ラウラの詩
〜後編・5/6〜

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「マサキッ!!」


 首がガクン、となるほど揺さぶられた。

 ハッとして、前を見たらヤンロンがいた。

 顔を見た瞬間気が緩んで。

「バカ野郎! バカ野郎! バカ野郎! 何で放すんだよ!  何で俺一人残して、どっか行っちまうんだよ!」

 気が付いたら殴りかかってた。

「怖かった…ッ! 怖かったんだからな!  一人で、すごく…、すごくすごくすごく怖かったんだからな!」

 無茶苦茶に拳を振り回して、ヤンロンの分厚い胸を何度も何度も叩いた。
 でも、あっという間に腕を掴まれて引き寄せられて、あっという間に胸の中に抱え込まれてしまった。

 強く、でも痛くない強さで、しっかり抱き締められた。

「すまなかった、マサキ。僕が悪かった」

 ヤンロンが静かに、俺を宥めるみたいに謝る。
 声がヤンロンの胸郭を震わせる。
 その振動が、押し当てた頬に伝わってきた。


 あぁ。
 俺、今すごく安全なところにいるんだな。

 絶対に傷付けられたり、苦しめられたりしない、本当に本当に安全なところに。


 安心感が心の中に満ちてきて、歯がカタカタ鳴るくらいの震えがだんだん治まっていった。

 そのときになってやっと、周りの風景が、ヤンロンの膝に抱えられていたときから、 何も変わっていないことに気付いた。

「……あ…あれ?」
「どうした?」
「もしかして…俺…、寝てた…のか?」

 ヤンロンは何も答えない代わりに、優しい笑顔のままで寝乱れた俺の髪を直してくれた。


 俺…寝ぼけて、ヤンロンに殴りかかったり泣き付いたりしちまった?


 冷静になってくるのと同時に、恥ずかしさが増してくる。

「あの…殴って……ごめん…」
「謝らなくていい。僕がお前を怖い目に遭わせたんだろう?」
「本当のヤンロンじゃねぇ…、夢の中のヤンロンだから…」
「それでも僕だということには変わりがない」

 ヤンロンが言ってる意味が分からなくて、顔を見上げようとしたら、 また大事そうに腕の中にしまい込まれた。

「お前と同じ夢が見られたらいいのにな」
「……へ…?」
「もしそうなれば、お前の側から絶対に離れずに護ってやれる」
「ヤ…ヤンロン…ッ?」
「何だ? 嫌なのか?」

 覗き込んできたのは、悪戯っぽい笑顔だった。

 俺も…嫌じゃないって…、そうして欲しいって思ってるのを分かってる顔だ。

 顔が熱くなる。
 きっとタコみたいに赤い顔なんだろうと思うと余計に恥ずかしくて、 ヤンロンから顔が見えないように一生懸命うつむいた。

 なのに、ヤンロンの大きな手が両方から俺の頬を包んで、俺の顔を優しく上げさせた。

 正面に待っていたのは、さっきまでの笑顔じゃない。
 優しくはあったけど、とても真剣な顔だった。


「…ヤン…ロン…?」
「マサキ…お前に、言っておかなければならないことがある」
「……え?」


 言っておかなければならないこと…?
 もしかして、王都の皆の話だろうか?


 ドキッとした。
 背中に冷たいものを感じる。

 これから先のことを考えたら、急に胸の奥も冷えた。


 今回のことがあったからだろう。 ヤンロンはきっとこれからも、今そうしてるみたいに優しくしてくれる。

 だけど…、他の皆は…?
 ヤンロンとは逆に、勝手にサイバスターを降りた俺のことを、無責任だって怒ってるはずだ。

 皆だけじゃない。きっとサイバスターだって…。


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