ラウラの詩
〜中編・1/6〜

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 世界から、『色』が無くなった。

 見えて、聞こえて、触れられたら感触もあるけど、それが持ってる『意味』を感じない。

「愛していますよ、マサキ」

 耳元で聞こえる囁きは、どんな『想い』を含んでいるのか。

「教えて下さい、マサキ…。そこまでして拒むほどに、私は貴方に厭われているのですか?」

 目の前の顔は、何故こんなに歪んでいるのか。

「ちょっと研究で無理をしてしまいました。横で休ませて頂いてもよろしいですか?」

 すり寄ってくる、俺より体温の低い身体は、そこで何をしているのか。

「貴方の感情(かお)が見たいんです。憎しみでも蔑みでもいいですから…どうか…」

 熱いしずくは、何故俺の上にこぼれ落ちてくるのか。


 何も分からない。


 何も感じない。


 抱き上げられて、長い腕と広い胸に包まれて、鼓動を聞く。
 でも、ただ聞くだけ。
 俺の中には、何も起きないし、何も産まれない。

「今日は、一緒に外へ出ましょう。とてもいい風が吹いていますよ」

 聞こえた声に『色』は付いていない。

「貴方に触れるのは、これで……最後にしますから…今日だけは…」

 降ってくるしずくの『意味』は分からない。

 網膜を刺す明るさが、ここが『外』というものだと告げる。
 肌をよぎる涼しさが、それが『風』というものだと知らせる。

 でも、色は見えてこない。

 穏やかな『風』が身体を包む。
 俺に向かって吹き続ける『風』には、何故かどれだけ受け止めても冷たさや寒さを感じない。
 俺と同じ温度の『風』が、ずっと俺の身体を凪いでいく。


 『風』って、何色だったっけ?


 強くて。

 優しくて。

 自由で。


 あぁ…そうだ。

 白銀色…だった。

 空を掴むみたいな大きな翼…。


 いつも一緒にいた。

 離れるなんて、考えたこと無かった。


 『サイバスター』。


 お前のところに、帰りたいな。

 でも…。

 帰る場所なんて、もう残ってないよな?

 サイバスターだって、怒ってるよな?
 俺、勝手にお前から降りちまったから…。


 それに…ヤンロンだって…。


 正直言うと俺…、もう全部諦めてるんだ。

 だって、今更元には戻れないだろ?

 もう…俺は、今までの俺じゃなくなっちまってるんだから。
 昔の俺に戻ろうとしたって、もう絶対に戻れはしないんだから。

 だから、元の場所に戻ったって、元通りになんてならない。


 人の気配を感じて、顔を上げた。
 目に入ってきた紫のせいで、陰鬱な気分になる。

「……マサキ…?」

 返事をするのが面倒で、黙ってた。

「気分は…どうですか?」

 いいわけねぇだろ? 誰のせいでこんなことになっちまったと思ってるんだよ?

「…やれやれ…、あくまでも、私のことは無視ですか?」

 …うっせぇな、返事するのが面倒なだけだっての。

 かったるかったけど、それでも一応睨み付けてやったら、シュウの顔から表情が消えた。
 機嫌損ねたかな?
 でもヤンロンの目が治った今、もう、別にこいつが怒り出そうが何しようが、俺には関係ない。

 何を考えてるのか分からなかった。とにかくシュウは無表情で押し黙った。

 そして…。

 長い沈黙のあと、シュウは事も無げに、吐き捨てるように言った。


「そろそろ貴方にも飽きました。出て行って頂けますか?」


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