『傍迷惑な女達』番外編
「うたかたの恋」
成島 孔二・マーサ 編
「踊っていただけますか?」 差し出された手とその笑顔にドキッとした。 優しそうな笑顔、丁寧で品の良い物腰。 今まで遭った何人もの偉い人達の中でもダントツに完璧なマナー。 「お国を離れて寂しくありませんの?」 そんな問いに一瞬だけ見せる翳りのある表情も魅力的。 「貴女が慰めて下さいますか?」 耳元でそっと囁かれて、ダンスのステップが頭から飛んでしまった。 フワフワと雲の上を歩いているような気分になる。 このままベッドまて連れて行って欲しい・・・ って思っていたのに・・・彼は紳士だった。 曲が終わると綺麗な礼をしてスッと去っていく。 どうして? 私ではダメなの? 「遠い外国の留学生よ、ダメダメ文化が違いすぎる」 「いずれは帰っちゃう人だよ、やめときなよ」 「ハンサムでいい人でもお勧めしないなぁ・・・きっと苦労するよ〜」 友達や家族は反対したけれど、諦めたくなかった。 彼のところに押しかけて、デートに誘ったり、手料理を振舞ってみたり 強引過ぎた?でも彼はいつも優しい笑顔で私を迎えてくれた。 「貴女が好きです」と言って貰えた時には天にも昇るような気持ちだった。 とても、幸せだった。 キスをしてデートをして・・・そんなある日。 彼は家族からの手紙を読んで泣いていた・・・ホームシック? 「泣かないで・・・」私が居るから。 彼はそっと抱きしめた私の手を握り締めた。 「今夜は帰らないで」 断る理由なんてなかった。 「貴女に私の国を見せたい」 そう言われて一緒に帰った、彼の妻となって彼の国へ。 そこで待っていたものは厳しい現実だった。 生活や文化の違いは思っていた以上に馴染むのが大変だった。 彼は優しくしてくれたけれど、彼がホームシックになった理由も判った。 ちょっとショックだったけれど、気にしないように努めた。 子供二人に恵まれて、生活は豊かで、主人は変わらず優しくて・・・ とても幸せだった。 でも、それがとても儚いものだと言う事も知っていた。 積み重ねた異文化の違いや他人から寄せられる奇異な視線に耐えられたのは、彼が優しく私を包んでくれていたから。 彼が居なくなってしまえば耐えられない。 たった一人の存在でこうも変わるものなの? 幸せだった日々は泡のように消えてしまった。 彼の死と共に。 |
Postscript
潤の両親のお話。 孔二さんタラシの才能がある(苦笑) 見栄えもするし、お兄さんと違って愛想もよいのでアチコチでさぞやモテていた事でしょう。 奥さまは気が気ではなかったかもしれませんが、彼は一途な性質で浮気などはしなかったのでしょう。 初恋の人である兄の婚約者をずっと忘れられなかったのだし・・・ でも、善人薄命なのでした。 アンハッピー? いえいえ、これもハッピーエンド。 拍手掲載期間2006.8.23-2007.6.13 |