ラウラの詩
〜後編・4/6〜
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「私を一人にするんですか、マサキ!?」
強い口調で咎められて、骨が軋むほどすごい力で掴まれた。
言葉に出来ない危機感を感じて、俺はシュウの腕を振りほどこうとした。
「シュウ、放せよ…ッ!」
だけど、シュウの手は放してくれずに、余計にすごい力で掴み返してくる。
「マサキ…、どうして貴方は私を拒むのですか!?
貴方にとって、私はそんなに不都合な存在なんですか!?」
更にもう一方の腕が、縋り付くように俺に掴みかかってきた。
「や…やめろっ!」
何だか恐ろしくて、俺は咄嗟にその手を払った。
「…マサキ…ッ!!」
シュウが、悲鳴のような泣き声のような、なんて言ったらいいか分からない、悲痛な声を上げた。
次の瞬間、俺の目の前に、もう二度と見たくない赤の、本当に寒気のするほどに赤い色の靄が散る。
「シュウ!」
シュウの腕にある、黒い、蛇の巻き付いたような呪いの証。
そこがざっくりと裂けて、傷口から鮮血が飛び散った。
「シュウッ!! バカ野郎、何やってる! 早く放せ! 死んじまうぞ!」
「嫌です…!! 放したら貴方は行ってしまうのでしょう!?
私を一人を闇に残して、貴方だけ明るい世界へ行ってしまうのでしょう?!
約束して下さい、マサキ! 本当にどこにも行かないと、私を一人にしないと、
そう約束して下さい!!」
「ガキみてぇな駄々こねてんじゃねぇ! とにかく放せッ!」
「私が望んでいることは決して多くないのに…、
何故応えてくれないんですか?! ただ一つしか、ただ一人貴方しか望んでいないというのに、
何故、それさえも叶えられないんですか!?」
「シュウッ! そんな話は後だ! 早く…」
「どうして分かってくれないんですか、マサキ!?
貴方がいなくては…貴方が側にいてくれなくては、私は生きていけないというのに…。
貴方に拒まれるたびに、
こんなに心が引き裂かれるほどの痛みに苦しめられているというのに…っ!!」
「だから!! そんなこと言ってる場合じゃねぇだろうがッ!!」
「嫌です! マサキ…ッ! マサキ!」
シュウは子供みたいに泣きじゃくりながら、狂ったように俺にしがみついてくる。
俺は必死でシュウを引き剥がそうとするけど、シュウの血でぬめって、まともに押し返せない。
そうこうしてる間に、シュウの腕の出血はどんどんひどくなっていく。
ただでさえ低い体温がゾッとするほど冷たくなっていて、顔も紙みたいに白くなっていた。
でも、そんなになってても、シュウは俺を放そうとしない。
それどころか、しがみつく力はどんどん強くなってくる。
変…だよ。
シュウ、お前、変だよ!
ホントにシュウなのかよ?!
お前、誰なんだよ?!
怖い。
嫌だ。怖い。
放せ…。
放せ。
放せ!!
ヤンロン…!
どこ行っちまったんだよ!
ヤンロン! 助けに来てくれよ!
でないときっと俺、こいつに殺されちまう!
ヤンロン!
助けて…、助けてくれよ!
怖いよ!
ヤンロン!
何で俺一人残して、いつもいつもいつも…ッ!
ヤンロンのバカ野郎!
お願いだから、早く助けに来てくれよ!
ヤンロン!
ヤンロン!
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