ラウラの詩
〜後編・2/6〜
0.index
でも、俺はそんなわけにはいかない。
当然だけど、ヤンロンだけじゃなく、誰かにこんなコトしてもらうのは初めてだった。
自分の体重を全部誰かに預けるなんて…。
何だか落ち着かない。早く降りなきゃいけない気持ちになる。
「で…でも、ヤンロンが重いだろ…?」
「若い娘のようなことを気にするな。お前らしくないぞ?」
ヤンロンはくすくす笑いながら、慌ててヤンロンの膝から降りようとする俺の身体を、
両腕でしっかり抱えて膝の上に戻す。
多分…。
ヤンロンは何気なく思った通りに言っただけだ。
でも、「若い娘」という言葉が、俺の胸に、妙に鋭く突き刺さった。
ヤンロンの言う通り、俺は「若い娘」なんかじゃない。
だけど、昨日までの俺は…どうだったんだろう?
確かにここ数日のシュウは、
俺に、元に戻ってくれと言ってくるばかりで、俺の身体に触れてくることはしなかった。
俺が口をきかなくなってからも、シュウは何度か俺を抱いた。
それは、俺を元に戻したいと願ってのこともあったし、応えない俺に苛立ってということもあった。
だから「抱く」という目的としては、普通とは違ったかも知れない。
でも、それ以前は…。
ヤンロンの目を治してもらう前のシュウは…。
明らかに、シュウは俺を、性欲の対象にしてた。
そして俺は、シュウの行為を受け入れてた。
少なくともその間は。
俺は、「若い娘」と同じ立場だったんだ…。
「…マサ…キ…?」
ヤンロンが、おそるおそるといった様子で呼びかけてくる。
急に押し黙った俺に驚いたんだろうと思った。
でも…違ったらしい。
大きな掌に頬を拭われて、初めて自分が泣いていたことを知った。
「心無い言葉だったな…。
すまない…、お前を傷付けるつもりはなかった…」
ショックだった。自分がヤンロンの言葉で、泣くなんて。
俺、今きっと、ヤンロンを傷付けちまったんだろうな…。
…いや、今だけじゃない。
シュウの研究室に迎えに来てくれてから、俺はきっとずっとこんな風に、
気付かない内にヤンロンを傷付けてたんだ…。
「泣くつもりなんか……、その…ヤンロン、ごめ…」
言いかけた途端、ヤンロンが黙って自分の口に人差し指を当てた。
哀しそうに、寂しそうに笑う。
「……なに…?」
「謝罪の言葉も、聞きたくない」
「え? …で…でも……」
「お前が謝罪する必要などない。
お前は何も悪いことなどしていないんだからな」
静かに諭すようにそう言って、ヤンロンはもう一度俺の頬に触れた。
何でヤンロンは、謝るな、なんて言うんだろう?
悪いのは、明らかに俺の方なのに…。
「マサキ? 何を考えている?」
「俺…ヤンロンに悪いこと、しちまった。だから…謝りたい」
「…さっきも言っただろう? お前は何も悪くない」
「俺は、何度も…さっきから何度もヤンロンを傷付けてるんだろ?
なのに…俺が悪くないはずねぇ…」
「僕の傷など、僕がお前に背負わせた傷に比べたら、些細なものだ。
それに僕はお前に傷付けられてなどいない。…お前に負わせた傷の深さを…、
思い知っているだけだ」
「……ヤンロンは、俺を傷付けてなんていないぜ?」
「それは違う。僕は……いや、この話は後にしよう。
今は休め。少し眠るといい」
「眠くなんてねぇよ。
それに…こんなんで寝たらヤンロンが困るだろ?」
「僕なら平気だ。本当に重くなどないから、お前は気を遣うな」
「でも…」
言いかけた俺の声は、ヤンロンに抱き寄せられたせいで、その胸の中でくぐもる。
「本当に…なんて軽くなってしまったんだ、マサキ…」
今にも泣きそうな声で低く囁かれたら、これ以上何も言えなくなってしまった。
大切に…本当に大切そうに抱き締めてくれているヤンロンの腕の中は暖かくて、
そんなはずはないんだけど、ヤンロンのプラーナが流れ込んできているような気がした。
1.next
0.index