Sweet Poison 9




イライラする・・・・・。
不安定な感情を抑えることができず、そんな自分自身に腹が立っている。何なんだ一体・・・・。
ここ数日間の古河雅弥はそんな己と向き合っていた。自分自身にこんなにも腹が立つなんて・・・・。
おかげで集中力も欠けていて、そのことも彼自身を苛立たせている。仕事での大きな失敗はないものの、完璧な仕事を常に目指し続けてきた彼には、妥協できないほどのこととなっていた。
どうしたんだ、俺は。何にこんなに苛立っているのだろう・・・・・。苛立っている?・・・・それとも何かを怖がっているのか?不安なんだろうか?
帰宅した彼は部屋の明かりをつけないまま、ベットにジャケットを放り投げた。そしてそのまま、ベットにもたれかかるように座り込み、考えている。
ふっと浮かんだ情景。触れたくないものに触ってしまったようなその感覚に一瞬たじろいだ。
なんだ?今のは・・・・・。
嫌だ。これ以上思い浮かべたくもない。
そう自分の心が訴えている。考えたくない。
穏やかに微笑む結城。その傍らには・・・パートナーである細川の姿があった。




あの出張から戻った翔は憑き物が落ちたようだった。細川との関係も以前とは少し違ってきていた。完全にとはいかないが、細川に多少なりとも心を開いた結果となったのだ。そのおかげで、彼らの間に以前とは違った信頼が生まれたのだ。細川が優秀なせいもあるが、翔は既に彼を教育するとは考えていない。パートナーとして認めていた。そのことも察しのいい細川は理解していて、彼もまた翔の期待に裏切らない働きをしていた。細川のその成長振りは部門内でも話題となり、事務所に立ち寄ることの少ない雅弥の耳にもそれは届いた。
「じゃ、行ってきます。」
雅弥が客先へ向かうために廊下に出たときに、遠くのほうで翔を呼ぶ声が聞こえた。雅弥は咄嗟に声がしたほうを振り返ると、細川が翔を呼びとめて、なにやら話をしているようだった。何を話しているかは聞こえないが、二人の様子は穏やかだった。細川の話に満足そうに頷いて、最後に翔は優しく笑った。その穏やかな笑顔は雅弥の心をグサッと貫いた。
雅弥はその痛みではっと我に帰ると、振り払うように踵を返し外へ向かった。
「・・・・細川?どうした?」
怪訝な顔で翔は細川に問いかけた。
「いえ、何でもありません。」
ちらりと僅かに後ろのほうに視線を移していた細川は落ち着いて答えた。
「では、今の件よろしくお願いします。呼び止めてしまってすみませんでした。」
「いや。じゃあ、俺が戻るまでに報告書を作っておいてくれ。」
「わかりました。」
そう言って立ち去る翔の後姿を見送った細川は、窓から外を見た。視線の先にはちょうど会社を出た雅弥の姿があった。
「あの人も苦しんだんだ。俺だって・・・失恋したし。・・・お前も少しは苦しめ・・・・。」
細川のその冷たい小さな呟きは誰の耳に届くこともなく静かに消えていった。




「ちょっ・・・・ちょっと待って・・・・んっ・・・」
男は噛み付くような勢いで唇に食らいついて、強引に舌を割り入れた。すごい勢いで舌を絡められ、歯列をなぞられ、息があがる。
「んん・・・・は・・・・・んっつ・・・・」
玄関のドアを閉めるなり、雅弥に抱きすくめられ唇を貪られた。その激しさに由貴は喘ぐしかなかった。
やっと唇が離されたかと思うと、首筋を男の唇が滑り落ちる。その感覚にぞくりとした。片手で乳房を揉まれ、もう片方の手はスカートの中にするりと入ってきた。
玄関に入ったばかりで、まだ靴も脱いでいないのに。
「・・・っ、ちょっと、雅弥。どーしちゃったわけ?・・・落ち着いてよ。ね?」
普段と違う彼を宥めるように声をかけるが、
「いいから、黙れよ・・・・。」
押し殺したような低い声で言うと、再び口を塞がれた。
繰り返される口づけと、性急な愛撫に由貴はただならぬものを感じた。
いつもの雅弥じゃないわ。こんなこといままでになかった。・・・いったい何があったの?
その間にも雅弥の愛撫はますます激しくなっていった。ボタンが外されたブラウスからのぞく乳房に舌を這わせられ、由貴は思わず声を上げる。それに気を良くしたのか、もう片方の乳房の先端を指の腹でこね始めた。両方から与えられる刺激に、由貴の膝がががくがくと震え、立っているのもやっとになった。
そんな由貴をドアに押し付けるようにして固定すると、乱暴に下着を引きずりおろし秘所への直接愛撫を施した。指でこりこりと刺激されその快感に声が上がった。中に入ってきた指が2本に増え、由貴の中をかき乱す。もはや彼女は男から与えられる止め処ない快感に声を抑えることすらできなくなっていた。
「あん・・・・・んっ・・・あ・・・・あぁぁぁ・・・・」
男の猛りが捻じ込まれ、一際大きな嬌声が上がった。立ったまま貫かれ揺さぶられた。押し付けられている背中がドアに当たって摺れるが、もうそれすらどうでもよいことに思えていた。この快楽の波に飲み込まれ、由貴は喘ぎ続けた。




由貴の部屋に入るなり彼女に欲望をぶつけた。とにかく、いても立ってもいられなかった。このわからない苛立ちをどうにかしたかった。さっきの自分は由貴のことなど思いやってやる余裕すらなく、愛しむこともしないでただ抱いた。立ったまま交わってぐったりした彼女を寝室まで抱えて運ぶと、またそこで思うまま貪った。
我に返って、居たたまれなくなった。すばやく身支度を整えると、逃げるよう部屋を後にした。意識を飛ばして眠ってしまった彼女をそのまま残して。
もう、会わせる顔がない。酷いことをしてしまった。彼女には涙の跡がまだ残っている。雅弥は彼女を傷つけてしまったことを後悔した。
シーツに包まった彼女の枕元には、震えたような文字で「ごめん」と書かれたメモだけが残されていた。







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