眠れぬ夜

 眠れるかな?と思ってベッドに入ったのはいいんだけど、やっぱり眠れない。
 やっぱ夕飯前に2時間ほど眠っちゃったのがマズかったのかな?

 だってさ、クライスってば帰りが遅いんだもん。
 クォーターエンドで忙しいのは判るけどさ、最近残業ばっかし。
 待ってるこっちの身にもなって欲しいよ。

 あたしは眠る努力を放棄して起きる事にした。
 寝ているクライスを起こさないように静かに静かにベッドから出て、リビングで本を読み始める。
 春とは言え、まだ夜は少し寒いから毛布に包まりながら。

 お気に入りの本だから、すぐに集中出来ると思ったのに・・・フッと本から視線が逸れる。
 そう言えば、こんな風に夜を過ごすのは久し振りだと思いながら。

 以前はよくこうして夜更かしをした事がある。
 眠れなくてグラスと本を片手に眠りが訪れるのを待った事が。
 最近じゃすっかりご無沙汰してた事だけど。

 どうしてか?って言うと・・・それはやっぱり、クライスと一緒に暮らすようになったから・・・

 彼と一緒に暮らし始めて、一緒のベッドで、一緒に眠る・・・
 そんな習慣が身についてしまったから、寂しいなんて思っちゃうのかな?
 以前は平気でして来た事を。

 今は二人で一緒に暮らしているのに、寂しいなんて考えるなんて可笑しいね。
 クライスの気持ちを疑っている訳でも、あたしの気持ちが変った訳でもないのにヘンだよ。

 人って幸せになっても満足出来ないほど欲張りなのかな?
 困っちゃうね。

 あたしは視線を本に戻して、再び集中しようと勤めた。
 するとそのうち欠伸が出て来て、時計を見るともう3時を回ってる。
 もう寝ないと起きられなくなっちゃうな。

 あたしは本を閉じて寝室に戻ろうと立ち上がったら、クライスがちょっと怖い顔をして寝室のドアの前に立っていたのでビックリした。

「どうしたの?」

 驚くあたしに、クライスは忌々しげに溜息を吐いて
「どうしたの?じゃありませんよ!目が覚めて隣に貴女が居ないから慌てて起きたんです。どうしたんですか?こんな夜中に」

「どうしたって・・・ただ眠れなかったから・・・」
 疲れてるアンタを起こしたくなかっただけなのに、怒んないでよぉ。

 クライスはあたしをギュッと強く抱きしめて呟いた。
「良かった・・・最近、忙しくてゆっくり話が出来なかったから、何か貴女を怒らせたのかと思いましたよ・・・怒って出て行ったのじゃないかと」

 そんな事考えてたの?おバカさんだね。
 でも
「心配させちゃった?ゴメンね」

 クライスの暖かい腕の中でふんわりと口元が緩む。
 不安なのはあたしだけじゃないんだ。

「ベッドの中でちゃんと謝ってもらうまで許しませんよ」
 クライスの言葉にギヨッとする。

「で、でも疲れてるんじゃないの?もうすぐ朝だし、眠らなくっちゃ」
 あたしの言葉にクライスは耳を貸さない。

「もう十分休みましたから・・・鳴いて詫びて下さいね?マルローネさん」
 ちょっと!鳴いてってどう言う事?

「あ、あたし・・・もう眠いんだけど・・・」
 折角眠くなって来たのに・・・

「ダメです」

 あ〜もう!強引なんだから!
 ・・・でも・・・いっか!

 この強引さがあたしを求めてくれてる証だと知っているから。
 あたしの不安を吹き飛ばしてくれるから、許したげる。

 でも、ちょっとは眠らせてよね。
 あたしはアンタほど眠ってないんだから。



 

 

 

 

 


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