パイズリするカスミ第2部 著者:通りすがりのスケベさん様
帝国軍と解放軍の戦いが激化するに伴い、情報が戦局を左右するようになってきた。
お互いの軍は偽りの情報を流しこみ、牽制し合いながら慎重な戦いを繰り広げていた。
このような状況下では、より正確な情報を掴めた方が先手を打つことができる。
解放軍には、その情報を的確に掴める優秀な人材が数多く存在していた。
「やっぱり相当な数の兵が集まっている……。ここを通るのは厳しいみたい。」
クワバの要塞の近くの森で、カスミは1人呟いた。
解放軍の軍師であるマッシュの命で、秘密裏にこのクワバの状況を偵察に出ていたのだ。
マッシュの思惑通り、最後の砦になるであろうここにはかなりの数の兵が守りを固めていた。
「だけど……ここが無理だとすれば、帝国へ入る方法はシャサラザードだけ……。
船も足りないのにそれは不可能だわ………。」
カスミはクワバの要塞に向かって走り出した。
(もっと正確な情報が欲しい……!)
戦闘能力には長けない自分には、こういう任務の時こそ必要とされる。
与えられた命をこなす事で、解放軍に加わっている自分の存在価値が証明されるのだ。
分厚い壁に沿って、慎重に歩みを進める。
砦の近くで見つかれば、命はないだろう……。
全神経を研ぎ澄ませて、カスミは辺りの様子を窺っていた。
カチャカチャと鎧が当たる音が聞こえる。
どうやら見張りの兵士らしい。
カスミは一定の距離を保ったまま、その兵の後を追う。
しばらく壁沿いに歩いた兵は、大きな門の前で立ち止まった。
すると反対側から同じような格好をした兵がこちらに歩いてくる。
どうやらここは砦の入り口のようで、2人の兵は何かを確認するとそのまま立ち話を始めた。
「どうだった?そっちは。」
「異常なし、だ。これだけの人数だ、そう簡単には攻めてこないさ。」
「だな。ほぼ全軍が集まってるんじゃないか?まだ後から到着するって話だぜ。」
「まぁここを突破されるともう後がないからな。帝国も押され気味らしいし……。」
「本気かよ?俺達ヤバいのか?今ここにいる兵ってどれぐらいだっけか?」
「あー……1万5千ちょいじゃないか?
明日の朝にまた到着するって話だし、最終的には2万は超えるだろうな。」
「2万か……それだけ揃えば解放軍も何とかなるわな。」
(……2万……!!)
全ての会話が聞き取れた訳ではなかったが、一番肝の部分はしっかりと耳に届いた。
カスミは想像以上の兵数に身震いを起こしつつ、さらに彼らの方へ神経を集中させた……。
「何者だ!!」
その場にいたカスミと2人の兵が一瞬のうちに声のした方向へ向き直る。
そこには槍を構えた兵士が、カスミにその矛先を向けて立っていた。
(しまった……!)
意識を見張りの兵士に集中し過ぎただろうか。
周りの警戒を怠った一瞬、後ろから兵士が現れたのだった。
考えれば、砦のトレードマークのような門の前、兵士が2人だけな訳はない。
油断と目の前の出来事に気を取られてしまったカスミの失態だ。
「貴様、解放軍の者か!?」
3人が一斉に距離を詰めてくる。
ここでは部が悪い……援軍を呼ばれたらそれこそ逃げる事さえ困難になってしまう。
「くっ!」
カスミはその場を強く蹴って、門の外へ駆け出した。
それを見て見張りをしていた兵士の1人が腰の剣を抜く。
「逃がすか!」
ザシュッ!!
その切っ先がカスミの脚を切りつける。
「あっ!」
ぱっくり開いた傷口から血を飛び散らせながらも、カスミは懸命に走り去った。
傷を負いながらもその脚力は見事なもので、3人の兵士は瞬く間に彼女を見失ってしまう。
だが彼らの表情から焦りは感じられない。
カスミが消えた方向を睨みながら、その顔には笑みさえ浮かばせていた。
「ふん、見失ったか……まぁいい。あの傷ではそう遠くへは逃げれまい。」
「そうだな。しかし日が高いうちになんとかしないと事だぞ。」
「心配ない。おい、手のあいている者を呼んで来い。スパイ狩りだ!」
クワバ砦から2kmも離れていないその森の中で、
荒い息もそのままにカスミは自分の走ってきた方向を見やった。
「まだ砦があんなに近くに……!」
自分の思っているほど距離が離れていない事に焦りを感じる。
兵に斬られた傷口はドクドクと激しく脈打っている。
血をもとに尾けられないよう出血は止めたものの、その痛みは次第に大きくなってきていた。
心臓の鼓動に共振して、耐えがたい痛みが脳髄を刺激する。
「早く、逃げなきゃ……」
傷口を押さえ何とか身体を動かそうとするが、
異様に重く感じる身体はその意に答えようとはしなかった。
休息を欲しがる身体に必死に鞭を打つ。
「はぁ、はぁ。はぁ……!」
流れ出る脂汗もそのままに、その場を立ち去ろうとした時、
ガサガサと茂みをかき分けて男の声が聞こえてきた。
「いたぞ!」
「よーし、逃がすなぁ!」
周りから声が聞こえてくる。
後、数秒もしないうちに自分は囲まれてしまうだろう……。
「う……」
もう思うように脚が動かない。
カスミは絶望の念を抱きつつ、ドッと太い木に凭れこんだ。
2……3……。
霞む眼で集まってくる兵を数える。
しかし、それ以上兵士が集まってくる気配はなかった。
「おい、たった3人かよ。」
「この近くにはいないみたいだ。俺と一緒だった奴が砦に伝えにいったから、
少しすれば応援が来るだろう。」
「まぁこの様子じゃ逃げる事さえ出来んさ。」
そう言うと、1人の兵士がカスミの前に座りこんだ。
じっと彼女の顔を覗きこむ。
「へぇ、スパイって女かよ。それもすげぇイイ女じゃねぇか……。」
「どれ?」
「おぉ………本当だぜ。こりゃ上玉だ!」
好色な目つきがカスミを襲う。
明らかに性欲を感じさせるその眼に、カスミは視姦されるしかなかった。
紅い忍装束は彼女をより艶やかに見せ、大きく開いた胸元からは
発育の良い乳房が見え隠れしている。
痛々しい傷を携えているものの、際どいスリットから覗く長く美しい脚。
カスミの身体は、一々男達の欲望を扇動する。
男達の視線が大きく開かれた胸元に注がれている最中、カスミが立ち上がった。
兵士達に緊張が走り、腰の武器に手が伸びる。
カスミはそんな兵士達を見やると、柔かい笑みと共に、その忍び装束に手をかけた。
「私、殺されるんでしょう?………なら最後に、楽しい事……しませんか?」
非道く艶を含んだ笑みだった。
残酷なほど美しいその微笑みは、瞬く間に兵士達を魅了してしまった。
言葉を失うほどの感情に支配された彼らを尻目に、カスミは装束をはだけていく。
上半身を脱ぎ終え、透き通るような白い素肌が晒される。
装束から解放された美しい乳房は、兵士の眼を釘付けにして離さない。
「興味ないですか……?私の身体……」
微動だにしない彼らに向けてニコリと笑う。
その言葉にやっと己を取り戻した兵の1人が、鎧はそのままにズボンだけを下ろした。
すでにその兵のモノは猛っており、彼のヤル気は確認するまでもない。
「ふふふ……元気ですね。他の方はいいのですか?お相手するのはこの方だけで…」
「お、俺も!」
「……!」
後の2人も慌ててズボンを脱いだ兵士に習う。
恥ずかしげもなく股間を勃起させ、彼らの視線はあらわになった見事な乳房に、
うっすらと汗をかいた愛らしい顔に注がれた。
カスミは逸早く下半身を曝け出した兵士の前に跪くと、その可憐な唇で男のモノを包み込んだ。
「んっむ…」
紅い唇が男の剛直を飲みこんでいく。
唾液が口内から漏れるのも構わず、カスミはぐいぐいと喉の奥まで差し入れた。
カスミの唾液でべたべたになったモノを、口全体で扱き始める。
「んふ……!ずぶっ……ちゅっ、んんぅ……はぁぅ……」
凄まじい吸引力で射精を促す。
そのあまりに淫らな表情は、見ている者の感覚を急速に絶頂へと追いこむ。
頬をすぼめ、実年齢以上に”艶女”を感じさせるカスミに、男は堪らず歯を食いしばった。
(なんだ……この女!?)
どくんっ!!
溢れ出した精液が、カスミの口内を満たしていく。
それを一滴も溢す事なく飲み干す。
カスミは舌先で亀頭を綺麗に舐め取ってから、その肉棒から口を離した。
舌先の感触を名残惜しげに男の肉棒がぴくと揺れる。
一度果てたというのに、その硬度は全く衰える様を見せていなかった。
「ふ……ふふ、まだ元気ですね。でも待っている方がいますから…」
「次は俺だ!」
「お、お前っ!汚ぇぞ!」
口論を始める2人。
今にも殴り合いさえ起こりそうな雰囲気だ。
下半身を曝け出して必死になる2人をカスミは可笑しそうに笑う。
「では……2人一緒にしますか?」
カスミは肉のたっぷりと乗ったその双丘を持ち上げ、男を誘う。
1人はあの谷間に挟める……その現実に、兵士達はこれまで以上の興奮を覚えた。
「もう一方は、私のお口で…」
どちらもきっと極上の快楽を得る事ができるだろう。
あまりに幸せすぎる選択肢は、男達の頭を悩ませる。
「お、俺はその乳をもらうぜ!」
1人が1歩前へ踏み出した。
遅れを取った男はやや不満げに顔をしかめたが、それでも目の前の美しいくの一の
口淫を味わえる事を考えると表情も緩んでしまうのだった。
「どうぞ……。」
カスミは痛々しいほどに勃起した兵士のモノを両の乳房で優しく包み込むと、
亀頭の部分さえ隠れてしまうほど埋めてしまった。
「うぉ……!」
生暖かい感触に兵士は悦に入った声を上げる。
吸いつくような餅のような肌は兵士の脳をマヒさせ、
全神経をその肉棒に集中させるほどの快楽を与えた。
「俺も頼むぜ、もう我慢できねぇ!」
お預けをくらっていた最後の1人が、半ば強引にカスミの口へ猛ったモノをねじ込んだ。
カスミはさして嫌がる様子も見せず赤銅色の肉棒を咥えると、
そのまま頭を動かして律動を開始した。
「くっ……こいつはすげぇぜ……!」
「このパイズリも堪らん……持たないぞ!」
ユサユサと掌からこぼれんばかりに乳肉を揺らす。
ピンク色の乳首はやや立ち上がって、彼女の気持ちの高ぶりを現していた。
「く……!」
1人先に達してしまった兵士が、目の前で繰り広げられる淫靡な空気に当てられたか
自らのモノを擦り出した。
「駄目だ、待てねぇ!」
加速する手を止める事すらせず、1人で快楽を貪る。
カスミはその男にちらりと目を向けたが、すぐに目の前の行為に没頭した。
「んぶ、んぶ、んぁむ……ん、んふ、んっふ……!」
「あ、駄目だ……出すぞ、出る!」
2人を相手にしていたため、身体を無理矢理捻っていたカスミが
息苦しさのため肉棒から口を離した瞬間だった。
剛直の先から夥しい量の精液が飛び散る。
その白濁液はカスミの艶やかな黒髪に、美麗な顔に、遠慮なくこびりついた。
「こっちもだ……この女、なんてエロい乳してるんだ!」
カスミの胸に埋もれたままだった肉棒の先端から、噴水の如く精液が吐き出される。
「きゃ…!」
それは真っ直ぐ彼女の顔を直撃し、胸の谷間に精液の溜まりをつくるほどの量を排出した。
2人の精液の量が、カスミに与えられた快楽の度量を如実に表していた。
精液まみれのカスミを見て、自慰にふけっていた男が声を上げる。
「うっ!」
その男は2回目の射精だというのに、全く同じ量の白濁液を撒き散らした。
「なんだ……この女、すげぇ身体してやがる。」
「全くだ。殺すには惜しすぎるな。」
「口と乳だけでこれだけのものだ………膣内はさらにすげぇかもな……」
下卑た笑いを携えて、カスミに近づく男。
まだ下着をつけたままの下半身を見つめながら、傷のある足を持ち上げる。
「あ……!」
脚を広げられ、カスミの顔に怯えが宿る。
その今までと違う表情を、兵士達は見逃さなかった。
「なんだ?急に身体縮ませやがって……」
「おお、イヤらしい股だ。全く最高の身体してやがる!」
「構う事はない。ここまでしたんだ、最後までヤらせてもらう!」
男達が一斉にカスミに襲いかかる。
精液まみれの彼女を避ける事など一切せず、股間を隠す薄い布きれに手を伸ばした。
「いやッ!!」
伸びてきた手を蹴り上げる。
初めて見せた抵抗に男達は怪訝な顔をカスミを見た。
その怯えた表情から、1人の兵士がニヤリと顔を歪ませる。
「おいおい、まさか処女って訳じゃないだろうな?」
「まさか!あんなエロい事できる処女なんて、そりゃ有り得ねぇよ!」
それぞれが面白おかしく話し出す。
だが2人は確信に近い自信を持っていた。
明らかな怯えを見せるカスミに、今までのギャップを感じて楽しくさえなってくる。
「しかしこいつの怯え方は普通じゃないぜ……さっきまでとはまるで別人だ。」
兵士達の思惑通り、カスミは処女だった。
口淫その他、身体を使って男を果てさせる術は忍びの修行の中で教えられてきたが、
挿入に関して師のハンゾウが関ることはなかった。
我が子のように面倒を見てきたカスミには、せめて初めては自分の想い人と
結ばれて欲しいと思う父心からだったかも知れない。
それは忍びとしては甘い考えであるが、頭領である彼が唯一見せた弟子達への優しさだった。
「じゃあなおさら試したくなったぜ。これだけの技を持つ女の初めてをな!」
脚を掴んだまま、男がカスミに覆い被さる。
痛みの引かない脚を懸命に動かして逃れようとするが、力で兵士にかなうはずもなかった。
「面白ぇ!」
もう1人の兵士がカスミの頭側に周り、両手を地面に押さえつける。
すでにかなりの体力を消耗していたカスミにとって、
兵士2人に押さえつけられて逃げる力など最早残っていなかった。
「い……やぁ!いやぁぁッ!!」
「わめくなって!暴れると余計痛いぞ!」
下着の上から、兵士がカスミの股間を弄る。
驚くことにそこは全く湿り気を帯びてはいなかった。
「おい、この女全然濡れてねぇ!さっきあれだけ気分出してたってのに……」
「なんだ?それじゃ俺達はこいつに遊ばれてたのかよ!?」
兵士達の眼がギラリと光ったように見えた。
その瞬間、彼らの欲望は『楽しむ』から『犯す』へと変わる。
手に脚に込められた力はさらに強くなり、カスミは身体をよじることさえできない。
カスミの表情が、怯えから絶望へと変わる。
自分の危機が現実的になった今、彼女にできる事は何もなかった。
「この野郎……俺達をコケにしやがって!」
「や、めて……いやぁぁッッ!!!」
カスミの悲鳴も、今は兵士達を興奮させるスパイスにしかならなかった。
天に向かって屹立するドス黒い肉棒が、カスミの秘部に入りたくてビクビクと脈打つ。
『どんな状況でも、生きる事をあきらめてはならぬ―――』
尊敬する師の言葉が脳裏を過ぎる。
ロッカクの里が帝国軍に焼き討ちされて以来その生死は定かではない。
カスミは今初めて畏怖を感じていた。
ずっと守り通してきた貞操。
だがそれは自分のような生業をしている者には全く必要なものではない。
でも、せめて『初めては自分の好きな人と結ばれたい』と思うのは
彼女のような年頃の娘は誰もが持つ願望だろう。
忍びであるカスミも、それは例外ではなかった。
しかし今正に目の前の性欲の塊でしかない男に、その大事なものを奪われようとしている。
今までの兵士達とのまぐわいは、カスミにとって生き延びるために取った
くの一としての行動に過ぎなかった。
わずかなチャンスを見出すために男達を快楽の底へ堕とすことも、
師であるハンゾウから教わった事だ。
だが、ただでさえ細身の彼女が、傷を負ってもなお逃げ道を見つけられるほど、
帝国の兵士は甘くはなかった。
(こんな人に犯されるぐらいなら―――!)
カスミは舌先を前歯で捉える。
この年齢まで操を守るほど貞操観念の強い彼女には、どうしても踏み入られたくない領域だった。
気が狂うほどの嫌悪感に苛まれながら、カスミは自ら命を絶つ事を決意したのだ。
(ごめんなさい、ハンゾウ様……………さようなら、ティル様………)
脳裏に浮かんだものは、自分をここまで育ててくれた師の顔と、
ようやく見つけた最愛なる人の顔だった。
「ははは、観念したかこの女!ようし、待ってろ…」
「!?」
「な、何だあれ!!」
口内に血の味が滲み出した時、
カスミは自分を押さえつけている兵士達の只ならぬ焦り声を聞いた。
強く閉じていた瞼を開けると、自分たちの頭上……森の木々の頭を抜けたくらいのところの
空気が捻じ曲がり、暗黒の虚無空間が作り出されている。
その球状の空間は次第に大きさを増し、この世のもの全てを飲みこまんと
周りの空気を振動させていた。
「う、うわあぁぁ!」
1人の兵士が怯えを含んだ声を上げる。
その何者の存在も許さない暗黒の異空間は、3人の兵士を次々に引きずりこもうとし出した。
「吸いこまれる……!!」
「あぁぁっ!な、何なんだよこりゃ!?」
ガリガリと地面を掴むも、その抵抗は巨大なブラックホールの前にはあまりに無力だった。
強烈な吸引力に成す術もなく、兵士達は虚無の世界へと飲みこまれていく。
グォォォォォォォォォ…………!
その球体は3人の姿を完全にこの世から葬り去った後、徐々に縮小を始める。
そして何事もなかったように消滅し終えた後も、
カスミは乱れた衣服を直すこともできず放心してしまっていた。
(私、助かったの……?)
自分の身体を両手で抱いて、ぶるっと身震いを起こす。
この身の毛もよだつほどの恐ろしい力……一度だけ見覚えがあった。
『本当は使いたくないんだ……人の命を奪う権利なんて、誰にもないからね』
そう言ってはにかむ笑顔が輝いて見えた。
この人は、命を尊さを知っている。
思えばあの笑顔を見た時から私はあの人に心を奪われていたのかも知れない。
手に宿った真の紋章の力――ソウルイーター――と共存していく道を探す彼の力になりたかった。
あの人が駆けて来る。
ごめんなさい……この忌まわしき力を使わせてしまって。
「ティル様……」
もう、涙で何も見えない――――
「カスミ!大丈夫!?」
鳴き崩れる彼女に近寄り、身体を確かめる。
脚の深い斬傷を見るや、彼の顔が蒼ざめ出した。
「ケガしてるじゃないか!深い……!」
咄嗟に頭に巻いてあったバンダナを外し、傷口に巻きつける。
髪についたままの渇いた精液を胴着で拭き取り、乱れたままのカスミの衣服を整えてやる。
「痛い?」
ふるふると頭を振る。
「でも、泣いてるじゃないか。立てるかい?」
「痛いから泣いている訳じゃありません……。」
カスミは顔を上げる事ができない。
拭っても拭っても止まる事のない涙を見られたくないのだろうか。
絶望の淵から自分を救ってくれたのは、死を覚悟する直前に思い浮かべた最愛の人だった。
今だ信じるられない現実と向き合えず、カスミは涙を流し続ける。
「もうすぐここにも兵がやってくる。
今、カゲさんが陽動に向かってくれてるけどそれも時間も問題だ。」
「ティル殿。」
2人の後ろでガサリと茂みがなった。
同時に音のした方向へ視線を向けると、そこには黒装束を着た忍者が立っていた。
カスミと同じ忍者のようではあるが、彼は明らかに『陰』の雰囲気を漂わせている。
「カゲさん……どうでしたか?」
「間もなくこの場へも援軍がやってきます……その数2,30は下らないかと。
早々に立ち去られた方が得策だと思われますが。」
ティルと呼ばれた少年は、泣き顔を上げてカゲを見るカスミに向き直り、
「聞いたかい?ここも危ない、早く城に戻ろう。」
と、彼女の前で腰を屈めて背を差し出した。
「あ、だ、大丈夫です!走れますから!」
「駄目だよ!そんなひどい怪我してるのに!」
ティルはきつい口調でカスミに言い放った。
背に彼女を乗せるまで、梃子でも動かない様子だ。
「………。」
「お早く。」
戸惑うカスミと動こうとしないティルをカゲが促す。
一刻も早くこの場から離れないと、今度こそ帝国に捕らえられるかも知れないのだ。
迷っている時間などない。
カスミは恥ずかしげにティルの背に身体を預けた。
「し、失礼します……」
「よし!行こう!」
ぐっと立ちあがり、ティルは全速力で駆け出した。
その後ろをフォローするようにカゲが着き走る。
本拠地へ走る最中、ティルが背のカスミに語りかけてきた。
「でもさ、びっくりしたよ、はぁ、はぁ……マッシュさん、カスミを1人で偵察に行かせたって…」
「……」
「警戒が厳しいって、解かってるくせに、女の子1人でいかせる、なんて……」
「女の子…」
私を女の子と思ってくれているんだ……。
カスミはこれ以上ない安心感の中、ティルの背に黙って顔を押し付けた。
「ありがとうございます……。」
第2部 完