LOVE is the sin..
chapter 4


「・・・・・・・・っく・・・・・っ」

 ほんの一瞬の隙のために、下肢を俺の欲望に汚された屈辱のせいなのか、シオンはきつく唇を噛む。 内股を伝い、流れ落ちる欲望の感触が耐え難いのか、堅く閉ざされた瞳から涙をこぼす。
 歯に食い破られた唇が血を流した。
 その赤い色が、更に俺の拍動を乱す。
 顔を寄せ、シオンに相応しい真紅を、舌で拭い取る。鉄の味が口の中に広がった。
 そのまま唇を重ねようとしたとき、シオンが感情にまかせて怒声を吐いた。

「・・・っくしょ・・・ぉ・・っ! ちくしょぉー!!」
「あぁ、そうだぜ。俺は畜生だよ! お前を、こんな汚い目でしか見られねぇ獣だよ!  今頃気が付いたのかよ!!」
「許さねぇからな! 絶対に許さねぇ!」
「いいぜ・・・。許してもらおうなんて思っちゃいねぇ。思いっ切り憎んじまえよ、俺をよ。 他のことがなんにも考えられねぇくらいに俺を憎んでくれよ!!」

 ”どんな風でも良い。俺のことを・・・・”

 躰の奥底から突き上げてきた、魂の叫びのようなそれを、声に出した覚えはなかった。
 だが、シオンには聞こえたのだろうか? 不意に顔をあげた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!?」

 俺の顔を見た途端、驚愕の色を浮かべたシオンの脚が、俺を蹴り飛ばす力を緩める。
 俺はそのシオンの脚を捉え、切ないくらいの愛しさを抑えきれずに何度も口付ける。 うわごとのように言った。

「好きなんだ・・・。俺にも・・・もうどうしたらいいか分からねぇくらい好きなんだ。 たのむよ。俺に・・・、一度だけでいいから・・・」
「サイゾウ!? 何言って・・・・・」

 シオンの頬に、紅い雫がいくつも落ちる。 日に焼けた肌の上に、残る紅い染みが、自分のものであることに気付くのに時間がかかった。
 自分が泣いていると認識した途端、哀しさが暴走する。

「お前が欲しいんだよ。真剣に、冗談抜きで、お前を俺の物にしてぇ・・・。 もう、他の誰にも触れさせねぇようにして、俺だけの物にしてぇ・・・」
「・・・・・・・な・・・・」
「いやだろ? お前、そう言う汚ねぇ感情の対象にされるの・・・」

 涙が止まらない。それ以上に感情が抑えられない。切なくて苦しくて、 このまま心臓が潰れて死んでしまいそうなくらい心が痛い。
 そんな俺を黙って見守っていたシオンが、抵抗をやめる。 その瞳が、当惑と不安をごちゃ混ぜにした色を浮かべていた。
 こんなことをした俺のことを気にかけ、心配してくれるシオンに、更に心が痛む。

「最低だよな、俺・・・・。お前みてぇな真っ新な、きれいな心、持ってる奴にこんなこと・・・・」
「サイゾウ・・・・!!」
「でも、俺、自分を止められなくてよ・・・。 ホントはこんな事したくねぇんだ。なのに、自分でも抑えられねぇ・・」

 何の解決にもならない。それでも俺は再びシオンの脚を開かせていた。

「やめろ! サイゾウ、こんな事に何の意味があるんだ!!」
「もう終わりにする。お前には、ホントに悪いと思ってる。でも、もうどうしようもねぇんだ。 終わらせてくれよ」
「サ・・・・・・」
「好きだ。お前には酷いことしちまってるけど、ホントに好きなんだ!  どんなヤツよりも何よりも好きなんだよ!! 他に何も信じてくれなくても良い。 これだけは信じてくれ。俺はお前が好きなんだ!」

 多分、感情が高ぶっている俺の言葉は、叩き付けるように乱暴で、 シオンはそれに気圧されてしまっているんだろう。 ただ、瞳を大きく見開いて、俺を見つめることしかしない。

「二度とこんなことしねぇ。絶対にしねぇ。これっきりだ。 だから・・・・だから抱かせてくれ。お前を・・・!!」

 シオンの細い両脚を肩に担ぎ上げ、その腰を引き寄せる。
 やっと我に返ったかのように、シオンが身をよじった。 だが、その抵抗は、先ほどのそれに比べて、ずいぶんとおとなしい物だった。 覇気のない、何かをむずかる子供のように躰をよじる。

「シオン・・・・」

 血の気を失い冷え切ったシオンの頬に、そっと手を添えた。 逃れようという意志表示程度の抵抗しかしないシオンの顔は、 簡単に、少し力を加えただけで俺の方へ向きを変えられる。

「・・・・・・・サイゾウ・・・」

 静かにシオンが呟いた。その瞳には、先ほどまでの激しい怒りの感情は一切見られない。 どちらかというと無表情。感情を失ったような、静かで虚ろな瞳が、まっすぐに俺を見つめてくる。
 ふいに、顔に添えられた手をはがそうとしていた腕が、床に落ちた。

「・・・・・・・・!?」

 何が起きたのか、と狼狽える俺の目の前で、シオンは目を閉じた。 そして、躰から一切の力を抜く。全てを俺に委ねて来た。

「シ・・・・・・・シオン・・・・・・・・・・!!」
「さっき・・・・、力・・抜けって言った」
「・・・・な・・・・・」
「お前が言ったんだろ?」
「・・・いいのか? シオン。抱いて良いのか!?」
「いい・・・。サイゾウなら」

 その、あまりにまっすぐな、偽りの欠片もないシオンの言葉が、かえって残酷に俺を貫いた。
 今、シオンは俺の下にいる。力ずくで組み敷かれて、抵抗も叶わなかった。 無力なはずなのに・・・それなのに、今のシオンは他の何者にも覆されることのない強さがあった。
 一度止まった涙が、ドッと堰を切ったようにあふれる。
 きっと、全てを包み込む暖かい光のようなシオンの前に、 俺はただの子供ほどの力すらも持ち得ない。出来ることは、ただ泣くことくらいで。

「・・・・・・・だめだ・・・・・。 やっぱり・・お前は、こんな俺みてぇな薄汚ぇ野郎に汚されちゃいけねぇ・・」

 自分の過ちに、今初めて気がついた。 いや、ずっと前から分かっていたはずなのに、激しい欲情がそれを掻き消していたのだ。

 シオンは、永遠に潔癖である存在・・・。

 俺は、シオンを見ることが恐ろしかった。 顔を上げて、俺が汚れた視線を向ければ、きっとシオンはそれだけで汚れてしまう。 それが恐ろしくて、顔を上げられなかった。 床を這いずってシオンから離れる。
 後悔と激しいまでの罪悪感が突き上げ、心が張り裂けそうだった。 自分を痛めつけ、違う痛みにすり替えることでしか、この痛みは耐えられない。 何度も何度も床に額を打ち付ける。
 不審そうなシオンの声が聞こえた。

「・・・・・サイゾウ?」

 そっと手が差し伸べられる気配に、全身の鳥肌が立つほどの恐怖を覚えた。
 俺に触れたら、シオンが汚れる!

「触るな! 俺になんか触っちゃいけねぇ!!」
「サイゾウ? どうしたんだ・・・・?」

 シオンの声は、不安の色を含んでいた。 その唇が俺の名を紡いだの聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った。
 シオンが俺の名を呼ぶなんて・・・そんなことをしたら、シオンの声までが汚れてしまう・・・!

「ダメだ!! 俺なんか見るな! もう忘れろ! 俺のことなんかきれいさっぱり忘れちまってくれ!!」
「ま・・、待てよ、サイゾウ!」

 決してシオンを見ることの無いように顔を伏せたまま、 後ろへじりじりと下がってシオンとの距離を離した。 ノブが触れた瞬間、俺の恐怖は留め金を失った。
 はじかれたように飛び出そうとする。
 シオンは、その俺の腕を掴んだ。

 駄目だ、シオン! 手を離せ!

「待てよ、サイゾウ! もっとちゃんと説明し・・・・」
「だめだ! 触るな! はなせ!」
「どうしたんだよ! ちゃんと言ってくれ! そんなんじゃ分からねえ!」

 どうだっていいじゃねえか、そんなこと! 早く・・・・早くその手を離さないと、お前が・・・・!!

 もう、俺の頭の中には、恐怖しかない。腕を掴むシオンの手の暖かさが、何よりも怖かった。 背を向けたままで、必死でシオンを振りほどこうとする。 なのにシオンは、しっかりと俺の腕を掴んで許さなかった。

「うああぁあぁぁっ!!!」

 俺の中で何かが切れた。

「・・・・・・・!!?」

 そんな俺に驚いて、思わず身を引こうとしたシオンを、俺は乱暴なくらい強く掻き寄せていた。

 もうどうでもいい。
 何もかもどうでもいい。
 この後どうなるかなんて、もう関係ない!

 自制心も理性も何もかも放棄した。
 何が起きたのかを判断する暇も与えず、シオンの口を塞いだ。
 息もさせないくらいの勢いで強く強く吸い上げる。唇をかみ、舌を絡ませ、吐息を奪う。

「・・・・・んんっ・・・・!!」

 腕の中でシオンが、苦しげな呻き声を漏らし、胸を強く押してきた。 それに応えて、ほんの少しだけ唇を離し、合わせる角度をずらす。
 だが、そんな、ほんの一瞬の別離ですら今の俺には耐え難く、 再び唇を覆うと、貪るようにシオンの口内を支配した。
 舌の絡む感覚が、得も言われぬ快楽をもたらし始める。 恍惚とした意識の中で、俺は背筋を震えが駆け登るほどの悦びを感じていた。

 俺にすがるシオンの手から、力が抜けていく。
 それでも俺は、シオンを求めるのをやめられなかった。こんな程度じゃ全然足りない。 もっとシオンが欲しい。
 ずっとこうしていたい。もっと深くまで行きたい。シオンの奥へ・・・。
 少しでも多くシオンを味わうために・・・。
 シオンを奪うために・・・・。




 ふいにシオンの躰から力が失われる。

「・・・・・・・!?」

 ぐったりとしてしまったシオンから、慌てて口を離すと、その躰を抱き留める。

「シオン!?」

 頬を軽く叩きながら名前を呼んだが、反応はない。 シオンは完全に泥のように眠ってしまっていた。
 多分、抑制を失った俺の口付けは、シオンには堪えられない次元のものだったのだろう。

「・・・・・・・・・」




 不意に、このままシオンが死んでしまうような気がした。
 眠るように静かに、息を止めてしまうような気がした。
 シオンは、汚れのない世界でしか生きていけない。
 俺の欲望で汚れてしまったシオンは、きっと俺が汚した部分から徐々に死んでいってしまうのだ。
 何も変わらず、誰にも分からないけれど、少しずつ少しずつシオンの細胞は「生」を放棄していって、 明日の朝、目覚めるはずの時間には、きっとシオンの「時」は止まってしまっている・・・。

 そんなことはあるはずはない。だが、シオンの、綺麗で無垢な寝顔をじっと見つめていると、 それが現実のものになってしまいそうな気になってくる。

 壊れ物を扱うように大切に抱き上げ、ベッドにそっと寝かせてやる。
 一糸まとわぬ産まれたままの姿のシオン。
 その肌には、俺が付けた陵辱の跡が点々と残っている。 酷く噛んだ所は、うっすらと血が滲んでいた。 下肢には、俺の欲望がねっとりとまとわりついている。
 己の過ちの痕をまじまじと見せつけられたような気がして、顔を背けた。堅く目を閉じる。

 取り返しのつかないことをしてしまった。

 身を裂かれるほどの苦痛を伴う後悔が、体中を責め苛(さいな)む。
 そんなにまで自分を責めながら、目を閉じれば、またその瞼の裏で、シオンが自分に汚されている。
 後頭部を殴りつけられたような激しい頭痛に襲われ、俺は頭を抱えその場にうずくまった。 痛みのあまりに、吐き気がこみ上げてくる。
 胃がちりちりと焦げるような不快な感覚を、躰を二つに折って耐えた。
 そんなときでさえ、俺の脳裏からはシオンが離れない。

「・・・・・・・あぁ・・・・・・・ちきしょ・・・・ぉ・・・・・・・」

 自分は汚らわしい奴だ。
 天使に欲情する悪魔。神を犯す魔物。
 自分の願望が、許されるべきでないものであることは分かっている。
 だが、頭では分かっていても、躰は言うことを聞かないのだ。
 どんなに望むな、といい聞かせても、俺の躰はシオンを求めて熱くたぎる。
 頭の芯が痺れ、躰がまるで何かに支配されたように、自由が利かなくなる。

「ちきしょ・・・・・っ!!」

 いけないことだとは、分かっている。それでも・・・・。

 気がつくと、ゆっくりとシオンの下肢へ顔を近づけていた。 その内腿、下腹部、そしてシオン自身にまとわりつく自分の性欲を、舌で拭おうとして。
 そっと近づけた自分の舌が、シオンをその先でなぞる。
 ぴちゃ・・という卑猥な音が、静まり返った空間にやたらと大きく響いた。

 その音で、我に返る。

 弾かれたようにシオンから離れると、浴室に逃げ込んだ。
 頭の中がぐらぐらする。目眩がして、そのまま倒れそうだった。
 口から飛び出しそうなくらいバクバク言っている心臓を必死で鎮める。



 長い時間をかけて、躰に起きたたくさんの異常を落ち着けると、震える手で辺りを探った。
 タオルの中でも特に柔らかいものを選び、熱い湯に浸す。
 よく絞ると、シオンの横へ戻った。
 相変わらず、シオンは身じろぎ一つしないで眠っている。 その下肢へ、おそるおそるタオルをあてた。
 反応はない。
 少々の刺激を与えても起きないことを確認してから、己が放った欲望を、己が触れた部分を、 念入りに何度も拭った。
 シオンの躰に、穢(けが)れを微塵も残さぬように・・・。

 だが・・・・・。

 こんな事をしても、シオンに付けてしまった己の汚れは消えない。
 もう、シオンは二度と純潔に戻ることは出来ないのだ。
 本来ならば、一生そのままで、汚い欲望などとは無縁でいられるはずだったのに・・・・。

「シオン・・・ごめんな・・・。俺・・・ホントに・・・ごめん・・・」

 タオルと一緒に持ってきたきれいな衣類を、自分が汚してしまったその躰に着せてやる。
 だが、どんなに綺麗なもので隠しても、今更もう遅い。シオンは、自分に汚されてしまったのだ。
 誰よりも、何よりも、清らかなままでいて欲しかったのに・・・・。



   もう近づかない・・・・。

   欲しいと望んだりしない・・・・。

   だから・・・・

   だから・・・・・
   どうか、死なないで・・・・




 祈りながら、泣きながら、シオンの髪を何度も何度も撫で続けた。





Kill me , please ...






 う〜ん、話の収拾がついてないですね…。果たしてこの続きはあるのか?!  多分無いでしょう。(おい)  とりあえず、読んでしまわれた方、済みません。m(_ _;)m

 実はこれの原文、かなり古いです。 1999年7〜9月にかけて、HTMLのお勉強用題材として書きました。(どんな題材や!?)
 ちょうどサイ*シーに目覚めた頃で、 「サイゾウさんは、どんな風にシオン君が好きかな」 って感じで書き始めたんですが、こんなハードな話になるとは思わなかった…。
 つーか、chapter2で止めときゃよかったんですよね。 実際書いたときにもそこで一応区切り付けたし。

 かなりやっばい話ばっかり書いてますが、隠れキャラの人格を疑わないでくださいね(汗)

1996 (C)SQUARE Rudra's Mines +index+ 2002 Presented by FU-ByKA


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