れて行ってやるぞい」
「あぁ。全速力で頼む」

 例え扉で隔てられているといっても、シオンと同じ場所にいるなんて、息が詰まって気が狂いそうだ。 俺は、一刻も早く月に着くことばかり考えていた。

「しかしヘンじゃのう? いつもだったらシオン殿もここへ来るじゃろう? どうかしたのかのう?」
「・・・・・・ちょっとな・・・・・」
「? なんじゃ? おぬしら、ケンカでもしたのか?」
「・・・・・・・・・・そんなトコ」

 曖昧に応えると、後はラミレスが何を聞いてこようと黙りを決め込んだ。 俺が詳しく話したくないのだと悟ったらしいラミレスも、2、3質問した後黙った。

「では、月までヒトッ飛びと行くかのう」

 地響きのような音をあげて動力部を稼働させると、後はラミレスの意識によるオートドライブだった。 今の俺に操縦を任せるのは不安だという、ラミレスの判断だろう。
 それに気付いた俺は、あっさりと操縦桿を放し、壁を背もたれに座り込んだ。

 「任せておけ」と言った割りに、ラミレスが余りスピードを出していないことに気付いたのは、 いくらも行かないうちだった。

「おい、ラミレス」
「何かのう?」
「手ぇ抜くなよ」
「何の事じゃな?」
「しらばっくれるなよ!」

 ついカッとなって怒鳴ってから、後悔した。この苛立ちは、ラミレスに対するものじゃない。 自分自身に対するものだ。俺の身勝手さに、俺自身がイライラしていた。 それをラミレスにぶつけてしまった。

「悪い・・」
「ほっほっほ。しおらしいデューン殿は返って気味が悪いのう」

 うなだれる俺のつぶやきに、ラミレスは軽い笑いで応えた。 その後に続いた、諭すような、でも労るような言葉は、 張りつめていた俺の心を一気に弛める。

「シオン殿と話してきなされ」
「・・・・・・無理だ。もう、シオンは・・・・・俺とは口を利いてくれない・・・・」

 情けないくらいうわずった声だった。 でも嗚咽を殺すのが精一杯で、声なんか気にできなかった。

「一体シオン殿と何があったんじゃ?」
「・・・・・・・俺・・・・・・・好きなんだ・・・・・」
「シオン殿を、かのう?」

 ラミレスが、驚くこともなく返した来たことに、俺の方が驚きつつも、黙って頷いた。
 それだけでラミレスは、俺とシオンの間に何があったのか・・・・と言うよりも、 俺がシオンに何をしたのかが分かったらしい。 自分がシオンに何かしたわけでもないのに、途方に暮れたような溜息をついた。

「何でまた、男のシオン殿に・・・・?」
「・・・俺さ・・、5歳の時に一目惚れした子がいるんだ。ホントに1度しか会ったことのない子でさ。 親父の仕事にくっついて、何度かその子に会った場所に行ったんだけど、会うことは出来なかった。 14年経つまで・・・・ね・・・・・」
「女性(にょしょう)だと思ったんじゃな?」
「間抜けな話だけど、当たり。・・・・・でも、男だったって知っても、 それでも好きって気持ちは変わらなかったんだ。自分でも異常だって分かってたけど・・・・。 でも、どんなに悩んでも、あいつを忘れることなんて出来なかったんだ」
「それで、デューン殿は、今、シオン殿にどうしてほしいんじゃな?」
「・・・・・許して欲しい。あんなことして・・・・・許してもらおうなんて、 虫がよすぎるのは分かってるけど・・・・・・もう、 ホントに絶対にあいつに触れたりしないから・・・・」

 自分で口走って、初めて自分がシオンに許されたいと思っていたことに気付く。 何て・・・・何て図々しい人間なんだ、俺は・・・・!

「ダメだ・・・・許してもらおうなんて思っちゃいけねーんだよな。 自分のしでかしたことをずっとちゃんと背負って行かなきゃ・・・・。 そのくらい、当然の報いなんだ」
「やれやれ・・・・根は深いのう」

 ラミレスの、困ったような溜息混じりのつぶやきが聞こえる。

「だ、そうじゃよ。何とか許してやってもらえんかのう、シオン殿?」

 愕然とした。思わず顔を上げて、反射的に入り口の方を見てしまう。
 そこには、いつもよりも無愛想な顔に、何の感情も浮かべてないで、シオンが立っていた。 左だけの、真っ直ぐな青い瞳が、ためらいもなく俺を見ている。

「・・・・・・・・お前は、多分、サイゾウと一緒なんだな・・・・・」

 思いもよらないくらい静かで穏やかな声だった。俺に対して、何の怒りもないような・・・・。
 でも、そんなはずはない。それだけのことを、俺はした。

「怒ってないと言えばウソになる。でも、憎んではいねえ。 ・・・・・・・・だから、そのうち許せると思う」

 それだけ言うと、シオンはきびすを返して出ていった。

「・・・・・・・・・・シオン・・・・・・・・・」

 有り得ないと思っていた言葉が、事も無げに、しかもこんなに早く聞けるなんて・・・・。
 これが夢なら、俺は魔物に魂を売り渡してもいい。このまま目覚めないようにしてほしいと思う。

「おお、デューン殿。そろそろ月に着くぞい。シオン殿に知らせてやってくれんかの?」

 呆然としていた俺を、現実に引き戻す一言。
 ラミレスの、その、何気なさを装った配慮が、悲しくなるくらい嬉しい。
 目に溢れてきたものに気付いて、俺は、慌てて立ち上がると、シオンの後を追った。

 シオンは、月に着いたらきっと何も言わずに方舟を下りる。 俺が今ここで、シオンの後を追わなければ、何の言葉も交わせないまま別れることになる。
 それじゃいけない。
 何を話したらいいかなんて、全然分からないけど、せめて「ありがとう」だけは言わなければいけない。

「シオン!」

 シオンはすぐそこにいるのだというのに、とてつもなく遠くに離れているように思えた。 この、距離を詰める時間ですら、もどかしかった。

「・・・・何だ?」

 当然、笑顔ではない。でも、迷惑そうでもなかった。もちろん、歓迎してもいないだろうが・・・。
 無我夢中で追いかけてはみたけれど、シオンの顔を見た途端、俺の心臓は急に足早になる。
 俺の声は、言い募ろうとしていた、いろんな言葉になる前に、全て喉元でとまった。

「え・・・・・と、その・・・・・・・もうすぐ、月に着く」

辛うじて出来たのは、ラミレスの伝言を伝えることだけ。

「そうか」

 シオンは興味のなさそうな顔つきでぽつりというと、客室へ戻っていく。

「あの・・・・シオン・・・」
「・・・・・・・」

 シオンに聞いてもらいたいことは、山ほどあった。それを抑えきれずに思わず呼び止めると、 シオンは無気力な眼差しを、無言で俺に向けた。
 俺はその視線に狼狽えながら、何とか一言だけ言った。

「あ・・・あのさ・・・・・ありがとう・・・・・」
「・・・・ああ」

 ふいと顔をそむけると、客室の扉の向こうへ姿を消した。 




 今俺とシオンを隔てた扉が必ず開くように、シオンは、心の扉をいつか俺に向かって開いてくれる。



 俺は・・・・・もう、それだけで・・・・・・。



- e n d -



 一応[situation 1]の方が、最初からあった「Love is the sin」の続編なのですが、 別のヴァリエーションとして書いてみました。 そのせいか、「結局、何だったのよ?」な話でスミマセン。

 すごい、未完っぽいですね、コレ(汗) ぽい、っていうより未完そのもの。
 デューンとシオンの関係も、サイゾウとシオンの関係も、 何の解決してないし。デューン、玉砕覚悟の大暴挙だったのに結局未遂だし。 しかも、シオンってば、サイゾウの時と態度違いすぎ・・・・。哀れな奴だな、デューンて。

 隊長とシオンの間に何があったのかは、秘密・・・つーかバレバレですね。
 シオンが、隊長にどこまでされちゃったのかは、ご想像(妄想?)にお任せいたします。



1996 (C)SQUARE Rudra's Mines +index+ 2003 Presented by FU-ByKA

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル