新規ページ002 赤ちゃんと花穂 「お姉ちゃま〜。後は何を買えば良いの??」 花穂はスーパーの袋を抱えながら咲耶お姉ちゃまを見やる。今日は花穂が買出しの当番だっ たから咲耶お姉ちゃまと一緒に買い物に来てるの。誕生日なのについてないよ・・・・・。今は1 0:20分・・・・。 「え〜と・・・・・後は・・・・・・・。」 ふぅと小さな溜め息をついてお姉ちゃまが一言。 「儀式の道具・・・ね。」 そこは何回来ても慣れないお店だった。何か得体の知れない物ばかり売ってるし、お店の中 は変な香りが充満してるの。前なんかコウモリの剥製や烏の肉、なんてあって気絶しそうになっ ちゃったもん。 「えっ・・・と・・・・これで全部ね。早く帰りましょ!」 咲耶お姉ちゃまは千影お姉ちゃまに頼まれた香料を買うと花穂を引き摺る様にして去ろうとし た。そのとき・・・・・ 「待ってお姉ちゃま!!」 微かに聞こえてきた『それ』。お店の横の薄暗い路地から聞こえてくる音・・・・・。それは間違い なく・・・・・ 「赤ちゃん????」 「でもこんな御時世に一体誰かしらね?捨て子なんて・・・・・・。」 咲耶お姉ちゃまが花穂の腕の中で寝てる赤ちゃんを覗き込みながら呟く。 「酷いね・・・・自分勝手で・・・・。」 見つけた直後、花穂達は千影お姉ちゃまの常連のお店の人にも手伝って貰って赤ちゃんのお 父さんとお母さんを探したんだけど、見つからなかったの。交番にも行ったんだけど・・・・・見つ からなくて・・・・・。それで結局置いて行く訳にも行かなかったからお巡りさんに頼んで、この子 のお父さんとお母さんが見つかるまで世話する事になったんだ。あれから2時間も探したの に・・・・・。 「でもまさか世話するなんて言い出すとは思わなかったわ。でも近々お兄様との間に出来るん だから練習になるわね、花穂ちゃん?」 そこまで考えてなかった・・・・・・。 「か、花穂!!?」 出迎えてくれたお兄ちゃまは思った通りビックリ仰天。何もそこまでビックリしなくたって。 「ど、どうしたんだ・・・それ・・って・・・・まさかお前・・・・。」 隣の咲耶お姉ちゃまは呆れ顔。一瞬の沈黙の後お兄ちゃまが何を考えているの分って慌てて 否定する。 「ち、違うよ、お兄ちゃま!花穂の子供じゃないよ!」 「だよな・・・・。子供が子供生める訳が無いし・・・・。」 また、お兄ちゃまったら!!花穂の事子供扱いして!!色々とお兄ちゃまに文句を言うけど、 考え事をしてるのか無反応なお兄ちゃま。 「拾ってきたって事は・・・・・・捨て子か・・・。」 お兄ちゃまが泣き腫らした赤ちゃんの顔を覗き込む。赤ちゃんは泣き疲れたのかな、今はぐっ すり花穂の腕の中で寝てるの。捨て子、と聞いて途端に悲しくなる。 「うん・・・・・。買出しの帰りにね、路地裏から微かに鳴き声が聞こえてきて・・・・・言ってみたら この子がいて、ほっとけなくて・・・・・。ねっ!?良いでしょ、面倒見ても!この子のお父さんとお 母さんが見つかるまでで良いから、お願い・・・・お兄ちゃま!!」 お兄ちゃまにガバッと頭を下げる。 「私からもお願いするわ、良いでしょ?お兄様。警察の方も見つかるまでならって言ってくれて るし。」 咲耶お姉ちゃまが助け舟を出してくれる。周りを囲んでいる他のみんなも視線で訴えてくれて る。 「放っておいたら死んじまうだろうが。良いに決まってるだろ。でも一つだけ・・・・・保護するのは 良いが・・・・誘拐は止めろ?咲耶、春歌、千影。」 「ホント!?」 嬉しくて思わず飛び上がりそうになって慌てて赤ちゃんを抱え直す。赤ちゃんの可愛い顔を見 てると思わずニコニコしちゃう。 「お前が面倒見るのか?」 お兄ちゃまは興味があるのかな?眠ってる赤ちゃんの頬っぺたを人差し指でプニプニ押しなが ら花穂に話し掛けてくる。 「うん。花穂がこの子のお母さんの代わりになるの!」 「そうか。ま、頑張ってくれや。」 お兄ちゃまが指を離そうとした時、小さな手の平がお兄ちゃまの指を握る。何時の間にか赤ち ゃんが起きていたみたい。赤ちゃんもお兄ちゃまに興味があるみたいでずっと指を握ったまま 離さないの。そして・・・・ 「・・・・ぱーぱ。」 思わずニコニコしちゃう。お兄ちゃまがパパ・・かぁ・・・・。うふふ・・・。お兄ちゃまも嬉しかった みたいで口をパクパクさせてる。 「ぱ、ぱぱぱ、ぱぱぁ!?」 「お兄ちゃまの事パパだと思ってるみたいだね〜。」 あははっと笑って慌てて口を紡ぐ。だってお姉ちゃまたちの顔が凄く怖いんだもん・・・・・。花 穂、何か悪い事言ったのかな・・・・・。でも顔はお兄ちゃまに向いてるから違うみたいだけ ど・・・・・。 赤ちゃんはお兄ちゃまに抱っこして欲しいみたいで両手を広げてる。 「・・・・・ご指名よ・・・・・・お兄様・・・・。」 なんか咲耶お姉ちゃまは怒ってるみたいだけど・・・・・。掴まれた肩を急いで振りほどくお兄ち ゃま。 「あのな〜。この子が勘違いしてるだけだぞ。そんな事するわけ・・・・。」 赤ちゃんはお兄ちゃまの言った事が分かったみたいで、みるみる泣き出しそうになった。目に いっぱいの涙を浮かべて、キュッと口を結んでいる。 「お、お兄ちゃま!」 「分ったよ、抱けばいいんだろ!?」 そう言うとお兄ちゃまは花穂から赤ちゃんを受け取った。危なっかしい手つきに思わず声が出 てしまう。 「だ、ダメ!そんなに乱暴にしちゃ!!それから首が据わってないから・・・・こうやって支えてあ げて。そうそう。」 お兄ちゃまに教えて上げられてちょっと得意な気分。抱っこしてるお兄ちゃまも満更じゃないみ たい。 「・・・・・ふふふ・・・・この子も安心してるみたいだね。これでお兄ちゃまがお父さん代わりだ ね!!。」 「本当の御両親のようですよ、アニキ様。」 やっぱりそう見えるんだ。お兄ちゃまも嫌がってた割にはピッタリ合ってるし。 「はいはい・・・・やりますよ、やれば良いんでしょ?あっ、それからくれぐれも誘拐はするな! 『じゃあ作れば良い』っつーのも勿論ダメ!」 「オギャー!オギャー!」 今日何度目かの赤ちゃんの鳴き声が響く。うとうとしてた花穂とお兄ちゃまは慌てて赤ちゃんの 所へ行く。 「あ〜ん,泣かないで・・・・よしよし・・・・。」 「何で泣いてんだ???さっきミルクやったばかりなのに。あ〜〜!全く!」 抱きかかえてあやしても全然泣き止まない。ミルクあげたのは1時で・・・・今は1時40分くら い・・・・・。お兄ちゃまも何が原因なのか分らなくて一緒にオロオロしている。 「どうかなさったのですか?」 「あっ!春歌お姉ちゃま。あのね・・・・なんでこの子が泣いてるか分らないの・・・・・。」 花穂が今までやった事を聞いてちょっと考えるお姉ちゃま。 「恐らく・・・・オムツでしょう・・・・。」 そう言うと代えのオムツを持ってきてテキパキと取り替えていく。 「赤ちゃんが泣く原因として、お腹がすいたのとオシメが上げられます。他には・・・何処か身体 の状態がおかしいとときなども泣きますわ。」 「流石だな。春歌は。」 ちょっと照れた様に笑って『そうでもない。』と答えるお姉ちゃま。 「では、これにて。花穂さんの誕生日の支度も在りますゆえ。」 赤ちゃんはスッキリしたのか、またぐっすりと眠っていた。 再び大きな泣き声が居間に置かれたベッドから聞こえてくる。 「今度はなんだよ・・・・。」 大分ウンザリしてるお兄ちゃまを引っ張って居間へと急いだ。 「よしよし・・・・泣かないで・・・・。ほらほら。・・・・・ダメだわ・・・・。泣き止んでくれない。四葉ちゃ んお得意の推理で何とかして!」 「そんなのムリデス!こんな事初めてで四葉も良く分りマセン!!」 「私の水晶玉も・・・・・・効果無し・・・・か・・・・。」 ベッドの周りにはもう何人か集まっている。 「オムツはさっき春歌あねぇが取り替えてたし、ミルクは10分くらい前にあげたから・・・・・。」 衛お姉ちゃまがお兄ちゃまと花穂に教えてくれる。 「さっきまで眠ってたから眠いわけじゃないみたい。それに何処か身体が変な訳でもないみた いです、お兄ちゃん、花穂ちゃん。」 勘弁してくれ、と言う様に頭を抱えるお兄ちゃま。みんなの顔も疲れているみたい。花穂はダメ モトで赤ちゃんを抱っこするとあやし始めた。 「あーあう・・・。」 嘘の様に泣き止む赤ちゃん。 「な、なんて私の時は泣き止まないのよ!!」 「そりゃアネキが怖いからだって・・・・じょ、冗談・・・・ははは・・・・。」 「それだけ・・・・花穂くんに・・・・懐いていると・・・・・言う事だろう・・・・・。」 赤ちゃんは花穂の服を握ったまま放さなかった。 「「「「花穂ちゃん!お誕生日おめでとう!!!!」」」」 パンパンッとクラッカーが弾ける。毎年変わらない光景のお誕生パーティ。一つだけ除い て・・・・。 「あうあう・・・ばぶー。」 「赤ちゃんも『おめでとう』と言っている様ですね。花穂さん。」 「へへ・・・嬉しいな・・・。」 赤ちゃんを見るとキョトンとした目で見返してくる。 「でも残念だね、赤ちゃんもさ。この御馳走食べられないんだよ?」 「それは確かにそうデスネ・・鈴凛姉チャマ・・・・・・。」 テーブルの上に沢山盛り付けられた料理の数々。赤ちゃんはミルクだけなのに、とちょっと気 が引けちゃう。 「それは問題無いですのよ!粉ミルクだけでは栄養が偏るですの。そこで考えた姫特製離乳 食、名前は面倒臭いので省いたですの・・・・、を作りましたのよ!!!」 そう言って赤ちゃんの前に出されたお皿には・・・・・得体の知れないものが沢山盛られていて、 しかもお粥みたいになっている。まだ。まだ花穂たちが食べるなら良いけれど・・・・他の家の赤 ちゃんに食べさせるのはちょっと・・・・・。 「白雪・・・・・何かこれヤバソウだぞ??人様の子供に食べさせても大丈夫なのか???」 「もちろんですの!!」 でも赤ちゃんはそれを乗せたスプーンをイヤイヤをして避けて、食べようとしない。と、その 時・・・・・全然違う方向からスプーンが伸びお粥を口に運ぶ。 「ほら。ヒナが食べてもダイジョウブだから。イヤイヤしないで食べて??」 「おいしいよ・・・・亞里亞が大丈夫って言ってるから・・・・・大丈夫・・・・。」 やっぱり年が一番近いからなのかな、雛子ちゃんと亞里亞ちゃんが食べるのを見て、赤ちゃん も安心したみたい。ゆっくりとだけど食べてくれたの。結局全部食べちゃったんだけど。赤ちゃ んもみんなに大分慣れてきたみたいで食事が終わってからもみんなで遊んだりしたの。赤ちゃ んも凄く喜んでたけど、何より雛子ちゃんと亞里亞ちゃんが妹が出来たみたいに喜んで一生懸 命お姉さん役をしてたのが心に残ってるの。そんな楽しいひと時を過ごしたんだ。 「眠い・・・・・っとと・・・・。」 何度も躓きそうになりながら自分の部屋に向かう。あれから2時間くらい遊んだ後、パーティが 終わってみんなで片付けをしたんだけど・・・・。花穂は赤ちゃんの世話もしてたから結局寝るの が遅くなっちゃったんだ。今起きてるのは花穂とお兄ちゃまと可憐お姉ちゃまと警察からの連 絡を待ってる咲耶お姉ちゃまだけ。 丁度お兄ちゃまの部屋の前に来た時、空いている扉の隙間からフカフカのベッドが見えた。ま だ花穂の部屋まで少し歩かなきゃいけない。 「あ・・・・・お兄ちゃまのベッドで寝ても良いかな・・・・・ふぁ〜・・・・。」 花穂の中の天使は呆気ないほど簡単に悪魔に負けちゃって、花穂は赤ちゃんと一緒にベッド に潜り込んだの。そして静かに眠りに落ちていったんだ・・・・・。 どれくらい寝ちゃったのかな・・・・。ふと目が覚めた花穂の目の前には赤ちゃんと・・・・・ 「きゃぁぁあああああああ!!!」 花穂の叫び声でお兄ちゃまが飛び起きる。 「お、お、お、おお、お兄ちゃま!!どうして花穂のベッドで寝てるの!?」 幾ら兄妹だからって一緒に寝るなんて・・・・・。自分でも分かるくらい顔を真っ赤にしてお兄ちゃ まに文句を言う。 「何寝惚けてんだ?お前が俺のベッドで寝てたんじゃねーか。運悪く捕まっちまってな・・・・こい つに・・・・。と、いうか騒ぐと起きるぞ。」 お兄ちゃまのその言葉で自分がベッドに潜り込んだ事を思い出す。『ごめんなさい。』と謝ろうと した瞬間2回目の良くない事が起きちゃった。 突然扉が開いて・・・・・ 「お兄ちゃん、ちょっと聞きたい事が・・・・。」 可憐お姉ちゃまが毛布に包まっている花穂とお兄ちゃま(ちゃんと言うと3人)を見て固まる。 「ご、御免なさい!!邪魔しちゃって!!」 花穂が訳を説明する前に走り去ってしまった可憐お姉ちゃま。 「完全に誤解された・・・・・・。」 「花穂は誤解されても良いよ?お兄ちゃまは嫌なの?」 とたんにお兄ちゃまの顔が凍りつく。そんなに変な事言ったかな・・・・・??と、またお客さんが 来る。 「お兄様!!」 咲耶お姉ちゃまの顔を見てますます青くなったお兄ちゃまが赤ちゃんを抱っこしたまま突然謝 り出す。花穂も咲耶お姉ちゃまも訳がわからない。 「は?そんな事は良いから!!その子の親が見つかったのよ!」 話によると何でもこの子は誘拐されたらしくて捜索願が出ていたんだって。お父さんもお母さん も人の良さそうな人で泣きながらひたすらお礼を言っている。 「あの・・・・今度からは気をつけて下さいね?悪い人に見つかったら大変な事になっちゃう し・・・・。」 何回もお礼を言って、ホッとした様に帰っていく2つの大きな影とそれに抱かれている小さな 影。 「長いけど短い、疲れたけど楽しかった、そんな時間だったね、お兄ちゃま・・・・。みんなのプレ ゼントも嬉しかったけど・・・・これが一番のプレゼントかな・・・?花穂も欲しいな・・・・赤ちゃ ん・・・・。」 そう素直に思って言っただけなのに、お兄ちゃまはまたニヤニヤしながら言ったの。 「んじゃ、俺が手伝ってやるか?」 かぁっと顔が熱くなると同時にお兄ちゃまの顔を思いっきり引っ叩く。 「ば、馬鹿!!お兄ちゃまのH!!!」 夜の家にお兄ちゃまの悲鳴が響き渡る。
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