翠玉の檻
〜Emerald Prison〜
[6]
−夢魔−
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「さぁ、口に出して言ってごらんなさい。私に従うと!」
重い低音で、脅すように強要する。
だが、シュウの暴虐な行為に怯えながらも、少年は首を縦に振らなかった。
瞳に涙をいっぱいに溜め、青ざめて微かに震え、それでもなお、挑むようにシュウを睨み返す。
「…殺され…たって、言…わねぇっ!!!」
「そうですか。言っても無駄ならば…、
こうするしかありませんね!」
「…ひっ! い…ッ! うぁ…ああぁっ!!」
「痛いでしょう? 苦しいでしょう? さぁ、言いなさい、
この私に服従すると。そうすれば楽になれるんですよ?」
「あ…あぁ…っ! う…ぅっ! や…だっ!
いや……ッ、言わね…っ!」
「その強情さ……後悔させてあげますよ!」
「あああぁああぁぁっ! や…ああぁぁっ!
あ…うあ…ああああぁぁぁ!」
喉が裂けそうなほどの悲鳴さえ黙殺し、シュウは目の前の身体を蹂躙した。
+ + +
幾度、その身体を犯したのか。
そんなことはもう、分からなかった。
どんなにシュウに責め苛まれても、少年は屈服することなく抗い続けた。
激しい行為に痛めつけられ、耐えきれず意識を失うその時まで。
ぐったりと投げ出された身体は、欲望と血に汚れている。
どれ程に情け容赦のない冒涜を受けたのか、一目で分かる姿だった。
指一本すら動かすことのなくなったその様子を見て、シュウは漸く、暴行を止める。
だが、自らを退くことはせず、繋がり合ったままで、微かな吐息を漏らす顔を見下ろす。
「…………………」
泣き腫らした瞼。
涙に濡れた頬。
晒された暴力に怯え、青ざめた顔。
裂けるほどに叫び、吐息と共にすきま風のような音を立てる喉。
「私は……一体、何をしているのでしょう…?」
汗と涙に濡れ、頬に貼り付く髪をそっと指で梳く。
心から愛おしいと想う人と、寸分違わない寝顔。
幼稚な苛立ちに駆られて、暴虐の限りを尽くして、一体その結果、自分は何を得たのか。
「……貴方を…冒涜するつもりなどありません…。
マサキ…」
寝顔の向こうに見える、本当に愛おしい人の名を、そっと呼ぶ。
「ですが……。ですが、マサキ…、私は…弱い人間なんです。
ですから…、この身体を……貴方の代わりにして、良いですか…?」
問い掛けても、あるはずのない返事。
当然、シュウの声は、ただ寂しく周囲の空気を震わせるだけだった。
「う……ぅ…っ!」
胸を締め付ける痛み。
「…マサキ…、愛して…います…」
力無く投げ出された四肢をそっと抱き締める。
今までの暴行の欠片など、どこにもない優しさで、シュウは『マサキ』を抱いた。
+ + +
双肩に、降り落ちてくるような冷気を感じる。
ああ、そうか。マンションのロビーで倒れて…。
瞼を閉じたまま、半ば覚醒した脳裏で、シュウは冷気の理由を思い出した。
冷気を感じるほどの時間、ということは、恐らくまだ早朝。しかもかなり早い時間だろう。
他の住人に無様な姿を晒す前に、部屋に戻らなければ…。
全身が鈍い疲労感に包まれていて、正直なところ、身動きをするのですら億劫だったが、
ここで、このままにしている訳にはいかない。
シュウは、怠惰な身体を鼓舞して、重い腕を上げた。
あとは、冷たいフロアに手を突いて、身体を起こすだけ。
の、はずだった。
だが、掌に覚えるのは、柔らかいシーツの感触。
「……………?」
面倒で仕方がなかった。
だが、不可解な状況を確かめるには、目を開けてものを見て、
網膜に得た情報から、ことの経緯を判断しなければならない。
何故、ロビーにいるはずの自分が、ロビーにいないのか。
目を開きさえすれば、全て分かるのだろう。
そして、シュウは瞼を上げる。
「………な…、……あ……っ」
そこにあったのは、シュウにとって『その人の、一番見てはいけない姿』だった。
歯が噛み合わない。
がたがたと、不規則な音を立てる。
この場から逃げ去りたくても、軟弱な膝は、使い物にならなかった。
目の前の光景から目を反らしたくても、まるで呪われてしまったかのように、視線を外せない。
死んだように眠る。
その…。
「…そんな…、そんな…! 嘘です…!
そんなはずが…!」
『シュウ』に穢された『マサキ』の姿から逃れる力すら失い、シュウはただ、震え続けるだけだった。
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1996
(C)BANPRESTO/WINKY SOFT
Sep.2006
Presented by FU-ByKA
す…すみません!!! 表の方で続いてます!! m(_ _;)m゜