それぞれの光


《 Side K 》

決して楽なことじゃなかった。生きることって。
まだ、たった17年しか生きていないけれど・・・・。
でも、それでも精一杯生きてきた。この辛さを誰もわかってくれなかったし、わかってもらおうとも思わないけれど。
ただただがむしゃらに前へ進もうと、もがいた。
守るものがあったから。
母には僕しかいない。僕は男なんだから、母を守ってやらなくては・・・。
いつしかそう思うようになっていた。母のために多少の苦労は我慢しようと子供ながらも心に決めた。
----でも。

あの日の些細な口論。
母親が言い放った一言。
それが、僕を。
僕という人間の存在自体を、否定した------。

僕は存在してはいけないのか?
誰も僕を望んではいないのか?
実の母親にさえ疎まれた、僕------。否定された僕-----。
ああ、そうだったんだ。
僕って生きていてはいけないんだ。
がんばっても仕方のないことだったのに。
母さんを守ってやるんだ・・・・なんて、バカみたい。母さんは僕に守ってなんてもらいたくなかったのに。僕を見ているのも嫌だったのに。
そんなこともしらないで、一人で勝手に思い込んで。
バカみたいだ・・・・・。
もう、やめよう。
頑張るのも、生きるのも。
もう、何もかも終わりにしよう。
疲れたよ。
生きていても仕方ない。
母親にすら疎まれた僕に、居場所なんてない。
そんな僕は、誰からも愛されない。
僕を包む光なんて、もう-----ない。





《 Side S 》

まだ幼さの残るその寝顔はまるで人形のようだった。
一向に目を覚ます気配はない。彼が昏睡状態に陥ってから間もなく2ヶ月が経とうとしていた。
こんな状態で運ばれてきて、俺は初めて彼に会った。彼はずっと眠ったままで目を覚まさないのだから、会ったとはいえないか。
とにかく、彼がこんな状態にならなければ俺たちは一生知らないままだったと思う。仮にも叔父と甥という関係にも関わらず。

様々な検査をしたが原因は不明だった。彼が何らかの疾患が原因で昏睡状態に陥ったとは限らない。
となれば、原因は心理的なものだろうか。
まだ若い彼が受けたこれほどの衝撃-----。

血の気のない寝顔を見ると居たたまれない気持ちになる。
すっと反射的に伸ばした手で彼の頭をなでた。さらさらと癖のない髪が指の間をすり抜ける。その拍子に触れた額は冷たかった。
状態を考慮し、様々な装置を取り付けてはいるものの、それでも彼の身体はかろうじて生命を維持できる程度にしか機能していない。彼の意思が生きることを放棄しているように。
こんな状態が長く続けば、危険だ。
彼を死なせたくない---
そっと首筋に手を伸ばす。青白く細い首筋もやはり冷たい。
ピク・・・ピク・・・ピク・・・・
微かではあるが脈打っている。
お前を死なせない----。俺がお前を助けてやる。
弱弱しく脈打つその鼓動に触れ、俺は胸を抉られるようだった。
まだ、大丈夫だ。
早くこっちへ来い。そこは暗く寒いだろう。そんなところにいつまでいたって何も変わりはしない。
だから、早くこっちへ来い。
光が見えるだろう?その方向へ進むんだ。
-----俺が待っていてやるから。





少し遅れましたが、2周年記念ということで書かせていただきました。
それぞれの心情をSideK、SideSに分けて書いてみました。
いかがだったでしょうか?ちなみにこの話は後日書きますので、今回はその序章という位置づけでもいいかもしれません。
2周年を迎えられたのも皆さんのおかげです。ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。



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