ラウラの詩
〜中編・2/6〜

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 あ………?


 まぁ、さ…。
 相手が「シュウ=シラカワ」なんだから、そういう可能性もあるかなって思ってたけど、さ。

 「やっぱり」って思わなかったワケじゃないけど、さ。

 さんざん俺を振り回して、苦しめて、後戻りできないところまで引きずってきておいて、 今更、そういうことを言うわけかよ?
 何なんだよ? それ?
 そんなの許されると思うか?

 キレるなっていう方がムチャだよな?

「ふ〜ん…、お前がさんざん主張してた『愛』って、そんなもん?」

 自分でもビックリするくらい、感情のない声だった。

「………………」

 シュウも、はっきりと分かるほど驚いた顔をしてた。
 俺だって、こんなキレ方したのは、初めてだ。

「薄っぺらいんだな」

 怒りとか憎しみとかじゃない。

 ―─悪意。

 もう、そればっかりが溢れだしてきた。
 目の前の、この野郎を、思う存分気が済むまでけなして、傷付けてやりたい。

「結局、お前の言ってた『愛』って、自分が一番なだけだったんだろ?  欲しいモン、我慢できなくて、駄々こねてるガキと一緒だよな?  天才科学者とか呼ばれて、インテリぶってるクセに、中身はそんなもんかよ?」

 多分、俺は今、見下すような笑みを浮かべてる。
 シュウ=シラカワに向かって。
 こいつはそうされたって仕方ない人間だから、どれだけ罵倒したって構わないんだ。

「お前なんかが、『愛』とか語るんじゃねぇよ」
「……………………ッ」

 眉間に皺を寄せて、悔しそうに唇を噛みながら、シュウは俺を睨んだ。
 俺は、その視線を正面から受け止めて、笑い飛ばした。

「はッ! 何だよ? この期に及んで、 まだ『自分の愛は本物だった』とか言いたいのかよ?」

 「笑う」っていうより、「嗤う」?
 嘲笑いながら、蔑む言葉を吐き捨てた。

「……貴方に、何が分かると言うんです…?」

 爆発しそうな程の激情を押さえ込んだ、重い、腹に響く声だった。
 でも、その危険な色を帯びた言葉は、俺の中をカッと熱くした。

「ざけんなよ! 分からなかったら何だってんだ?!  てめぇこそ、俺の何が分かるってんだよ!」

 衝動に任せて、シュウの胸ぐらに掴みかかった。


 その瞬間。
 目の前に赤い靄のようなものが飛び散った。


「……え…?」
「─────ッ!!」

 雰囲気に呑まれたその一瞬に、シュウが俺を突き飛ばし、自分も俺から飛び退いた。

 何が起きたのか、分からなかった。
 呆然としてた意識が、だんだん冷静になって、そこでやっと、 飛んでもないことが起きたんだと分かった。

 俺と、シュウとの間にある距離。

 その間の床に、赤いいびつな線が出来ていた。

 その線は、俺のところから始まって、シュウのいるところで止まっている。
 止まっているんじゃなくて、「線」から「点」に替わっていた。

 大きな…「血溜まり」っていう、「点」に。

「…ご存じないんですか…?  『呪詛』というものは…、呪われた側に回避された場合、 呪った側に…返ってくるものなんですよ」

 ロングコートの白い袖が、真っ赤に染まっていた。
 だらりとぶら下がってる両腕の下に、だらりとぶら下がってる両手を伝って、 ぼとぼと、血が落ちていく。

「貴方とホワン=ヤンロンによって…、私の『呪詛』は返されました。 ホワン=ヤンロンの、私を貴方に触れさせたくない想いと…、 貴方の、私に触れられたくない想いが、こういう形になっただけですよ…」

 息の上がった、覇気のない声だった。どこか投げやりで、無気力な感じがする。

 俺…、どうして分かったんだろう?

 シュウ…、お前…。

「ウソ…ついてるよな?」

 ほんの一瞬、シュウは目を見開いた。 その僅かな反応の遅れを誤魔化すように、早口で突き放してくる。

「何を言い出すのかと思えば…馬鹿馬鹿しい…」
「ついてる。絶対に…」
「先ほども言いましたが、貴方ごときが、 私を理解したような口をきかないでもらえますか?」

 死んだ魚のようだった目が、急にギラギラ光り始める。
 あれほどひどい出血だったのに、傷口も塞がったみたいだ。


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