ラウラの詩
〜後編・1/6〜

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 どこまでも続く薄暗い森の中を、ヤンロンと二人で歩いていく。
 頭の上は、空を覆い隠すように生い茂る青葉のわだかまりばかりだった。

 いつもなら圧迫感を感じるはずのその光景が、 ずっとシュウの研究室に閉じこもってた俺には、とても開放的に感じられる。

 だけど、そんな開放感に包まれても、俺の気持ちはどこか塞いだままだった。


 心と同じように重い足を引きずって、もたもたと歩く。
 自分でも知らないうちに、随分体力が落ちていた。
 木の根が絡み合う森の中は歩きにくくて、何度もつまずいて転びそうになった。
 でも、その度にヤンロンの腕がしっかりと俺を支えてくれた。
 俺がほんの少しバランスを崩しただけでも、決して見逃さすに必ず支えてくれた。


 いつか、こうやって、迎えに来てくれたヤンロンと一緒にここを出られたらいいな、って。

 そう思ってた。
 ほとんど諦めてたけど、でも心のホントに僅かなところが、そんな日が来るのをじっと待ってた。

 そして…。

 今日、その願いが、叶った。

 なのに、何でだろう?

 あんまり心が浮き立たない。
 「喜び」とか「嬉しさ」とかを感じるよりも前に、 まず、ヤンロンが横にいるってことに、実感が湧かない。

 今、俺がはっきり感じてるのは、ずるずると長く重く引きずるような、シュウへの罪悪感だけ。
 心臓の辺りで僅かにチリチリするくらいの、微かなものだったけど。
 それでも、そこにそれがあるってことが、俺の気持ちを重くした。


 そんな考え事をしていたせいだろう。
 俺は、また目の前に剥き出しになっていた木の根に、脚を引っかける。
 意識が散漫になってたこともあって、思い切りバランスを崩して前に転びそうになった。

「……わ…っ」
「マサキ!」

 あんまりハデに転びそうになったせいで、 ヤンロンも、今までみたいに横から支えるだけじゃ追い付かなかったらしい。
 咄嗟に差し出された両腕の中に倒れ込む。
 ヤンロンは、勢いよくぶつかるようにして飛び込んだ俺の身体を、しっかりと抱き留めてくれた。

「大丈夫か? マサキ」
「あ…あぁ…、ごめん」
「謝ることはない。お前が無事ならそれでいい」

 優しく頭を撫でられた。
 頭を撫でていた手を肩に移して、両肩を抱くようにしてヤンロンが、俯いている俺の顔を覗き込む。
 途端に、何故か息を呑まれた。
 その後まるで壊れ物にでも触れるように、そっと頬を包まれた。 ヤンロンの暖かい手が心地よかった。

「顔が真っ青だぞ。何故こんな状態になるまで黙っていた?  僕の前でまで、無理をしなくていいだろう?」
「…え? そんなつもりじゃ…、その、 全然…自分でも気付かなくて…。ごめんなさい…」
「…おかしなヤツだな。謝ることはない」

 覗き込むようにして微笑まれる。
 その笑顔があんまりにも優しくて、何故か胸の奥が痛くなる。

 今までに感じたことのない痛みだった。
 痛いけど、全然苦しくない。

 そんな痛みを感じるようになって、何だかようやく、ここにヤンロンがいるって実感できてきた。

 ここにいて、俺のこと構ってくれてて、俺を心配して優しくしてくれてる。
 今目の前でそんなふうにしてくれてる人が、ヤンロンなんだ。


 やっと嬉しさみたいなものが胸の奥の方から込み上げてきたとき、ふわっと身体が浮いた。

「………え?」
「少し顔色が良くなったようだが、やはり休んだ方がいい」

 目の前に、心配そうなヤンロンの顔がある。
 肩が当たってるところから、力強い心臓の鼓動が伝わってきた。

 自分がヤンロンに抱え上げられたんだと気付いたときには、 ヤンロンはもう側にあった大きな木の根元に腰を下ろしていた。
 勿論俺を両腕に抱えたまま…。
 自然とヤンロンの膝の上に座るような姿勢になる。

「……あの、…ヤンロン?」

 恥ずかしくて、上目遣いにヤンロンの顔を見る。

「気休めかも知れんが、こうした方が、 少しは身体が休まるんじゃないかと思ってな」

 ヤンロンはこんなコトしておきながら、当たり前みたいに優しく笑って返してきた。


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