朝が来て、目が覚めた。
今日は朝1本しか走っていない八幡(やはた)から帆柱ケーブル山麓駅に向かうバスに乗る必要がある。
名前は忘れたが、この日泊まったホテルをチェックアウトし、西小倉駅に向かった。
八幡まできっぷを買って鹿児島本線に乗った。九州の普通列車は乗りごこちがいい。
八幡で降りると駅弁を買った。駅弁は朝買うものである。夕方だと売り切れていることが多いし、それに夕方は朝閉まっている食堂が開いているので駅弁を買う必要もない。
まずはバス乗り場に行き、帆柱ケーブル山麓駅行きの乗り場を探した。見つかった。ちゃんと「日曜のみ運行」と書いてある。バス乗り場にあったベンチに座って駅弁を食べた。もちろんうまい。
食べ終わって振り返ると、うわっ、人がたくさんいる!これ全員帆柱ケーブル行きのお客か!
いかにも山登りをするような格好をした人たちは、バスには乗らず、歩いてゾロゾロと帆柱の方向に進んでいった。なんとかバスには乗れるようだ。
そしてバスがやってきた。このバスも一般周遊券に組み込もうとすればできるのだが、寝坊をした時のことを考えて買わなかったのである。
バスは10人ちょっとの人を乗せて発車し、あっちに曲がったりこっちに曲がったりして、標高を上げて進んでいった。
ぼくが筑波山のケーブルカーに乗った時も、こうやってケーブル乗り場の近くに向かうバスが標高を上げて進んでいったことを思い出した。
そしてバスは終点に到着。運賃を払ってバスを降りた。
わー!すごい人だなあ!
さっき八幡駅前にいた人たちもいるのだろう。
そばにいた人に聞いた話だと、なんでも山を掃除する日だとのことである。そして、数日後からここのケーブルは点検整備のため1ヶ月ほど運転休止するそうである。あぶないあぶない。
さて、きっぷ売場は長い行列である。
今回ぼくは一般周遊券を持っているが、筑波や御岳のケーブルでは、いったん周遊乗車券をケーブルカーの窓口の券に引き替えて乗る必要があった。関西の信貴山や六甲山のケーブルではそのまま周遊乗車券で乗れた。
ここはどちらかわからないので、まずはきっぷ売場に並んだわけである。
並んでいるうちにケーブルカーが発車していく。
なんとか窓口に着いて、周遊乗車券を見せると、ケーブルカーの券に引き替えられた。やっぱりここは筑波・御岳方式のようだ。
そして乗り場の前の行列に並び直す。やがてケーブルカーに案内された。
満員の状態でケーブルカーは登っていく。
ほかのケーブルカーと同じように山麓と山上の中間で下りの空の車両とすれちがう。
混雑しているが、左右に見えるのは自然の植物だ。
そのまま山上の駅に到着した。
一緒に乗っていた人たちは、山の掃除に出かけるのだろう、歩いて方々へ散らばっていく。
いろいろなケーブルカーの頂上駅のように、何かがあるというわけではなさそうだ。筑波山のケーブルがそうだった。さて、ここの景色はどんなものだろう。
振り返ると、目の前の景色は工場と煙突である。
そりゃそうだろう。北九州なんだから。
ケーブルカーの頂上としては珍しく、110円で売っているジュースを買って飲んで、すぐにケーブルカーで山麓駅に行くことにする。
今日はこれから平成筑豊鉄道に乗る必要があるので、そんなにゆっくりしていられない。
下りのケーブルカーに乗る。あまりお客はいない。それはそうだろう。向かいの登りのケーブルカーはやっぱりお客がたくさん乗っている。
山麓駅を降りると、掃除の人たちがまだまだたくさんいる。それらの人たちの横を抜けて、バス路線とは別に造られている歩行者用の道を下り始めた。
このまま八幡まで歩かなくてはいけないのかと思いながら山をおりていくと、途中に東西に走る大通りを見つけた。よく見るとバス停もある。はたしてどこに行くバスだろう。
ラッキーなことに、そのバスの行き先は黒崎であった。
どうやら戸畑発黒崎行きらしい。
今日は黒崎駅前から筑豊電鉄に乗る予定なので、まさにおあつらえむけ、というわけである。
けっこう車通りの多い大通りで、まだまだ標高が高い場所なのに、なぜ戸畑発のバスがここを経由して黒崎に行くのかはわからないが、細かいことは気にしない。まもなくバスがやってきた。
帆柱二丁目という名前のバス停から、ぼくは黒崎行きのバスに乗った。
帆柱(ほばしら)二丁目から乗ってきたバスは「ふれあい通り」という名前のバス停に着いた。運賃を払って降りる。
すぐそばにJRの黒崎駅と、きのう降りた西鉄北九州線の黒崎駅前駅がある。
黒崎駅前駅のホームに進んで、自動券売機をさがしたが、ない。そのかわり、整理券発行機がホームにあった。普通は車内にあるのに、珍しいなと思った。
まあいいや、取っておこう。どうやらきっぷ売場はなく、運賃は車内で払うようだ。
じきに筑豊直方(ちくほうのおがた)行きの電車がやってきた。まずは乗って発車だ。
電車は客の少なさに似合わない3両連結された電車であった。よく見ると前後の車両にディスプレイがあり、ディスプレイに女性が映っている。ディスプレイの映像の女性の口の動きに合わせてアナウンスが聞こえてきた。
「まもなく黒崎車庫前です」
なかなか珍しい路線である。でも、これを見るためにお客がたくさんやってくる…ということもたぶんないだろうなあ、と思った。
それが過ぎると地元の商店の宣伝が始まった。ひゃあ。ここではお客はコマーシャルを見せられるのか。
なんだかよくわからない路線だなあ、と思った。
コマーシャルが一段落するとまたさきほどの女性が映る。そしてお客に「ご注意」をアナウンスする。その中に記憶に残ることばがあった。
「身体のふ『じ』ゆうな人に席をおゆずりください」
「不自由」は東京では『ふ』じゆうと、『ふ』にアクセントをおいて発音するけど、この路線のディスプレイ画面の女性はふ『じ』ゆうと、『じ』にアクセントをおいて発音する。なんとも九州的な電車だなあと感じた。
電車はさらに進む。
熊西を過ぎると、車掌さんがやってきた。きっぷを車掌さんから買う。
電車は筑豊電鉄に入ると、低い山の間をぬって進んでいくようだ。
さて、ぼくの近くでこんな声が聞こえた。
「すいません、おつりありますか」
近くで運賃を払おうとしている人が1万円札を車掌に出している。
「いやごめん、ないんだよ」
ついに出番がやってきた。ぼくは車掌さんに話した。
「すいません、ありますよ。」
「あるの!たすかるよ」
旅行者のたしなみとして、千円札はたくさん持つようにしている。
ぼくはそのお客の1万円札と千円札10枚を交換した。
このようにして、今回も旅行に来た意味ができたのである。
なおも低い山のそばを進んでいく。JRに比べると駅が多いようだ。
午前中なのでお客はそれほど増えず、電車は終点、筑豊直方に到着した。車内で買ったきっぷを渡して降りた。
筑豊直方の駅を出た。振り返って駅を見ると、なんとも古そうな駅舎であった。
幅の広い道路が続いている。まずはこの道を歩くしかなさそうだ。
そこから南の方向に歩いた。右手には線路のようなものが見えたので、どうやらすぐそばに筑豊本線が通っていることはわかったが、どのくらい進むと直方駅に着くかはわからない。
まあ、道路が通っているからなんとかなるだろう。とことこ歩いて、なんとかJRの筑豊本線の直方駅までやってきた。あとで聞いた話だと、なんでも筑豊直方とJRの直方との間は800mあるそうだ。
直方(のおがた)駅に入ると現在の時刻を確認し、平成筑豊鉄道の田川伊田(たがわいた)行きの時刻と筑豊本線の新飯塚方面行きの時刻を比較し、どちらが先に田川後藤寺(たがわごとうじ)に早く行けるか確認する。
どうやら筑豊本線を新飯塚まで行き、後藤寺線に乗り換えた方が先に着くようだ。でも多少時間がある。
直方駅にはうどん屋があった。やっぱり九州ならうどんだろう。何があるかと思ったが、「丸天うどん」というのがあったので注文してみた。
でてきたのは、まるいさつまあげが入ったうどんだった。朝八幡駅で駅弁を食べてからたいして時間もたっていないのにもううどんを食べてしまった。旅行中はついつい食べ過ぎてしまう。
田川後藤寺まで540円のきっぷを買って、きのうも通ったはずの筑豊本線のディーゼル車にまた乗る。そして同じ景色を見て新飯塚駅で降りた。まずは乗り換えだ。
田川後藤寺行きのディーゼル車は筑豊本線のディーゼル車とは違い、どことなく古い感じのするディーゼル車であった。
それほどお客もいない。
そして筑豊本線より多少山の多い中を進んでいく。
そのうちに左手にセメントの工場が見えてきた。
筑豊は昔は石炭の土地だった。しかし、もう石炭はとれなくなってしまった。だからこういうセメント工場でがんばって産業をささえているのだろう。つらいところである。
セメント工場を過ぎるともうすぐ田川後藤寺だ。けっこう大きめの小高い山に囲まれた町である。
ディーゼル車を降りた。
これから平成筑豊鉄道で再び直方に戻る予定だが、乗る予定のディーゼル車までまだ時間があるので、まずは改札の外に出た。
駅前には屋台が並んでいて、なんだかお祭りをやっているようだった。
屋台に沿ってちょっと歩いてみた。
そのうち、前からやまかさが近づいてきた。立派で重そうなものだった。
なお、なぜひらがなで「やまかさ」と書いているかというと、このころテレビでやっていた「走らんか!」という博多を舞台にしたドラマで、やまがさとは言わずにやまかさと言っていたからである。
かついでいるのはおとなの人たちで、その中にはかねやたいこを鳴らしている男の子たちに混じって、かわいい女の子が、おしろいをぬりたくられてやまかさに乗っている。なんだか痛々しい。
やまかさはそのまま駅の方向に向かって進んでいった。見送る。
さて、屋台といえばやっぱりやきそばだ。
やきそばが食べたくなってきたのでやきそばを探してみたが、どこにもやきそばを売っている店がない。
しかたがないのでお好み焼きを食べようと思い、注文した。
お好み焼きがわりばしにぐるっと巻かれた食べ物が出てきた。もちろんお好み焼きだからうまい。そして量もある。
さっき食べた丸天うどんと合わせて、とりあえず昼食がわりにはなった。これで夕方までもつだろう。
もうすぐ平成筑豊鉄道の発車時刻なので駅に戻ってみた。
駅に戻るとやまかさをかついでいた人たちが、やまかさをおろして休憩していた。
休んでいるやまかさをかついでいた人たちの横を通り過ぎて田川後藤寺の駅に戻った。
まずここから金田(かなだ)経由で直方(のおがた)に進むのだ。ついさっき直方から筑豊本線に乗ったばかりであるが、これはこれ、それはそれ。
鉄道ファンなら、そこにあるすべての鉄道に乗ってみたいと思うのが正しい姿だと思うのである。
当たり前のように駅には平成筑豊鉄道用の自動券売機がある。実は田川後藤寺だからあったので、他の駅だとない場所もあるのだが、まずはあたりまえだと思ってあたりまえのようにきっぷを買った。
なんと珍しいことに、JRより運賃が安い。300円ちょっとだ。
後藤寺線だと遠回りで、平成筑豊鉄道だと近道だから安いに決まっている?そんなことはない!
世の中には、近道だと遠回りの2倍も運賃のかかる路線がゴマンとあるのである。
それに比べるとここはまあまあましな方と言えるだろう。
さて、きっぷを持ったままホームに進んだ。
いきなりここで話が変わるが、この旅行に行く前に、とある人に平成筑豊鉄道に行くことをメールしたら、
「平成筑豊鉄道では、整理券を取っておいた方がいい」
という返事が返ってきた。
普通は整理券は車内で発行されるものだが、筑豊電鉄では駅のホームに整理券が出る機械があったので、ひょっとしたら平成筑豊鉄道でも、と思い、まずはホームで整理券を見つけたら取っておこうと思った。
ホームを見ると整理券が出る箱のようなものがあったが、整理券は出ていない。もしかしたら古くて使われていないのかもしれない、と思った。まあ、きっぷがあるからには整理券を取る必要もないのだろうと思った。
そのうち金田行きのディーゼル車がやってきた。列になって、乗った。どこにでもあるディーゼル車だ。
車内に整理券の出る機械が見あたらない。はて、どうしたものなのかな、と思った。
そのうち発車時刻になった。けっこうな混雑である。やっぱりさっきの田川後藤寺のお祭りを見た帰りの人たちだろう。
けっこう広い平野をごとごととディーゼル車は進んでいく。
駅の数が多く、ちょっと進むと停車、を繰り返す。第三セクターになって駅の数が増えた路線なのだろう。
そんなふうにして数駅進んだころ、とある駅で発車まぎわに駆け込みで乗ってきた女の子がいた。その女の子は、田川後藤寺にもあったホームの機械のボタンをピッと押した。すると整理券が出てきた。
ありゃあ、そういうシステムだったのか。
そういえば今見えた機械にはボタンの所に駅名が書いてあったが、田川後藤寺の駅の機械には何も書いてなかったなあ、と思った。
あとで聞いた話では、誰かがいたずらしてこすって取ってしまったんだろう、という話だった。
そんなわけであとでこの機械から整理券を取ろうと思った。
ディーゼル車は畑の中を進んでいく。
金田に着いた。ここで直方行きに乗り換えだ。ディーゼル車の出口で運転手さんが、田川後藤寺で買ったきっぷにはんこを押した。どういうことかわからないけど、そういうルールなのだろう。
直方行きはすぐにやってきた。あいかわらず畑の中を進む。
線路をよく見ると、ここの路線は複線なのである。しかも向こう側までの間がとても広くあいている。
昔はここの路線も、貨物列車をはじめとするたくさんの列車が走っていたのかなあと思うと悲しくなってしまう。
そうこうするうちに街が近づき、丸天うどんを食べた駅、直方駅に舞い戻ってきた。まずはいったん改札を出よう。
はんこが押されたきっぷを渡して改札を出た。
そういえば、とある人(平成筑豊鉄道では整理券を取っておくといい、と言った人とは別人)が、
「JR九州ではグリーン車に乗るといい」
とホームページに書いていたことを思い出した。今回は行橋から博多まで行くのだから、特急ソニックを使うことを考えるとグリーン車を使うには絶好の区間である。直方駅で特急券+グリーン券を買おうと考えた。
きっぷ売場に行き、グリーン車の指定席券を買った。「乗車券は?」ときかれたので「オレンジカードを使います」と言ったらとりあえず何も言われなかった。まずはOKである。
とりあえず平成筑豊鉄道のホームに戻ることにする。
改札員はおらず、ホームに進む途中に自動券売機がある。まずは行橋まで買う。
そしてあたりを見回す。
さっき見た整理券の出る機械がどこにも見つからない。ひょっとしたらあの機械は、単独の駅と、JRと同じ改札を使う乗り換え駅用で、JRと別改札になっている直方には置いていないのかなあ、と思った。
もしかしたら行橋にもないのかなあと思ったが、その時はその時でしかたないと思った。
そのうち田川伊田行きのディーゼル車がやってきた。
ディーゼル車をよく見ると、「祝・高架化記念」と書いてあった。今日平成筑豊鉄道のどこかの駅が高架になったようだ。しかし今まで通った駅はみんな地上の駅だったので、田川伊田かな、それとも行橋かな、と思った。
まずは金田まで戻る。そしてレールは分岐し、田川伊田に進む。あいかわらず畑の中の景色だ。
そして日田彦山線と交わっているはずの田川伊田駅に着いた。金田と同じくきっぷにはんこを押してもらった。
乗り換えの行橋行きはすぐに発車するので、整理券を出す機械を探しているひまはない。ここの駅がどんな構造か見回すひまもなく、ディーゼル車は発車していく。けっこう混雑している。
田川伊田を発車するとたちまち景色は森の中になった。さらに進む。
柿下温泉口(かきしたおんせんぐち)という駅に停まると、「温泉まで1km」という標識が見えた。
さらにしばらく進むと源じいの森(げんじいのもり)という駅で、観光客がたくさん降り、たくさん乗ってきた。
「源じい」とは実は源氏ボタルのことなのだが、それとはあまり関係なく、ハイキングコースになっているようである。
何はともあれお客が増えるのはいいことである。
その後も東犀川三四郎(ひがしさいがわさんしろう)という、どこかの会社の表計算ソフトのような名前の駅を通り、すっかり山を抜けて景色が平野になった。
行橋が近づくと線路は左にカーブし、ディーゼル車は高架に昇っていった。なるほど、「高架化記念」は行橋のことらしい。
やがて終点、行橋にディーゼル車は到着した。なんだかここもお祭りさわぎの続きのような客の多いホームであった。
たまたま今日が行橋駅が高架になった日らしい。まず平成筑豊鉄道から高架になったのである。
ホームを見回すと整理券が出る機械を見つけたので、となりの駅の美夜古泉(みやこいずみ)のボタンを押して整理券を取ってみた。
「行橋」「美夜古泉」と書いてあり、運賃が書いてあり、はんこを押す四角い場所があった。
どうやら、金田や田川伊田で乗り換える場合とそうでない場合で扱いが異なり、乗り換える場合乗り換え駅で全区間の運賃を払ってはんこを押してもらい、降りる駅でははんこが押された整理券を渡せば良いが、乗り換えない場合は通常の整理券方式と同じで、降りる駅で整理券と運賃を渡す方式らしい。
およそ世の中の鉄道は、いろいろな方式がたくさんあってややこしい。でもややこしいから頭を使う必要があるので、老化防止になっていいかもしれない。
さて出口はどこだろう。
階段を降りるとまだコンクリートの打ちっ放しの場所である。工事中なのだからこんなものだろう。2000年現在はここに広い行橋の駅舎ができているかもしれない。
さらに鉄の通路を歩いて日豊本線上りホームに来て、また階段を昇り、もう1回階段を降りて日豊本線下りホームに来てようやく出口である。直方で買い、田川伊田ではんこを押してもらったきっぷを見せて改札を出た。
行橋駅を降りるとまちをちょっと散歩してみた。
どこにでもある地方都市である。
なんとなく大きいデパートが少ない気がする。よくあることだが、地元の商店街の発言権が強く、大きいデパートが進出できない都市がけっこうある。行橋もその1つのような気がする。
そして駅に戻り、残っている「八幡→博多」の周遊乗車券と接続するように八幡までの運賃を払ってきっぷを買い、そのきっぷを見せて2000年現在はなくなっているはずの改札をくぐり、階段を昇って降りて小倉方面のホームにやってきた。
今回はグリーン車に生まれて初めて乗るのである。
それというのも、とあるホームページに「九州ではグリーン車に乗ろう」と書いてあったからである。
さて、グリーン車は最後尾にあるので、乗車位置まで歩き、ソニックを待った。
やがて本で見た格好の列車がやってきた。するする速度を落とし、最後尾の車両が目の前に来た。
この車両は出入り口が車両の中央にある。グリーン車は出入り口から端に近い方の半分である。
デッキから扉をくぐってグリーン車の区画に入ると、2列席と1列席が5個、計15席あり、ぼくの席は扉に近い1列席であった。
うわさどおりミッキーマウスの耳のようなシートである。
しかも網棚の位置には、航空機のようなふたのついた荷物置き場がある。
さらにその中には毛布まで入っている。
これが、これがグリーン車というものなのか。
なんともすごいものである。
グリーン車をふんぱつして良かったなあ、といまさらながらに喜んでみる。
ただやっぱり子供がいたのではあるが、赤ちゃんではないので、そんなにうるさいわけではないのが幸いであった。
そして行橋で買ったおにぎりを食べて過ごす。
平坦で町並みのとぎれない風景のまま、小倉に到着した。
小倉で方向が変わる。ぼくの乗ったグリーン車の席は最後尾車両の最前列席のため扉を向いていたが、小倉からは一番前の車両の最後尾の席となり、ペダルを踏んで席を回すと見晴らしが良くなった。
そして逆向きに博多に向けて発車だ。
そのうち車掌さんがやってきた。うわさに聞いた女性車掌だ。「ソニックレディ」という愛称がついているらしい。
「乗車券とグリーン券を拝見いたします」
ぼくは行橋で買った八幡までのきっぷと、「八幡→博多」の周遊乗車券、そして直方(のおがた)で買った「行橋→博多」のグリーン券を見せた。車掌さんはなんだか困っているようだが、特にきっぷについては何も言わなかった。
「お飲み物は何になさいますか。」
オレンジジュースにしようかと思ったが、やっぱりお茶にした。
しばらくするとお茶がやってきた。すぐに飲んでしまう。
列車はカーブにさしかかるとものすごく大きく傾く。車内を歩くのはかなり大変そうである。
北九州の煙突ばかりの景色を見ながら進んでいく。
デッキを見てみると、タバコをすっている人がいる。
女性車掌がそれを見て、止めるでもなく会釈して通り過ぎる。
あとでソニックは禁煙車でもグリーン車のデッキではタバコを吸っても良いことがわかった。
また大きく傾く車両の中で、福岡北部の景色をながめながら進む。
そのうち見慣れた博多の駅が近づいていき、何度目かの博多に到着した。
普通列車だと、博多では降りる時にドアの前にこれから乗ろうとするお客が殺到しておしのけないと降りられないのだが、さすがにソニックではそんなことは起こらず、スムーズに降りた。
このようにして人生最初のグリーン車乗車経験は終わったのである。
さあ、地下鉄で空港に行こう。
いつも天神でめんたいこを買って実家に送るのだが、今回は天神に行く余裕がないので、福岡空港でめんたいこを買おうと考え、地下鉄の改札に向かった。
もう思い残すことはない。地下鉄の入り口に進んできっぷを買って自動改札をくぐり、ホームに行った。日曜の夕方だが、天神の方から来た電車は博多でゾロゾロお客が降りて、座れてしまった。そのまま思ったよりも長い時間、電車内で過ごし、終点の福岡空港に着いた。
行きはレインボーゼブンだったが、帰りはどんな航空機なのだろうか、と思いながら自動改札を出て、空港に向かった。
地下鉄の福岡空港駅を出て空港にやってきた。まだ時間があるのでめんたいこでも買っていこう。でもまずは搭乗手続きだ。日本エアシステムの窓口を見つけて航空券を見せ、席を取ってもらう。また窓側が取れた。
荷物を預けるとめんたいこを買いに行く。店を見つけてめんたいこを買い、実家への配達手続きを取った。
以前福岡に来たときは天神の百貨店でめんたいこを買っているが、空港で買ったのははじめてである。
ぼく自身はあんなからいもの、とても食べられないが、からいもの好きな実家の家族はうまいと言ってくれるだろうか。あとできいてみよう(あとできいたら空港のめんたいこもうまかったそうだ)。
X線検査を通って羽田行きの待合室に行き、すわってぼーっと窓の外をながめる。外国の航空会社の機体が見える。あれはノースウェストだな。ふだん航空機を近くでながめることも少ないので、こういう時間はほっとする。そして窓の外が暗くなってきた。
搭乗時刻になり、機内に入る。今度の航空機はきのう乗ったレインボーセブンとは違い、やや古びた航空機だった。そして今まで乗ってきた全日空の機体やレインボーセブンと違い、前の方にディスプレイとかついていなかった。そして救命胴衣のつけ方の説明も、乗務員が前の方で放送に合わせてしていた。なかなか安っぽくて新鮮だ。
今度も席は左側だ。そして離陸。坂道を上るようにのぼっていく。窓からイルミネーションみたいな夜景が見えてきた。福岡から南に進んでいるようだ。やがて左に曲がる。
九州を出て四国の上の方にやってきた。そしてお茶のサービスがある。今度はウーロン茶にしよう。
今日は帆柱ケーブルの所で歩いたりして疲れているのでちょっと眠る。起きるとどうやら千葉のあたりを飛んでいるようだ。ぐるっと左に曲がって高度を落としていく。あの明かりは東京ディズニーランドのあたりだろうか。
さらに左に曲がって羽田の滑走路が見えてきた。そして着陸・制動。
機体は無事所定の位置に到着し、航空機を出た。長い通路を通る。なんとか荷物受け取り場所に出て、かなり待って荷物を受け取る。
それにしてもここでたばこを吸う人が多い。4年前はまだたばこを機内で吸ってもOKだった時代だったが、吸えなくなってからはここぞとばかりに荷物受け取り場所の喫煙所で吸う人が多いのだろう。
荷物を受け取ってモノレール乗り場に行く。今日はちゃんと動いているようだ。きっぷを買って乗る。
まだ一般周遊券はモノレールの券、横浜→鎌倉、鎌倉→アパートもより駅のJR券と残っているのでこんどの土曜日にでも乗ろうと思った。
5月は気候が良いので、これからも5月に旅行したいな、と考えた。