ラウラの詩
〜中編・6/6〜
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「……マサキ?!」
気が付いたら、俺を支えてくれているヤンロンの手を解くようにして、シュウのところに走っていた。
「…シュウッ!」
「……………?!」
「一緒に行こう! な?!」
「……………!!」
「マサキ、何を言い出す?!」
「だって…、このままじゃシュウ、一人ぼっちじゃねぇかよ!」
否が応でもシュウを引っ張っていこうとした。
でも、さっきの呪いのことを思い出して、シュウの腕を掴もうと伸ばした手を、慌てて引っ込める。
「なぁ、シュウ! 行こう!」
触れられないって、すごくもどかしいと思った。言葉だけじゃ、想いは全部伝わらないんだな。
シュウも、こんな気持ちでいるんだろうか?
「何を、永遠の別れの様な顔をしているんです?
煩わしいですよ、マサキ?」
返ってきたのは、やっぱり偽りのシュウの言葉だった。
でも、今。
別れじゃないって言ったよな?
二度と俺に触れないって思ってるヤツは、そんな言い方しないよな?
いつかは、今みたいな偽りをやめるつもりだってことだよな?
俺の考えてることが分かったのか、シュウは俺の視線から逃れるように、踵を返した。
「あなた方の陳腐な茶番は見飽きました。
私はそろそろ研究に戻らせて頂きますよ。さぁ、マサキ、もうお帰りなさい」
何か言わなきゃ、と思った。
でも、何を言えばいいか分からなくて、俺は結局黙ったまま、ヤンロンの横へ戻る。
遠ざかっていく俺の足音を、シュウが背後でじっと聞いているような気がした。
ヤンロンはきっと、俺やシュウなんかより、ずっと精神的に安定してて強い。
でもシュウは、周囲が思ってるよりもずっと不安定で気弱で、いつもギリギリだ。
だから、シュウには、支えが必要なんだと思う。
俺だったら…、シュウの支えになってやれるんじゃないかと、思う。
でも…。
暖かいヤンロンの手に身体を支えられていると、全身の緊張が解けて、
張り詰めてる心もくたくたになって、俺を丸ごと全部凭りかからせてしまいたくなる。
きっと、俺自身、シュウのために何かしてあげることができないくらい、疲れてる。
「………………」
ヤンロンは、俺がしたことに怒ったりせずに、
黙って俺の身体を元のように支えるようにして抱えてくれた。
俺は、そっとシュウを顧みる。
シュウの姿は、もうそこにはなかった。
自分に楽な選択肢を選んでしまった罪悪感を無視して。
無かったことにして。
心の中から消去して。
そして俺は、ヤンロンと、帰るべき場所への帰途につく。
::::::::
幸せにしたい。
幸せになって欲しい。
幸せにしてあげられない。
複雑に絡まりすぎて、
その中で藻掻くことしかできない
ジレンマを抱えたまま…。
いま、自分は幸せになろうとしている。
1996
(C)BANPRESTO
/WINKY SOFT
2006
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FU-ByKA
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