| 「マルローネさん?」私はふと、背中に重さと体温を感じて首を回すと、マルローネさんが私の背中に自分の背中をピタリと張り付かせて立っている。
 
 くるり、と振り返ろうとするとその動きに合わせて彼女も動くので、背中合わせのままぐるぐる回る事になった。
 何を拗ねているんですか?
 
 首だけを動かして見たところ、彼女は私のマントの端を両手で掴んで顔を背けている。
 顔を合わせたくはないし、自ら言い出したくはないが、機嫌の悪い事を訴えたいのでしょうか?
 私が何か彼女の機嫌を損ねるような事をしたのでしょうか?
 
 いつも部屋が汚いと小言を言った事に腹を立てたとか?しかし、それは最早日常茶飯事になりつつあるので彼女は気にも止めていないようです、嘆かわしい事ですが。
 
 調合の失敗に際して正しい手順を踏むように注意した事でしょうか?いや、やはりそれも彼女は私の言葉を嫌味と受取ってすぐに忘れてしまうようですから関係はないのでしょう。
 
 では何故?
 
 まさか・・・さっき飛翔亭でクレアさんに言われた言葉が聞こえていたとか?
 いいえ、そんな事はありえません!私の耳元でこっそりと囁くような小さな声で仰った言葉なのですから。
 するともしかしてマルローネさんは・・・
 
 「マルローネさん」
 素早く振り返って彼女の後ろから捕らえる。
 彼女の肩越しに顔を覗くと、慌ててプィっと顔を反対側に反らそうとしている。
 膨らんだ頬とへの字になった口元が、まるで子供のようです。
 
 「先程、飛翔亭でクレアさんに私が何と言われたかご存知ですか?」
 ピクリ、とマルローネさんの身体が動いて首を振った。
 
 「クレアさんはこう仰ったんですよ『最近、マリーが女っぽくなったのは誰の所為なのかしら?』って」
 私は彼女の耳元でそう囁きながら、彼女の肩を捕らえていた手をスッと腕に滑らせてその左手を取り、手の甲に唇で触れた。
 
 マルローネさんはまたしてもピクリと身体を震わせたまま、動かない。
 私はそのまま後ろから彼女の脇の下に腕を通して服の上からそっと胸を寄せるように持ち上げた。
 相変わらず柔かくて触り甲斐のある胸ですね。
 出来ればもう少し露出の少ない服を着て欲しいものですが。
 
 「私が何と答えたか判りますか?」
 グィグィッと胸を持ち上げるように揉み上げながら、そっとマルローネさんに尋ねる。
 彼女は顔を赤く染めながら、唇をグッと噛み締めて首を振るばかり。
 
 「クレアさんは本気でご存知ないようでしたから可笑しくなってしまいましたよ。ですから『さあ、知りませんね』とお答えしたんですが、正直に答えたほうが良かったでしょうか?」
 柔かい胸を甚振る手を1つ残して、私はもう片方の手で彼女の露になっているお腹を撫で摩り、腰の脇を滑らせて太腿のスパッツの上を撫で回す。
 
 脚のラインを露にするものばかり着て・・・動きやすいのは判りますが、もう少し慎ましくして頂けるといいのですが・・・頑固な人ですからね、マルローネさんは。
 こんな薄い腰蓑一つだけではすぐに腰や脚の線が露になってしまうじゃありませんか。
 容易く触れる事だって・・・ホラ、こんな風に。
 
 太腿からお尻を通って後ろから脚の間に滑り込んだ私の手の動きにマルローネさんは腰を引くように少し身体を折り曲げた。
 相変わらず敏感な身体をしていますね。
 服の上から既に熱くなっている事が判る。
 そんな反応が私をどれだけ挑発しているのか、ご存知ないんですか?
 
 「マルローネさん・・・私にどうして欲しいですか?」
 服の上から腰の周りを撫で回し、胸を周りを彷徨わせていたもう片方の手を彼女の口元に移動させて、唇をなぞり答えを促す。
 
 彼女は息をするのが苦しいように唇を少し開けて大きく呼吸を繰り返すだけ。
 私は指を彼女の口の中に入れて歯をなぞってから中を掻き回していく。
 
 「このままで構わないのですか?」
 身体を震わせて愛撫を受け続ける彼女に私が焦れてくる。
 彼女の肩に顔を埋めて、その露な肌に舌を這わせる。
 
 白くて柔らかな彼女の肌。
 触れるたびに敏感に反応して、それが益々私を煽り立てる。
 
 「・・・マリー」
 酷い人ですね、貴女は。
 私の限界を試すように黙り続けているなんて。
 
 胸の尖端は服の上からでも判るくらいに勃っているし、下半身だって染み出しているじゃありませんか。
 それほど口にするのが恥ずかしいですか?
 たった一言で構わないのに。
 
 結局、今日も強情な彼女に私が折れてしまう事になる。
 自分の欲望に負けた事への悔しさが、彼女をベッドに下ろす時や服を脱がせる時の態度に出てしまう。
 
 でも、彼女はいつも私の眼鏡だけはそっと自分で外してくれる。
 それが彼女の唯一と言っていいほどの積極的な態度で、私をほっとさせてくれる。
 私だけが求めているのではないのだと。
 
 そして抱き合って彼女が口にする私の名前。
 「クライス」
 この声を思い出すだけで、口元が緩む。
 私だけが知っている彼女の女らしい姿。
 
 もっと私の名を呼んで、もっともっと。
 貴女も私を欲しているのだと私に教えて下さい。
 そうすれば、この快楽は肉欲を超えて至上のものになる筈です。
 
 でも、貴女が私に悋気を起こして下さるとは思ってもいなかったのですぐには判りませんでしたよ。
 酒場で内緒話に笑ったくらいで拗ねてしまうなんて、貴女はなんて可愛い人なんでしょうか。
 私のこの思いは貴女だけに向けられるものなんだと、よくお教えすれば理解していただけますか?
 まずは今夜一晩かけてじっくりお教えしますからね。
 
 
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