ある雨の日の午後




「うそーー・・・」

外は土砂降りの雨。
院生は青ざめた顔で日本棋院入り口の、傘立ての前に立っていた。

「私確かに持ってきたのに・・・」

泣きそうな表情で傘立てをあさる。

「どうした?」

後ろから、声がした。
驚いて振り返ると、そこには・・・

「・・・和谷くん・・・??」

が密かに思いを寄せていた少年、和谷義高が立っていた。

「傘、持ってきてないのか?」

まるで友達のようにに話しかける和谷。
はそんな和谷の態度に驚いていた。
なぜなら、と和谷は一度も話したことがなかったからだ。
あまりに突然のことで固まってしまう
反応のない彼女の前で、手をひらひらさせる和谷。

「おい、起きてるか??」
「・・・あっ!!は、はいっ!起きてます!!」
「なら返事しろよなー。」
「はぃっ!」

なんとか我に返ったものの、はまだ状況が掴めていなかった。

(なんで和谷くんが私に話しかけてるの??
変に期待しちゃうよーーー・・・)

「で、傘持ってきてないのか?」
「あっ・・・持ってきてたんですけど、何か、みつかんなくて・・・」
「・・・盗られた?」
「・・・そうみたい・・・です。」
「じゃあ帰れねーじゃん。」
「・・・そうですね。」
「・・・・・・・・・・・・」

しばらく考え込む和谷。

「・・・じゃあさ、俺の傘、入ってけよ。」
「・・・・・・・・・は!?」

何を言い出すんだこの人は、と言わんばかりの素っ頓狂な声と表情でが答えた。

「電車?」
「いえ、歩きですけど・・・」
「じゃあ、送ってくよ。」
「えっ!?えっ、ちょっと、和谷く・・・!」

の言い分を無視するかのように腕を引っ張られ、無理やり連れて行かれた。










(・・・嬉しいよ。・・・死ぬほど嬉しいよ・・・でも・・・でも・・・)





(心臓に悪すぎます。)





傘から出ないギリギリのトコロまで離れてるが、肩と肩がくっつきそうで
の心臓は今にも割れるんじゃないか、と言うくらい激しく脈を打っていた。

はさー・・・」

その言葉での心臓が一段と大きく揺れた。

(なんで名前知ってるの??ていうか今、私絶対顔真っ赤だよーーー!!)

あたふたするをよそに、和谷は淡々と話しかけていた。

「これだけは忘れられない・・・っていう対局とかある?」

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・もちろん、ある。

でも、絶対言えない。

それは、院生になって初めての対局。





和谷との対局だった。





「わ、和谷くんは?」

緊張で震える声で、精一杯、返事を誤魔化した。

「そうだなー・・・色々あるけどー・・・
2組での最後の対局が忘れらんないなー・・・」

自分の耳を疑った。
和谷の2組での最後の対局。
それはー・・・

「相手のヤツがさ、入ったばっかりだったんだよな。
で、その初戦の相手がもうすぐ1組に上がるオレで、
まわりからは気の毒だな、とか言われてたんだよ。
でもそいつはそんなこと全然気にしないで、すごい一生懸命やってた。
ホントの本気で囲碁が好きなんだな、って感じた。
それでオレ・・・惚れたんだよ。」

立ち止まり、にっこりとに向かって微笑んだ。

「・・・その時から、オレ、ずっと、が好きだった。」

胸が、あつくなって。

自然と目の前の和谷くんが、ぼやけてきた。

「・・・いっしょ。」
「え?」
「・・・忘れられない対局・・・和谷くんと一緒だよ・・・っ」

泣き顔を見られないようにうつむくを、そっと、和谷が抱きしめた。

ぱしゃっ・・・と傘が水たまりに落ちる。

「・・・わ、和谷く・・・みんな見て・・・」
「いいよ。はオレのものだ、ってみんなに見せつけなくちゃ。」

苗字ではなく名前を呼ばれ、さらにすごいセリフを言われ、の顔が赤くなる。

「もー・・・可愛すぎる。オレ幸せすぎる。」
「・・・・・・・・・」
「・・・。」
「・・・・・・・・・・・はい。」
「・・・好きだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・私も、好き。」





ついさっきまでの土砂降りの雨は止み、

まるで、ふたりを祝福するかのように、

空には大きな虹が、かかっていた。





ある雨の日の午後の、出来事だった。








fine.

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なんか・・・今回は私にしてはかなり短かったですね。
珍しく、まとまったんですよ。
・・・まぁ・・・なんか展開とか早すぎですけど。
てかそんなことよりも、和谷くんキャラが違います。
(いや、いつものコトなんですけどね?)
・・・ごめんなさい。
でも、こんなのもいいかなー・・・とか思ってます。
ちなみに、コレは和谷くんがヒカルに会う前・・・という設定で書いておりマス。
2組・・・だし。
ま、とにかく、ここまで読んで下さって、どうもありがとうございました。
次はもっと良いのを書けるよう、頑張ります。

020505

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