明日への祈り |
きしり・・・ 床のきしむ音で意識が浮上する。 わずかに開けた目をドアの方へ向けた。 寝室のドアが開けられておりそのドアに背を凭れるようにして男が立っている。 男は学生時代からの親友で共同経営者だ。 俺達は昨年ベンチャービジネスを立ち上げた。とはいっても社員は俺達とバイトが2人の小さな会社だ。 俺達は事務所として使っているマンションに同居している。初めは仕事が一段落するまでということで始めた同居だったのだが・・・。 男は顔をこちらに向けてはいるが、俺からはリビングからの明かりが逆光になっていてその表情は見えない。 まだ完全に覚醒していない俺はしばらくの間その光景をまるで夢の中のことのように捉えていた。 漸くむっくりとベットの上に起き上がった俺は、光の中に浮き上がったシルエットを見つめた。 男はゆっくりを歩を進めベットの側まで近づいてきた。 俺は男を見上げる。 なに?そう訊ねようと開いた口はすかさず男のそれによって塞がれていた。 顎を掴まれ固定された状態で、男は合わせた唇の角度を変えていく。 最初は軽く触れるだけだったものが徐々に深くなっていった。 呼吸をも貪られるような激しい口づけに追い詰められ、息をつこうとわずかに開いたとたん舌がするりと入り込む。 明確な意思をもった熱いそれは、私の口内を犯し始めた。 「んっ・・・」 花びらが舞い上がる。 薄紅の花片が麗しい芳香を振りまき俺を包む。 まだ幼かった俺は自分を包み込みながら舞い上がる花びらをただただ美しいとしか感じなかった。 川辺の桜並木には自分の他は誰もいなく、俺はたった一人桜の木々に囲まれていた。 木の根本に座り込んで見上げる。 木漏れ日に透けてはらはら花弁が舞い落ちる。 守られていると、自分は桜に包まれれていると。 どうしてそう思ったのだろう・・・? 彼の手が、唇が首筋や胸を滑っていく。抵抗する気などさらさらない。 君は君が好きなように俺を抱けばいい。 俺は君のものだ。 いったい今まで君の何を見てきたのだろう。 親友というポジションで君の近くにずっと居ながら。 何にもわかっちゃいなかったのだ。 君という男を。存在を。 或いはあのまま何も気付かずにいればよかったのだろうか。 純粋に友情と信じていたあの頃のまま。 この想いにまだ名前をつけることのなかった頃のまま・・・。 わかっている。どんなに身体を繋いでも君の全てを手に入れることはできない。 わかっているのに俺は渇望している。 君の全てが欲しい。身体も心も、未来も。 君という存在が俺をすっかり変えてしまった。 ・・・あの頃にはもう戻れない。 既に喪ってしまった幼子のような純粋さに想いを馳せる。 瞼の裏で桜の花弁が静かに落ちた・・・。 「ああっ・・・はっ・・・」 息が弾み、苦痛とも嬌声ともつかぬ声が漏れる。 こうなっては、自分ではどうすることもできない。 唐突な始まりにも関わらず、彼は俺を殊更やさしく扱った。 彼の少しひんやりとした掌で撫でるように愛撫され、その仕種にかえって恥ずかしくなったほどだ。 「あ・・・ああ・・・んっ・・・」 ’ただ彼の側にいられればいい’なんて思うほど、子供でも純粋でもない。彼に触れたいし、彼に抱かれたい。 随分前から既に俺の心は決まっている。 この関係がいつまで続くかはわからない。 彼に抱かれるとき、俺は一切抵抗しない。 彼は私のこの気持ちが既に友情なんかでないことなどとっくに気が付いているのだろう。 だが彼は何も言わない。俺も何も言わない。 ただ抱き合いお互いを求め合うのだ。 今は・・・・。 今はただこの時間が続くことを祈って・・・・。 |
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ずっと前に書いていたものです。だから季節外れです。 もったいないので(笑)、少し加筆して載せました。 相変わらず暗いですね。思考が・・・。 と、とにかく読んでいただきありがとうございますっ!! |
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