ファントム
1 会議室




一つ事件を解決して、ようやく息をついた僕らに、もう一つ事件が舞い込んだ。…というより、それはほとんど僕ら自身で解決できるような、ありきたりな犯罪だったので(そういう考えはいけないとは思うけど)特別気にも留めていなかった。学会が近いというのに、無理をして来て貰っていた訳だから、僕としては早々にお送りしようと思っていたのだけれど、何故か火村先生が呼び止めた。

「…その事件、犯人が分かったかも知れません」

そう言って、皮肉げに笑う。その横で、有栖川先生が驚きに声を張り上げた。

「な、なんやてぇ!?ちょお待ち、火村!!犯人が分かったって、一体どういう事や!?たった今事件のあらすじ聞いただけやンか!!」

「わかっちまったもんは、わかっちまったんだから、仕方ねぇだろう」


とても迷惑そうに応じると、人差し指で唇をしばらく撫でている。僕と有栖川先生は、ただじっと息を殺してその時を待つ。こういう仕草をしているときは、事件解決はすぐそこで待っているということを、知っているから。

数分たった頃だろうか。火村先生が、懐から手帳を取り出して、びっと一枚切り取ると、近くにあった赤いボールペンで何やらカリカリと書き始めた。


「悪いけどアリス、これ、今すぐ行って来てくれるか?」
 ひょい、と手渡す。それを読んだらしい有栖川先生が、可愛らしい顔を少し曇らせる。
「なんや?犯人わかったんとちゃうんか?」
「大体読めてるが、証拠がないんだ。お前に行って来て欲しい」
「……………なんで?俺一般人やで?」

何が書いてあるか分からないけれど、これは本来警察の仕事なのだから、有栖川先生に何から何までさせるわけにはいかない。

「あ、なんなら僕行きますよ?」
「いや、アリスでなきゃ、ダメなんだ。森下君」
「有栖川先生じゃなきゃダメ…?」

でもそれは犯人逮捕にに繋がる、重要な事らしい。一体何を頼んだんだろう?
 さっと、徹夜の疲労を感じさせない颯爽とした動きで立ち上がると、火村先生は髪をくしゃくしゃとかきむしった。…これも癖らしい。

「じゃ、俺達はホシと思われる奴んとこに行って来る…森下君。車だしてくれるか」
「あ、はい!!」
「それと…鮫山さんも呼んで欲しい」
「分かりました!」



「…なんや、俺も行きたいな…」



少し寂しそうに後ろの方で有栖川先生が呟く。それが、火村先生の耳にも届いたのか、苦笑して肩越しに振り返った。

「俺は、お前にしか出来ない仕事を頼んだだろう?後でちゃんと話してやるから、行って来てくれよ」

こんな風に、懇願するような事を言う火村先生を、僕は今まで見たことがなかった。今まで、と言っても、学生時代からずっと一緒の有栖川先生とは、比べる事もできないほんの数年という程度だけれど。
「わかった…行って来る。火村、気をつけてな」
「…お前もな」



こうして僕は、火村先生と鮫山さんの三人で、事件発生からたった一日目にして、犯人の所へと行くことになった。









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