Sonnet de clown
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 自らの罪の色。

 自分がしたマサキへの仕打ちの残酷さを突きつけられたような気がした。
 そんな動揺の中に辛うじて残った理性で、手早く血を掻き出し、 深く裂けた傷を何とか治癒魔法で塞ぐ。

 しかし、自分の血液にむせ返っていたマサキの、咳き込む音が静まると、 急に苛立ちが募り始める。

「貴方にとって、私に抱かれることは、 それほどに嫌悪すべきことなんですか?」
「…………」
「私がまだ冷静なうちに答えなさい。マサキ」
「…………ッ」
「…いいでしょう。これ以上は聞かずにおいてあげますよ。 浴室はそちらにありますから、身なりを整えたら、帰って頂けますか?」
「……え…? シュウ…、ヤンロンの…ッ」
「残念ながら、ホワン=ヤンロンの目の件は、お引き受けしかねます。 当然でしょう? ここまで私を侮辱した人間は、貴方以外にはいませんよ」
「…ちが…ッ!! ……ぁ…ッ!!」

 飛び起きようとしたマサキは、しかし低く呻くと、再びベッドに倒れ込んだ。
 おそらくは、無理に動かしたせいで、私に軋まされた全身に痛みが走ったのだろう。 愛らしい顔を苦悶にゆがめながらも言い募る。

「…自分が…イヤ…だったんだ…ッ」
「貴方の言う自分とはつまり、『シュウ=シラカワなどに抱かれて、 悦んでしまった自分』でしょう?」
「違うッ…! シュウが…イヤなんじゃないっ!」
「いい加減になさい。何も違いませんよ。 どう言い繕ったところで、貴方が私を嫌悪したことに変わりはありません」

 突き放す。
 もう、言葉も交わしたくない。
 私はマサキに背を向けた。

「待ってくれ、シュウ! 俺…俺、シュウのこと好きになる!  ヤンロンよりシュウを選ぶから! だから!」

 切羽詰まって叫ばれた言葉は、かつて無いほどに私を激昂させ、 あと少しでマサキを呪殺させるところだった。

「面白いことを言いますね、マサキ。 ホワン=ヤンロンのために私を選ぶ貴方が、 ホワン=ヤンロンよりも私のことを愛せるようになるとでも?」
「……なる、よ…ッ! なってやるよ!」
「………………」

 自らを偽ることすら厭わないほどに、貴方は彼を想っているのですね。
 貴方までが、私に勝ち目がないと、そう思い知らせてくれるとは。

 マサキ…、貴方はどこまで私を惨めな気持ちにさせるんですか?

「……分かりました」

 えぇ、いいでしょう。負けを認めてあげますよ。

「そこまで言うのなら、ホワン=ヤンロンの目の治療、 引き受けましょう」
「……シュウ…ッ!」

 どこまでも落ちぶれた、負け犬に成り下がりましょう。

「喜ぶのはまだ早いですよ、マサキ?  貴方にはまだ、交換条件をのんで頂かなければいけないんですから」
「……ま…、まだ何があるのかよ…ッ?」

 貴方を手に入れるためならば、恥も誇りも何もかも捨てて、 どんな手段でも用いる負け犬に、ね…。

「まず、ホワン=ヤンロンへは、 貴方の口から別れを告げて頂きます」
「………………!!」
「彼の目を治すためです。出来ないことはないでしょう?」
「……あ、あぁ。分かった…」
「結構です」

 弱みにつけ込むことも、もうためらわない。

「それから、私の許可無くして、 この研究室から出ることはしないで下さい」
「え…!?」
「なに、生活に支障はきたしませんよ。 バス、トイレ、キッチンは完備していますし、生活に必要なものは私が買いそろえてきましょう。 まぁ、サイバスターからは降りて頂くことになりますがね」
「……なッ! シュウ、そんな…ッ!」
「ほう…、出来ないとでも?」
「何で…!? 何で、そんなひどいこと言うんだよ!!」
「貴方に発言権はありませんよ。あるのは選択権だけです。 ホワン=ヤンロンのために条件を呑むか、それとも彼を見捨てるか、 どちらにするんですか?」
「……シュウ…」

 今更、そんな儚げに泣いて見せても遅いですよ、マサキ。

 私はもう、あなた方に対して、負けを認めてしまったんですから。

「さあ、選びなさい、マサキ=アンドー。 どちらにするんですか?」


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