「ふっ……」
意識が遠くなりそうな愛撫の果てに、千里が息を飲む。
「千里?」
頭を上げ、若は千里の顔を覗き込んだ。
碧い瞳は熱に潤み、紅く上気し汗ばんだ頬には、幾筋か髪が貼りついている。
「わか…さまっ……」
震える指が若の髪にさしこまれる。
そのまま千里は若を胸元に――否、千里自身の体を若の元へ引き寄せた。
「わ……んっ………」
両手で若の頬を包み込むと、自ら唇を重ねてくる。
たどたどしい動きで触れては離れる唇を、若の舌が深みへと導く。
「わかさまっ………」
濡れた音を響かせて互いに唇を貪りあう。

――――すき

吐息と共に漏れ出た言葉に若の動きが止まる。
「千里っ……」
どんなに深い口付けよりも、その短い音だけが若の熱を尚更に駆り立てた。

**

意識を失いぐったりとよりかかってくる体を横たえて、若はその隣に同じく横たわる。
頬を伝う涙を拭い、汗で張り付いた髪を静かに払ってやった。
さて。この後どうするか。
千里をこのままにしておけば、いつぞやのように騒ぎになるのは必死……特にハク。
部屋に戻せば目聡い湯女達に見つかってこれまた騒ぎになるのは火を見るよりも明らかだ。第一、これほど疲れ果てた千里を遠い大部屋に戻すなど、若には考えられない。いや、それよりも何よりも。
千里を放したくない。
千里から離れたくない。

だからと言って、千里と所帯を持ちたいなどと、言い出す訳ではない。いや、決していい加減な気持ちでしたのでは無い。いつかはそうしたいのだが。
あの夫婦でさえ、「一人前になるまでは」一緒になることは許されなかった。
まだまだ半人前でしかない自分と、幼い千里とでは、到底許しては貰えない。
天井に視線を移し、小さく溜息をつく。
傍らに寄添って眠る千里の肩をそっと上掛けで包んでやる。
最早目覚める様子の無いその額に、軽く唇を落として。

『女の子が幸せなお嫁さんになれますようにって』

「雛祭……か」
愛しい娘の幸いを祈って。
「不幸になんか…するものか」
ひとまず、今は眠りにつこう。
優しい温もりを傍に置いて。
目覚めればもう一波乱あるだろうけれど。
何があっても、何と罵られても。
千里、お前だけは―――。

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壁紙提供:inocencia様

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