小丑的抒情詩
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「さぁ、目を見せて頂きますので、こちらへ…」
「なに…?」
「貴方の目を治すことの出来る唯一の人間、それが私ですよ。 マサキからは何もきいていないんですか? 彼がこの3日間何をしてい……」
「シュウッ!!!」

 僕は、噛みつくようなマサキの叫びの理由を、 シュウが僕に何かしようとしたのを制止したのだと思った。
 だが、それが全くの勘違いだったと、後でいやと言うほど思い知らされる。
 無論この時の僕には、そんな事を知る術もなかったが…。


 目が治るのならば、どんな過酷な試練でも乗り越えるつもりでいた。
 見えなければ、グランヴェールに乗ることはおろか、 今マサキが笑っているのか、泣いているのか、そんなことさえ知ることが出来ないのだ。
 マサキが笑っていれば、何がそんなに楽しいのかを知りたい。
 マサキが泣いているのならば、何がマサキをそんなに哀しませているのかを知りたい。

 失明して初めて、見ることが出来なければ、文字通り、見守ることも出来ないと言うことを知った。
 だから、光を取り戻す為ならば、どんな事も受け入れるつもりでいた。

 シュウ=シラカワを信用したわけではない。 だが、他に手段が無いのならば、この男の治療を受け入れるしかないだろう。

 僕は覚悟を決め、言われるままに、身の自由をこの男に預けた。


 どれくらい眠っていたのか、分からない。
 麻酔の余韻で半覚醒のまま仰臥していると、シュウの声が少し離れたところから聞こえた。

「目が醒めましたか?」
「……あぁ。まだ頭に靄が掛かったような感じだが…」
「じきに取れます。特に問題はありませんよ。 包帯は自分で取れますね?」
「あぁ」

 寝台から身体を起こすと、重い腕を上げて、両眼を覆う包帯を解いた。
 閉じた瞼の上からも、光を感じる。
 治った。
 だが…。

「交戦中に突然見えなくなるようなことはないだろうな?」
「なるほど、そういう手段がありましたか。 私としたことが…思いつきませんでした」

 揶揄とも本気ともとれる言葉に、声のする方を睨み付けた。
 開いたばかりの網膜に、光が押し寄せる。
 思わず眩しさに目を細めた。
 光のもたらす若干の痛みに耐え、ようやくいつも通りに広がった視界に、 シュウの傲岸不遜な顔がある。

 だが、それだけではなかった。

 僕は、文字通り、目を疑った。
 これはシュウが、僕の目に何らかの細工をして見せている、たちの悪い幻覚なのではないかと。

 そうとしか思えないのだ。

 シュウの白いコートの中。
 包まれるようにして抱かれているのは……、


 細い裸身。


 仰向けに寝かされ、開いた脚の間への侵入を許し、そしておそらくは…、 覆い被さる者の雄を受け入れている。


 触れたことがないわけではない。


 だが…。


 僕は決して侵害しなかった。


 それほどに、大切だった。


「他人の情事を凝視するなど、あまり品の良い行為とは思えませんが?」
「シュウ!!! キサマっ!!!」
「誤解しないで頂けますか? これは、本人の希望なのですよ?」
「な…に…っ?!」
「正確に表現しなければ分かりませんか?  つまり、『マサキ=アンドー』は『ホワン=ヤンロン』ではなく、 『シュウ=シラカワ』を選んだということです」
「……………な…!!!」
「ククク…残念でしたね。 もう、マサキは貴方の知っているマサキではありませんよ。 この3日間で、私無しではいられない身体になってしまいましたから」
「何…だと!!  では、マサキは今までずっとキサマに…ッ!!」
「ずっと私の下で喘いでいましたよ。…こんな風に」
「や……ッ! ぁうッ!」

 シュウの身体が突き上げるように動き、仰け反ったマサキから、甲高い悲鳴が上がった。

 怒りで脳裏が真っ白になった。
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