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物心ついた頃からボクは既にあにぃとばかり遊んでいた気がする。余り当時の事は覚えていな
いけど今とは違って結婚するとか、お嫁さんになるんだ、とか無邪気に言っていた気がするし
周りも笑って済ましていたと思う。そしてボクはそれが当たり前だと思っていた。
でも、成長するにつれてあにぃに対して抱いている感情が兄妹以上のものだと認識し始めてか
ら、それは変わった。まだまだ大人から見ればボクは子供だったから(今まで以上に)周りも子
供にありがちな些細な思い込みと思っていたようだし、当の本人であるボクもそういうものなの
かな、と思い始めていた。一応知識としては、兄妹では結婚できないとか愛し合う事が出来な
いとか知っていたが余り何の事だか分からなかった。(今でも良く分かっていないのかもしれな
いが。)
しかし、事態はそんなに簡単なものではなかった。日に日にあにぃに対する気持ちが心の中で
膨らんでいき、あにぃへの気持ちと罪悪感の板ばさみになり、何日もふさぎ込む日が続いた。
そこでボクはある決心をした。女の子としてあにぃを好きになる事が罪ならば、いっそう男の子
のように振舞って恋人としてではなく親友として生きていこうと思ったのだ。そして現にそれは成
功したと言っていいし、あにぃとも今までの関係を殆どそのまま続ける事が出来たといって良い
だろう。そう。ついこの前までは。





最近気分が優れない。なぜかいらいらしたり、ゆううつになったり。大体原因は分かっていた。
恐らく思春期に起こる生理のためであろう。時々身体が前よりも丸みを帯びたような感じもした
し。それ自体は、ボクにとって抵抗なく受け入れられたしそういうものなのだろう、と思っていた
から余り気にした事はなかった。ただ女らしくなったと言われる事を除いては。
しかしだんだんと身体の調子が狂ってきた。どこが、というと体力が低下してきたのだ。ボクは
いつも朝ランニングをしているのだが、前に走っていた距離をこなす事が困難になってきたの
だ。初めは五分の四くらい。初めはちょっと疲れただけかと思い、一日ゆっくり休めば直るだろ
うと楽観視していたが、日に日に走れる距離が縮まってきてしまったのだ。この時ほどショック
だった事はなかった。あにぃと一緒に走れなくなる・・・・。いや一緒にスポーツ自体が出来なく
なるのでは、という危機感にさいなまれ何日も夜部屋で泣く事があった。
そんなボクを心配したのか今度あにぃがどこかに遊びに行こうと提案してくれた。わざわざ予
定を空けてくれて。何時ものボクならデートだ、とか言ってはしゃぐんだろうけど今回はそんな
気持ちにはなれなかった。変わっていくボクをあにぃに悟られたくなかったから。唯一の長所で
ある運動神経の良さすら衰えた何の取り柄も無くなったボクを見られたくなかったから・・・・・。
時間だけが無常に過ぎ去っていく。



約束当日。ボクは普段着で特にお洒落をするのでもなく待ち合わせの場所に居た。行き交う
人々の向こう側に良く見知った人影が現れる。

「よっ。衛。久しぶりだな。・・・待ったか?」

屈託の無い、ある意味無邪気な笑顔。何時もは嫌な事を吹き飛ばしてくれる魔法の薬もこの
時ばかりは逆効果だった。そんなボクの様子を敏感に感じ取ったのか、あにぃが心配そうに声
を掛けてくれる。

「どうしたんだ?気分・・・悪いのか?」

「えっ?ううん。そんなんじゃないの。大丈夫だから気にしないで。」

ボクはあにぃの腕に自分の腕を絡ませるとわざと明るく振舞う。

「ねっ。折角デートに誘ってくれたんだからさ。早く行こうよ!どこに行こうか?」

「そうだな・・・・。衛とは何時もスポーツするからな・・・・。たまには別の方面が良いかな。ありき
たりだけど遊園地とかは?」

「あにぃと一緒ならどこでも良いよ!」

良かった・・・。ボクはホッと胸を撫で下ろす。もしもスポーツをしようなんて言われたらどうしよう
かと思った。もちろん断れば良いけどきっと感付かれるに決まっている。それだけは避けたか
った。心配なんかされて家にでも通われたらそれこそ自分の気持ちを抑えられなくなる。だから
今までずっと決まった時のみデートする以外は殆ど会わなかった。


山を切り崩して作られた遊園地に来ていたボク等は色々なアトラクションを回って大いに楽しん
だ。ボクもやっと日頃のモヤモヤした気持ちを忘れる事が出来そうだった矢先の事だった。
それはあにぃの一言から始まった。

「衛。少し・・・休もうか・・・・。とっておきの場所があるんだ。そこで休まないか?」

「うん。いいよ。構わない。」

ボクが頷くとあにぃはボクをどこか人気の無い場所へ連れて行った。そこは林が開けた所で辺
り一面の草原だった。

「どうだ?なかなか良いところだろ?偶然道に迷った時に見つけたんだ。都会の遊園地じゃこ
んな所無いよな。」

「そうだね・・・・。何か凄くのどかな所だね・・・・。」

あにぃが草の上に座ったのを見てボクもそれに習う。

「ここに居ると、普段の嫌な出来事がとてもちっぽけな事に思えてこないか?」

仰向けに寝そべり空を見上げつつ頷く。吸い込まれそうな真っ青な空だった。

「衛?最近・・・調子が悪いみたいだけど・・・・。俺に何か出来ることはないか?」

何度もそうしたいと思った。その広い胸に飛び込んで思いっきり抱きしめて欲しかった。ボクの
本音をぶつけたかった。その時はそれで良いかもしれない。でも後で迷惑が掛かるのはあにぃ
なんだ。あにぃに迷惑がかかる位ならいっそ自分を偽ろう。そう決心した事を今更変えるつもり
は無い。

「やだな〜。本当に何でも無いって。」

無理に自分を偽らなければならないのが・・・・何だかとても滑稽で・・寂しかった。もうこんな事
は慣れっこだと思っていたのに・・・・。思わず熱くなる目頭を何とか誤魔化した。いやしようとし
た。

「そんなに俺は信用無いのか・・・・。そりゃそうだよな。恋人じゃなくて兄妹だもの。」

その言葉がどれだけショックだった事か・・・・。予想はしていてもやはり直接聞くとショックだっ
た。そう。自分は単なる兄妹に過ぎない。あにぃの隣に立ちたくても立つ事の許されない立場。
どれほど妹である事を呪ってきたか・・・・・・・。どんどん離れていくあにぃ。追いつけないボク。
手が届きそうで届かない。
何時もそんな感じだった。

「・・・・・どうしてボクは女になんか・・・・生まれたんだろうね・・・・・。男だったら・・・・あいぃに何
処へでもついていけたのにね・・・・・。」

「??どうして・・・・そんな事を言うんだ?」

どうして?・・・・言えるわけ無いじゃないか。あにぃが・・・あにぃの事が好きだなんて・・・・。
                   ダッテキョウダイダモノ

「何と無く・・・そう・・・思っ・・・た・・だけ・・・。」

とうとう我慢していた物が溢れてくる。頬をつたって落ちてきたものが服に黒い染みを付けてい
く・・・・。

「何でも・・・一人で考えようとするな。人は一人じゃ何も出来ないんだから。」

「どうして・・・うう・・・・あにぃは・・・そんなに・・・・うっ・・・・ボクに構うの・・・?」

答えの分かり切った質問。どうしてこんな事を聞いたのか、今でも分からない。答えを聞けば自
分が辛くなるだけなのに・・・・・。・・・・もしかしたら心の隅でケリをつけようと思ったからかもしれ
ない。

「なんだよ。俺は衛の事を少しでも分かろうと思って・・・・・。」

「分かってないよ!!!!」

もう、限界。そう思った瞬間ボクは怒鳴っていた。誤魔化しきれない涙が溢れてくる。

「ボクが・・・ボクがどれだけ辛いかなんて、全然分かってないくせに!!ボクの気持ちなんか気
付かないくせに!!」

突然の罵声に呆気に取られているあにぃ。そんな様子を尻目にさらに捲し立てる。

「そりゃボクはあにぃの妹だから恋人にはなれないよ!!!あにぃの片翼になる事なんて出来
ない!どんなになりたいと思ったってさ!でも・・でも・・・!!この気持ちはどうしろっていうの
さ!!」

ひとしきり今まで溜めていた気持ちを吐き出すと・・・・少し楽になった。そよ風が濡れた頬を優
しく撫でていく。

「ボク・・・。もう耐えられない。こんな関係・・・・。生殺しだよ・・・。・・・・会わない方が良いのか
な・・・・・?」

本当は違った。引き止めて欲しかった。俺もお前が好きだ、って言って欲しかった。でも現実は
そんなに甘くなかった。優しい言葉も、キスも、熱い抱擁も来なかった。降ってきたのは・・・・・
いたって冷静な言葉・・・・。

「お前がそうしたいなら・・・・・俺は構わない。」

そっか・・・・。あにぃにとってボクは最初からアウトオブ眼中だったって訳だ・・・・。好きか嫌い
かはともかくあにぃの気持ちが分かって幾分落ち着きを取り戻す事が出来た。否、諦めの思い
だったのかもしれない。

「・・・ごめんね・・・・。取り乱しちゃって・・・・。最初から分かってたのに・・・・・・。」

再び熱いものが瞳から流れ始める。その時だった。

「衛・・・・。誤解しているようだから言うが、俺は別にお前を嫌ってるわけじゃないんだぞ・・・・。」

「・・・・どういう事?」

何を言っているのか分からなかった。

「まずは謝らなきゃな。薄々は感じていたんだがそこまで慕ってくれているとは気付かなかっ
た。辛い思いをさせた・・・・。すまない。俺が今まで黙っていたのは・・・・自分の気持ちに整理
がつかなかったから・・・・。正直言うと・・・・好きとか・・・愛するとか・・・俺には良く分からない。
だから今の俺の気持ちも分からないんだ。ただ例えるなら・・・・衛は俺にとって・・・・空気だ
な・・・・。」

「空気?」

「当たり前のようにあって、無くなると凄く困るもの・・・・。何時もお前と待ち合わせるとまるで空
気を吸うように無意識にお前の姿をさがし、居なくなると息が出来なくなったみたいに苦しくな
る。」

ボクと同じだ・・・・。その言葉を聞いたとき、胸の中の霧がスゥと晴れていくような気がした。苦
しかったのはボクだけじゃないと分かったから・・・。
あにぃはさらに続ける。

「だけどこの気持ちを簡単に好きとか愛してるという言葉で表現していいのかどうか分からな
い。今の俺には胸を張って言える勇気が無い。だから・・・・・。」

「何時までも待ってるよ・・・・。」

自然と口が開く。

「俺が胸を張って言える様になったら・・・・必ず迎えに行く。それまでに他の男に付いて行くな
よ。」

「い、行くわけ無いだろ!だって・・・・・。」

そこで口を噤む。それは今言うべき言葉では無いから・・・・。あにぃが自分の気持ちにケリをつ
けて迎えに来た時に言う言葉だから・・・・。
直ぐに返事はくれなかったけど・・・・・今はそれで良い。ボクのところに帰ってくるのが嬉しいか
ら。



あにぃが迎えに来たらどうやって迎えようかな。
やっぱり笑顔が良いよね。
泣いちゃうかも。
でもこれだけは絶対言うんだ。

『お帰りなさい、あにぃ。』        

























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