「クライス!」
あたしは背を向けているクライスに声を掛けた。
どーしたのよ?
何か怒ってる?
でも、あたしには彼がどうして怒ったのかさっぱり訳が判んないわ。
クライスはプィとあたしに背中を向けたまま、声を掛けてもこちらを振り返ろうともしない。
何よ!アンタがその気ならあたしだって!
それにしても何がクライスを怒らせちゃったんだろう?
依頼されてる調合がまだ出来てない事かな?でも期限はまだの筈だし・・・
あ!借りてた本をまだ返してない事?でも、返すのはいつでもいいって言ってたわよね。
ええっと、クライスがあたしに背を向ける前に話していたのは・・・確か今日あった出来事を話していたんだったっけ。
お城に納品に行って、そこでブレドルフ王子に物凄いお菓子とお茶をご馳走になって・・・流石は王宮、王子様も伊達じゃないなぁって思ったりして。
帰り際にエンデルクにバッタリ逢ったらアトリエまで送ってくれるって言ってくれて、でも飛翔亭に寄ったからそこまでだったけど・・・やっぱり騎士隊長と一緒に歩くと守られてるんだなぁって思うわよねぇ、あのデカイ体格が傍に居るとさ。
飛翔亭には依頼を聞く為に立ち寄ったんだけど、ルーウェンとばったり出くわしてビールを奢って貰っちゃったのよ〜ルーウェンてば護衛の仕事で報酬が入ったからって気前良くご馳走してくれちゃったの♪うふっ、日頃こっちが報酬を払っているんだからたまにはご馳走くらいしてもらわなきゃ。
飛翔亭で飲んでたから帰りが遅くなった事怒ってるのかな?
でも、いつもより遅くなった訳じゃないよ?
まだ7時前じゃないの。
それに飲んだのは1杯だけだから酔っ払ってもいないんだよ?
王子とお茶した事、怒ってるの?それともエンデルクに送って貰った事?そうじゃなきゃルーウェンと飲んだ事?
クライス、はっきり言ってくれなきゃあたしにだって分かんないわよ!
クライスはずぅ〜〜っとあたしに背中を向けたまま、黙って一人で不貞腐れている。
もう!
チュ♪
これで機嫌が治った?
このあたしからキスするなんて滅多にない事なんだよ?
そりゃあ・・・ほっぺにだけど。
クライスはあたしをじっと見詰めて反対側の頬を指差した。
そっちにもしろ、っていうの?
ん〜、もう!しょうがないなぁ・・・
はい、チュ♪
するとクライスは次に唇の右端を指差す。
ちょっと!調子に乗ってない?
・・・いいけど、さ。
チュ♪
ん、でも唇の端って難しいよね。
唇に、って方が簡単だよ〜ホラ!
チュ♪
ん〜〜〜!
頭の後ろを押さえつけないでよ〜
唇が離れられなくなっちゃう!
息をしようと口を開けると舌が入ってくるし〜
クライス!アンタ確信犯ね!
あ、コラ!
抱きかかえてどこへ連れてく積もりなの?
って、このアトリエじゃ他に部屋といえば台所とバスルームと寝室だけだもんね。
自ずと知れるわ。
アンタってば自分勝手で我儘で欲張りだよね。
勝手にヤキモチ妬いて勝手に怒って仲直りのキスも一つだけじゃ足りなくて・・・
でも、許したげるよ。
あたしも、その・・・キスだけじゃ足りなくなった来たから。
だからちゃんと満足させてくれなきゃダメだよ?
そうでなきゃ、今度はあたしが怒っちゃうからね?
眼鏡を取り去って笑っている瞳に言い聞かせる。
そう・・・服の上からゆっくり触って・・・あたしが焦れて服が邪魔になってくるまで。
そしたら胸当てをずらして触ってもいいよ、キスしてもいい。
どんなにあたしが感じていたって、ちゃんと手を抜かないで。
指で探ったら舌で優しく触って・・・いつものように。
あたしが反射的に脚を閉じようとしたら、ちゃんと抑えてくれてなきゃダメ。
だって、じっと見詰められてるのって、すごく感じちゃうんだよ。
無粋に聞くのはやめてね。
これだけしてるんだから、ちゃんと感じ取ってよ。
タイミングってヤツを。
それから、さっきあれだけキスしてあげたんだから、あたしにもたくさんキスしてね。
そして忘れないで、名前を呼んで。
「マリー」
ってね。
あたしも
「クライス」
って、ちゃんと呼んであげるから。
お互いの名前を呼び合っていられれば、他に言葉なんていらないの。
だって他に集中する事があるでしょ?
今夜は泊まっていくの?
だったら戸締りはアンタがしてよね、クライス。
あたしはすぐに眠くなっちゃうんだから。
おやすみ♪
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