目に止まったのが、合唱コンクールでソロを歌った時だったのか パーティの余興でピアノの弾き語りをした時だったのかはわからない。 けれど、幼い頃から習っているピアノと共に歌う事は好きで 家柄や容姿といった親から引き継いだもの以外で誉められる唯一のものだった。 音楽の才能も親からの遺伝と言われればそうかもしれないけれど。 プロにならないかと誘われて、親も親戚も友達も喜んで賛成してくれた。 ただ一人、彼を除いては。 「駄目だ!」 冷たい声で切り捨てるように言い放たれて驚いた。 「何故ですか?」 誘われたのは大きなプロダクションだし、アイドルではなく歌手で、と言われたし 学業を優先して、とも言ってくれている。 「芸能界なんて絶対に許さない」 ですから、理由を教えて下さい。 学生だからメディアへの露出だって控えめにすると言ってくれているのに。 どうして駄目なんですか? 「君が高校を卒業したら私と結婚する事になっている筈だ」 判ってます。わたくしが生まれた時から決まっていた事で、ずっと聞かされ続けて来た事ですから。 「でも・・・高校を卒業するまであと3年もありますし」 わたくしはまだ中学生なんですもの。 「芸能人を妻にする気はない」 それって・・・ 「婚約を破棄なさりたいと仰るのですか?」 そう・・・そうよね、十以上年の離れた親の決めた許嫁なんてお嫌よね。 今までそういった話が出てこなかったのが不思議なくらいだわ。 「そんなつもりはない」 断言されてホッとすると同時に不安が募る。 「ならば・・・尚の事、プロになる事を許していただけませんか?」 結婚するまでの間だけでも構いませんから。 「どうしてそこまで・・・」 呆れたようにわたくしを見た彼の言葉が詰まる。 それはわたくしが泣いているのに気づいたからだろうか? わたくしは俯いていたからはっきりとは判らなかったけれど。 「わたくし・・・怖いんです。このまま、ただ普通に学校を卒業しただけであなたに嫁ぐのが」 だって、あなたはわたくしよりも大人で、若くしてお父様の跡を継がれてもう立派な一人前の社会人で なのに、わたくしはまだまだ子供で、何も出来なくて自信がなくて・・・ 情けないけど、話している声が震える。 「自分の実力を試してみたいんです。自分自身の力で何が出来るのか確かめたいんです。 世間で認めて貰う事が出来れば、きっと・・・自信がつくんじゃないかと思って」 俯いたまま、溢れる涙を拭っていると、ふわりと肩を抱き寄せられる。 「・・・1年間だけだ」 え? 「1年だけ、許そう。その代わり、君が16になったら式を挙げる。高校を卒業するまで待たない」 抱きしめられる力が強くなっていくから、彼の表情が見えない。 けれど、呟くように漏れた彼の言葉に驚いた。 「もう、待つのはたくさんだ・・・」 腕を緩めた彼がわたくしをじっと見つめてくれる。 頬が熱い・・・きっと赤くなっている。 恥ずかしくなって視線を反らそうとすると頬を抑えられて逸らせなくなる。 恥ずかしいけれど嬉しい。 ずっと憧れていた彼に求められていると判って。 家同士の決め事だから、と思っていた。 わたくしでなくても構わないのだろうと。 でも違っていたみたい。 この歓喜はわたくしの自信に繋がる。 もうプロの歌手になんてならなくっても構わない! でも、そうしたら高校を卒業するまで結婚する事を待たなくちゃならなくなるから・・・ やっぱり1年だけ、歌ってみよう。 こうして1年だけ活動して、ミリオンセラーを出しながらも、あっという間に引退してしまった伝説の歌手が誕生する。 |
Postscript
青華の両親のお話。 社会人と女子中学生ってどうなんでしょう? ワタクシ的にはアリですが、このご時世ではバツかな? シシィ・ガールとは「いくじのないおんなのこ」という意味があるそうですが、以前日記にも書きましたが(古いので探さないで下さい)池田さとみさんの漫画に同名のものがあります。 ベースもそこから頂いてます(期間限定の歌姫と言うところだけですけど)。 政略結婚って私はあまり悪いとは思いません。 やっぱり、家柄が同格だと価値観もそう違わずに済むし、小さい頃から顔を合わせていれば馴染みもあるでしょうし、お互いをよく知り合えて良いのでは?。 皓一さんは無愛想で愛情表現が下手な方ですが、鈴華ちゃんも感情表現が豊かとは言い難いのでお互い様なカップル。 特に人前ではベタベタしたりしないので、周りから「ホントは仲が悪いんじゃないの?」と疑われてしまいそうな人達です。 娘はホントのところをよく解かっていそうですが。 拍手掲載期間2006.8.23-2007.6.13 |