Sonnet de clown
1/5

0.index

 突然の闖入者。
 本来ならば、それはとても傍迷惑な存在だが。

 それが、攫ってでもここへ連れてきたいと願っていた人ならば、話は違ってくる。

 小さな身体をすらりと立てて、真っ直ぐに見つめてくるひたむきな眼差し。
 そこに常にあるはずの敵意が、今日に限って、ないことに気付き、内心がさざめいた。
 手を伸ばせばすぐに届くところに、愛しい人がいる。
 今すぐにでもその腕を掴んで引き寄せて、この胸の中に抱き締めてしまいたい。

「何か…?」

 突き上げる衝動に渇いた喉で、辛うじて問い掛ける。
 返ってきたのは、思い詰めた眼差しと…。

「ヤンロンを助けて欲しい」

 とても不快な言葉。

 鳩尾に昇る熱に眉をひそめる私の様子などには気付くこともなく、マサキは言葉を続けた。

「俺のせいで、ヤンロンの目が見えなくなっちまった。
イブンばあさんに看てもらったら、傷が酷いし、高度な呪いが掛かってるから、 ばあさんでも治せないって言われて…」

「………………」
「でも、お前くらいの医学技術と呪術知識を持ってれば、 治せるだろうって…」
「それでここへ?」

 努めて平静を装って、翠玉を見つめ返す。
 普段のマサキならば、私の目に危険な気配が閃いていることに気付いただろう。
 だが、マサキは気付かなかった。
 今にも泣き出しそうな顔で、小さく頷いて見せただけ。

 あの驚嘆すべき動物的な第六感さえも鈍るほど、貴方は取り乱していると言うことですか…。
 それほどに、彼が大切だと…?

「彼を愛してるのですか?」
「……え?」
「あぁ、貴方に『愛』の自覚があるはずはないですね。
では、こう言い換えましょう。
貴方は、貴方を愛している私よりも、 愛されているかも判らない彼を選ぶのですか?
これでいかがです、マサキ?」

「あ……」

 言われて初めて、私が幾度となく伝えてきた言葉に思い当たったらしい。
 自分の過失に狼狽え、私から視線を外す。

 こちらから主張しなければ、思い出してももらえない。
 その程度にしか想われていない。そういうことですか?

「どうなんです、マサキ?」
「あ…ッ、あいつの気持ちなんて関係ねぇだろ!
あいつがああなったのが俺の責任だからだ!」


 否定は、すなわち肯定の裏返し。

 私はこんなに貴方を愛しているのに。

 彼は一度として、貴方に愛を伝えたことなど無いのに。

 貴方は彼を選ぶ。
 そんなふうに、私に見せつけて……。

「……いいでしょう。
彼の目は、私が必ず治して差し上げます」

「ほ…ホントか!
すまねぇ、恩に着るぜ、シュウ!」


 そんなに無邪気な笑顔で喜んで。
 マサキ…、貴方という人は、本当に忌々しい人ですね。

「ただし、貴方次第ですがね…」
「何…どういうことだっ!」
「貴方の想いの深さ…」

 私がどれほど貴方を想っているか。

「確かめさせて頂きますよ、マサキ」

 それを理解せず、たった一人でこんなところへ来る貴方がいけないのですよ。
1.next
0.index

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!