こわいもの。









「あ、雨・・・」

リョーマと不二が対戦している中での急な大雨。
二人の試合は結局中断されてしまった。
そしてなかなか降り止まないため、この日の部活はこれで終了することとなった。

「あれ?帰んにゃいの?」

次々と部員が部室を出ていく中、ひとり帰ろうとしない少女がいた。



青学1年、男子テニス部のマネージャーである。

「あ、はい。鍵、今日は私が閉めないといけないし・・・」
「そっか。そーいえば今日は大石、急いで帰っちゃったもんなぁ。
俺も一緒に待ってよーか?」
「あ、大丈夫です。
それより英二先輩もお疲れでしょうから、早く帰ってゆっくり休んでください。」

にっこりと、笑顔で返事をする。

「・・・うーん・・・・・じゃあ、そうするにゃ。ありがとう。気をつけるんだぞー」
「はい。ありがとうございます。」

そう言って、3年、菊丸英二は部室を後にし、その後何人か続いた後、
部室はひとりとなった。
今日も精一杯働き、疲れ切った身体を大きく伸ばし、は鍵を持った。

「さて。帰ろっかな。」




















「あれ?不二先輩・・・?」

部室から出ると、誰もいなくなったテニスコートに、
傘も差さずにひとり佇む3年、不二周助がいた。
色素の薄いサラサラの髪は、雨でびしゃびしゃに濡れ、
ジャージも水を含み、本来とは違う色へと変化していた。
それでも空を見上げる様にして瞳を閉じている不二は、なんだか綺麗で
の鼓動がいつもと違った。
念のために部室に置いていたビニール傘を開いて、そっと、不二に近づく。
何かに集中している様にも見えたので、なるべく音を立てずに・・・ゆっくり・・・

ぱしゃっ

「あ。」
「ん?」

お約束の様に、水たまりに足を突っ込んでしまう。
幸い、そんなに深くはなかったのでスニーカーの先が少し濡れるくらいだったのだが。

「・・・・・・」

無言で固まっていると、不二はふっと笑って、言った。

、まだ帰ってなかったんだ?」
「あ、はいっ 鍵、閉めなきゃと思ったので・・・」
「そっか。大石、帰っちゃったもんね。」
「そうなんですよ・・・って不二先輩すっごいびしゃびしゃじゃないですか!
風邪ひいちゃいますよ!!」
「大丈夫。」
「でも・・・」
「なんとなく、雨に濡れたくなってさ。」

かなりの大雨なのに飄々と言う不二。
なんだかおかしくなって、笑う。

「ふふっ」
「? 何?」
「不二先輩って面白いですねっ」
「そうかな。」
「面白いですよー」

ちょっと距離を置いていたと不二だったが、は不二に近寄ってみる。
そして、傘を落とす。

?」
「私も何となく、雨に濡れたくなったんです。」

にっこりと笑う
空は雨雲で真っ暗な中、の笑顔は不二にとって眩しかった。

「・・・・・・・下から、くるんだよね。」
「へ?」
「怖い物は。」

不二の言ってる意味がよく分からず、きょとんと不二を見つめる。
不二はそんなが可愛くて、思わず吹き出してしまった。

「今日、越前とやったよね。なかなかやるんだ、アイツ。」
「それは見ててもわかりました!
リョーマくんてばあの不二先輩に負けじとすごかったです!」
「まあ、僕が追い抜かれるとは思ってないけど、いい線来ると思ってるんだ。」

余裕の笑顔で言う。

「先輩自信家ですね・・・。」
「まぁね。自信がなければ強くなれないよ。」
「・・・ふーん・・・・・・・でも先輩、リョーマくんが怖いんですか?」

さっきは怖い、と言ったのに、今度は妙に自信を持っていて・・・
それがうまくの思考回路で噛み合わなくて、聞いてみた。

「うーん・・・自信があるのと怖いのとはちょっと違うんだよね。
抜かれる気はしないけど、近づいてくる。それがちょっと怖いかな・・・って。」
「そうなんですか・・・」

よくわからなさげな表情で言い返す
不二はそんなも面白くて、可愛くて、また、笑う。

「先輩なんなんですか!さっきから私の顔を見ては笑っちゃって・・・!」
「いや、別に・・・
にはまだわかんないかな。後輩いないしね。」
「あっ、子供扱いしましたね!」
「してないしてない。」

わざとらしく答える不二に、本気で怒る

「でも、一番怖いのは越前じゃないよ。」
「え? きゃっ」

の腕を掴み、自分の胸に抱き寄せる。

「ふ、不二先輩???」

急な出来事にパニックになる。
でも不二は、語ることをやめなくて・・・

「聞こえる?」
「何がですか・・・・?」

どくんどくんどくんどくんどくんどくん・・・・

聞こえたのは、不二の鼓動。

「一番怖いのは、僕の心臓を破裂させようとする君だよ、。」

雨で冷えた身体が、急に暖かくなってきた。
むしろ、熱い。

「言ってる意味、わかる?」

まさか、まさか
と自分の耳を疑ってみる

「うーん・・・わからなさそうだね。」
「いや、そ・・・」

唇に、何かが触れた。



それは紛れもなく、





不二の唇。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった?」
「・・・いきなり・・・・・するなんて卑怯です。」
「僕は今、わかったって聞いたんだけど。」

さらりとかわす。
そのセリフの吐き方は、笑顔だけど恐ろしかった。
これぞ、不二の本性。

「・・・・十分すぎるくらいわかりました。」
「そう。」

それでもまだ満足しない様子で、
今度はを逃がすまいと抱きしめる力を強くしてきた。

「それで、返事は?」
「はい!?」
「だから、返事。」
「・・・・・・そ、そんなの・・・」

真っ赤になって俯いてしまう
不二はその反応がどうしようもなく面白いので、さらに苛めようとする。

「まあ言わなくてもわかってるけどね。」
「じゃ、じゃあ聞かないでください!」
「だって、おどおどする、可愛いんだよね。」
「可愛くないです!」

そう言う姿が可愛いというのに、信用しない
その行動はかなりの逆効果で・・・

「じゃあ、言うまで離さないから。」
「えっ!」
「なんならこのまま行くとこまで行っちゃっても構わないよ?みんな下校したし。」

そう言って、のびしゃびしゃになったジャージを脱がそうとする。

「いやっ、先輩ちょっと待って!!言います!!言いますから!!」





一番怖いのはだと言った。





でも本当に怖いのは





彼ではないだろうか。










fine.

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うわわっ。
久々にアップしたと思ったらなんかおかしい・・・!!
ちょっとシリアスにしてみたつもりなのに最後ギャグっぽいですネ・・・!?
す、すいません・・・ごめんなさい・・・
とりあえず、雨に濡れた不二を書きたかったのです。
それが書ければよかったのです。
・・・スイマセン。

もしよろしければ次回も読んでやって下さい。
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。

021106

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