「錬金術ってさ、万能じゃないよね?」
「何を今更、当然でしょう」
マルローネの呟きにクライスは読んでいた本から顔を上げて、試薬の入った試験管をぼんやりと振りながら頬杖をついている彼女に険しい視線を投げた。

「万能でないからこそ、研究する余地や価値があるというものです。安直に結果を得られるものに何の価値がありますか?」
学徒としての真摯な意見を持つクライスはマルローネの発言を嗜める。

「いや〜あたしが言ってるのはそーゆーことじゃなくってさ・・・こう・・・薬の効き目がね?」
「ご自分の調合したモノの成果に自信が持てないとでも?邪まな発想の基に作られたものなど効く筈がありませんよ。ましてやズボラな貴女が調合したものなど特に」
クライスの言葉にマルローネはカチン、と来て席を立った。

「ちょっと!あたしがズボラってどーゆー事よ!邪まな発想ってアンタに言い切れるわけ?何も知らないくせに!」
憤慨するマルローネにクライスはチラリとテーブルの上を見てから。

「その飛び散った試薬の跡、汚れたままの器具を見れば貴女がズボラなのは一目瞭然でしょう?大方今日私が頂いた菓子の中に何か仕込んだのに思っていた結果が得られなくて『万能ではない』と愚痴を漏されたのでは?」
キチンと計量しないままに作り出したものの成果が得られないのは当然ですよ。
と付け加えながら、クライスは再び本に視線を戻した。
図星を言い当てられたマルローネは真っ赤になりながら再び椅子に座り込み、頬杖をついてブツブツと零し始めた。

「だってさ、だってさ、今日はバレンタインデーなのにさ、クライスったらお菓子を食べても何にも言わないしさ。今日くらいはにっこり笑って『美味しいですね』とか言って欲しかったのにさ」
声のボリュームは落としてあったが、目の前にいるクライスに届かないほどではない。
マルローネの言葉で菓子に仕込まれた薬の見当がついた。

「私が一番『美味しい』と思うものを頂けたら、もちろんそうお答えしますとも」
「え?ナニナニ?」
身を乗り出して尋ねてくるマルローネにクライスはにっこりと笑って尋ねる。

「お教えしたらいただけるんですか?」
クライスの言葉にマルローネは頷いた。

「では寝室へ行きましょうか?」
「ほえ?」



 

 

 

 

 


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