「‥なんだか今日のまもり姉ちゃん、いつもより動きがきびきびしてるよね‥。」



 テキパキ動いて仕事をしているまもりを見てセナが呟く。
その呟きを聞いたデビルバッツの面々は、まもりに視線を向けた。
 そしてセナの言う通りいつも以上にテキパキ動き回っているまもりに皆心の中で「「確かに」」と頷いた。

 ただ一人その理由を知るヒル魔だけは、ケケケと愉快そうに笑っていた。


 そんなまもりの努力のかいあって、居残ってしなければいけない作業はほんの少しだけだった。
皆が帰る支度をしている間もまもりは今日のデータをまとめる為、ノートにペンを走らせていた。
 が、トンとノートのすぐ脇に置かれた白い箱(雁屋のロゴ入りから中身は雁屋のケーキだろう)に気付いてまもりは視線を上げた。


「あ、ムサシくん。」
「誕生日なんだってな姉崎。いろいろと世話をかけてるからな、これはオレと栗田からの気持ちだ。」
「えっ!?」
「大変だとは思うがこれからもよろしくしてやってくれ。」


 妙な含みを含んだ言葉にまもりは、苦笑いながらもムサシの行為に素直にお礼を言った。


「おい糞ジジイ。その言い方じゃオレの方が迷惑かけてるみてーじゃねぇか。
 実際迷惑かけられてんのはオレの方だぞ。」
「ちょっとそれは聞き捨てならないらね、ヒル魔くん。」
「あん?」
「私だけじゃなく全人類に迷惑というなの厄介事を押し付けるのはヒル魔君の方じゃない。」


 睨み合う二人にムサシは苦笑し鞄を肩にかけた。


「それじゃあ邪魔者は退散するかな。後は二人好きにやってくれ。」


 問題を吹っかけて行った本人は、問題を吹っかけるだけ吹っかけ後処理もしないまま無責任にさっさと出ていってしまった。
それに興ざめして、ヒル魔は舌打ちと共にパソコンを閉じて帰る支度を始めた。


「え‥ヒル魔君帰る、の‥?」
「家の方が集中出来る。」


 身支度をしているヒル魔を暫く見つめていたまもりは、しゅんとうつむきノートに視線を向けた。

 誕生日を一緒に祝ってくれるようなそんな口ぶりだったが、まもりはヒル魔が甘ったるい食べ物も行為も苦手とする事を知っていた。
 だから急に気が変わっても仕方がないと半ばこの後の予定を諦めかけていた。


「テメェも荷物をまとめろ。続きはオレの家でやれ。」
「え!?」
「‥‥あ?置いてかれると思ってんのか?
 オイオイ、オレはそこまでテメェの信用がねぇのかよ。」
「ち、ちがうってば。信用してない訳じゃないけど‥‥」


 少し信用していなかったので強くは言えない。
そんなまもりを見ていたヒル魔は視線をそらして鞄を肩にかける。


「そうだな。誕生日とかそういうイベントに興味はねぇ。
 だがテメェだからオレも多少譲歩してやってんだろ。」
「それって‥‥」
「オラ!さっさと用意しろ糞マネッ。本気で置いてくぞ!」
「ま、待ってったら!」


 まもりは慌ててロッカーから鞄を取り出し荷物を詰め出す。
そして入口に突っ立ったままのヒル魔の前に笑顔で立った。

 ヒル魔が譲歩する事は殆どない。 むしろ誰かの為に考えを曲げると言う事自体あり得ないような唯我独尊男だ。
彼を畏怖する者が聞けば天変地異の前触れだと卒倒するかもしれない。
そんな大事を彼はまもりだからしてやるのだと言ってのけた。
今日はもうそれだけの言葉と一緒に誕生日を過ごしてくれるだけで十分だとまもりは思った。


「準備出来たよ、ヒル魔君。」


 ムサシからもらったケーキを大事そうに抱えながら笑うまもりを見てヒル魔は部室の電気をパチリと消した。














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