ある日、時刻表を見ていたら、「ムーンライト高知」、「ムーンライト松山」という列車を見つけました。京都〜高知間、そして京都〜松山間に運行されている夜行の全車指定席の快速とのことです。
よし、これを使って予土線に乗ろう、という計画をすぐ思いつきました。
時刻表を見て考えましたが、行きをムーンライト高知、帰りをムーンライト松山にすることにしました。
駅でなんとか指定席券が買えました。
さて問題はムーンライト高知に乗る前とムーンライト松山に乗った後でどこを通るかということが問題ですが、ムーンライト高知に乗る前日に大垣行きの夜行に乗り、ムーンライト松山に乗った翌日中に東京に帰ってくる他はいきあたりばったりでいこうと思いました。
計画段階では、行きに小浜線にでも乗ろうか、などと考えました。
そのあとで計画を若干変更するできごとがありました。JR北海道・JR四国・JR九州の値上げです。
本来は宇和島から内子線でない方の路線を通って伊予市に行き、そこから伊予鉄道で松山市に行く予定でしたが、値上げするとあっては内子線にも乗ってしまおうと思い、伊予鉄道をあとまわしにして内子線でない方→内子線→内子線でない方というぐあいにぐるぐる乗って乗りつぶすことにしました。
ムーンライト高知とムーンライト松山がどんな列車かわかりませんが、この冬の青春18きっぷの4枚を四国旅行にあてることにしました。
そして、なんとなくJRの値上げに伴い春から青春18きっぷが若干変更になるんじゃないか、と思いました。
18きっぷも値上げするのかなあ、と考えてみたりしました。あるいは本州用の18きっぷ、全国用の18きっぷができて価格が変わったりするのかなあ、などと考えてみたりしました。
まあ、何が起こるか春にならないとわからないな、考えてもしょうがないと考え、旅行にでかけました。
品川駅にやってきた。まずはいったん改札の外に出て、窓口で青春18きっぷの1枚にあしたの日付を入れてもらおう。
いつもなら大垣行きの夜行に乗るときは川崎までのきっぷを用意していくものだが、きょうは実家からアパートまで青春18きっぷで来て、荷物を置いて休み、午後7時過ぎにアパートを出て品川に向かったのである。
きょうは臨時の大垣行きも出ているので臨時の方に乗ろうと思っている。発車よりだいぶ前に品川に着いたのでたぶんすわれるだろう。
窓口で日付を入れてもらって、きょうの日付の方の青春18きっぷを見せて改札を通り、大垣行きの出るホームに向かう。
まだまだたいして並んでいる人がいなかった。とりあえず臨時の方の列の所にすわっておく。そして発車時刻を待つ。
行列が伸びてきて、まず定期の大垣行きが入線し、続いて臨時の方が入線する。そしてドアが開く。なんとかすわれた。
きょうは大入り満員というわけではなさそうだ。それでも発車時刻が近づくと立つ客も出る。たいていはそんな客は小田原のあたりまでで降りてしまうのだが。
そして発車である。5年前に臨時名古屋行きに乗って以来、もう何度も大垣行きには乗っているので慣れている。大きな失敗もしていない。そのまま夜の闇の東海道本線を進んでいく。大船のあたりまではけっこうな都会である。
なにしろこの冬は5枚のうち1枚だけ12月、それも帰省のみ使い、あとの4枚は休暇を取って年始に使うことにしたわけである。だからあまり疲れることもなく、眠れない。
まあどうせこの列車は岡崎で降りて、始発の米原行きに乗ろうと思っているのでそんなにあせらない。
米原に着いた後は北陸本線で敦賀に行って、小浜(おばま)線にでも乗ろうかとこの時点では考えていた。そんなことを考えているうちに眠ってしまった。
気がつくとうっすらと明るくなっている。もう豊橋を過ぎているらしい。
あれ?雪だ!
東京では全然雪なんか降っていなかったのに、名古屋近郊は雪がかなり積もっていたのである。
こりゃ敦賀に行くのは無理だなあと思った。きょうはいろいろ列車に乗って、深夜の大阪発のムーンライト高知に乗ろうと考えているのだが、はたしてどうしようか。
そうだなあ、草津から草津線、関西本線、和歌山線に乗ってみようかと思った。
このあたりは南近畿ワイド周遊券の自由周遊区間なので、そんなに急いで乗らなくても、去年10月に乗った新大阪発新宮行きの夜行に連続して乗ればいいかと思っていたが、草津線だけは周遊区間をはずれているので青春18きっぷで乗ってもいいかと思ったわけである。
そうだなあ、行きは草津→柘植(つげ)→王寺(おうじ)→和歌山と進み、あさっての帰りは天王寺→王寺→高田→奈良→亀山→名古屋と進めば無駄がないなと思ったわけである。
そう考えて大垣行きを岡崎で降り、雪道をなんとか歩いてローソンでとろろそばを買い、米原行き電車に乗って食べたのである。そして米原行きが発車する。
米原行きから見える車窓も、雪がずっと降り続いていた。そう言えば1994年の年末は、大垣行きに乗ることは乗ったけど、腹具合が悪くて熱海で降りてしまい、結局大井川鉄道に乗っただけだったっけと思い出した。つまり冬の名古屋はきょうが初めてなのだ。
名古屋近辺は冬は東京より雪が降りやすいんだろうなあと思った。そしていったん眠る。
気がつくと関ヶ原のあたりらしい。やはり雪は降り続いている。このあたりでこの電車がかなり混雑するのはいつものことのようである。
結局米原までずっと雪が見えたまま進み、米原に到着した。さあ。姫路行きの新快速に乗り換えだ。
乗り換えた新快速からも、しばらくの間ずっと雪が見えていた。しかし草津が近づいて、なんとか雪が見えなくなってきた。よかった、雪のせいで草津線が動かないなんてことになったらどうしようかと思った。
電車は無事草津駅に到着した。ぼくは電車を降り、草津線のホームを探すことにした。
米原から乗ってきた新快速を草津で降り、階段をのぼっておりて草津線のホームにやってきた。
新快速が混雑していたので草津線も多少混雑はしているが、朝なので、これから柘植(つげ)方面に向かう人よりも草津にやってきて東海道本線に乗り換える人の方が多いようだ。
これから乗るのは、なんのことはない、東京近くの東海道本線でよく走っているような電車だった。JR西日本エリアでも、湖西線とか伯備線とかで走っているのでそれほどめずらしいものではないのだろう。
乗り慣れている電車なので気兼ねせずに乗る。電車は発車するとたちまち市街地を離れ、山で囲まれた草原を進んでいく。
岡崎から米原までの電車でそれなりに眠ってはいるのだが、それでも眠くなってきて、ところどころ眠りながら進んでいく。気がつくとずっと山深い場所を通っている。もう滋賀・三重県境のあたりだろう。もう少し眠ろう。
さらに進む。気がつくともう終点の柘植に到着するところだった。まずは電車を降りる。これから乗る関西本線の加茂(かも)行きまで1時間近く時間があるのでいったん改札を出てみよう。
青春18きっぷを見せて柘植の改札を出て、駅近くを散歩してみた。
するとぽっかりとした沼の前に出た。柘植の近くには沼があったのだ。
こんな山奥に浮かぶ沼って、けっこういい景色だなあと思った。いろいろな生き物が住んでいるのかなあと思った。3日間の長い旅なので、こうやって沼とか見て息抜きしていこう。
さあ、駅に戻ろう。
柘植(つげ)駅の近くの沼を見て、駅に戻ってきた。青春18きっぷを見せて改札を通り、ホームに行く。
柘植は森の中の駅であり、そんな場所に草津から電車が来ている。これから乗るのは加茂(かも)行きのディーゼル車だ。本数が少ないだけあって多少客が多い。青春18きっぷの客も多そうだ。
ディーゼル車がやってきた。けっこう新しめのディーゼル車だ。
乗ってみた。こんな場所には似つかわしくない、オールロングシートのディーゼル車である。カーテンがあり、南側はまぶしいのでカーテンが引かれている。ぼくは南側にすわり、外をながめることにする。
名古屋の手前から米原まではずっと雪だったのに、このあたりは雪が降っていなくていい。やっぱりきょうは関西本線に来てよかったなあ。
お客は年輩の客が多いけれど、オールロングシートでもなんとか全員すわれるくらいの数である。ディーゼル車は進んでいく。
森をぬけて、川のそばを走る。ここ数年青春18きっぷでいろいろなところに行っているが、川が近くに見える場所もけっこう通っている。米坂線とか飯山線とか。
ここの関西本線の川は、それほど雄大というわけでもないが、河原が近くに見えて、どことなく身近な感じのする川である。大垣行き夜行明けなので、ぼーっとしながら進んでいく。そのうち川から離れて山の中に入っていく。
そして次が目的地の加茂、というところにやってきた。やはりまわりは山に囲まれた場所である。そして無事ディーゼル車は加茂に到着。たくさんの客といっしょにディーゼル車を降りる。
ここからは電車だ。ホームの向かいに電車がある。さあ乗ろう。
柘植(つげ)から乗ってきたディーゼル車を加茂で降りたぼくは、王寺(おうじ)まで行くため向かいのホームに停車していた電車に乗った。ここまで乗ってきた人たちはみんな乗ったはずだが、たいしてお客もなかったためあまり混雑もないまま発車だ。
今まで乗ってきたディーゼル車はオールロングシートだったが、加茂から先の電車は、2人がけシートがたくさんあり、米原から西の東海道本線みたいな電車だった。これで混雑しないのかなと思ったが、たくさん車両をつないでいるからこれでやっていけるのかもしれないなと思った。
名古屋から米原のあたりで雪が積もっていたのがうそのようにこのあたりは雪なんてない。
おととしに通った木津を通り、5年ぶりの奈良県に入り、やや都会の奈良駅を過ぎる。5年前は奈良県は通過しただけであり、もっと昔の修学旅行では奈良の鉄道には乗っていない。
家並みが続く景色を見ながら目的地、王寺に着いた。ここで降りる。
長い電車が通るらしくホームの長い駅で、レールが何本もあった。やっぱり和歌山線の電車を留置させるレールが必要なのだろう。
和歌山行きの電車に乗る。大阪が近いのでお客は多少多く感じるがそれほどでもない。やっぱり正月明けだからだろうか。
電車は発車し、すぐに奈良の市街地からはずれていく。緑の広がる風景から、小高い山が見える景色になる。お客は少しずつ降りていき、だんだんすいてくる。
そのうち右手に川が見えてくる。もう和歌山県に入ったようだ。この川は和歌山市に通じる川だろう。
正面やや左に太陽が見えて、左右に山、右手に川が正面方向に流れている。
ぼくはJRは海が見える景色が一番で、次にいい景色は川が見える景色だと思っているので、こういう景色は気持ちよく感じる。そんな風景を見ながら時間は過ぎていく。和歌山が近づいてもあまりお客は乗ってこない。
だんだん山が見えなくなり、市街地に入っていき、ようやく終点和歌山に到着した。和歌山県に来るのは去年10月以来3ヶ月ぶりで、あの時は夜に通過しただけだったので昼間の景色を見てみた。いかにも地方都市という感じでいいなあと思いながら電車を降りた。
王寺(おうじ)から乗ってきた電車を和歌山で降りた。さてこれからどうしよう。
今夜12時過ぎに大阪から高知行きのムーンライト高知に乗ることは決まっている。
たとえば大阪市営地下鉄の1日乗車券を買って地下鉄に乗りまくるとすると、まだ地下鉄に全線乗りきれないうちに夜になってしまいそうだ。
だから今日は地下鉄以外を中心に乗ってみよう。そう言えば最近関西空港ってのができたっけ、そこに行ってみよう、JRと南海が来ているから片方ずつ乗ろう、南海は和歌山市にも来ているし、和歌山市には和歌山からJRが出ているから和歌山→和歌山市→関西空港と行って、関西空港からJRに乗ろうと計画した。
和歌山市行きの電車の出るホームに行く。王寺から乗ってきた電車とそれほど変わらない、短い編成の電車である。お客はぱらぱらと乗っている。
乗ってそのまま発車する。ずっとまちなかの住宅街を通り、けっこうな都会である和歌山市駅に到着した。
どうやらこの駅では南海には改札を出なくても乗り換えできるみたいだが、やっぱりきっぷを買っておいた方がめんどうでないので、きっぷを買うためにいったん青春18きっぷを見せて改札を通った。
和歌山市はJR西日本の路線が乗り入れている南海電鉄の駅である。
ぼくがここに来たのは、今度新しくできたと言われている関西空港に行ってみようと思ったからである。
すなわち、ここ和歌山市から南海で関西空港まで行って、JRで大阪まで戻ってムーンライト高知に乗れれば効率が良いと考えたからである。
さてと、と時計を見た。もうすぐ午後3時か。和歌山市で午後3時。…え?和歌山市で午後3時?!
ここでぼくは、話に聞いていた水軒への路線を思い出した。駅の案内を見ると、30分もすれば水軒行きが発車するらしい。
そんなわけで水軒まできっぷを買い、改札を通って水軒行きに乗った。
この電車はドア扱いを行う車掌とは別にきっぷを売る車掌が乗務している。おそらく水軒は無人駅なのだろうと思った。それなら車掌も必要だろう。
お客を見ると、いかにも長い旅行の途中という、おそらく和歌山港からフェリーに乗るお客に混じって、いかにもレールファンという客がいる。みんな考えていることは同じらしい。
発車時刻が来て、電車は発車した。
ごとごとと電車は進んだ。やがて景色は市街地というよりも港町という風景になった。
そのうち和歌山港に着いた。ここでかなりの人が降りて、あとに残ったのはいかにもレールファンというメンツだらけになった。
和歌山港で女性が乗ってきて、車掌さんに質問した。
「すいませ〜ん。和歌山市に行くにはどの電車に乗ればいいですか?」
車掌さんが答えた。
「これに乗っていいですよ。どうせ同じですから。」
「そうですか。どうもありがとうございます。」
しまった、そうか。その方法があったか。これなら和歌山港までの運賃で水軒まで行けたのになあ、と思った。
でもむろん、せっかく水軒まで行くのだから、水軒までの運賃を払うのが「すじ」であろうと考えた。
さて、10人足らずのお客を乗せた電車は和歌山港を発車した。とたんにあたりから建物の気配が消えた。
そして水辺の植物がおいしげる地帯をすいすいと何キロも進んだ。
全く景色が変わらないまま、「まもなく水軒、水軒、終点です。」というアナウンスが響き、ホームだけが存在する場所で電車は停止した。
そこは港でも倉庫でもなく、原っぱが広がっている場所だった。
近くでラジコンカーを走らせている人たちがいる。もちろんみんな車で来た人たちだろう。
自動販売機さえない場所である。特にやることもなさそうだ。ぼくは電車に戻ることにした。
さてもちろん無人駅であるからには自動券売機もない。そのために車掌が乗っているのだ。
ただしさきほど乗ってきた女性は和歌山港で和歌山市までのきっぷを買っているのだからこれで十分だ。
まずはぼくの番だ。「関西空港まで」と車掌さんに告げた。
「関空ね。えーと、関空、関空…」と言いながら、車掌さんは車内改札の使う補助券をめくった。そして、
「千×百×十円です。」
と言った。確かに関空は加算運賃とかかかるから、そのくらいはかかるのだろう。財布からお金を出して払った。
「千×百×十円だってよ。かかるもんだねえ。」
などと車掌さんが言っている。ひょっとしたらこの車掌さんは、水軒から関西空港までのきっぷを発行するのは今日が初めてだったのではないかと思っている。
「かぶとまで。」
と言っているお客がいた。南海の「加太」のことだろう。あとで実際に加太に行って知ったのだが、この駅は「かだ」と言うらしい。「かぶと」とは関西本線で加太という漢字を書く駅のことである。
和歌山県内の南海は他にもあるが、あとの路線は1日中走っている路線であるし、それに和歌山には南の方に紀州鉄道とか、有田鉄道とか走っているので、それとセットで乗ればいい、そう思ったので、加太も含めて後で乗ろうと思った。それより大阪駅に近い所もけっこう乗ってないので今日はそっちに乗ろうと思った。
他の人は特にきっぷを買っている様子が無かったので、もしかしたら和歌山市から水軒までの往復きっぷでも買ったのかもしれない。
また建物のない線路を長いこと進んで、和歌山港に着いた。ここでお客が乗ってきた。もちろん水軒まで乗っているお客より今乗ってきたお客のほうが数が多い。
しばらく港の雰囲気を漂わせていた風景は、さらに電車が進むと都会の雰囲気となり、終点和歌山市に着いた。さあ、乗り換えだ。電車を降りた。
ぼくのことを覚えていた車掌さんが、
「急げば難波行きに間に合うよ。」と言ってくれた。
「それじゃ、急ぎます。」
と言ってぼくは階段を昇り、難波行きに乗ろうと急いだ。車掌さんが言ってくれるのだから泉佐野にも停車するだろう。
ぼくは関西空港ってどんなところなんだろうとわくわくしていた。
水軒(すいけん)から乗ってきた電車を和歌山市駅で降り、車掌さんに言われたとおり、階段に向かう。そして階段を昇っておりて、なんば行きの急行に乗った。すぐにドアは閉まった。
電車は和歌山の市街地を離れ、トンネルをくぐっていく。
時刻表では海沿いを走るような印象を受ける本線であるが、実際は山が見え、森の中を抜ける路線である。
そのまま電車は進む。
もうすぐ泉佐野、という場所までやってきて、ようやく景色が市街地になる。
そして電車は泉佐野駅に到着した。
案内を見ると当然ながら関西空港行きのホームはとなりのようだったので、階段をおりて昇ってとなりのホームに進んだ。
しばらく待っていると、関西空港行き特急が通過していった。
それにしてもなかなか電車が来ないなあ。
成田空港でも、けっこう空港行きの電車の間隔はあいていたので、おそらく関西空港でもそうなんだろうと想像する。
そのまま30分近く、関西空港行きの電車を待った。
泉佐野駅の関西空港駅行きホームで30分ほど電車を待つと、ようやく普通列車がやってきた。
なにしろ電車の間隔が長いので、多少お客がいる。
それでも空港に用がある客しか使わないので、なんとか空席がみつかったのですわった。
電車は発車し、南海本線と分岐して進んでいく。
すぐに泉佐野の市街地が離れていき、そのうちJRの路線が見えてきて合流するとりんくうタウン駅である。多少お客の乗り降りがあるが、それほどでもない。
りんくうタウン駅を発車すると電車の前方に海と、海を渡る長そうな橋が見えてきた。
橋の向こうにはこれから行くことになるはずの関西空港が見えるはずだが、かなり遠く、あまり広くなさそうに見える。
そして電車は海上に出た。
長い、長い橋を渡っていく。
瀬戸大橋並みの長い橋である。
左手に夕日が見えてとても気持ちがいい。
もちろん海が見える。鳥が飛んでいる。
長いこと、長いこと海の上を通る。
どんどん関西空港の陸地が大きくなる。まさに軍艦島だ。
橋が終わり、電車が軍艦島に吸い込まれていく。
そして電車は関西空港駅のホームに到着した。大きなスーツケースを持った人たちが次々と降りていく。ぼくは航空機に乗るわけではないので一番最後でいいと思い、他の人が改札を出るのを待った。
水軒(すいけん)駅停車中の電車の中で発行してもらった補助券を渡して改札を出た。
JRの改札口はちょっと離れた所のようだ。まずはあとあとの事を考えて位置を覚えておく。
ちょっと散歩してみたが、なんとなくあまりおもしろそうなものがなさそうな気がした。
腹も減っていたので食事したかったが、こういう空港ではいろいろなものが高いんだろうなあと思い、郵便局を見つけたので、そこでどこでも同じ値段の切手を買って関西空港に来た記念とすることにする。まあ手ぶらで帰るのもなんなのでお金を使ってみたわけである。
空港をすみずみまでまわったわけではないが、ムーンライト高知が発車するまでの間にいろいろな私鉄に乗っておきたいという気持ちがあったため、ぼくは青春18きっぷを取り出し、JRの方の改札へと向かっていった。
青春18きっぷを取り出して関西空港駅のJRの改札に来た。南海の改札とは別になっている。成田空港や空港第2ビルと同じだ。
きっぷを見せて改札を通り、階段をおりてホームに出る。関西空港線は普通にきっぷを買うと加算運賃がかかるので青春18きっぷを使えばお得である。
停車していた電車は2人がけシートのたくさんある列車だった。乗ってすわってしばらく待つと発車である。
さっき南海の電車で通った長い海の上の橋である。さっきより暗くなっているためあまり景色は見えないが、海の上の景色というのはいいものだなあと思いながらりんくうタウンに停車し、発車する。窓の外を見ると南海のレールが分岐していくのが見えた。
そして阪和線のレールが近づいて合流する。電車の旅はいいなあ。
あとは去年10月にも通った阪和線である。さっき通った橋みたいにながめは良くなく、住宅街に囲まれた景色を過ぎる。快速運転なので駅をどんどん通過していき、目的地の鳳(おおとり)に着いた。ここで降りる。
ぼくは1駅分岐している東羽衣に向かうことにした。
関西空港駅から乗ってきた快速を鳳(おおとり)駅で降りた。ここで東羽衣行きの支線に乗ろうと思ったからである。階段を昇ると東羽衣行きの案内があり、階段をおりると人通りの少ないホームに短い電車が停まっていた。
電車に乗ってしばらく待つと動き出した。関西空港ではまだ明るかったひざしが、鳳に着いたころはすっかり暗くなっていて景色も見えない。とりあえず家の多い場所を通っているようである。たちまち電車は東羽衣に着いた。
いったん青春18きっぷを見せて改札を出た。ここから歩いて南海の羽衣まで行けるはずだが、どのくらい離れているかわからないし、下手をするとムーンライト高知の発車時刻までに大阪駅に着けないおそれがあったので、このまま鳳駅まで戻ろうと思った。
同じ電車に乗り、鳳駅まで戻った。同じ階段を昇った。
さてここからどうしようか考えた。そうだ、このあたりに泉北高速鉄道(せんぼくこうそくてつどう)という電車がある。これにでも乗ってみたいと考えた。おそらく乗りつぶしの無駄にはならないだろうと考えたからだ。
とすると乗り換え駅は三国ヶ丘という駅らしい。ホームに降りて案内図を見たが、どうやら阪和線には快速と各駅停車があって、三国ヶ丘は快速は停車しないらしい。
そんなわけで各駅停車を待つことにした。まもなく快速がやってきた。ぼーっと快速が発車していくのを見送った。
つづいて各駅停車だ。やってきた電車は、古いタイプの京浜東北線に似た青い電車であった。
とりあえずこれに乗る。快速よりすいているようで、すわれた。
多少にぎやかな明かりが見える風景の中を電車は進んでいった。
そのうち電車は三国ヶ丘に着いた。ここで南海に乗り換えだ。
ぼくは電車を降りてホームの階段を上がり、はたして改札はどこにあるか探すことにした。
阪和線の普通列車を三国ヶ丘駅で降りてまずは改札を探した。いったん改札を出て南海→泉北高速鉄道のきっぷを買っていこうと思っていたからである。
案内に従ってしばらく進んだが、なぜか改札は見つからず、南海のホームに来てしまった。
しかも電車がやってきた。なんと和泉中央行きである。泉北高速鉄道には南海が乗り入れていたのである。しかたがない。和泉中央で精算してもらおう。ぼくは電車に乗り込んだ。
電車は進んでいく。けっこう大阪市内に近いのに、まわりには住宅街が広がっている。
大阪では東京よりずっと市街地に近い所に家をかまえることができそうだ。
電車は中百舌鳥を過ぎた。ここから泉北高速鉄道だ。
まわりを見ると、大型スーパーが見えた。このあたりは大型スーパーなどがあってかなり便利なようだ。なんとなくこのへんに住んでいる人をうらやましく思いながら進んでいった。そのうちあかりは見えなくなり、家も少なくなってきた。
そして電車は和泉中央駅に到着した。このあたりも大阪のベッドタウンのようである。
それほど多くないお客にまじって電車を降りた。
まずはいったん改札を出なければならない。精算口で青春18きっぷを見せて三国ヶ丘から和泉中央までの運賃を払って改札を出た。
さてそろそろ夕食が食べたいころだ。
関西空港で食事をしなかったが、このへんならそんなに食堂も高くなさそうだなあと思った。
都合の良いことに、この駅は駅ビルになっており、食堂もあった。こりゃ都合がいい。ここで食事にしよう。
ぼくは食堂に入り、大垣行き夜行に乗って以来疲れていた体をしばらく休めることにした。
きょうもめしはうまかった。まずはひといきついた。
さてここからどうするかだが、いずれにしても大阪駅に近づく必要がある。
阪和線には去年の10月に新宮行き夜行で全線乗っているので、今回は別の手段で行きたいと思った。しかし南海で行くのもおもしろくなさそうだ。
ぼくはなかもずまで延びている御堂筋(みどうすじ)線にでも乗ってみようと考えた。和泉中央からなんば行きに乗って中百舌鳥で降りれば乗れそうだ。そして、片町線に京橋から片町まで往復しておきたいと思った。よし、それならば御堂筋線に淀屋橋(よどやばし)まで乗って、京阪電鉄で行くのがいいだろうと思った。こう考え、和泉中央の自動券売機で中百舌鳥まできっぷを買った。
自動改札を通り、ホームに行く。さすがに日の暮れた後の市街地行きだけあって、お客はあまりいない。なんば行きの電車に乗ってしばらく待ったら発車した。
また電車は進む。さっき見た大型スーパーのあかりを見ながら進んでいく。
電車は中百舌鳥にやってきた。ここで降りる。
地下鉄の入り口を探した。郊外まで延びている地下鉄の終点は地上にあることが多いので、てっきり御堂筋線のなかもず駅も地上かと思っていたが、南海の高架を降りて地上に出ると地下鉄の駅の入り口があり、地下に降りる階段があった。
ぼくは淀屋橋まできっぷを買おうと、階段をおりていった。
御堂筋線の中百舌鳥(なかもず)駅の階段をおりていき、自動券売機で淀屋橋までのきっぷを買った。自動改札を通ってホームに行き、停車していた電車に乗る。
今回の旅行も長丁場である。四国に行って予土線に乗るのが第一目的で、今日は大阪まで自由行動である。関西空港に寄り道したので、関西空港から大阪駅まで行く途中に中百舌鳥から淀屋橋まで地下鉄に乗るのである。
あまりお客もいないまま発車である。
御堂筋線には5年前になんばから梅田まで乗ったが、その時以来である。
今日は南海の水軒に行ったり、関西空港に行ったりしてバラエティに富んだ乗車であった。
しばらくゆっくりしよう。
ゆっくりしているうちに天王寺を過ぎ、お客がだんだん増えてきた。
なんばを過ぎて、かなりお客が乗ってきた。もう夜なのでお客が多いのだろう。
そして電車は淀屋橋駅に到着した。京阪電車のターミナル駅だ。
ここで京阪の電車に乗り、京橋まで行こうと思い、電車を降りてきっぷを自動改札に通した。
なかもずから乗ってきた御堂筋線の地下鉄を淀屋橋で降りた。
ここから京阪の電車に乗り換える予定である。
地下鉄の改札を出て、京阪の案内の方向に向けて迷路のような道をぐにゃぐにゃと進んだ。
やっと自動券売機の前までやってきた。京橋まできっぷを買う。そしてあたりまえのように存在する自動改札にきっぷを通して進む。さてどの電車に乗ればいいだろう。
地下にある淀屋橋駅のホームは、4つほどあってどこにも電車が停車していたが、はたしてどの電車が先に発車するのかわからない。おそらくどの電車も京橋駅には停車するとは思うが。
適当な電車に乗って待つ。しかし先に動き出したのはとなりのホームの電車である。うーん。
それでも同じ電車に乗り続けて待っているとようやくドアが閉まり、進み始めた。
夜8時過ぎだと言うのに多少すいている電車は地下を進んだ。そして地上に出る。
そしてまもなく京橋とアナウンスされ、スピードが落ち、停車してドアが開く。
電車は京橋駅に無事到着した。ここで降りる。
ぼくは2年前の9月に乗れなかった片町線の京橋〜片町間に乗ろうと自動改札を通った。
3年前に大阪パフォーマンスドールと京橋コムズガーデンで握手して以来何回か来ている駅だが、どうやらこの駅は京阪の駅がJR駅とは遠いらしい。
なんとかJRの駅を探そうと、それらしい方向に歩き出した。
淀屋橋(よどやばし)から乗ってきた京阪の電車を京橋で降りた。
京橋には3年前に大阪パフォーマンスドールの握手会で来たことがあるが、京阪の駅はその時には来なかった。
とりあえずJRの駅があるらしい方向に繁華街を歩いてみたら、なんとか3年前に来た見覚えのある場所に来た。これでなんとかJR京橋駅に着けそうだ。なんとか改札に来た。
おととしにも片町線から大阪環状線に乗り換えたことがある。けっこう複雑な通路だったような覚えがある。
青春18きっぷを見せて改札を通る。やはり複雑な通路を通ってなんとか片町線のホームに来た。さて、おととし乗り残した京橋〜片町に乗らなければならない。
片町行きの電車がやってきた。京橋止まりの電車もあるようだが、なんとか片町行きをつかまえられてよかった。ほとんどの客が京橋で降り、がらがらになった車内に入る。
電車は発車する。京橋の繁華街から、たちまち暗い中に景色が変わる。
大阪は、大阪環状線の通る場所でもそれほど人通りが多いわけではなさそうだ。高い建物はあるようだが、日が暮れると人通りがなくなってしまうようである。
そんな中、がらがらの電車は進み、終点片町駅に到着した。
ここの駅はホームがカタカナのコの字になっていて、2つホームがある。そして乗ってきた電車はコの下の棒の位置に到着した。
しかしこれから発車するのはコの字の上の棒の所にあるホームの電車らしい。だから走って、コの字の右の棒の位置に来る。改札がある。本当ならいったん改札を出なければならないのだろうが、時間がないので「青春18きっぷでーす!」と言って改札に向かって青春18きっぷを見せてそのままコの字の上の棒の所にあるホームの電車に乗った。
片町はこうして改札を通ったことのない駅になってしまったわけである。電車に乗ってしばらくするとドアが閉まり、発車した。
こうしてつかの間のひとときは過ぎ、また京橋駅に戻ってきた。電車を降りる。
さて、まだムーンライト高知の大阪発車までは時間がある。ぼくは大阪環状線と関西本線でJR難波に行き、南海で新今宮に戻って、それから大阪に行こうかと計画を立てた。まずは京橋駅の大阪環状線のホームに行くことにした。
片町から乗ってきた片町線の電車を降りた。まずは大阪環状線に乗り換えだ。どう進めばいいだろう?
おととしも乗り換えたことがあるはずなのに、また迷ってしまった。東京でもこのくらい複雑な駅はたくさんあるからそれほど珍しくない。それでもなんとか天王寺方面の電車の出るホームにやってきた。
ホームに客は少ない。そして電車がやってくる。長い編成だ。乗ってみると客はがらがらである。電車は進んでいく。
天王寺までは、大阪の中心部を通るはずなのに、とても暗い景色だった。商店街でもない、住宅街でもない、なんとなく倉庫みたいな場所を通るような気がした。
でも東京の山手線も、けっこう起伏の多い場所を通っているから、それに比べれば大阪環状線は平坦な場所を通っているので環状線どうしを比べたら大阪の方が都会なのかもしれない。
そんな景色を見て、ようやく商店街っぽい場所に出て、天王寺に来た。ここからは3ヶ月前に新宮行き夜行で通った路線である。
天王寺からはずっと都会っぽい場所を通り、無事目的地、新今宮に着いた。ここで電車を降りる。
さて、JR難波に行くには・・・どうやらホームの向かいに来る電車に乗ればいいようだ。
待っていたら「JR難波」と表示のある電車がやってきた。この電車もがらがらだ。乗ろう。
ドアが閉まると電車は発車する。
しばらく電車は大阪環状線に沿って進んでいたが、やがて北に分岐していった。なぜか商店街の明かりが少なくなっていく。
環状線の内側なのに、どことなくうすぼんやりした場所を電車は進んでいく。
そして電車はさびれていそうなホームに到着した。ここが終点、JR難波らしい。まずは電車を降りる。
右手にレールが何本も見える。電車の基地っぽい場所である。数時間前に見た王寺(おうじ)ほどレールの本数は多くないようだ。
進むと改札に着いた。青春18きっぷを見せて改札を通る。
さて、ここからは南海のなんば駅に行って、新今宮まで乗っておこうと思った。ここを乗っておけばあとで新今宮から南だけ乗ればいいからである。おそらく東に進めばあるだろうと思い、東はどっちかなあと思って進み始めることにした。
JR難波駅を降りたぼくは、南海のなんば駅があると思われる方向に歩き始めた。
もう正月も終わろうとしており、勤め帰りらしい人たちが飲み屋に行くか帰ろうとしているのが見えた。このあたりは飲み屋が多いのだろうか。
それほど幅が広くない道をじぐざぐに進んで、なんとか大きな建物の前までやってきた。
どうやらそれが南海のなんば駅らしかった。
5年前に名古屋からビスタカーで近鉄のなんば駅に着いた時は地下の駅だったが、南海はこうやって地上に駅をかまえることができるのだからぜいたくだなあと思った。
入口から入ると昇り階段があった。昇って進むと自動券売機がある。まずは新今宮駅まできっぷを買う。
きっぷを出して改札を抜けると、そこは近鉄名古屋駅にも似た、堂々としたホームが並ぶ、まさに「ターミナル」と言えるような駅であった。
まずは次に出る電車がどこのホームから出るのか案内板で確認した。
次に出る電車はなんと、数時間前にぼくが立ち寄った泉北(せんぼく)高速鉄道の和泉中央行きであった。もちろんぼくはそこまで進む用事はないので新今宮で降りることにしていた。
電車に乗る。ラッシュというわけではない。電車は発車し、市街地を進む。
すぐに電車は新今宮に到着したので降りる。
時刻は午後10時になっていた。改札に行き、きっぷを渡して外に出た。
10メートルほど先にJRの改札がある。
この駅は南海の改札とJRの改札が至近距離にあるのでとても便利である。
もうすぐ役目を終える今日の日付が入った青春18きっぷを取り出し、改札をぬけて大阪環状線で大阪に向かうことにした。ムーンライト高知の発車時刻は0時過ぎなので、もう少し私鉄に乗れるかもしれないが、不測の事態が起きて乗れなくなるとまずいので、寄り道はしないことにする。さあ、進もう。